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36 ダンジョン部vs骨の軍勢⓪

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生徒がダンジョンのモンスターに連れ去られるという大事態にたいして、緑蜜高等学校の校長の下した処罰として。
1年D組楽天海都はダンジョン部での部員としての活動を夏休みが終わるまでの1ヶ月間停止。雷夏には同じく1ヶ月だいすきなダンジョン探索活動を1日1時間までと制限をつけられた。

2人がペナルティを受けることにより、この一件は落着とはいかないが、いい薬となりまたダンジョンはもとの落ち着きを取り戻しつつあるのであった。

そして偶然にもダンジョン先でド神子たちが救出したダンおねはというと、海都の家にしばらく居候することになった。




「ってなんでいるんすか…」

「ダンおねだからね!」

「え、えぇ…(お、おれの服…)」

彼女は彼のトレーナーを着ている。ちょっと大きめの彼のみどりのトレーナーだ。年月だけのおもいでのつまった彼のニオイのするトレーナー。

昼間っから海都の部屋に居座っていたダンおねはまさにやりたい放題であった。

勝手に彼のノートパソコンを開き、彼のベッド上に寝っころがり素足をばたばたと宙に泳がせながらモニターを観ている。

「近頃のぼこぼこチューブはこんなアニメがやってるんだねぇ、随分と健全化してることで」

「ぼこぼこじゃなくて、それ、てくてくチューブっす…」

「そそ、そうなのよねぇー。だからねだからね! こっからダンおね異世界編突入なのよ。あひははは」

「い、いせかい……?」

「ダンおね謎の相撲ロボットアニメをれんぞく視聴ちゅう! どうやらこいつぁ千葉発の国民的伝説的ロボットアニメでありそしてここが我らニッポンをコピーした異世界だとはっきりわかっちまう! よしいけぇ真田サンダーランス!! 一本背負! 落雷おとし! ゴッチャびーーーーーーー」

「……(第37話、すでに俺より見てる…)」

同学年女子月山雨楽楽に影響を受け海都が千葉県民としてのボロがでないように…密かに学習するために見始めたロボアニメ、超硬RIKiSHIゴッチャン。
そしてそのまた海都の履歴に影響され彼女も同じものを視聴している…ついには居候居座るダンおねに既に追いつかれ追い抜かれていた。

『だんおねちゃーーーん塩バタークレープ焼けたわよー』

「はいはーーいくっれーぷくっれーぷくれえええええふふーーん!!! システムオールグリーン、ダンおねいっきまーーす!!!」

「……母さん…(この人いつまでいるんだろう…)」

ダンおねはすれ違う案山子のほっぺを陽気につつき、ドアを元気に開いて、3時のおやつの摂取に向かった。




▼▼
▽▽




夜の理科室にひとり。
トレードマークである度のきついぐるぐるメガネを枕元に置き──

床に敷いた薄い布団の上、シャーレとピペットと赤穂藍風あこうらんぷの 3人はいつものようにいっしょに寝ていた。

肉付きのよいピペットに抱かれ、華奢だががっしりと骨太なシャーレの白い肌を撫でた。


「んにゃむちゃ…恥骨、尾てい骨…ふふ……んにゃら」

巫女のお祓い棒のようなもじゃついた緑髪をさらに乱し、やわらかな寝言とよだれをたらり……
赤穂藍風はしあわせの夢の中にあり────



『うぎゃーーーーー』



夜の校舎果ての廊下までひびき渡った女の絶叫と予感に、足音が駆けて行く。

近づいていった声と予感の在る方に、急ぎ足がドアを開けると────


「どうやら成功したな。ここが貴様らのラボか、ふふふふふ、ん────なんだこの骨は偽物か? それにしてはそこそこ操れるオーラが詰まっていたな」

「なにごとですか…!」

「ぴっぴっ…ぱぴぴっ!ピペットがシャーレにいいいい!!!」

人体模型のピペットが、勝手に布団から起きた骨格模型のシャーレにその剥き出しの頭をつかまれ──潰されて粉々になっていた。

生物教師、赤穂藍風は寝巻きがわりにしていた白衣をくしゃつかせ尻餅をつきながらひどく慄いた。

それ以上退がれない壁際までぺたっと、ショッキングな光景に息ができないほどに動揺し赤穂藍風先生は動けない。

いつものように校舎内の見回りをしていたところただならぬ悲鳴に駆けつけた岬麗は、首をガクッと振り向かせた骸骨がいる訳のわからない怪談のような状況を目の前に…訝しんだ。

されこうべの黒い窪みがこちらを、スーツ姿の岬麗の方をまじまじと見ている。

「ほぉ、あまり動じんか。ふふふ構えずとも安心しろここは空気が悪い今はまだこのていどの微弱なチカラしか出せん。貴様らの矮小なる命までは取らん。少々持て余していた好奇心から実験しただけだ、道端のそんな些事はどうでもいいことだからな」

「何を言っているのですか」

骨はよく通る妖しげな声でしゃべっている。カタカタと顎骨を動かし、健康な模造歯を鳴らしながら。

それが事実──岬麗はそう捉えるしかなかった。
骨が動き骨がしゃべる事案に心当たりがないわけでもない…そういった様子で。

「ん? ハッハッハ貴様、そのオーラ、そのニオイ、以前我の領分にいたな? 捕らえた肉に逃げられたのはすこし油断であったが、我と同じく死の予感を感じ取れるヤツが貴様ら肉の群れの中にいたのは誤算であったな、うれしい誤算だハッハッハ。生と死の間を知る者、そうだろ貴様?」

(ピンチに駆けつけるシデンレイラの設定である死の予感をしっている…。なぜ…もしや雷夏と赤髪の剣士が言っていた……)

岬麗は敵に知られるはずのない知られたことなどあるはずのない情報を言い当てられゾクリとおどろいてしまった。

「そう我はボーンクイーン、貴様ら肉どもの巣までわざわざこうしてつまらぬ迷宮の果てから出向いてやったのだ。貴様らがそうしたようにな」

「馬鹿な……ありえ」

「ん、予想もしていなかった顔だな? ハッハッハあぁそうだ?貴様らの領分に置いていたなかなかに立派な城はたった今いただいた、ハッハッハ、こうもいいように逃がした餌から鯛が釣れ、誂えられていたように聳えていた中々我好みの暗闇の城まで手に入った、我は今気分がいい。じつにめでたく溜まっていた退屈が吹き飛ぶような愉快だ、ちょこまかしていた鼠どもは見逃がしてやろうサービスだ」

この薄暗い理科室に、辺りを珍しそうな目でみわたし、動く骸骨。
岬麗に対して長々としゃべりながらも理科室の道具を手に取り、見たり、興味ありげに物色しだした。

「城…(部室魔王城が…?)腹話術にしてはうまいものですね。ただ夢でなければひじょうに面白い話でしたが」

「ハッハッハ、そうだ貴様のいう夢の城は我の手中、そしていい夢だ安心しろこの偽の仮の骨身は我の小道具にすぎん。そうだな…巡り合わせた褒美にもっと面白い話を教えてやろう。これより召喚する我の骨の軍勢が貴様らの棲まう巣まで攻め入ろう。ふっふっふ、そう汗汁を流すな。3日後────貴様らの領分をスベテいただきさらにその果てまでもなハッハッハ、生と死の天秤を僅かに知る者お前も我のモノにしてやろうハッハッハハッハッハ」

おもむろに骨手に取った地球儀を撫でながら──ゆっくりと回す──高速回転をする地球儀はオーラを孕み────

「危ないっ!!」

青球は木っ端微塵に爆散した。

岬麗の手から伸びた赤鞭は、尻餅つきながらも動く骨のスケッチを取っていた白衣を引き寄せ引っ張った。

間一髪。白衣とともに机の下へと滑り込み、やり過ごす……。

爆発音が止んだ後──高々とワラっていた骨は、オーラを失い、カラカラカラと床に跳ね返る音を立て……あらゆる節々に分けた部位のひとつひとつに分解されていった。

ひょこっと頭を出した緑もじゃもじゃに手を置き、立ち上がった岬麗。

「────……困りましたこれは。めちゃくちゃヤバいのでは……(まさか…わたしの死の予感を…ありえませんよね……ふふ)」

埃っぽいメガネレンズごしに見える…辺りに刺々しく突き刺さる地球儀だったもののカケラ。
黒く変色した骨のかずかず。


なぜだろうか……きゅうに額から流れだした何筋もの汗に、────岬麗はわらった。
高鳴る鼓動が、感情が、バグって、わらってしまったのであった。








「シャーレええええ! なんてなんてことをおおお」

「落ち着いてください、あっこ先生。黒いアレはもはやシャーレではありません。呪われています」

「シャーレエエえええええええ」

木に縄でくくりつけられた赤穂蘭風先生は手を伸ばし叫ぶも届かず。

そんなあっこ先生を捨て置き、岬麗は校舎裏をシャベルで掘りまた土をかぶせ、呪われた骨の一部を埋め終えた。

「とりあえず復活できないよう分けて埋めておくのは常套手段ですよね。──大丈夫でしょうか…」


「こうしてはいれません。夢でないか確かめにいきましょう…」

校舎裏を曲がり──白黒のマントを翻した。

岬麗はシデン・レイラとなり疑わしき真実の調査へと向かった。






▼▼▼
▽▽▽





翌朝────

青い鳥は野に降り立つ。

ここに関係者は集められた。

シデンレイラに掻い摘んだ事情は説明され、住んでいた魔王城から逃れたチュチュンからも何があったのかを伝えられた。

緊急事態に青い草原に多く集ったダンジョン部の部員たち。
活動禁止を課せられていたこの男もまた、

スベテを耳にし、冷や汗がどっと額から流れつたう。

「お、俺のせいかもしれない…すね……」

「獅子くん、きっとそれとは別のことさ。気にすることはないさ…ふふ…」

自分がボーンクイーンの元から逃げ出したせいだと…責任を感じる海都を、どことなく歪な笑顔をうかべたシデンレイラは否定し励ました。


『ふむふむ。何故かここだけ残されていたみたいだね、渦とやらが閉じられているということはここ一エリアにチカラを集約し外敵の侵入を未然に防いだということだろう、自動かはたまた』

『だがそれも時間の問題らしい。改修したドラヤキで測るエネルギー数値が上がっている。パワーバランス的に……そうだな、高いところと低いところの水の水位がなだらかになるようにと言ったら分かるか?あちら側からちょうどその2日後の夜とやらに穴をこじ開けることが嘘ではなく可能だろう』

「おい、さっきから誰だ?」

ながながと発せられた言葉を聞き流していたムスイは、ぎろりと、横目にそいつを睨みつけた。

ゆったりとはおう白衣にながい金髪、青い瞳に、日米ハーフの用なくっきりだがやわらかな顔立ち。

「マリア・アケチ、ちょうどキリよくこの子の改修が終わったのでね亜米利牙から呼ばれてやってきた。今は亜空間研究者の明智マリアだ。日亜で面白いことが起きていると友人に聞かされてね。あまりまじまじと見ないでくれたまえ、友人は溜め込んでいた雑務仕事の消化中さ」

その見知らぬ女の正体は明智マリア。ドラヤキと呼ばれるその自立歩行する機器のてっぺんにあたる平べったいレーダードームの頭を、よしよしと撫でている。

「なんかえらそう? ちょっこし」

牛頭梢は外見と喋りが偉そうにみえるその人物に、高い背の首をこてっと傾げた。

「えらいよ。私は、なので君たちのかんがえる不審者ではなくなる」

「なのではちょっと分からないけど…賢そうには見えるかな…(なに言ってるかわからないけど)」

白衣に金髪、どこかの海外ドラマにでてきてもおかしくなさそうな謎の肩書きを自称する研究者の姿に、月山雨楽楽も同意した。


「おっはよーーーー! んや、どうしたみんな勢揃いしてぇ? 部長の夏ちゃんにサプライズかぁ?♡ 絶対的にぃ?」


「「「…………」」」


遅れてダンジョン部室へと登場した雷夏はずらずらと並ぶメンツに、キラつく赤目でニヤニヤといつも見たような目を向けている。

シデンレイラは雷夏には集まるように伝えていなかった。
何故かというのは事情を説明された海都と月山には雷夏先生の性格から分かるところであった。

「はいはーーーーいダンジョンお姉さんです! おはよってえええ?どしたのどしたのこんなにばかすかそろっちゃって?? あ、ははーん、さてはこれダンおねに、はっはーーん、サプライズでおくればせごめんなせぇ…なッ歓迎会をごにょごにょってヤツだねぇ?♡」

青い元気の次にまたベージュの元気。
呼ばれてもいないのに嗅ぎつけてきた元気なこの人物もまた……。


明智マリアは元気な登場人物たちを一瞥し、すぐにレーダードームの円周から横にせりだしたキーボードを操作し始めた。

現在、部室の移動間に使用していた青い渦は誰の仕業か消えている。ダンジョン部が一番最初に手に入れた青い草原の部室チップ、ここが最後の砦であるとシデンレイラと鼠のチュチュンの話で飲み込みの速い明智マリアは推測することができた。

仲間と情報を共有することは大事である、だが敵を欺くにはまず味方からという言葉がある。
シデンレイラはなにかと後先考えずに突っ走りがちな雷夏を足止めするために、情報を小出しすることにした。

栓をされた風呂桶の渦が吹き飛ばされふたたび開くのはもはや時間の問題。2日後の夜にはボーンクイーン率いる骨の軍勢がスベテを奪いに来るという。


(アケチマリア……きいたことはありませんが、セリーさんが楽天海都を救助するために呼んだダンジョンに詳しい知人、研究者ということですね。今のタイミングで来たのは謎ですが僥倖……至極冷静に状況を飲み込み対応できる人物のようです。タイムリミットの2日後の夜までに……何かしらの打開策の見込みを立てられるといいのですが……さいあくWASAnbonにとりあって封鎖……は無理ですね、ふふ……)

シデンレイラは睡眠不足のポーカーフェイスで、男子生徒へと前のめりに詰め寄る青髪の方を見た。


事態は急を要する。が、一筋縄ではない。

絶対安全と、どこか果てでありさけど身近な危険、その境界線はおおきくゆらぎつつある。
ダンジョンと現世、ダンジョンとダンジョン部室、その境と領分をかけた…骨と肉のせめぎ合いはもう始まっているのであった。








雷鳴吃る暗雲の下で、佇む魔王の城は白い骨で飾られ、その禍々しさを増した。

てくてくと行進していく城に元より住んでいたブロックんたちはオーラ量のより多い新しい主人の指示にしたがい、あっちこっちとだいすきな建築作業に耽りいそがしい。


手中に収めた王城のナカ────

豪華な王座に褐色の生足組み座るは、妖しい黒ローブの女。放つ妖気はただ者ではなく、ダークガーネットの瞳は輝いているが決して陽気な光ではなく、邪悪。


「その身その心骨をささげ、遥か偉大なる歴史を飛び超え、その生と死をも乗り超え、かたく契約されし戦士たちよっ、我ボーンクイーンの天秤にかけて命じようぞ──ネムるには未だはやい…」


カラフルな雷は幾多も王座の前に降り注ぎ、豪華な絨毯の上に、骨が軋み鳴る──。
吊るされた骨人形は立ち上がり──華奢な影が、心骨の記憶を呼び覚まし受肉──真っ当な人影となる。

ある戦士はふたたび生まれたことを実感するために懐かしの剣を取り。

ある獣は硬い拳を柱に打ち付けお目覚めの破壊行動。

ある罪人はその身に刻まれた数多の傷の疼きに舌を舐めずり。

ある学士はニヤリと笑い時が来たことを察し、焦がれていた恋心の次にのめり込んでいた研究のつづきを思い描き。

ある女はズキズキと痛む頭と気持ちの良くない目覚めに舌打ち、王座に座る赤い眼を睨みつけた。


ゆっくりと姿勢をただし歩み寄った鼠の執事は、じょぼぼと音をたてて注いだ。オンナが片手で手持つ銀色の盃はあふれ滴る。

そそがれ跳ねる赤い飛沫雨のナカ、骨の女王はひさびさの必然の邂逅に高笑う。

──天まで響いたその声は、つどった骨々を疼かせ、それぞれの野心物語のつづきが始まってしまった。




⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎



⬛︎





⬜︎


⬜︎⬜︎⬜︎



DORAYAKIはレーダードームを光らせ、雷夏の言っていた通りに散らばるポイントをスベテ発見し終えた。

「…ます?」

解析し終えたマスターキャップちゃんの白い帽子を元に、各部室へと飾られていた巨人の帽子を見つけることに成功。

明智マリアは手を伸ばすちいさな子マスターキャップに、帽子を返してうなずいた。

「雷夏くんの言う通り、計10のポイントが確かに見つかった」

「んやんや、だろ! じゃあさっそ」

「まぁ待ちたまえアマリア、じゃなく雷夏くん、これを見てくれ」

DORAYAKIは宙に光を投影しビジョンを作り出した────皆がいる青い草原をスタート位置とし、グリッドマスに仕切られた簡易マップにはそれぞれの部室チップの特徴を示すアイコンが表示されている。
古き良きSRPGのように誰にでも分かりやすいものであった。

「もうお分かりかと思うが、これから君たちを転送するのはここだ」

「誰かさんに奪われた部室魔王城かい」

「うむ、そうだ。これから君たちには敵に利用価値を撤去封印気付かれる前にこの〝起点物質〟のあるポイントへと転送し奇襲をかけてもらうことにした。もちろんこのような非戦闘員の素人考えだが」

〝起点物質〟:
今は亡き鼠のイワナイがチュチュンに教え、チュチュンがその概念を明智マリアに教えた──そのエリアを支配コントロールまたは維持や変更を加えるための起点となる物質のこと。以前敵方だったチュチュンが楽天海都と月山雨楽楽を自分たちのエリアへと強制転移させたときのように、部室ビーチに無造作に飾られていた巨人の帽子などがその起点物質にあたる。


明智マリアは投影したビジョンの元に集まってきた皆へと自分の考えを提案した。両手の平を上にし、皆へとやわく差し出し、対する意見を求めた。


「んや、それでいい!」

「フッ、お手軽移動術は勇者側の定石だな」

「ふふ、これ以上の手はないね…骨の軍勢というくらいだ他人の墓を掘り返すのは疲れ骨が折れるものかい。あちらの準備がととのう前に戦力を集中し時を待たず一刻も早く一気に本丸を、〝侵略すること火の如く〟、サプライズで仕掛けるのは賛成だね、敵城お宝の物色は得意だからね、ふふ」

雷夏、ムスイ、シデンレイラ、大人たちは共に賛成。
素人博士の立てた作戦に反論はなく、見えてきた光明におのおのの笑顔をカタチ作った。


そして、ひとつ引いたところで眺めていた生徒たちも────

「ちょっこしわからないけど、らくてんかいとのおめいばんかいに協力」

いつものダルメシアン柄のツナギを着たノッポは、なんとも言えない顔をしていた同世代の男子生徒の方をゆっくりと見て柔らかにワラった。

「あっす……牛頭さん…」

「汚名は挽回より返上したほうがいいと思うけど。はぁ、やるしかないんじゃなーい?」

両手をぷらんと横にひろげ、すこし首を傾げながらも牛頭梢に同意。
月山も同じ緑ブレザーを着た落ち込みがちな男子の顔を見た。

「え、月山さん…いんすか…?」

「なんで私だけぎもん…? はぁ、だってここにぃ? 久々ぁ? こんなに揃っているメンツで負けると思わないし、──へんな野暮用以外でね! それに今回はあの4人がゼンブやってくれるんでしょ?」

月山は雷夏、ムスイ、ド神子、シデンレイラ、久々に勢揃いした頼れる大人組の面々をくすりと笑い見た。

「おやおや…期待されてるようかい」
「まかせろツッキー! 今の雷夏ちゃん先生は無敵!!」
「フッ、自分の身は自分で守れ女子高生」
「とか言いながらおめおめ負けてんだけどね、はは、」
「今度はだいじょおおおおぶいっ! 絶対的にぃ!」
「あぁ生きていればそれこそ挽回のチャンスはこう巡ってくるものだな、──私は当主代行の方が心配だが…?」
「はは、代行だからね、骨に飽きたらたのむわ、〝神牙流として〟、はは、」
「ふふ、名のある剣士が3人も集えばたのもしいさ(私も全力で行きたいところですね…できればこの前のネズミ退治の時のように牛頭梢と組んで)」


見目美しい大人の女性たちの、笑い声しゃべり声が聞こえる。

胆力があるのか並じゃないのか……そんなピクニック気分の明るいやり取りを見つめて月山は苦笑いを浮かべた。

「……やっぱ不安になってきたかも…って楽天くん大丈夫なの? そうよ捕まってたんでしょそのボーンなんとかに! 私よりヤバいんじゃないの? ちょっとぉ?」

月山は心配そうに、海都に問うた。
むしろメンタル的に一番心配されるべきなのは、一時ボーンクイーンに連れ去られた彼であるのではないかと────

「いや俺は……だ、大丈夫っす。ほんとに今はただ、俺……なんつぅんだろ…とにかくっ今回はいつもみたいに逃げてらんないんす月山さん!!(俺が逃げたせいで…こんなことになるなんて……なんとか汚名挽回しないと……)」

「え、そ、そう……??(めっちゃ熱血なの…顔ちか…)」

珍しくも真剣かつ熱血する少年と、バグった距離感に対面し赤らめた少女。緑ブレザーの学生どうしの青春劇もほどほどに────
 
「妬けるようにお熱いところ悪いが、現状で考え得るこっちの準備は不足なくできたみたいだ。そちらの準備をしてチュチュンくんとマスターキャップちゃんの前に並んでくれたまえ。持っているスキルの相性、オーラ操作能力、起点物質の操作経験に長けたチュチュンくんに任せるのが一番成功する確率が高いのだろうからね。ちなみにマスターキャップちゃんの帽子は全ての起点物質の帽と繋がりを特別性であると私は推測した」

チュチュンにはその才能がある。敵であったイワナイもチュチュンの物を〝ぬすむ〟冷蔵庫に〝しまう〟しまった物を吐き出し〝かえす〟一連のスキル能力才能に目をつけ、起点物質の操作を任せていた。


今度は味方として……大事な役目を授かったチュチュンは両手に装備した白いミトンをぐーぱーし、ちいさなマスターキャップちゃんの帽子アタマに手を置いた。

「チュチュ、起点物質とらえたりかい。かみなりなつかいとたち、チュチュンは今からオーラをたくさんつかって転送する。だからお腹いっぱいにしてこころのじゅんびして。さん、に、いち────」

チュチュンの気遣いと、矢継ぎ早にはじまった短いカウントダウンに。

集まったイノチ勇敢なる一同。

雷夏
ムスイ
古井戸神子
シデンレイラ
楽天海都
牛頭梢
月山雨楽楽
……

ダンおね


剣を取り、銃を取り、髪をなおして拳をにぎり、

笑って、微笑って、ワラって、苦笑って、真剣に…、うなずきあった。


高まるチュチュンのオーラ数値にピコンピコンと音が鳴る、亜空間調査万能レーダー機器DORAYAKIから投影されたビジョンは問題なく城前の起点物質を示し反応する。


マスターキャップちゃんの帽子からのびたチュチュンのオーラ色は繋がり、彼女らをつつんだ。


いざ、道中トバシ、決戦の(部室)魔王城前へ。

緑蜜ダンジョン部は熱い士気で何も知らない王座に居座るボーンクイーンへと、電撃の奇襲作戦を仕掛けた────
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