上 下
10 / 29

第11話 だいひょう曲ってなに?

しおりを挟む
①マリティーポップのにちじょう

▽夕日の神戸港▽にて

イヤホンに塞がれては鳥の鳴き声も聴こえない、
木板を敷きグレードアップしたいつものビールケースから──迷わず釣り糸は垂らされた。

パーカー姿の少女がみつめる、オレンジの水面はやがて赤く燃え上がっていき、キラリと輝きワラった。

「魔法ソード少女なんてさ、グレちゃわないとさ」

「あんまり普通の子がなるべきじゃないってのは同意かな」

「いやアレふつうだった?」

「まぉもしかりにあんなあんぽんたんな妹がいたらさ、私もすこしはグレずにいたかもねー? なーんて! 私より背の高い妹なんて! おっことわりー! げぇ!? 釣れてるうううう!?」

「別に釣れなくていいってのよーー! ははははは愛のぼむええええんんはっはーーー」

やはりマリティーポップはニッと笑う。
音楽再生プレイヤーに入れたお気に入りの曲を聴きながら、竿は元気にしなり引き上げられていく。






②マリティーブランのにちじょう


彼女が訪れたのはデータゾーンではなく現世と区分される堺市民病院であった。
病院内の特別個室に入院することになったちょっとした知り合いの見舞いにきていた。

ドアがしずかに音を立てて、

知らない客人にベッドに横たわり夕空をぼーっとみていた栗毛は──首を向けた。

礼も挨拶もなしに歩みを止めた、変哲のない黒いセーラー服を着た少女は開口一番、

「今回はその程度で助かったけどあなたやめたほうがいいわ、魔法ソード少女」

「え? ──あはは…そうかい? エンディングではなくエピローグ…そこまで踏まえての覚悟はしていなかったな? はは許してくれ、ここにこうしてぼーっと夕空を拝めているのも結構不思議なものだからね」

四角い枠の夕空をもう一度みて、マリティーシルブは微笑んだ。木陰で優雅に眠っていたギンギラ銀色のドレス姿ではなく、憑き物が落ちたようなずいぶんと落ち着いた衣装に変わっていた。

「──あの子は助かった」

「そうか!! ありがとう、君が? ──あ痛たた……」

マリティーシルブはコロッと表情をおどろき笑わせて変えた、勢いよく黒髪少女の方に体を起こしたが……全身の痛みに顔をしかめた。

マリティーブランは手伝わず、またつづけて口を開いた。

「私は何もしていない。ボロついたMT4規格の剣──あの子がやったこと」

「あの子が? MT4…あー…ふれいさんはやはりまりょくが? そういえば石ころがストロー相手のダメージになるものなのかな、はははそうだとしたら最初から剣を貸すべきだったねははは…キミはどうおもう?」

「まりょく…。そんなものはなかったわ」

「ん?──そうかい、魔法ソード少女向きの性格ではない?」

「そんなにポンポンなるものじゃないことはたしか、少なくとも──目の前はそのように見えるわ。それにデータゾーンのストローを殲滅し現世の治安を守ること、さらに民間人が民間人のままでいれるなら、魔法ソード少女の仕事をひとつ果たしたといえる」

「なるほど……ごもっともだね」

マリティーシルブは己のカラダの痛みと黒セーラーの少女が淡々と述べた言動に改めて納得した。



「実力がないなら、たすけてはいけないとおもう」

「え?」

束の間できていた静寂に淡々と同じトーンでぶち込まれた。
黒セーラー服の彼女は随分と辛口であると、シルブは改めて尽きないこき下ろしにおどろいた。

「運がよかっただけ、魔法ソード少女は運じゃない」

まだまだ尽きない。
あくまで淡々と正しい魔法ソード少女がなんであるかを彼女は説いている。

やがて病人はあんぐりと開けた口元をワラわせた。

「すまない私からもひとついいかい」

「? いいわ」

「きっと失礼なことを今から言うよ?」

「はやくしなさい、構わないわ」

念入りな確認をしてくる栗毛の病人に首を3度ほどごく僅かに傾げつつも、マリティーブランは病人にその失礼な言動とやらを発するのを許可した。


「じゃあ──キミはひょっとして嫉妬してたり? たしかに……ふふふ魔法ソード少女には美味しい場面ではあったかな?」

マリティーブランは崩さない。
そのクールな表情を崩さない。

たとえ不意打ちを受け笑われようと、返す言葉を探して──今みつかった。

「……。魔法ソード少女なら、もっと強く。嫉妬されるぐらいにね──まぁひと月は大人しくそこで寝ていることね」

それだけ言うと黒髪を手ですばやくあそばせ跳ねさせながら、爽やかに個室のドアの方へと歩き出した。

「あはははは、なるほど。参考にさせてもらうよ。うーんこれは……フタツキコースかなぁ? あ──見舞いどうも助かったよ、そのヘアピン似合ってるね。ははは」

びくりと一瞬止まった──マリティーブランは振り返らずにマリティーシルブの病室を後にした。










③─────


▽東京都古井戸町▽にて


夕暮れのさんかく公園、ペンキのはげた青いベンチでぐっすり寝ていた──少女は起き上がり、寝ぼけ眼で公園の時計をかくにんし──帰り道をすこし急いだ。


▽真田家▽にて


チャイムを鳴らし、持っていたことに気付いたポケットの鍵を使った。

ガチャリ、

「ただいまぁー」

「おかえりーおそかったじゃないふれい」

玄関で変にじめる気持ちの悪い靴を脱ごうとしたところ、お母さんは夕飯の支度を中断しかのじょの迎えにきていた。

「あー、──なんかぼうけんした?」

「えぇ? それってへんなぼうけんじゃないでしょう?」

首をこてっとかしげる可愛い娘といっしょにエプロン姿のお母さんは首をかしげた。

「んーー、あーみかねこっ、黒猫がいた」

「みかね…あーーっ服も黒猫よ! ふれい! ぜったいすぐ風呂にいかないとダメよそれっ、フロっ直行!」

服は汗まみれ、汗服に吸い付いた砂まみれ、そして泥んこの黒に彩られている。目も当てられない状況。


「わーー……これわぁ……隕石でも落ちた?」

「もうっ! インセキは……おちるっ!」

「「──あははは」」

「あ、お母さん【ソぴーず】のだいひょう曲ってなに?」

「いきなり?? んーんー、──【愛のぼむ・えんど】! ──!」

「やっぱり愛のぼ……──」

「どうしたのふれい? あ、ながす? じゃなくてまずは黒猫ながして白猫にしないとねっ」



「そ、それだあーーーー!!!」



「あコラっ!! そんな泥んこではし────」

いきなり脈絡のない変なことを聞いてきた娘ふれいに、シャキーンと…お母さんは親指をおちゃめにサムズアップして答えた──ソぴーずの代表曲は【愛のぼむ・えんど】。

脳天に電撃がくだり、循環した電撃がとてつもない大爆発を引き起こした────

真田ふれいはお母さんの左側を抜け、泥んこ足でそのまま2階へと駆けのぼっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

魔闘少女プディカベリー 〜淫欲なる戦い〜

おっぱいもみもみ怪人
恋愛
ひきこもりの魔法少女がグチュグチュに凌辱されるお話し^^

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

処理中です...