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第4話 ▼さかいデータゾーン16▼

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▽さんかく公園▽にて


ご当地猫図鑑なるものを知っているか。
人は誰もそれをきっと知らない。

なぜならば、

「ぁ、みかけない黒猫! みかねこ!」

彼女が作っているオリジナルの図鑑だから。

てづくりのてづくり、折り目のついた手帳を片手に、みつけたベンチに座る猫ちゃんをデフォルメしねこ絵を描いていく。

もはや小慣れたものだ、彼女はもう何年もこの道のプロである。

ふらり、たちよった、さんかく公園でラッキーにもみつけた黒猫。
休日のお昼間にお散歩をしていた彼女はターゲットの前で腰をかがめた。

ほどよいながさの黒髪、キラキラのダークガーネットの赤目はじーっと。
黒猫もじーっと。

おこなわれている……目の高さを合わせた、初対面こう着状態のコミュニケーション。

「やっぱり見かけない? 黒猫? ……みかねこ?」


首をこてっとかしげる、かのじょの名は真田ふれい。
これがかのじょの恥じらいのない日常。
ご当地猫図鑑はこれで4代目、かのじょ自らの手でまたあらたな猫ちゃんページを創世していくことが……今を生きるかのじょにとって、ほどほどに充実する何気ないしあわせなのだ。








▼トレーニングゾーン32▼にて


ブランは受付に使用料金を払いマリティー本部にあるトレーニングゾーンを借りていた。


訪れたのは余計なものがなにもない真っ白な空間であった。


使用料金をいくら払っても好きなゾーンを選ぶことはできない。なんのためか完全にランダムであるが、真っ白でなにもないならブランにとっては当たりの方である。


既に汗水を流して修行をしていた。
りょりょくの修行用に買ったMT7規格の比較的重い剣を虚空に振るいながら、いつものセットをこなしていく。

「りょりょくはトレーニングで着実にどうにでもなる。軽視はできないけどまりょくを纏えば大幅にカバーできるのが魔法ソード少女の実情」

「でもまりょく量はやはりネック」

「実戦で尽きたことはまだないけどいくらあってもいい」

「そうおもう場面はしょうじきある。でもアレでアレするとこの前の水色みたいになる」

「──魔法ソード少女は、つよい」

「わたしより」


「ホンモノの魔法ソード少女は。」

「私はしっているから。」



【まりょく量まんたん。出撃要請!】


トレーニングゾーンの白に不意に浮かぶ、
黄色と黒の注意を促す色の上に赤色の字が仰々しく点滅している。

黒いタンクトップ姿の少女はうるさい警告音と警告看板に、重い剣を止めた。

『マリティーブラン、ストローが複数のゾーンに現れました。さかいデータゾーン16に向かってください。今回、この出撃要請は拒否することもできますが現在のマリティーブランのレベルはMS2その場合はペナ──』

MS2。
MS0は入隊したてのもの、
MS1はストローの撃破スコアが30以上のものに、
MS2はスコア90以上に与えられる……まだまだ高いとはいえない魔法ソード少女の活躍度はたらきに応じて冠されるレベルのことである。

「了解しました。MT2の軽量剣と私のカッチューを」

『はいりょうか……ドクターのおすすめセットは? いかがしますか?』

「……それでいいわナガヤマ」

『了解いたしました! では基本セット……? を装備! 準備でき次第転送を開始しま────』


マリティーブランはもちろん拒否しない。
これが彼女の日常であり目的へ向かうことであるのだから。
魔法ソード少女として、ほてるカラダの冷える汗を拭き、いつものように白い羽飾りを黒髪に留め、準備を急いだ。








マリティーブランは聞き慣れてきたオペレーターの指示にしたがい予定通りに出撃した。



▼さかいデータゾーン16▼にて



トレーニングゾーンでそのまま待機から時間通りに転送────チャンネルが切り替わるように見えてきた景色は、高鳴るまっ白から一転、太陽を背にひろがるスカイブルー。

いきなりの強風を全身に浴びていた。


「……いきなり空中? ──ん?」


マリティーはそのまま降下していき────すぐ眼下に見つけた黒い四角を宙で捕まえた。

それがなんであるのか説明はされていないが、イカれた代物であるのは一瞬でよくわかった。

「これを使えってことね」

合流した四角い黒に乗りながら、一体となり手のひらからまりょくを伝わせ操作していく。



眼下の小粒な市街地にはすでにこの目で発見している、堂々と我が物顔で道を闊歩しているストローの群れを。



(操作がめんどくさい……溝? ────空飛ぶ硬い枕って訳じゃない…)


マリティーブランは真ん中に見つけた小さな溝に、イタズラな顔をした誰かがいるのを確信した。

やがて感覚とセンスで推しきめたポイントに到着し、

四角い浮遊物に手にした特別な剣を勢いよく突き刺した。

おかしな刃にまりょくを十分に込め……
そして突き刺した剣をひねる、左回りに鍵を開くように。


「【ミサイルロックパック…マリティーぃぃい】!!!」


空中から拡散する勇ましい雄叫びは、

拡散するまりょくミサイルへと変わる。

魔法ソード少女を乗せた黒い箱の下腹は今、開かれた。


「まりょくコントロール!!! こうっ!!!」


人馬一体となり彼女を補助する黒い箱を媒介に、

まりょくコントロール。

コントロールされたまりょくミサイルはストローたちをマニュアルロックオン。


真昼間の青空から流れていく場違いな黒い星は、さかいの市街地におかまいなく落ちていく。

直撃し──咲き誇っていく。


『エクセレント!!! 見事なまりょく爆発!!! 予想通りの予想以上だああああはははは相変わらず取説はいらないようでたすかぁぁぁる!!! このバイオメタルを濃加工したミサイルロックパッ──』

「はぁはぁ……馬鹿じゃない。──でもその通りね」

己の右耳をポンと叩き、
マリティーブランは勝手に他人の耳元に割り込んできた頭のおかしな通信を切った。
今は戦闘中、これ以上の裏方のうっとうしい得意げなささやきと取説はいらないのだ。


眼下には黒く着弾し、はっちゃけたダメージ痕がいくつもある。
即興でマルチロックオンし少なくはないストローを葬った感覚があるが、彼女はすこし顔をしかめた。

あまり認めたくはない感情とたしかな成果がそこにあり、板挟みにされた歯痒さが、苛立ちに変わる。


「これは……魔法ソード少女じゃない…!」

魔法ソード少女は剣をぐっと突き刺し握ったまま……四角い構造物に乗りながら降下していく。

しかし違和感を感じたおでこを抑えて途中気付く、操作したことのない数のまりょくミサイルをまりょくコントロールした副作用で、アタマがずきりと痛み熱量がこもっていることに。

風に全開にされたおでこを冷ましていき、吐く息を長く──巡る厄介な思考を捨てて魔法ソード少女として…の冷静さを取り戻していく。

(あの数でこれだけの熱……もっとまりょくコントロールの修行が必要なのかもしれない…)


おすすめ装備を現地空中で装備し派手に足元を爆撃し登場したマリティーブランは、このさかいデータゾーン16の取り逃がした敵ストローの殲滅へと移った。
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