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第10話 かき混ぜて、あなた様!

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「能力がホットケーキってどんな変態だよ」

「夢見るかわいい少女ですがあなた様?」

「…………!」

「はい」

 メイドは泡立て器の深緑色の柄を左手で握りしめ、ボウルの中の黄白い液をかき混ぜていった。ボウルから飛び、這い出るように召喚されていく可愛らしい兎たち、ホットケーキ色の兎がぴょんぴょん次々と月無五百里に襲いかかった。

「よしそろそろ俺も!」

 宙を舞った1羽を右拳で砕き、更に勢いのまま地面を叩き割り衝撃で兎の集を蹴散らしていく。荒々しいヤクザ前蹴りも炸裂し6羽、7羽と、腕を振り回し地面を砕き上がらない脚を力任せに使い、小爆発に次ぐ小爆発、ついに素速く投げ捨てた1羽が兎軍団に誘爆していき。

 見事、その場の全てを平らげて見せた。

「さすがにど素人でも、ホットケーキの動きには負けないって」

 疲れた右肩をぐりぐりと回し終え、ひどく乱れた黒髪を両サイドにかき上げて整えた。



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▽▽▽



 ド派手で荒々しい素人神呪使い、観客席から見下ろした観客たちは各々の濃度で彼とメイドのたたかいを見守っていた。

『乱入とは、乙参オツサンは躾がなってないな』

「アレがお前の新しい雑巾か周防子すわこ

 突如聞こえてきた誰かに少し似ている低めの女性声、緑髪の女が現れた。

 ばらりと外はねしたショートカットに鮮やかというよりは妖しい深みを持った緑髪。黒のベレー帽とスーツ姿がよく似合っている。

「フ、なんだ。やらないぞ私の真似っこ、その髪色はよく似合っているな」

「真似は貴様だ周防子、訳の分からない小僧など、あまり甲煮こうにを舐めないことだ!」

「フフ」

「まぁ、例外もいるがな……。実力と生まれ、どのように生きたか……だらけが染み付いた脳味噌までは入れ替えられない、四羅森楓しらもりかえで様」

「…………」

 皮肉を吐き、ギロリと睨む黄色い目にメプルは返す言葉は見当たらなかった。見返すだけがせめてものであり、苦い表情で彼女の目線が外れるのを待った。

 ふん、と鼻で笑い緑髪はその場を去って行こうとしたが立ち止まり。見つけたギャルを前に数秒沈黙。

「な、なんしょ?」

「屑が」

「え、ええ!? ちょそれ、あたしに言ったァァァ」

「さぁな、屑の事など知らん、周防子貴様も屑拾いはやめることだな、とっとと捨てて燃やせ」

 そして去っていった。

「むかつうひゃっ、だれいた!?」

 忍び緑髪のお付きをしていた白いアオザイを纏った若い女。無表情で深く一礼をし同じく別の観客席へと去っていった。



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▽▽▽



 ホットケーキ色の可愛らしい兎たちが葬られた。その荒々しく勇ましい姿をじっくりと後陣から観察していた黒紫のメイドは。

「ちぱちぱちぱ、あなた様お上手です。私の第3彼氏様にしてあげてもいい彼氏様チカラをお持ちです」

 ボウルと泡立て器をステージの石床に置き棒立ちそして機械的な拍手を送った。

「あいにく俺はメプルさん一筋!」

「ちょ、月無くん……」

 バカみたいに突き抜けこの場中に響いた五百里の声量。彼の戦いを見守っていたメプルに次第視線は集まり恥ずかしさのあまり何故か左手で口元を抑えた。

 それを聞いたメイド、耳の中にはまだ五百里の声がこびりつき響き。

 昂っていく感情とイライラ。しかし彼女の持ち味である鉄仮面の表情は維持され。

 ついに強く抑えて溢れぶちまけた感情のバケツ、ずらずらずらずらと溜め込んでいたモノを言葉にし放った。

「ちぱちぱちぱぁぁ、へぇへえーそれはすごい純愛ラヴストーリーですね。年上お姉様彼女と休日映画館デート最中のハプニングピンチに覚醒イベント的な神呪のチカラに目覚めて吸血鬼を撃退。そして高貴な生まれの神呪使いの彼女様のチカラになるべく四混高校へと編入した期待のルーキー現役男子高校生……いったいどこのヒーロー、どこのホシの王子様なのですかあなた様は? 何故そんなののデートぷらん飯を私は提供しあげく第一発見者、ええ、気絶したあなた様方を安全な場へと運ばねばならなかったのでしょう? 何故ソレが私じゃないのでしょう? 何故彼女と同世代ぐらいであろう大人少女なキャラ被りの私が黒子くろことなりこんなミジメ辱めの地獄の針の山に尻から肩までブッ刺され浸からねばならないのでしょうか?」





「そうか…………助かったぜ!」

「コロス!!」

 間を置いた即答に対して即答、再びボウルと泡立て器の武器を手にした彼女はねばっとした怒りを生地へと注ぎかき混ぜた。
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