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第7話 四混ノ酒

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 田武攻周防子に襲われたあとスマホを取り上げられた月無五百里はメプルと連絡する手段を絶たれた。快楽を植え付けられた頭の中は混沌と整理が追いつかず、彼女の言いつけ通りに与えられた資料に目を通していった。

 こうして校舎内での時間は過ぎ。

 窓から見えるうす赤い不気味な空は変わらないが新しい昼を迎え乙参組のがらんとした教室にぽつり、またこの4人が集まっていた。

「魂が抜けてやがるぐみ」

「ほんとどした暗黒くん、おーーい」

「…………はい」

「はい、じゃないよあははは。だいじょぶデビュー失敗のインキャ発動?」

「キャラが分からないぐみぃ……」

 やさぐれた目をした青年を心配そうに見つめて観察している4つの瞳。

「よし、今日は実技と行きたいところだが、おいボロ雑巾」

「はい……」

「貴様、現在我々神呪使いまたは日本人がどんな状況に置かれているかを説明し」

四混ノ酒しこんのしゅを酌み交わした者たち」

「朝鮮、ロシア、台湾、各地を旅し渡り歩いて来たと言われている日本の神呪使い」

朴紫宝パク・シフォン、ゾラ、ヌーケ、そして桔梗ききょう

「同盟を組んだ彼らの活躍によりかつての中国大陸を支配していた吸血鬼曹雷はその身体を時の血で固め封印され世界に平和がおとずれた……」

「つまり現在我々神呪使い日本国民ひいては世界人類の達成すべき最終目標試練は、曹雷が復活したからまた封印しましょう子孫たちということです……」

「フッ、昨日の繰り返しにはなるが馬鹿の底辺にしては拙い言葉ながらよく勉強してきたいい子だ、いい子は好きだぞ」

 直立した月無五百里はワシワシと黒髪を無表情の田武攻周防子に撫でられている。

「ありがとうございます教頭……」

「ど、どうしたぐみ……」

「マジで誰だこいつウケるー、こんなやつだっけー」

「おい、全員黙れ。ここから先はボロ雑巾だけじゃなくお前たちにも関係のある話だ」

「もしも曹雷が復活したというのなら神呪使いはまた同盟を組みこれを封印する、そんな御伽噺の続きだが」

「それは不可能だ」

「不可能……?」

「我々神呪使いと敵の戦力差は明らかであり、ヤツに届きやしない」

「なんでぐみ?」

「それはな」

「怠けだ」

「貴様ら乙組のような出席も碌にしない出来損ないのボロ雑巾どもが最悪最強の吸血鬼曹雷を封印出来るわけがない!!!!」

「「「…………」」」

 ドスの効いた女性の声が教室の静寂に響き渡った。今までに見た事も無い怒りの表情、聞いた事の無い心臓を一瞬掴まれるかのような声。

 各々が押し黙る中。黒紫の学ランを纏った男は静まり返る場に淡々と声を出した。

「出来ますよ俺とメプルさんなら」

 注目は彼に移り、教壇に立つ紅茶色の目はすこし見開き、乱したブラウンの右髪をひとかき、耳にかけ直す。

 そしてバン、と両手を叩きつけ教卓を激しく揺らした。パラパラとまたショートカットのブラウン色は乱れ散り凄む。

「馬鹿め、白川楓ヤツこそが現代の神呪使いの怠けの象徴だ」

「はぁ? んなわけないでしょ! メプルさんは俺の」

 五百里は思わず反射的にそれまでとは一変して荒い口調で口答えをした。周防子が彼にとって的外れな事を言ったためだ。

 バン、と威嚇するように目の前の机に両手を叩きつけ返し勢いそのまま立ち上がった。

「フッ、なら見に来い、丁度今ぐらいだろう、貴様の女の勇姿をな」
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