悪役令嬢は魔王様の花嫁希望

Dizzy

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第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました

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「……こんな夜更けに何の用ですか?」

 不機嫌顔のアルフレッドが、気怠げにドアに凭れ掛かりながらも、部屋の中に私達を入れてくれた。
 夜中の招かれざる客に、明らかに渋々といった感じだ。

「就寝前のお休み中のところごめんなさい。どうしてもアルフレッドの協力が必要なの」

 私が肩を竦めて素直に謝ると、彼は少し面喰らったような顔をして目を逸らし、頭の後ろを掻いた。

「……本当に……貴女には調子を狂わされっぱなしだ。……こんな夜中に淑女レディ一人で男の部屋に来るなんて、本来ならば何をされても文句は言えませんよ?」

「一人じゃねぇよ。俺も居るし。つーか、てめぇは幼女に何する気だ。頬染めてんなキモイ」

「……リディアくん。居たんですね。小さ過ぎて見えませんでしたよ」

「あ? んだとコラ」

 アルフレッドとリドが向かい合って睨み合っている……。リド、貴方は仮にも一国の王になる身なのに、可愛い顔をして、なんでそんなに言葉遣いが荒いのかしら。

「さっそくで申し訳ないのだけど、貴方に頼みたい事があるの。アルフレッド」

 さて……私が頼ろうとしている大人というのは、ズバリ! ゲームの攻略対象者である【ガイ・ライオネル・カーライル】だ。現在20歳。
 アリスのミジンコ並の知識と、ほぼ乙女ゲームの知識しかない私が知る中で、大人で頼れそうな人物と言ったら彼しかいない。
 ゲームでの彼は、空前絶後の超絶怒涛の正義の人なのだ。正義を愛し、正義に愛された男。カーライル家の長男でありながら騎士団に志願したのは、彼の正義の心がそうさせたから! ……らしい。
 きっと彼に不当な奴隷売買の話をすれば、なんらかの対策をとってくれるのではないかと期待している。
 本来なら、自分から攻略対象者に接触を図るなんて、御免蒙ごめんこうむる自殺行為のようなものだが、背に腹は変えられない。
 それに、もしかしたら、目の前でスチルじゃない生の“魔剣”がみられるかもしれないし! キャー!

「おい、お嬢。ニヤニヤしてどうした?」

「え? 私ニヤニヤしてた? ヤダ、ごめんなさい」

 あ。まずい。私、今、かなり遠くに行ってたわ。
 リドの怪訝な目を躱して、私は態とらしくコホンとひとつ咳払いをすると、アルフレッドに向き直った。

「アルフレッド、騎士団に関する資料とか……名簿のようなものはないかしら? 誰がどこに配属されているか……とか、わかるようなもの」

 ガイ様はゲーム開始時には国王直属の騎士団“聖竜の騎士団”に所属していたけど、それまでは何処に居たのかはよくわからない。
 でもきっとガイ様のことだから、若い頃から騎士団で頑張っていらしたに違いないわ。

「ああ。それでしたら、過去十年分くらいは、に入ってますが」

「……え? ここ?」

 アルフレッドは自分のこめかみ辺りを、人差し指でチョンチョンと叩いた。
 って……もしかして頭の中!?

「え!? まさか、アルフレッド……騎士団全員の名前を覚えてるの!?」

「ええ。まあ」

 なんでもない事のように、涼しい顔でさらりと言ってのけるアルフレッドに、私は驚愕の眼差しを向けてしまった。
 お前は人間コンピューターか!! 恐るべしアルフレッド!! 変態脚フェチ男であることが、本当に悔やまれてならない。

「じゃ……じゃあ、ガイ・ライオネル・カーライルっていう人は何処の騎士団に所属しているかしら?」

「ガイ・ライオネル・カーライル?」

 ガイ様の名前を聞いて、アルフレッドは顎に手を当てて何やら考え始めたが、直ぐに首をひとつ振った。

「そんな人物は騎士団には居ませんね」

「はいっ!?」

 意外な答えに、私は目をパチクリさせる。居ないわけないじゃない! やっぱり記憶なんて当てにならないわ!

「居ないわけないわ。よく思い出して」

「カーライル侯爵家長男ですよね? ……正確に言えば、居ません」

「え……? どういうこと?」

「カーライル家の放蕩息子ですよね? 余りの放蕩ぶりに、長男でありながらも父に見限られ、騎士団に入れば落ち着くかと入団させられるも、落ち着くどころか不祥事を何件も起こした挙句に、余りのやる気の無さから団長からも見限られ、今や破落戸ごろつき共の集まる街の警備隊擬きに所属している、ガイ・ライオネル・カーライルですよね?」

 それは、どこのガイ・ライオネル・カーライルですかぁーーーー!?
 
 私の知っているガイ様とは似ても似つかないんですけど!?そんな底辺からじゃ、どうあがいても“聖竜の騎士団”団長まで這い上がるのは無理ですよね?

「そのガイ・ライオネル・カーライルじゃありませんわ。私がお尋ねしているのは、魔剣が使えるガイ・ライオネル・カーライル様です」

 私の言葉に、今度はアルフレッドの方が目を丸くする。

「魔剣って……あの聖書に出てくる魔剣ですか? 神話の……魔王を倒したとされる伝説の?」

「ええ。そうです。その魔剣です」

 突然、アルフレッドが身体をくの字に曲げて身を震わせた。……え? もしやこの人……笑ってるの!?

「わ、笑うなんて……失礼ではありませんか!?」

「……すみません……魔剣なんて夢物語を信じておられるなんて……大人びておられるとはいえ、やはりまだまだお子様ですね。アリス様」

 な、な、な、なんですってぇーー!?

「魔剣が夢物語!? そんなはずありませんわ! ガイ様は本当に魔剣の遣い手ですのよ!」

 くつくつと身体を揺らして笑うアルフレッドが、どんどん憎らしくなってくる。
 ほんとなのに! ガイ様は魔剣使えるのに!!

「本当ですのよ!? 実際お会いすればわかりますわ!!」

「はいはい。わかりました。ガイ・ライオネル・カーライルなら、丁度このシャーリン領におられますよ」

「え!? ガイ様が我が領に!?」

「ええ。大変治安の悪い街、ミストラスの警備隊に所属しています」

 ……アルフレッドといい……なんで攻略対象者がシャーリン領に集まってきてるのかしら……嫌な予感しかしないんですけど。
 でもいいわ。丁度いい。この憎らしい脚フェチ変態野郎に、本当に魔剣は存在するって事を認めさせてやるわ!




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