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第一章 嫁ぎ先は魔王(仮)に決めました
11 いろいろ思い出しました
しおりを挟む黴臭く薄暗い部屋に、女達の啜り泣く声が響く。女達は蹲り、顔を絶望の色に染めながら、ただただ涙を流しているだけだった。
そこに豪奢なドレスを纏った薄桃色金髪の女が現れた。口元に嘲りの笑みを浮かべながら。そう、悪役令嬢アリスだ。アリスはクラリスを見つけると、持っていた扇子でクラリスの顎をクイッと上に上げさせた。
『クラリス。あんたはこれから家畜同然の奴隷達に脚を開いて、慰み者になるのよ。私のアルフレッド様に色目を使った罰として、一生家畜以下の存在として生きなさい』
『お前の物になった覚えはないがな』
突然、部屋の重い扉が開き、光を背にアルフレッドが現れた。その後ろから重々しい鎧に身を包んだ騎士団も駆けつけ、奴隷商人達を次々に捕らえていく。
『ア、アルフレッド様! どうしてここが!?』
『私の情報収集力を甘く見ないでもらいたい。違法性があると見て、シャーリン家の領地内にある奴隷市場は前々から探っていたのですよ。さあ、クラリス。こっちへおいで』
『アルフレッド様!!』
クラリスは駆け出し、アルフレッドとしっかりと抱き合った。アリスは、騎士団によって取り押さえられる。
『おのれぇ……クラリス! 家畜以下のくせに、よくも私のアルフレッド様をたらし込んでくれたわね!!』
『家畜以下なのはお前の方だ、アリス。お前にはこれから、奴隷専用の娼婦として働いてもらうのだからな』
『はぁ!? 嫌よ! 私は決して奴隷などに脚を開いたりしないわ!』
アルフレッドは妖艶な笑みをアリスに向けた。
『大丈夫。脚を開く必要などない。お前の脚は切り落として私のコレクションに加えられるのだから』
『は!?……な……なにを……?』
『お前など、これっぽっちも趣味ではないが、その労働を少しも知らない脚だけはそそられる。脚のない娼婦として、一生働き続けろ。お前のような者でも人の役に立つことができて良かったな』
嫌なものを思い出してしまった。アルフレッドルートの、トゥルーエンド。クラリスよ、本当にこんな変態男でいいのか? と、何度画面に向かって問いかけたことか。
アルフレッドとの交渉から、僅か一日で、三つのお願いが全て叶えられてしまった。変態的脚フェチなのを除けば、とても有能な男アルフレッド。
とにかく、私の脚を使って何するつもりだか知らないが、こっちは不良債権になるつもり満々だ。
16歳になるまでの8年間、労働も筋トレもしまくって、筋肉ガチガチのアスリートのようなシシャモ脚になってやるのよ。そして向こうから「こんな脚いらん」と言わせてみせる!
そして私は今、『労働を少しも知らない脚』というワードに刺激され、前世の記憶を次々に思い出している。
18禁乙女ゲーム【恋の迷宮、愛の鳥籠】略して【迷鳥】の、攻略対象者を全員思い出したのだ。容姿や特徴などの細かいことも全て。
ショック療法というやつだろうか。アルフレッドの言葉が余りに強烈過ぎたお陰で色々思い出せたのだから、変態は恥だが役に立つ。
隣りで私とアルフレッドの会話を黙って聞いていたリドは、拳握り締めてブルブルしてたけどね。今にも殴りかかりそうな勢いだったけど、なんとか宥めた。「あんな気持ち悪ぃ奴に教えを請うなんざぁごめんだ!」と、弟子入りするのを物凄く嫌がりながらも、今日から渋々アルフレッドの元に出向いている。
さて、攻略対象者だ。攻略対象者は五人。できれば、これからの人生、一生関わり合いになりたくないが、すでに二名と関わってしまった。
そしてこれから、もう一名に会わざるを得ない状況になってしまっている。
思い出したのはいいが、ゲームの特色上、酷いキャラしかいない事に愕然としてしまった。
何が酷いって、性格……というよりは、性癖に問題ありありな人物だらけなのだけれど……。私、やっていけるかしら。本当に、極力お会いしたくない。
一人目。
【ジークフリート・ハイネ・ネーデルラント】
我がアーネルリスト王国第一王子。
短めの目映い金髪に碧眼の、いかにも王子! という風貌。身長180センチの細マッチョ。
ゲーム開始時の年齢は、アリスの5歳年上の21歳。
魔法属性は光。
王族特有の威厳がある……と言えば聞こえはいいが、所謂俺様ドSキャラ。「奉仕して貰おうか」という台詞が多く出てきて、所構わずいやらしいことを強要させられる。
クラリスとの愛が深まると「俺から奉仕したいと思わせた女はお前が初めてだ」と執拗な愛撫をしてくるように。
ジークフリートルートでは、幼い頃からの婚約者だというアリスが出てきて、クラリスは虐められ、最後の方は毒殺されかけたりと、命を狙われてしまう。
二人目。
【エルヴィン・ハーゲン・ネーデルラント】
アーネルリスト王国第二王子。
肩くらいに伸ばした白金髪にジークフリートと同じ碧眼。切れ長で涼しげな目元が印象的。ジークフリートとは異母兄弟で、年齢20歳。身長178センチ。
魔法属性は水。
女性的な容姿で、様々な女性と浮名を流すプレイボーイ。初めて会った時も、高級娼婦を侍らせていて、城の庭園で複数でいるとこをクラリスに目撃される。とにかくいつもどこかでヤッている。
クラリスもエルヴィンに何度も複数プレイを強要されたり、流行りのネトラレを強要される。
クラリスとの愛に目覚めると「君の肌を他の誰かに触らせるのは我慢ならない」と、独占欲を見せるように。『お前がやらせたんだろ!』と、つっこまずにはいられない。
エルヴィンルートにもアリスが出てくる。ジークフリートの婚約者であるにもかかわらず、エルヴィンとも肉体関係を結んでいる……所謂セフレみたいな関係のアリス。クラリスに本気になったエルヴィンが許せず、自分のことを棚に上げてクラリスを糾弾する。
そして嫉妬に狂ったアリスは、このルートでもクラリスの命を狙い、エルヴィンによって処刑される。
三人目。
【アルフレッド・ニース・ザンダー】
言わずと知れた、変態脚フェチ男。
ザンダー伯爵家次男だが、後に叙爵されて侯爵の地位を得る、ジークフリートの側近にして未来の宰相。
青みがかった長めの黒髪を後ろで一つに結び、眼鏡の奥に黒い瞳を光らせる細マッチョ。
身長は185センチで、スラリとしており、主人公クラリスをいつも見下ろしている。年齢は、アリスの8歳上の24歳。
魔法属性は風。
諜報に長けていて活躍し、後に没落して王家に没収されたシャーリン家の治めていた領地を与えられるのだが、それは、こうして若い頃にシャーリンの屋敷で働いていたのも関係するのかしら。とにかく油断ならない男だ。
四人目。
【ガイ・ライオネル・カーライル】
カーライル侯爵家長男でありながら、国王直属の騎士団、“聖竜の騎士団”の隊長。濃い焦げ茶色の髪に琥珀色の瞳。身長は188センチで、鍛え抜かれた筋肉の肉厚な鋼の身体の持ち主。年齢はアリスの12歳年上の28歳。
魔法属性は火。国内でも唯一“魔剣”と呼ばれる、魔力を使った剣技の使い手。これがめちゃくちゃカッコイイ!……ので、いつか習いに行きたい。
ガイは少しMっ気がある露出狂の筋肉バカという印象だ。自慢の筋肉を披露したいのか、上半身裸が多い。
ガイがクラリスの為にアリスの前で土下座をし、その後頭部をアリスがピンヒールで踏み付けるというシーンがある。「クラリスを助けたいのなら、私を楽しませなさい」と言うアリス。色々と罵られてその気になっちゃったガイが据え膳喰っちゃいそうになるが、クラリスへの愛と忠誠心でなんとか耐える。
アリス、どこにでも手を出すのやめて。イイ男なら誰でもいいのか? 大活躍だな。
ガイルートでは、クラリスを魔物の生贄にしようと崖から突き落とそうとしたアリスが、ガイの魔剣でぶった切られる。谷底に落ちていくアリスに「お前が生贄になれ。……魔物も腹を壊さなければいいがな」と、上手いこと言うガイ。
五人目。
【ユリウス・ジュリアン・シャーリン】
宰相の息子。……つまり、なんと、私の弟。いや義弟。まだお会いしたことはないけれど、これから連れてこられるのだろう。
私の婚約が決まったことで、シャーリン家の跡取りとして迎えられるが、お父様とも私とも血の繋がりのない赤の他人。
美しい銀髪に紫色の瞳。身長168センチの線の細い、儚げな青年だが、少年の頃は間違いなくお父様のどストライクだろう。これはマズイ。またお父様の魔の手から守らねばならぬ人が増えた。
ゲームでは、あの父とこの姉に育てられ、まともに育つわけもなく、シャーリン家の毒にドップリ浸かった危ない青年。
シャーリン家を憎み、「いつか殺してやる」と復讐心でいっぱいのユリウス。そんなユリウスの心を優しく癒していくクラリス。
緊縛プレイが大好きで、愛しい者ほど縛らずにはいられない。
魔法属性は土。年齢はアリスの1歳年下の15歳。ゲーム唯一の一人称「僕」の弟キャラ。
攻略対象者を思い出したのは良かったが、それはただ私の不安を煽っただけだった。
できることなら、彼らとは極力関わらずに生きていきたい。そして、義弟ができるのを阻止したい。
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