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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
人でなし
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『もう……何度やろうと無駄なのですよ』
流れゆく血。失望に駆られる頭と、絶望に染まる思考。
勝てない。
自らの体より突き出した槍の先より、俺が感じ取った唯一のものだった。
『なぜ分からないのですか。私には勝てない。諦めるしかない。
貴方がどんなことを経験しようが、何の想いを継ごうが、無理なものは無理、無駄なものは無駄に過ぎない。
本当に愚かで、本当に惨めな———私の弟子よ。
貴方には、無理だったのですよ。……散華なさい、救世主』
冷静になった頭で、今一度考えた時。
コレを使うのは、今しかないと考えた。
「……そうか、俺には無理か。
ならば———賭けるまでだ」
『…………待て。待て、待て待て!……それは———貴様っ!』
途端、俺の腹は内部から引き裂かれた。……が、それよりも。
俺が撃ち込む方が、早かったようだ。
「………………ぇ、も……こえ、も……でねぇ……」
腹の中から、その体をズタズタに引き裂かれた。なのに俺は生きている。
「……うぅ……っ、コレ、か……」
その代わり、妙な鼓動を発している。
蠢動している。この体、そのものが。
「コレ、が………………ロストになる、って、ものなのか」
俺が———そう、中より食い破られる寸前、俺がその体に刺したのは———一本の液体であった。
『RX-3654』。
このオリュンポスの生み出した、最悪の実験物質。人をロストなる化け物に変化させるか、はたまたソウルレスなる不死者に変貌させるか、その賭けを行うために必要なもの。
お前が人でなしと言うのなら———、
俺も、人なんて捨ててやる。
そんなちっぽけなプライドと、俺の成すべきこと。
天秤にかけるまでもない———!
『貴様……貴様、人を……!』
この覚悟も。理想も。夢も。想いも。例えその全てを投げ出したとしても、俺はお前に勝たなくちゃならない。お前を絶対に殺さなくちゃならない。
ならば、投げ出してやるさ。
人間であることも、何もかも。
———いいんだ、もう。
もう、俺の———雪斬ツバサの名を、真に覚えている人なんて、もうこの世にはいないんだから。
「あぁ……っふぐ…………!」
体の中で、明らかに何かが蠢いている。
もはや自分が自分でなくなる。人の機能を有さなくなる。人間としての範囲を逸脱し、体がブラックボックスに成り変わってしまう。
その変化と、受け入れ難い現実を受け入れ、そして。
———何もかも、全てが無の世界に、沈んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
白の世界。……ああ、見たことがある。またここか。さっき来たばっかりだ、この道は。
『やめたんだな』
兄さんの声だった。もう、聞かなくてもいい。
意識は喪失していく。何もかもが白に飲まれゆく。
感情も喪失していく。今こうして何かを考えられていること自体が、奇跡に思えてくる。
無の地平線。消え失せていく。
視界も、感覚も。意識も、意志も。
どこへ向かうこともなく、この場で喪失してゆく。
この世界にいることを、手放したんだ。
もう、いる理由もないから。
愛する人は死んだ。
兄も、父も、母も、全員死んだ。
友達と言える人も死んだ。
恩人と言える人も死んだ。
今の俺にとって、『本物』であるこの名前を覚えている人も、全員死んだ。
もはや愛されてもいない。誰からも、何からも。
俺はサナを裏切った。アイツを裏切って、アテナについて、そのアテナも死んでしまった。
愛と呼べるものは、もう———ないんだ。
この体を。この人間を。この人生を。この俺の、全てを。
その全てを愛してくれる人は、全員死んだ。最後に縋った師匠にも、裏切られた。
だからもう、全部手放していいんだ。
終わらせて、いいんだ。
俺のいる意味は、ない。
現実の俺はロストになる。それでいいんだ。
何もかもを失っても、例えそれがゼロになろうとも、現実の俺は戦い続ける。
だけどもう、俺はここで———消えさせてくれ。
みんなの前から俺を……消し去って———、
『言い忘れていた、ことがあった。
お前に。親として、言いそびれていたことがな』
流れゆく血。失望に駆られる頭と、絶望に染まる思考。
勝てない。
自らの体より突き出した槍の先より、俺が感じ取った唯一のものだった。
『なぜ分からないのですか。私には勝てない。諦めるしかない。
貴方がどんなことを経験しようが、何の想いを継ごうが、無理なものは無理、無駄なものは無駄に過ぎない。
本当に愚かで、本当に惨めな———私の弟子よ。
貴方には、無理だったのですよ。……散華なさい、救世主』
冷静になった頭で、今一度考えた時。
コレを使うのは、今しかないと考えた。
「……そうか、俺には無理か。
ならば———賭けるまでだ」
『…………待て。待て、待て待て!……それは———貴様っ!』
途端、俺の腹は内部から引き裂かれた。……が、それよりも。
俺が撃ち込む方が、早かったようだ。
「………………ぇ、も……こえ、も……でねぇ……」
腹の中から、その体をズタズタに引き裂かれた。なのに俺は生きている。
「……うぅ……っ、コレ、か……」
その代わり、妙な鼓動を発している。
蠢動している。この体、そのものが。
「コレ、が………………ロストになる、って、ものなのか」
俺が———そう、中より食い破られる寸前、俺がその体に刺したのは———一本の液体であった。
『RX-3654』。
このオリュンポスの生み出した、最悪の実験物質。人をロストなる化け物に変化させるか、はたまたソウルレスなる不死者に変貌させるか、その賭けを行うために必要なもの。
お前が人でなしと言うのなら———、
俺も、人なんて捨ててやる。
そんなちっぽけなプライドと、俺の成すべきこと。
天秤にかけるまでもない———!
『貴様……貴様、人を……!』
この覚悟も。理想も。夢も。想いも。例えその全てを投げ出したとしても、俺はお前に勝たなくちゃならない。お前を絶対に殺さなくちゃならない。
ならば、投げ出してやるさ。
人間であることも、何もかも。
———いいんだ、もう。
もう、俺の———雪斬ツバサの名を、真に覚えている人なんて、もうこの世にはいないんだから。
「あぁ……っふぐ…………!」
体の中で、明らかに何かが蠢いている。
もはや自分が自分でなくなる。人の機能を有さなくなる。人間としての範囲を逸脱し、体がブラックボックスに成り変わってしまう。
その変化と、受け入れ難い現実を受け入れ、そして。
———何もかも、全てが無の世界に、沈んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
白の世界。……ああ、見たことがある。またここか。さっき来たばっかりだ、この道は。
『やめたんだな』
兄さんの声だった。もう、聞かなくてもいい。
意識は喪失していく。何もかもが白に飲まれゆく。
感情も喪失していく。今こうして何かを考えられていること自体が、奇跡に思えてくる。
無の地平線。消え失せていく。
視界も、感覚も。意識も、意志も。
どこへ向かうこともなく、この場で喪失してゆく。
この世界にいることを、手放したんだ。
もう、いる理由もないから。
愛する人は死んだ。
兄も、父も、母も、全員死んだ。
友達と言える人も死んだ。
恩人と言える人も死んだ。
今の俺にとって、『本物』であるこの名前を覚えている人も、全員死んだ。
もはや愛されてもいない。誰からも、何からも。
俺はサナを裏切った。アイツを裏切って、アテナについて、そのアテナも死んでしまった。
愛と呼べるものは、もう———ないんだ。
この体を。この人間を。この人生を。この俺の、全てを。
その全てを愛してくれる人は、全員死んだ。最後に縋った師匠にも、裏切られた。
だからもう、全部手放していいんだ。
終わらせて、いいんだ。
俺のいる意味は、ない。
現実の俺はロストになる。それでいいんだ。
何もかもを失っても、例えそれがゼロになろうとも、現実の俺は戦い続ける。
だけどもう、俺はここで———消えさせてくれ。
みんなの前から俺を……消し去って———、
『言い忘れていた、ことがあった。
お前に。親として、言いそびれていたことがな』
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