Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

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「……だってさ! やったな……アテナ!」

『ぇ……』

 アテナは信じられないような顔をしていた。
 ……いいや、確かにも、そんなあっさり認められてもいいのかって思ったよ。


 ……でも、いいんだと。
 俺がお前を信じ続けるのならば、ありのままのお前を受け入れるならば、と。

『いい、の……私、しろ……と……』

 未だ床に伏せたアテナ。
 涙に濡れたその指が、伸ばした俺の右手に触れる。

「ああ。……そうだろ、お義父様!」


『………………貴様のような人間は初めてだ。我ら機神を、嫁にもらいたいなどと……



 して———エターナルはどうする?』

「どう……するって、何が?」

 何でそのことを俺に聞くのか分からない。俺に聞く必要もないだろうに。


『……アテナよ。我が娘アテナよ、答えよ。
 おまえは、エターナルを……実行してほしくはないのか?』


『ほしく……ない。元々、求めてもいなかった、し……しろ、が、ダメっていうなら……なおさら、ダメ』


『…………そう、か。
 確かに、エターナルは『人類の進化』を掲げてきた計画であった。表向きはな。

 しかし、裏でその引き金を引いたのは———おまえの言葉だったのだ、アテナよ』

『わた、し……?』

『いつかのおまえの言った、『もう誰も傷付かない世界』…………それを、我は実現しようとしたのだ。…………全て、おまえのためであった。

 おまえのため……ならば、何も思うことなどなかった。おまえの思うようにするといい、これからは』


 ……そうか。コイツもアホなのか、要は。
 さっさとアテナと話して、本当にエターナルが必要かどうかを決めればよかったのに、そうする前にここまで来ちまったんだ。

 バカ……つったらいいのか、でも……コイツだって、アテナのことを思ってやっていたんだ。

 ……すれ違っていただけだったのか、傍迷惑な神様だよ、親子揃って。

 だからって、今までの犠牲が許されるわけじゃない。それはコイツに払ってもらうしかないんだ。

 …………でも、殺しはしない。そもそも殺せるかどうかは定かじゃないけど、殺しても———きっとそれは、にはならないから。


『しなくても……よいのか?』

『うん…………永遠、じゃなくっても……しろ、と、いきていく!』


『…………そうか。
 聞いていたな、刹那。エターナルは廃止だ。ここまで付き合わせてしまって悪かったが、……すまぬ、我の事情故な……』

『そうですか』

 ……コイツも———師匠もだ。許すことはできない、でも……殺すだけで、終わらせるのは。


 今更俺は何を言ってるんだろうな、ここまで何人も斬ってきたくせに、師匠も生かそうとするなんて、ついに気が狂ったのかな、俺は。

「終わった……んだな、これで。……和解……したかは分かんねえが、これで終わりで良かったよ。な、アテナ」

『うい!』



「それはそれとして、だ。お義父様も、師匠も———ここに来るまで、色々と……犠牲を重ねてきた。俺の大切な人だって、何人も何人も殺してきた。

 俺には師匠も、お義父様も……許すことはできない。でも、いずれ……許し合える日が来るはずなんだ。……だから償ってもらう。その時が来るまで」


『……そう、か…………我も、罪を犯した、か……

 よい。ヒトの言葉であるが、従おう。我自身が罪を犯したのなら、それを償う義務がある。……それに、我が娘の———笑顔が見られるだけでも、我は———』

「ああ、そうか。……ならよかった、師匠は———

 



 ———え、し……しょ……う…………?」

 振り向いた瞬間、そこに刹那はおらず。
 今度はゼウスの方を振り向いた、その瞬間であった。






『…………っ、か………………はふ……ぅっ』



「———おい」




 刹那は———そう、俺の後ろに。
 俺の後ろにいた、ゼウスの背後にいた。



 しかも、だ。
 ゼウスの……俺を模した体は、その腹が紅く染まっていて———、

「おい。……おい…………おいぃっ!!!!」




『———なぜ。いつ、誰が……エターナルを止めていいと許可したのでしょうか?

 立ち上げは確かに貴方ゼウスと、そして天空寺さんの2人……で行いました。
 ですが———この計画の一番の賛同者は私、主導で進めていたのも、またこの私です。


 さて———誰が本当にか、見誤りましたね?』


『せつ……な、きさ…………ま………………!』

『刹那、ではありません、雪斬宗呪羅ですよ、我が主———機神ゼウスよ』

 瞬間、刹那はゼウスの胸目がけ、背より手刀を繰り出した。
 ———無論、俺は反応できず。

『っがあっ…………がはぁ…………っ!』

『お父様っ!……おま、え……!』



『邪魔ですよ、機神アテナ。貴女は———』

 宗呪羅が、片腕のみでその刀を振り上げる。既にゼウスの背からは刀を抜いていた……!

 まずい、アテナにわざわざ攻撃するってことは……アテナをも殺せる可能性のあるものかもしれない……!

『偽物の思い出に、縋っていれば良いのです。、精一杯……ね』

 振り下ろされた斬撃。白色の光を纏い、ソレは実体化してアテナへと襲いかかる。

 俺はすかさず走り出し———神力障壁を形成し始めたアテナを押し除けようとする。


「っ、危ねえ…………っ!」
『わああっ……!』

 俺がアテナに触れる直前———刹那の斬撃は、アテナの前方にある神力障壁を軽々と破り、そして———、








 アテナを押し除けた、俺に直撃した。









 こんなに冷静に状況を判断できるのは、今俺が動いていないからだ。

 ……いや、いいや、動けていない……の方が正しい。

『…………ろ!……し………………しろ…………しろ!…………しろぉっ!』


 必死に俺を呼ぶアテナの声。しかし俺の目線は、全部刹那に向いていた。


 ゼウスの———俺の体から取り出したその心臓を、ヤツは口にした。

 ……つまるところ、俺から複製された『ザ・オールマイティ』……オメガドライブまで到達したソレを、ヤツは横から盗みやがった。

 自らのエターナルを、達成させるために。


『しろ、しろ! ダメぇっ、ダメぇっ! 寝ちゃダメなの、ダメなのぉっ!』

 ああ、はは。いつも通りの窮地だ、動かそうと思っても動けない。身体が言うことを聞いてくれない。

 どうなっているんだろうか。

『ああ…………ああぁぁ……真っ、二つに、なって……ぁあ…………』

 わざわざ言わなくたっていいじゃないか。

 ただ、真っ二つ、なら。



 死んだな、今度こそ。






 もう奇跡なんてない。俺の身に宿るアダムも、あの時———サナを蘇らせた時に、等価交換でその魂を持って行かれた。

 回復魔術も意味がない。サナからもらった例のアレを使う時だとも思ったが、そもそも体は動かない、激痛でまともに喋れやしない。……だからアテナに打ってもらうこともできない。

 


 …………せめて、何もできないんだったら。



 最後に、別れの言葉だけでも言っておきたかったな……






『……さらばです、雪斬白郎。
 理想の世界の———永遠の前の、最後の犠牲者となりなさい』


 救えるかもしれなかったその姿に、今一度手を伸ばす。

 ……伸びなかった。


『まっ…………まって、まって……おね、がい……ほんとう、に…………!』


 せっかく、分かり合えると思っていたのに。


 救えなかった、師匠を。救えなかった、アテナを。救えなかった、お義父様を。

 それで、俺も…………ここで終わる、のか。


 ああもう……悔しいな。やりきれない。


 こんなところで終わっても、いいのか。……いいや、ソレはダメだろ。

 ———でも、もう。
 俺はきっと、無理なんだ。
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