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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
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「……だってさ! やったな……アテナ!」
『ぇ……』
アテナは信じられないような顔をしていた。
……いいや、確かに俺も、そんなあっさり認められてもいいのかって思ったよ。
……でも、いいんだと。
俺がお前を信じ続けるのならば、ありのままのお前を受け入れるならば、と。
『いい、の……私、しろ……と……』
未だ床に伏せたアテナ。
涙に濡れたその指が、伸ばした俺の右手に触れる。
「ああ。……そうだろ、お義父様!」
『………………貴様のような人間は初めてだ。我ら機神を、嫁にもらいたいなどと……
して———エターナルはどうする?』
「どう……するって、何が?」
何でそのことを俺に聞くのか分からない。俺に聞く必要もないだろうに。
『……アテナよ。我が娘アテナよ、答えよ。
おまえは、エターナルを……実行してほしくはないのか?』
『ほしく……ない。元々、求めてもいなかった、し……しろ、が、ダメっていうなら……なおさら、ダメ』
『…………そう、か。
確かに、エターナルは『人類の進化』を掲げてきた計画であった。表向きはな。
しかし、裏でその引き金を引いたのは———おまえの言葉だったのだ、アテナよ』
『わた、し……?』
『いつかのおまえの言った、『もう誰も傷付かない世界』…………それを、我は実現しようとしたのだ。…………全て、おまえのためであった。
おまえのため……ならば、何も思うことなどなかった。おまえの思うようにするといい、これからは』
……そうか。コイツもアホなのか、要は。
さっさとアテナと話して、本当にエターナルが必要かどうかを決めればよかったのに、そうする前にここまで来ちまったんだ。
バカ……つったらいいのか、でも……コイツだって、アテナのことを思ってやっていたんだ。
……すれ違っていただけだったのか、傍迷惑な神様だよ、親子揃って。
だからって、今までの犠牲が許されるわけじゃない。それはコイツに払ってもらうしかないんだ。
…………でも、殺しはしない。そもそも殺せるかどうかは定かじゃないけど、殺しても———きっとそれは、贖罪にはならないから。
『しなくても……よいのか?』
『うん…………永遠、じゃなくっても……しろ、と、いきていく!』
『…………そうか。
聞いていたな、刹那。エターナルは廃止だ。ここまで付き合わせてしまって悪かったが、……すまぬ、我の事情故な……』
『そうですか』
……コイツも———師匠もだ。許すことはできない、でも……殺すだけで、終わらせるのは。
今更俺は何を言ってるんだろうな、ここまで何人も斬ってきたくせに、師匠も生かそうとするなんて、ついに気が狂ったのかな、俺は。
「終わった……んだな、これで。……和解……したかは分かんねえが、これで終わりで良かったよ。な、アテナ」
『うい!』
「それはそれとして、だ。お義父様も、師匠も———ここに来るまで、色々と……犠牲を重ねてきた。俺の大切な人だって、何人も何人も殺してきた。
俺には師匠も、お義父様も……許すことはできない。でも、いずれ……許し合える日が来るはずなんだ。……だから償ってもらう。その時が来るまで」
『……そう、か…………我も、罪を犯した、か……
よい。ヒトの言葉であるが、従おう。我自身が罪を犯したのなら、それを償う義務がある。……それに、我が娘の———笑顔が見られるだけでも、我は———』
「ああ、そうか。……ならよかった、師匠は———
———え、し……しょ……う…………?」
振り向いた瞬間、そこに刹那はおらず。
今度はゼウスの方を振り向いた、その瞬間であった。
『…………っ、か………………はふ……ぅっ』
「———おい」
刹那は———そう、俺の後ろに。
俺の後ろにいた、ゼウスの背後にいた。
しかも、だ。
ゼウスの……俺を模した体は、その腹が紅く染まっていて———、
「おい。……おい…………おいぃっ!!!!」
『———なぜ。いつ、誰が……エターナルを止めていいと許可したのでしょうか?
立ち上げは確かに貴方ゼウスと、そして天空寺さんの2人……で行いました。
ですが———この計画の一番の賛同者は私、主導で進めていたのも、またこの私です。
さて———誰が本当にエターナルを発動したがっているか、見誤りましたね?』
『せつ……な、きさ…………ま………………!』
『刹那、ではありません、雪斬宗呪羅ですよ、我が主———機神ゼウスよ』
瞬間、刹那はゼウスの胸目がけ、背より手刀を繰り出した。
———無論、俺は反応できず。
『っがあっ…………がはぁ…………っ!』
『お父様っ!……おま、え……!』
『邪魔ですよ、機神アテナ。貴女は———』
宗呪羅が、片腕のみでその刀を振り上げる。既にゼウスの背からは刀を抜いていた……!
まずい、アテナにわざわざ攻撃するってことは……アテナをも殺せる可能性のあるものかもしれない……!
『偽物の思い出に、縋っていれば良いのです。残りの時間、精一杯……ね』
振り下ろされた斬撃。白色の光を纏い、ソレは実体化してアテナへと襲いかかる。
俺はすかさず走り出し———神力障壁を形成し始めたアテナを押し除けようとする。
「っ、危ねえ…………っ!」
『わああっ……!』
俺がアテナに触れる直前———刹那の斬撃は、アテナの前方にある神力障壁を軽々と破り、そして———、
アテナを押し除けた、俺に直撃した。
こんなに冷静に状況を判断できるのは、今俺が動いていないからだ。
……いや、いいや、動けていない……の方が正しい。
『…………ろ!……し………………しろ…………しろ!…………しろぉっ!』
必死に俺を呼ぶアテナの声。しかし俺の目線は、全部刹那に向いていた。
ゼウスの———俺の体から取り出したその心臓を、ヤツは口にした。
……つまるところ、俺から複製された『ザ・オールマイティ』……オメガドライブまで到達したソレを、ヤツは横から盗みやがった。
自らのエターナルを、達成させるために。
『しろ、しろ! ダメぇっ、ダメぇっ! 寝ちゃダメなの、ダメなのぉっ!』
ああ、はは。いつも通りの窮地だ、動かそうと思っても動けない。身体が言うことを聞いてくれない。
どうなっているんだろうか。
『ああ…………ああぁぁ……真っ、二つに、なって……ぁあ…………』
わざわざ言わなくたっていいじゃないか。
ただ、真っ二つ、なら。
死んだな、今度こそ。
もう奇跡なんてない。俺の身に宿るアダムも、あの時———サナを蘇らせた時に、等価交換でその魂を持って行かれた。
回復魔術も意味がない。サナからもらった例のアレを使う時だとも思ったが、そもそも体は動かない、激痛でまともに喋れやしない。……だからアテナに打ってもらうこともできない。
…………せめて、何もできないんだったら。
最後に、別れの言葉だけでも言っておきたかったな……
『……さらばです、雪斬白郎。
理想の世界の———永遠の前の、最後の犠牲者となりなさい』
救えるかもしれなかったその姿に、今一度手を伸ばす。
……伸びなかった。
『まっ…………まって、まって……おね、がい……ほんとう、に…………!』
せっかく、分かり合えると思っていたのに。
救えなかった、師匠を。救えなかった、アテナを。救えなかった、お義父様を。
それで、俺も…………ここで終わる、のか。
ああもう……悔しいな。やりきれない。
こんなところで終わっても、いいのか。……いいや、ソレはダメだろ。
———でも、もう。
俺はきっと、無理なんだ。
「……だってさ! やったな……アテナ!」
『ぇ……』
アテナは信じられないような顔をしていた。
……いいや、確かに俺も、そんなあっさり認められてもいいのかって思ったよ。
……でも、いいんだと。
俺がお前を信じ続けるのならば、ありのままのお前を受け入れるならば、と。
『いい、の……私、しろ……と……』
未だ床に伏せたアテナ。
涙に濡れたその指が、伸ばした俺の右手に触れる。
「ああ。……そうだろ、お義父様!」
『………………貴様のような人間は初めてだ。我ら機神を、嫁にもらいたいなどと……
して———エターナルはどうする?』
「どう……するって、何が?」
何でそのことを俺に聞くのか分からない。俺に聞く必要もないだろうに。
『……アテナよ。我が娘アテナよ、答えよ。
おまえは、エターナルを……実行してほしくはないのか?』
『ほしく……ない。元々、求めてもいなかった、し……しろ、が、ダメっていうなら……なおさら、ダメ』
『…………そう、か。
確かに、エターナルは『人類の進化』を掲げてきた計画であった。表向きはな。
しかし、裏でその引き金を引いたのは———おまえの言葉だったのだ、アテナよ』
『わた、し……?』
『いつかのおまえの言った、『もう誰も傷付かない世界』…………それを、我は実現しようとしたのだ。…………全て、おまえのためであった。
おまえのため……ならば、何も思うことなどなかった。おまえの思うようにするといい、これからは』
……そうか。コイツもアホなのか、要は。
さっさとアテナと話して、本当にエターナルが必要かどうかを決めればよかったのに、そうする前にここまで来ちまったんだ。
バカ……つったらいいのか、でも……コイツだって、アテナのことを思ってやっていたんだ。
……すれ違っていただけだったのか、傍迷惑な神様だよ、親子揃って。
だからって、今までの犠牲が許されるわけじゃない。それはコイツに払ってもらうしかないんだ。
…………でも、殺しはしない。そもそも殺せるかどうかは定かじゃないけど、殺しても———きっとそれは、贖罪にはならないから。
『しなくても……よいのか?』
『うん…………永遠、じゃなくっても……しろ、と、いきていく!』
『…………そうか。
聞いていたな、刹那。エターナルは廃止だ。ここまで付き合わせてしまって悪かったが、……すまぬ、我の事情故な……』
『そうですか』
……コイツも———師匠もだ。許すことはできない、でも……殺すだけで、終わらせるのは。
今更俺は何を言ってるんだろうな、ここまで何人も斬ってきたくせに、師匠も生かそうとするなんて、ついに気が狂ったのかな、俺は。
「終わった……んだな、これで。……和解……したかは分かんねえが、これで終わりで良かったよ。な、アテナ」
『うい!』
「それはそれとして、だ。お義父様も、師匠も———ここに来るまで、色々と……犠牲を重ねてきた。俺の大切な人だって、何人も何人も殺してきた。
俺には師匠も、お義父様も……許すことはできない。でも、いずれ……許し合える日が来るはずなんだ。……だから償ってもらう。その時が来るまで」
『……そう、か…………我も、罪を犯した、か……
よい。ヒトの言葉であるが、従おう。我自身が罪を犯したのなら、それを償う義務がある。……それに、我が娘の———笑顔が見られるだけでも、我は———』
「ああ、そうか。……ならよかった、師匠は———
———え、し……しょ……う…………?」
振り向いた瞬間、そこに刹那はおらず。
今度はゼウスの方を振り向いた、その瞬間であった。
『…………っ、か………………はふ……ぅっ』
「———おい」
刹那は———そう、俺の後ろに。
俺の後ろにいた、ゼウスの背後にいた。
しかも、だ。
ゼウスの……俺を模した体は、その腹が紅く染まっていて———、
「おい。……おい…………おいぃっ!!!!」
『———なぜ。いつ、誰が……エターナルを止めていいと許可したのでしょうか?
立ち上げは確かに貴方ゼウスと、そして天空寺さんの2人……で行いました。
ですが———この計画の一番の賛同者は私、主導で進めていたのも、またこの私です。
さて———誰が本当にエターナルを発動したがっているか、見誤りましたね?』
『せつ……な、きさ…………ま………………!』
『刹那、ではありません、雪斬宗呪羅ですよ、我が主———機神ゼウスよ』
瞬間、刹那はゼウスの胸目がけ、背より手刀を繰り出した。
———無論、俺は反応できず。
『っがあっ…………がはぁ…………っ!』
『お父様っ!……おま、え……!』
『邪魔ですよ、機神アテナ。貴女は———』
宗呪羅が、片腕のみでその刀を振り上げる。既にゼウスの背からは刀を抜いていた……!
まずい、アテナにわざわざ攻撃するってことは……アテナをも殺せる可能性のあるものかもしれない……!
『偽物の思い出に、縋っていれば良いのです。残りの時間、精一杯……ね』
振り下ろされた斬撃。白色の光を纏い、ソレは実体化してアテナへと襲いかかる。
俺はすかさず走り出し———神力障壁を形成し始めたアテナを押し除けようとする。
「っ、危ねえ…………っ!」
『わああっ……!』
俺がアテナに触れる直前———刹那の斬撃は、アテナの前方にある神力障壁を軽々と破り、そして———、
アテナを押し除けた、俺に直撃した。
こんなに冷静に状況を判断できるのは、今俺が動いていないからだ。
……いや、いいや、動けていない……の方が正しい。
『…………ろ!……し………………しろ…………しろ!…………しろぉっ!』
必死に俺を呼ぶアテナの声。しかし俺の目線は、全部刹那に向いていた。
ゼウスの———俺の体から取り出したその心臓を、ヤツは口にした。
……つまるところ、俺から複製された『ザ・オールマイティ』……オメガドライブまで到達したソレを、ヤツは横から盗みやがった。
自らのエターナルを、達成させるために。
『しろ、しろ! ダメぇっ、ダメぇっ! 寝ちゃダメなの、ダメなのぉっ!』
ああ、はは。いつも通りの窮地だ、動かそうと思っても動けない。身体が言うことを聞いてくれない。
どうなっているんだろうか。
『ああ…………ああぁぁ……真っ、二つに、なって……ぁあ…………』
わざわざ言わなくたっていいじゃないか。
ただ、真っ二つ、なら。
死んだな、今度こそ。
もう奇跡なんてない。俺の身に宿るアダムも、あの時———サナを蘇らせた時に、等価交換でその魂を持って行かれた。
回復魔術も意味がない。サナからもらった例のアレを使う時だとも思ったが、そもそも体は動かない、激痛でまともに喋れやしない。……だからアテナに打ってもらうこともできない。
…………せめて、何もできないんだったら。
最後に、別れの言葉だけでも言っておきたかったな……
『……さらばです、雪斬白郎。
理想の世界の———永遠の前の、最後の犠牲者となりなさい』
救えるかもしれなかったその姿に、今一度手を伸ばす。
……伸びなかった。
『まっ…………まって、まって……おね、がい……ほんとう、に…………!』
せっかく、分かり合えると思っていたのに。
救えなかった、師匠を。救えなかった、アテナを。救えなかった、お義父様を。
それで、俺も…………ここで終わる、のか。
ああもう……悔しいな。やりきれない。
こんなところで終わっても、いいのか。……いいや、ソレはダメだろ。
———でも、もう。
俺はきっと、無理なんだ。
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