Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
上 下
221 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

緋色のカミ( Ⅱ )

しおりを挟む
『……なぜにそう、無謀なまでに命を散らす……もうしばらくで、人類は永遠を手にすることになると言うのに。

 そこまでして死にたかった……と言うのなら、遠慮なく———冥府まで送り込むまでだが』

「…………刹那」

『しかし……無駄でしたね、あまりにも。無抵抗の人間を殺すと言うのは、いつになっても———』

「刹那ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 怒りのままに。技術、性能、思考———そんなものは今は関係ない。今はただ、感情のままに。

「テメェだけは、絶対にっ!」
『斬っ!』

 怒りを込めた刃。渾身の力で振り払ったソレは、あまりにもあっけなくヤツの前に弾き飛ばされる。

「っぐぎぃ……っ!」

『所詮、無駄でしかない……今までのお前たちの努力は、奮戦は、その全てが徒労に終わる!

 何の決意をしたかは知らない、何の覚悟を決めたのかも知らない……だがしかし言えることは、その全てが———!』

 

 弾き飛ばされた刀。
 既に、俺の体を守るものは何もなく。

『無意味だった、ということのみなのだ……!』

「———っ、か……っ、ごぶぉっ……!」

 言葉を発そうとしても、その全てが逆流する血液によってもみ消される。

『終わりだ、救世主……お前の決意も、努力も、奮戦も! 全てが!……無駄だったのだ!』



 喉元を掴まれた後、ゴミのように地面に投げ捨てられる。

 立ちあがろうとしても、俺の足は動かない。
 もう、どこにも力は入らない。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 奇跡なんて———なかった。理想なんて、追い求めるだけ無駄だった。

 そう、無駄、無駄だったんだ。悔しいけど、アイツの言う通り。結局アイツにとって『人類を永遠の存在にする』という目的は、人類にとっての栄光でもある。

 ……だからこそ、ソレに歯向かう俺たちも、死にゆく俺たちの姿も、アイツにとっては全てが無意味に見えて仕方がないんだ。


 

 無駄、だったのか?



「そう……なのか。俺がここまで来たのは、全部無駄だったって言うのか、ディル……!」




『無駄なわけ、ないじゃないか。……何のために、お前をわざわざ助けに来たと思ってんだ、白』



「———!」




 幻想かもしれない。俺の見てる幻覚かもしれない。

 それでも俺は、それが偽物と知りながら———伸ばされた手に、応えてしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇






「奇跡…………なんて、起こらない…………そう、思ってた」

 朧げな頭を無理矢理叩いて立ち上がる。視界は紅の闘気に包まれる。


 ここで立たないと、俺はどこで立てばいいんだ。





「…………でも、奇跡と言えるようなものを———見せてくれた人たちがいた」

 脳裏に浮かぶは、『雪斬ツバサ』と接し続け、ソイツに寄り添っていた人々のユメ。




「ソレは俺にとって……そのような人生自体を、奇跡だと思わせてくれたんだ」



 虚像の人生、虚無の楽園は、あの時外部から来た侵入者によって、終わりを告げた。

 ———だけど。『本者救世主』としての自分にとっても、ソレは———何の罪にも囚われない、奇跡のような日常青春だった。

 もう既にいなくなってしまったその人たちを見つめ、そして。






「…………だから俺は、その奇跡に恩返しするために———、


 お前を、打ち砕く」

 俺に虚像の奇跡を見せてくれた、アイツらに———『雪斬ツバサ』という名前を、真の意味で覚えてくれていた人たちの、ためにも。

 




「来いよ———神の、永遠の奇跡とやらを見せてみろ……!

 お前が相対するは、本物の———無謀者だ…………っ!!!!」





 ソレを見ていた刹那の顔色が一変する。

『…………フ、フフフハハハハ、そうだソレだ、その情動だ!……ハハハハハハハハ! 計画はここに

 目覚めの時だ、『Savior』!……はようやく、覚醒オメガドライブへと相成った!!!!』

「……貴様の相手は俺だ、刹那!」
『そう焦らなくとも』

 一瞬のうちに交差する刃。———しかし、打ち勝ったのは。

「………………無駄なんだよ、今の俺の前にはなっ!」
『か…………はっ……見……事』

 打ち勝った。今の一瞬で俺は、コイツの体を切り刻んでみせた。

 力なく倒れゆく刹那の身体。———だが、コイツはまだ死んではいない。



 ……だけど、勝ってみせた。さっきまで手も足も出なかったはずなのに、俺は———勝ってみせたんだ、この化け物に。


「………………紅い」

 ようやく俺は、自分の髪が赤く染まっていることに気付く。前髪しか見えてはいないが、前髪がそのような異常な状態になっていたのだ。


『ッフフ、素晴らしい……素晴らしいですよ、本当に。私はそれをずっと、ずっと…………これで、ようやく計画は……!

 目覚めよ真体、機神ゼウスッ! 約束の刻は、訪れた!』
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
ファンタジー
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...