Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

Side-レイラ: 抉られる傷

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◆◇◆◇◆◇◆◇

「ああ……ああああっ! ああああああ…………っっ!!

 結局……代わりは……私の、代わり———は……!」


 そう。代わりはいたんだ、本当に。
 そんなの嘘だと、認めたくはないと。
 一度はそう思ったはずの私の頭に、再度打ち付けられた現実の苦い味。



◇◇◇◇◇◇◇◇

 生きている意味って、なんだろう。
 こんな私が———生きている理由って、意味って、何なんだろう。


「———は……は……ぁ……」

 雨の降る中。このオリュンポスの中でも、唯一治安が悪く、そして唯一道路にゴミが捨てられている、北区。


「もう……いいや……」

 何もかも諦めてしまった私にとって、その街の喧騒は毒だった。

 かつては自分も、あんな風に輝いていたのだろうか。

「いいんだ……もう……」

 ———だから、そんな光からも離れて。どこなのかすら分からない、路地裏に1人倒れ込む。


 もう、居場所はどこにもない。そう、本当にどこにも無くなった。
 所詮そう言う末路を辿るしかなかった、と。


『嬢ちゃん、なんかお困りかい?』

 だから、そんな手を取ってしまった。

『嫌なこと、忘れられるよ?』

 ダメだ、と分かっているものを。
 もはや何もかもどうでもいいからと、無気力からも逃げながら。

『大丈夫だよ、安全な使い方知ってるんだ』

 そんなものがないと知りながら。
 楽に逃げられる現実なんて、ないと知りながら。

『一度くらいならさ———』

 幻想に、縋る。



「ぁ———」


◆◇◆◇◆◇◆◇



「嫌…………嫌っ、嫌っ、嫌っ、嫌ぁっ!!!!
 もう……もう、見たくない……見せないで、こんなのぉっ!

 もう見たくないんす……あっしの……こんな、こんな……!」

 惨めと言うか———何と言うか。
 そんなものに溺れる自分は、もう二度と直視したくなかったもので。

 かつて乗り越えた———そう思っていたけれど。

 結局、乗り越えられているわけがなかった。
 未だに前の家族とか、トラウマとか、色んなものに縛られてばかり。

 結局、私は。


「あ……あっ、ああああっ、あああああああっ!!!!」

 脳裏に映る映像、自分。
 自分、自分、全て自分だった。

 一時の快楽に身を震わせる自分。
 欲に溺れ、金も衣服すらも捨て去った自分。
 偽りの幸福に、溺れる自分。


『は……っ! は……っへ……へっへへっ……!』
「こんな———こんなの、が、あっし……で……!」

 もう、ダメだった。
 きっとこんなものからは逃げ出せない。逃げ出した先にも、待っていたのは地獄ばかり。



 ———ああ。
 いっそ、ずっとこのままなら、どれほど幸せだと思えたのだろうか。




 なのに、なのに何で———何で私は、この幸せを———私にとっての幸せを、自分から捨ててしまったのだろうか。


◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして。その日は、また雨の日だった。
 切れたんだ。今までずっときていて、ソレは切れる時を知らなかったけれど。

 だけどその時は切れてしまった。……だからこそ、私を襲ったのは不安だった。

 どうして? もう私には何も残っていないのに、どうしてそんな不安に塗れなければならないの?


『代わり……代わり…………代わり、代わり、代わり代わり代わり代わり代わりっ!

 どいつもこいつも……代わりばかりっ!

 私は私以外いないのに! 代わりばっかり求めて!

 なんで上手くできないの、どうして代わりが出張っちゃうの!

 ああああああっ! ああ……うううう、もう嫌ぁっ、嫌ぁあぁあ———』


 多分、これは全部見られていた。道行く人々に、こんな惨めな自分を見られるのが。それも含めて、耐えられなくって。


 結局私がここにいるって言うことは、頭の次に体を必要とした誰かからも、捨てられたってことだろう。

 何の記憶もないけれど、きっとそうだと思う。

 ずっと、ぼーっとしてて。もう何も、認識できなくって。
 投げ出すものは全て投げ出してきたから、後はもう、命だけだなって。




「ぁ———」

 そう思いながら、川の端から落下したのは、ほんの少し微かに覚えている。
 そしてその折に、背に十字の大剣を背負った大男を見たことも、同じように。



『嬢ちゃん———ちと、それは早まりすぎやしないか?

 元学年成績優秀者———その肩書きは、この俺だって聞いているぐらいだぜ?』



 そう、だ。
 救ってくれた人が、いたんだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇


『嫌……嫌だ、嫌だよぉ……!
 もう、もう必要とされないなんて嫌、替えがきくなんて、そんなの……そんなの嫌、嫌だよ、嫌なのぉっ!』



 それが、俯瞰的に見た今のあっし。

 結局、本音はコレだったけれど———でも。

 でも、今のあっしは、こんな自分を既に乗り越えている。……今のは、ただ———辛い思い出を掘り返されて、ちょっとだけしょんぼりしていただけ。


 始めっから———この戦いが始まった最初っから、あっしは既に成長できていた。



 そう、あの時。
 川から落ちようとした瞬間、タルム元隊長に拾われて。

 そしてその後、第3であっしは育てられた。

 ———初めて、本当の意味で他人から必要とされた。第3のピースとして、初めて。
 初めて、替えがきかない存在として…………『第3のレイラ』として、初めて自分を、個人を確立できた。





 結局、自分を自分として成り立たせるには、成績も、頭も、身体能力も、何も要らなかった。




 ただ、自分を……どれだけ替えがきかないぐらいに、思わせるか。

 どれだけ他人に、唯一無二の自分として接するか。……あっしにできることは最初っからそれしかなかったし、だからこそ、あっしは今ここにいるのだから。



 一番じゃなくたって、あっしはあっしだったんだ。


「前を向いて……行くべきっすね……

 そうっす、あっしの居場所は……帰るべき場所は、家は———第3しか、ないっすよ。やっぱり。




 ———だから、あっしは……それを邪魔する、お前が許せないんっす…………ラースッ!」
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