Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

非道人種

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「…………アン……タ、まさか……使う気、なの……?!

 それを使ってまでも、ヤツらを倒したいっての?!」



 RX-3654。
 サナと再会した時にちらっと見せてもらった、あの注入用の液体。

 アレを人体に入れれば———その瞬間、体の中で『賭け』が始まる。
 自我を失い、永遠に彷徨うロストとなるか。不老にして最強の生命力を持つ『ソウルレス』として生まれ変わるか。

「ああ。……何が何でも、師匠は止めてみせる。俺は今の師匠を止めなきゃいけないんだ。

 もう誰も苦しむことのない、みんなが楽しく生きられる世界。師匠が捨てたその夢を、俺は未だに持っている。

 大穴で願いが叶うんだったら、それだって叶えられるはずなんだ。叶えてみせるさ、師匠の———師匠だった者が抱き、俺に受け継がれた夢を」

「………………そういうことじゃ、ないでしょ……もし、もし白がを打ち込んだとして、その結果ロストにでもなったらどうすんの?!

 ……そんなの、そんなの……絶対に……!」

 許せないんだな。……そこまで怒ってくれるんだ、俺には分かる。

 俺だって怖いさ。今の自分が、自分じゃない何かに変わってしまうかもしれない怖さ。


「———でもそれは、乗り越えなきゃいけない。それを乗り越えてでも、俺にはやるべきことがあるんだ。

 もう俺にとっては、何が正しいのか……分からない。それまで正しいと信じてきた師匠にも……裏切られた。

 だから俺は、今度は自分が思う正しさを信じてみようと思う。……そのためには、何が何でも、この戦いに勝たなきゃいけないんだ。


 頼む、サナ。持っているのなら———俺にそれをくれ。
 それを使ってでもやらなきゃいけないことを、俺は見つけたんだ。非道に縋ろうとも、俺にはやらなきゃいけないことがある」

 
 言い終えた瞬間、俯いていたサナの顔が上がる。まるで何かを決意したかのように、その目は真っ直ぐを見つめていた。


「あーあ。こんなに言われちゃったら断れないから、私ってフラれたのかな……

 …………白。私の顔を見つめて、私の目をよく見て」

 言われた通りに、その透き通った目を見つめ続ける。
 真正面から向き合うのはこう……いつもなら恥ずかしいはずなのに、この時に限ってはそんな感情は浮かばなかった。

「何度も、何度も、何度も口にした。……けれど、この言葉は何度口にしても飽き足らない。……だから、もう一度言うね、白。

 1つだけ、約束して。



 ———生きて。
 お願いだから……あの子と。あの子と、2人で帰ってきてね、白。

 私はずっと、貴方たちの幸せを願ってるから」


「……あり…………がとう。もう、俺はお前に感謝してもしきれない。……行ってくる」

 そう言った瞬間、サナの手が俺の右腕に添えられる。

「RX-3654……くれるんだな」
「欲しいって言ったのは白でしょ」
「ああ。……じゃあな。生きて———帰ってくるから」


 そうして、サナとは違う方向を向いたところで。俺は最大の問題に直面した。


「………………アテナ、どこ?」

 いないのだ。よく周りを見渡しても、アテナの姿は全く見えない。

 周りにいるのは……サナと、センと、くいなと、ヤンスの4人。

 ……アテナは?

「アテナーーっ? おーい、アテナーーーーっ! いるんなら返事してくれ、どこにいるーーーーっ?」

 そう呼びかけた瞬間だった。

「アテナーーっ! アテ———ぶっ!」

 なんか……上から、重いものが俺の腰めがけて落ちてきたような……!

「うい!」

 背から響いたのは、紛れもなくかわいらしいアテナの声だった。

「いやお前、いくら何でも重……重い重い、重すぎる……俺の腰が死ぬ…………ひっ!」

『重い』と口にした瞬間、俺はサナから杖の先を向けられていることに気付く。……そう言えば、今のよく考えなくても失言だったなって……

「…………っ、女の子にっ! 重いとか言うなんて! 最っ低よ最低!!!! ちょっとはデリカシー持ったらどうなの、白!!!!」

「最……低。女子は……体重を、気にする……もの」

「女子……って、お前一応機神だろ?……今まで数千年も生きてきたんだから歳だって———あ」

 触れちゃいけないことに気付いたのは、少しだけ手遅れになった後だった。
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