228 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
家族として。
しおりを挟む———ああ。
そう、なのか?
『でも……っ、本……当に、アレン、貴方……なの……?』
とても信じられないという顔で、隊長はそう口にする。
……だが、俺だって信じられない。
母の存在なんて、ほとんど忘れきっていた。母に関する思い出なんて、俺の中には微塵も残っていなかったからだ。
でも……そう、なんだな……?
「なあ、合ってるん……だよな」
その小柄な身体を、溢れ出る思いのままに———抱きしめる。
何と言えばいいか、分からない。
「…………うん。
アレン・セイバー。ソレが俺の———本当の名前だよ、隊長」
『———アレン……アレン、アレン……っ!
貴方……なのね、アレン、アレン! 私の……私の、子供……!
よかった、よかった……生きてて、よかったぁ……っ!』
「イチゴ……隊長、いきなり抱きつく……なんて……っ!」
両腕で、こう。……今までにないほど強い力でぎゅっと抱きしめられる。
苦しくないと言えば嘘になる。でも、今はこのままでいいんだって、そう思った。
……何より、俺は———愛されていたんだって。
もう、師匠にすらも裏切られて。
俺は最初から、この世界に祝福されて生まれてきたわけなんかじゃない、俺なんて———最初っから、のけ者扱いだと思っていた。
……だけど、きっと。
きっと、このアイだけは……本物だろうから。
『隊長……じゃない……!
母さん……か、ママで……呼んで……!』
「じゃあ、母さんで———いこう、かな……」
気恥ずかしい。多分サナとかに見られてるとしたら死ぬほど恥ずかしいし、文字通り死ぬかもしれない。
———でも、コレが最後なんだ。コレが最後で、俺と母さんの最後の会話で。
そして俺が、初めて———母さんに甘えられる瞬間でもあった。
『よし……よし。泣かないで、いいん……だよ』
「……なんか……もう、色々あったんだ、ディルだって、レイラだってカーオだって、俺を置いて行っちまった!!
ずっとずっと慕ってた師匠は、敵の黒幕だった! 俺が信じてたものは、全部、全部なくなったんだよ!!
最後に縋るものも、失って……………………もう俺は……耐えられないんだよ、何もかも……全部……っ!」
『…………』
「なのに……母さんまで、行っちゃうのか?!……救う方法はないのか、もう誰にも……俺は———!」
『…………ごめん、ね。……ごめん…………ね……?』
「俺は…………俺はどうすればいいんだ……
この先にだって進めない、みんなまで……母さんまで、取りこぼして……自分の贖罪すらできなくって、自分自身のやることを……自分の信念を……信じられなくて…………!!」
『……いいの。……いい、いいん……だよ。
でも…………自分、だけは……信じてあげて。
他の誰がどう言おうと、関係ない。……それが、アレン自身……だから…………!』
他の誰がどう言おうと、関係ない———俺自身を、強く持ってと。
『自分だけを……信じて、そして……自分の信じることを、成し遂げて……みせて。
……そろそろ、行く時間……だよ、アレン』
もう———もう、なのか。
ここでお別れなのか、せっかく再会して、せっかく互いの本性を打ち明けて、せっかく打ち解け合ったってのに!
「俺は……いやだよ、もう誰とも、離れたくなんて———!」
『……大丈夫、アレン、貴方は…………強い子。……できるし、いける。
アレンならば…………受け入れることだって、できるはずだから……!』
「…………っ、うう……っ!」
『だから、これは……
これは、ゴルゴダ機関3番隊隊長、イチゴからの……最後の、命令……!
生きて……そして、自分のやるべきことに……一生懸命になって…………!
……アレンにはいるはず、愛し合うと決めた……人が。……だから、その人———その子を、せめて……幸せに、してあげて……!』
「———ああ、うん。……ホントは……離れたくなんて、ないけど俺……やっぱし行かなきゃいけない……んだな。
行ってきます………………行ってきます、母さん」
『行って———らっしゃい』
暗闇。見えぬ透明の壁の先へと行くために、俺は立ち上がり、そして一歩を踏み出す。
これは俺の———俺だけの、自立だ。
まるで涼しい朝のように。
木造のドアから———それまで共に歩んできたものから、そっと離れるように。
俺はようやく、この先へ…………進んでみせたんだ。
振り向いたそこには、笑顔でみんなが立っていた。……みんなだ。みんな。
「———っ?!」
その、みんなの後ろに立っていたのは。
「とお……さん……」
共に笑顔で俺を見送ってくれる、ヴァーサの……父の、姿だった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~
こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇
戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。
そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。
◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです
◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。
誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください
◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います
しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる