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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
イチゴ( Ⅱ )
しおりを挟む死。
ここに来て、ここまで来て俺は、一番身近に『死』を感じていた。
何をされたかなんて分からない。ただ、その『何かされた時』以降、俺の頭と体の中をぐるぐるぐるぐると『死』が巡っている。
感情も、表情も、思考も、全てが真っ黒に塗り潰されて。一寸先はおろか、どこまでも果てしなく、永遠の闇が続いていた。
『死ね』
『死んでくれ』
『どうしてお前に殺されなければならなかった』
『なんでお前が、未だに生きているんだ』
抑揚も、生気もない無数の怨嗟が渦巻いている。
その全てが俺に向けられた呪いであり、その全てが俺のことを憎みきっていた。
『他人の幸せを奪ったくせに、なんでそんなのうのうと生きていられるんだ』
『お前は救世主なんかじゃない』
『お前はクズだ。お前がクズだから、今までお前が関わってきたあの人達も全員クズなんだ』
ただのまやかしだ、そうにすぎない。
耐えていれば終わる、耐えていさえすれば終わるんだ。
『結局さ、宗呪羅はお前のことなんて見ていなかったんだよ。君は勝手に師弟だと思い込んでいただけかもしれないけど、宗呪羅はお前のことを都合のいいコマとしか思っていないし、お前はただ利用されただけだった。いつまでも、そんな関係をさも本物のように———』
「俺と……宗呪羅の関係は本物だ!……それを、嘘だとは…………アイツ自身にも言わせねぇ……!」
『偽物だよ。利用されただけなのにね』
『お前なんかが、無条件で愛してもらえるなどと思うなよ』
『人殺し。コレは、その罰だよ』
『結局お前を認めてくれる人なんて、この世界のどこにもいやしないんだ』
『雪斬ツバサ…………その名前を知る人間は、もう既にほとんどいなくなってしまったでしょ?』
『今のお前にとっての『本物の自分』なんて、この世界でまともと捉えられるわけがないんだ!』
『人を護る剣……ねぇ……人を殺してしかいなかった貴方が、よくもまあそんなことを……』
「…………だめ、なのか?
何をしても、お前たちは許してはくれないのか?……俺の贖罪は、贖罪になっていなかったとでも———」
『その、通りだよ。君は結局、宗呪羅の夢を受け継ぐことで、自分こそがその夢を現実にできるって思い込んだ、ただの馬鹿なんだ。
…………自分こそ、その夢から一番遠い存在だと気付かずに』
夢。宗呪羅から、俺が受け継いだと思っていたはずの、宗呪羅の夢。
もう誰も悲しまない、みんなが楽しく生きられる世界を作ること。…………そんなものは、俺が受け継ぐ資格などなかった。
人を殺した。殺して殺して殺して、何度も何度も繰り返した。
そんな人間が、その夢を継ぐことは———できないというのだ。
…………肯定されたような気分だった。自分でさえも、心のどこかでそう思っていたのだ。
「行けない……行けない、行けない行けない行けないっ!……どうして、何でだよっ!」
闇の奥に、一寸刺した光の線。そこに向かって歩こうとした瞬間、俺は何かに阻まれた。
見えない壁のような、何かに。前方にある透明な何かに、道を阻まれるように。
「行かせろ……行かせろ、行かせてくれ…………っ!」
今行かなければ、俺はまた折れてしまう。……でも俺は、こんなところで折れるわけにはいかないんだ。
まだやるべきことがある。終わらせるべき責任がある。生きる理由がある、その身に背負った十字架だってある。
「行かなきゃダメなんだ、だから……行かせてくれよ、俺をっ!」
何度も走って、何度もぶつかって。『今の俺ならば突破できる』と信じて。
———が。
暗闇の奥に見えていた白い筋は。一瞬にして、その姿をくらませてしまった。
……もはやその希望がどこにあるのかなんてわからない。俺は完全に、生きる道を見失ってしまった。
「…………っぐ、くそ…………ぉっ、俺は、俺はどうすればいいんだよ、なあ……っ!
もう何も、俺にはできやしないのか……全て、叶わないのか、全て終わったってのか、俺は!」
俺はそんな結末を信じたくない。この手で打ち破ってみせたい。……そう思おうと、希望はもはや見えはしない。
「諦めるしか…………ないってのか……ここに、来てまで……俺は———!」
『……ツバサ君。…………諦めるのは、ダメだよ』
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