Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

機神ゼウス

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「機神……ゼウス………………俺たちの、敵が———なんで俺の姿してんだよ、なあ!!!!」

『…………機神ゼウスが、この『救世主』の器を手に入れる為には、救世主とゼウスの同期を繋ぐ、パスとなる役割の人間が必要だった…………

 最初、その役割についていたのは私でした、雪斬宗呪羅…………その名は貴方と共にいるためだけの偽りの名前だったのです。

 ……しかし私は———同じく『鍵』を狙うゴルゴダ機関の人間に殺された……ソレは貴方も見たはずですよね、雪斬……白郎!』


「偽りの……名前…………だと……?

 お前は、お前は———否定するのか……宗呪羅が、師匠が……俺に教えてくれたもの、その全てを……!」

『そんなものを本物だと信じた貴方が悪い……偽りの楽園とも気付かずにな…………あまりにも、滑稽だったとも……!』

「おっ…………お前……お前、は———!」

『話はまだ終わっていません。……ゼウスと貴方を繋ぐパスの役割———『宗呪羅』としての私が死んだ後、それを受け継いだのは———貴女なのですよ、雪子……こと、サナ・グレイフォーバスさん。

 元よりオリュンポスで生まれた人間には全て、機神ゼウスの神核のほんの一欠片を埋め込んでいました…………サナさん、貴女もその例外ではないのです……

 つまりは、貴女方の旅が! 恋が! 情動が! 全てをこの事態に導かせた!! 本来私が消えたことにより、頓挫するはずだった計画も、貴女がいたからこそ遂にここまでやって来れた!

 今だからこそ、感謝しましょう……ありがとう! 我々の計画を完成に導いてくれて、本当に感謝していますとも…………サナ・グレイフォーバス……さん…………!』



 呆然。『機神ゼウス』と呼ばれた俺の姿をした男さえも、この刹那の間には沈黙を貫いていた。

 ———しかし、俺たちがやることは、もう既に最初から決まっていたはずなんだ。


「…………サナ———何をすべきか、分かってるよな……!」

「もちろんよ、言われなくても。仲間として、そのくらいは当然よ。

 ……ここで、貴方を殺す! そして全てを、終わらせるっ!」



 横並びでサナと戦うなんて、一体いつぶりだろうか。あまりにも久しい気がして、握ったはずの刀が緩む。

『私を……殺してみせる、………………笑止ぃっ!』

 刹那、宗呪羅がいたはずの場所に残されたのは、ほんの少しの風圧のみ。
 秒速で移動した宗呪羅。その刃がサナのもとに届く前に、こちらも先手を打つ。

「もう奪わせるわけにはいかないんだぁっ!」

 重低音を奏で、激突する両者の刃。そして見上げた宗呪羅の背に映る、跳び上がったサナの影。

『『虚空切断』』

 そう口にした瞬間、宗呪羅は俺たちの前よりその姿を消す。宗呪羅の背後———俺の真上に位置していたサナは、そのままこちらに落ちてくる、が……

「概念封印、復活! サナ、これを足場に……!」
「ナイス、白!」

 一瞬にして、神威に被せられた木のカバー。ソレを踏み台にし、サナは再度跳び上がる。

 …………ここで俺は、一度感覚を研ぎ澄ませる。ヤツの出現する場所、ソレを五感を使って探し当てる。

 流動する魔力、胎動しゆく神力……それらの流れに一点を集中させ、読み取る。
 機神ゼウス、動きはなし。サナは未だ滞空中であり、直下にもう1つ大きな神力反応———そして、たった今俺の真上に出現した神力反応。

 ———来るか。

「はあぁっ!」
『なっ……ふ……!』

 最大の力を以て振るわれた音速、ソレを凌駕しゆく神速。
 後出しだったにも関わらず、その速度は俺の方が優っていた。そして、

「グレイシアフリーズクリスタルゥゥッ!」

 拮抗した俺たちの間に割って入るようにサナが落下、その杖の先端を宗呪羅の上から背に向けて突き刺す。
 そして、詠唱。一瞬にして宗呪羅の身体を、内側から食い破った藍白氷晶。

『………………ぅ……』

 トドメを刺そう———そう動いたその時、宗呪羅の身体は、氷晶体の中から颯爽と姿を消していたのだ。

 ……今度はどこだ、と感覚で捉えるより先に、俺は自らの周りを覆う、複数人の宗呪羅の影を視認した。

「っ、どこだ一体?!」
「爆裂魔法を使うっ!」
「ここでか?!」

 驚くより先に、サナのイメージの方が速かったらしい。建物の崩落———そんなこと気にも留めず、俺たちの周りを黄昏色の魔法陣が覆う。

『まさか?!』
「そのまさかよっ!」

 瞬間、魔法陣の外側の景色が一変———全方向から、爆風を伴った突風が押し寄せる。……しかし、この場はサナが魔力障壁で守ってくれた。
 爆裂魔法……絶大なる威力を誇るソレを、サナは何の出し惜しみもせず使い果たした。

「……すまん、ありがとう」
「これくらい、いいってことよ!……それよりも!」
「ああ、もちろん分かってるさ!」

 両手で持っていた刀を右腕のみで持ち直し、左腕にありとあらゆる魔力を固める。

「背水の陣、極ノ項、手ノ項並列使用っ!」

 イメージは現実へ。左腕は魔力を吸収し、元のソレとは比較にならないほどに膨張しゆく。
 俺が思い浮かべたもの———ソレは、背水の陣そのものではなく。

「出てこい、宗呪羅ぁぁぁぁっ!!!!」

 爆煙漂う魔法陣の外へと出た瞬間、俺は左腕そのものを振り払い、爆煙を全てかき消してみせた。……そしてそこにいたのは、既に欠損の激しい血塗れの宗呪羅だった。

「しゃらあああああっ!」

 ———関係ない。今はただ、コイツを殺すことだけを考える。
 魔力と推進力を帯びた左腕を前に突き出し、最大威力の剛拳をヤツに浴びせる。
 瞬間、俺の真横に一瞬にして組み上がった紫の魔法陣が、宗呪羅に向けて一斉に光線を放つ。

 猛スピードで前進しながら、俺たちは宗呪羅に向け攻撃を放ち続けていた。

「白、攻撃をやめないで! 何があっても、コイツはここで殺さないといけないっ!」
「分かってるさ、何度だって……!」

 魔力が抜け、2秒で萎縮した左腕を再度刀に構え、今度は神威に魔力を込め、その宗呪羅だった肉塊に向け斬撃を放ち続ける。

 もはや攻戦一方。戦いなどではない、殲滅だった。

「ようやっと、終わりか……!」

 肉塊が擦り切れる。もはや最後の一片を残すのみとなったソレを斬り落とした瞬間、サナはソレを魔術で焼き払った。



「………………っはあ……っ! 終わった……の……?」
「そう……なの、か……?」


 再生している……様子は、とりあえずはない。神力反応も特になし、とりあえずここは切り抜け———

「やらせないっ!」

 別の声———の声が響いた瞬間、再度斬撃音が空間にこだました。

『っぐ、まだ……いたのですか……!』

 俺の背後より聞こえる宗呪羅の声。振り向いたそこには、その再生し始めた肉塊を、爪で切り裂いていたくいながいた。


「……すまん、完全に……油断していた、ありがとう」

「いい…………の。……それ、よりも…………どうするの、コイツ」

「いやホントにどうすんのよ、これだけやって、肉片すら残さず消し去っても再生……なんて、いよいよホントに勝ち目ないわよ?!」


『うう……っ、ふ……』

 悶えながら、再生させた腕のみで立ち上がる宗呪羅。———がしかし、その顔にはまだ余裕が伺えた。

 徐々に再生し、全てが癒えていく宗呪羅の身体。……もはや無駄だと、俺たちはその光景を黙って見過ごす。

『ようやく分かりましたか、私と戦うこと、ソレがどれだけ無謀なことかが……!』

 両足を以て自立した宗呪羅は、右腕を高く天に掲げる。……瞬間、まだ地鳴りが響き始めた。

『さようなら……私は、最後の工程を終わらせるまでですので』

 宗呪羅の奥の光景が、縦に縦にと変わってゆく…………まさか、何か壁のようなものが上昇しているのか?……あの奥の方で……?

『アレこそが、機神ゼウスの真の体……そして、人類を永遠へと導く方舟です。

 ……もはや言葉は不要。永遠の完成を、その場で待ち続けるのみ……!』

 そう言い残し宗呪羅は、その上へ行く壁に向かって歩き始める。



 無理、なのかよ。やっぱり、無理なのか。ここまで来て、ここまでみんな頑張って、死んだヤツもいて———ソレが無意味だった、そんなチンケな結末で終わっていいのか。

 …………いいはずが、ない……!

「———人を護る剣は折れた、だけど……もう俺は、これ以上何も失いたくないんだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 一心不乱に走る。その刃を、ヤツの胸元に突き立てる為に。

 ———が、ヤツはこちらに振り向き、口にした。


『そう言えば、貴方にはあまり見せたことがなかった技、でしたね、?』

「っ———!」

『怨嗟の海に……沈め』

 宗呪羅に顔を掴まれた後。俺の意識は、一瞬のうちに暗黒へ染まっていってしまった。
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