Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
上 下
217 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

拮抗

しおりを挟む
「行かせはしねえっ!」

 技量の差———この俺がそんなことを感じることになるとは思わなかったが、ソレを一身に感じながら、ヤツの刃と拮抗する。

『無駄、無謀、無力、無想……未熟、未熟、未熟!……所詮その程度———よくもまあ、人を護る剣を選べたものだな、雪斬せつぎ白郎しろうっ!』

「何でテメェが、その名前を知ってやがる———!」

 かつての名。その身で拭いきれぬほどの罪を背負った、人斬りの呪われし名前。
 ———だが、今の俺は『アレン・セイバー』でも『白』でもない。

「今の俺は…………白じゃねえ、今の俺は雪斬ツバサ! 大空へ羽ばたくための、羽を手に入れた救世主だっ!」
『いくら空を舞おうと、人は地に伏す運命からは逃れられない!……その翼も、いつかは凍りつき堕ちるのみ!』

 幾度となく擦れ合う敵の刃は———その先端から、白の魔力を纏いゆく。

「何を———!」
『『月光雪下』』

 何か、身に覚えのある危機感を感じ、後退した瞬間———俺の胸は、ヤツの刃によって斬り裂かれた。

 一瞬のみ痛みはなかった。感触すらなく、そもそも攻撃を食らったという事実すらも自認できぬ錯乱状態。

 がしかし、胸元から飛び散る血を見てようやく、俺は俺の置かれた現状を思い知った。


「っは!……ふっ……っあ……っ!」

 2秒後、刻まれた傷を見た瞬間、視界の全てが転びゆく。
 少しずつ奥から滲み出る暗黒。俺の視界が切れる寸前、サナやくいなの叫び声が俺の耳に走る。

「終わ———った……?」

 呆気ない声。俺はここで終わりなのか、と。



 …………おかしい、おかしいだろ———この俺が、こんなところで、こんなあっけなく……負けてたまるかってんだ……!

「———テ……アテ…………ナ……!」

 刹那がその手を、刃を伸ばす先にいる少女———アテナの名を呼ぶ。

『白はちょっと休んでて、大怪我してるんだから今は動かないでっ!』
『アイ…………たちが、踏ん張る……!』

 倒れ込む視界に、一瞬のみ映り込んだサナの影。
『行くな』と、『お前らじゃ勝てる相手なんかじゃない』と言っても、もう遅い。

『俺が倒れられるわけがないんだ、俺が行くべきなんだ』なんて声に出そうとしても、そんなものは激痛に全てかき消される。

「行くな———」


◆◇◆◇◆◇◆◇




 2人の金切り声が、耳の奥で何度も残響していた。……でも、身体は動かない。

 今、アテナの下へヤツを行かせるわけにはいかない。アテナのゼウスへの説得が終わるまでは、絶対に。その場を、ヤツに台無しにさせるわけにはいかないのだ。


 ……それはそうと、分かっておきながらも、俺の身体は言うことを聞かない。
 それどころか、勝手に夢まで見始めた。


 いつの夢だろう、誰の夢だろうか———そんなことすらも分からないまま、俺の意識は夢に呑まれていった。
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
ファンタジー
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...