Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

Side-レイラ: 分かっていたはずなのに。

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 ……そりゃあ、学校側も不自然に思うはずだろう。
 だから用意していたんだ、あらかじめのための保険を。

 そうでなければ自ら手放したりなどしない、そうでなければ切り捨てるような———そんな自傷行為にも等しいことはしないって、考えは容易につくはずだった。



 踏み出した一歩。見上げた空に瞬く、希望のような太陽。

 明るくなった心は、ほんの一瞬で———そんな些細なことで、あまりにもボロボロに崩れ去ってしまった。





『あ……うん、いいよ。今日はどこに行く?……まあ1時間ぐらいしか遊べないけどさ———』
『1時間まで?……ふーん、家の決まり、変わったんだね』


 何事もなかったかのように、はそこにいた。

 本当に、私を取り巻く全てすら、何もなかったように。

 ———何がいたのか? 誰がいたのか?




 もう1人。
 もう1人の、自分だった。





「え……はい?」

 本当に、この反応しか出てこなかった。
 
 頭は、もうすでに真っ白に染まっていた。
 今まで書き連ねてきたノートを、その全部を消しゴムで掻き消すように。

「なん……で、私が、もう…………1人………………っっ、なんで、なんでなんでなんで…………なんでよぉ……っ!

 結局……私は、ただの……ただの………………








『そう、貴女は代えが効く。最初っから、貴女に唯一性なんてなかったのよ、おバカさん?』

「っ、ああああああああああああああ———、


*◆*◆*◆*◆




『起きなさい…………起きなさぁいっ!
 起きなさいレイラちゃん! ボサっと寝てちゃダメよっ!』


 なに、この…………声。
 男の…………声?


「って、カーオ……っ?! なんでお前がここにいるんすかっ?!」

 ———どうやら、長い長い夢を、悪夢を見ていたらしい。
 目覚めたのは、カーオのデカい腕の中だった。


 ……とは言っても、周りの景色は目まぐるしく変化している……まさか、カーオ……今走ってる?!

「ちょちょちょっとぉ?! あっしらコレ……移動してるぅっ?!」

「そうよぉっ! 何たってレイラちゃん、敵の前で倒れてたじゃない!」

「倒れてた……あっしが?……いや、あっしはちゃんと戦ってて……んん?」

 そう、だ。私は、私は———ユメを見ていた。悪夢としか言いようのない、過去の思い出。


「ってぇ、ラースのヤツはどこっすか?!」

「ラース…………ああ、あの全裸の子!
 もちろん私も、全裸で対応してあげたわよ!  あの子は顔を真っ赤にしてたけど……」

「馬鹿なんすか、よくそれで殺されなかったっすね……」

 今のカーオは……問題ない、ちゃんと服を着ている。特に下は絶対防御だ。

「っでででっ、でも……多分二度は通じないはずっす、どうやってアレを相手にすれば…………ひっ!」

 瞬間———背後より伝播した風圧。……それだけで、ヤツが来たと言うことは容易に分かってしまった。


「………………さっきは、よくも……!」

 まずい———ヤツはどこだ?!


「よくも、あんなとこを見せてくれたなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 振り向いたすぐそこには、今まさに振られんと構えられた大鎌が。


「ダメっすよアレ、絶対アレカーオの……その、チン……チン……」

「あらやだ、女の子がそんな汚い言葉使っちゃダメよ? そういう時は、股間って言うのよ———」

「そういうことじゃないっすからぁっ!」




「殺してやる……こんな時にチンコなんて見せやがってええええええっ!」

 …………でもそっちは全裸にフード一枚だから、どっちも変わらないんじゃないかな……


 
「うるさい、うるさい、うるさいぃっ!」

「あっし、何も言ってないじゃないっすか!」

 振り下ろされる暗黒の大鎌、対するはやはりパイルバンカー。
 本来このように振り回し、杭の先で鍔迫り合いなどをするような武器ではない。


 ———だけど。

「…………っ、ボサっとしてないでカーオも戦うっす!」

 今、私にある武器と言えば、これしかないから。

「嫌ねぇ……レディの身体はもっと慎重に扱うものよ?」
「女じゃないっしょ、カーオは!……それに、あっしの方がレディっすよ!!」

「ぅうるさいっ! 興が削がれるっ!」

 ……こんな掛け合いに付き合わされるも気の毒だ。

「で———結局、お前はなんなんすか、ラースっ!

 今更出てきて———もう、何をやっても……変わらないっすよ!」

「今更———はっ……殺さないとダメ、殺さないと……ダメなの!

 みんなみんな、みーんな! 全部殺して、全部血に染めてやる!」

「その理由が…………分かんないって言ってるんすよっ!!!!」

 珍しく大鎌相手に押し勝った。
 パイルバンカー———元が重量のある武器だからか、それによる渾身の突きは、命中したラースをも後退させる。

「うぅっ!……ぐぅ……っ!」

「終わらせる———理由なんて知らなくたって、あっしは———!」

 再度地を蹴り、ありったけの力で前進し———その杭を前に突き出す。……が。

「…………ふふっ、かかったぁっ!」
「なっ……!」


 ヤツは———ラースは、パイルバンカーの突きを食らいつつも———無理矢理にでも、私の顔面にその右腕を押し当てる。

「おやすみなさい……心象置換っ!!!!」
「レイラちゃあんっ!!!!」

 声が響く中。情けなく、また呆気なく、私の意識は暗黒へと包まれる。


 おやすみなさい。……その言葉を、甘んじて受け入れていいはずがないのに———。
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