Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

退却

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『神威……神威っ!……その刀は———殺さなきゃ、なんないの……っ!』

 ……どういうことだ、俺……じゃなくて、神威に興味がある……?

 もうどうにでもなれ、突っ込んで———斬り落としてやる……!

『蜂の巣、蜂の巣っ! ブツブツになっちゃえ、穴だらけの無様な姿に!』

 機体の腕部にある機関銃が、こちらに向け一斉に連射される。
 なに、弾道予測は簡単だ。

 後はそれをいかにして避け、そしてヤツに接近するか、ということ。

 地がえぐれる音が、本当に真横にて聞こえ続ける。
 一歩一歩と踏み出すたび、張り裂けそうになる心臓、焦燥感。

 ……これは乗り越えるべき試練なのか、そうでは別にないのか……それすらも分からないまま、全力で走り接触する。

『ひぃ———っ!』

 手応え……アリ。
 機体の胸部分を斬り裂いた、巨体すぎて両断はできなかったが、流石にこれで堪えてくれないと困る……!


『……ぁ、なんで、なんでこの機体が……?!』

 しめた、ヤツは混乱している、今が畳み掛けるチャンスだ……!

「コイツでもくらえええええっ!」



 今度こそ、確実に———両断してやった。

『———は、え……っ』


 そうだ、思い出した。
 この女の声———2日前、学校で出くわしてしまった……あの赤髪の女の声だ。


 ……いいや、もはや関係ない。
 ソレの乗ったこの機体は、もはや火の手を上げて瓦解していくしかないのだから。




「ツバサ君、撤退!」
「隊長、撤退———って、任務は……」

「味方からの妨害があった以上、これ以上は続けられない、危険すぎる!」

「でも、まだあのサイドツーは———あっ」


 やってしまった。
 完全に見落とした、上空にはもはや、機体の影の1つもなかったのだ。


「……もう、いいよ。……帰ろう、ツバサ君」

 背後には、既にイチゴ隊長が回り込んでいた。






 ———何とも、後味の悪い結末だった。
 あの機体は、あの声は、俺を狙っていた理由とは。

 何もかも分からないまま終わったが、結局今でも何だったんだろう、とは思ってしまう。

『殺さなきゃ』

 確かあの声は、そう口にしていた。
 ———だけど、なんで俺を殺さなきゃいけない? どうして俺が死ななきゃならない?

 ソレが最後まで分からないまま、斬り落としてしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇





 帰路。帰還。
 というか、第3番隊控室。

「で、アレだけどさ~……」

 ディルが話を切り出した。

「…………あの、本来ここにあるのはおかしいんじゃねえか? 確か、量産機4機は全機前線投入……ワンオフ機のは既に撃墜……のはずだろう?」

 分からん。またもや話が全く分からんが、多分あのカオスド……なんちゃらってヤツのことだろう。

 



 ———戦いの結果———戦績は、まあ散々たるものだった。

 まず、一番重要な目標でもある、コンテナ付きサイドツーの見逃し。……アレが最重要目標だなんて、一言も口にしていなかったじゃないか。

 取り巻きのサイドツーは全機撃破。ディルたちが頑張ってくれたんだろう。

 最後に…………味方の損害が1



「あっしは何も知らないっすよ、あんなメカメカしいの興味ないっすし」

「……じゃあ、そのパイルバンカーは何なんだよ……」


「カオスドアヴァロンリメンバー……ねぇ……珍しい名前も聞いちゃったもんよねーー! 実はちゃん生きてるんじゃないかしら!」

「……カーオ、タルム……って言ったって、ツバサ君はわからない」

 はしゃぎ始めたカーオを落ち着けた隊長が言うように、俺はそのタルムって人が誰なのか全く分からなかった。



「ネクサス・カオスドアヴァロンリメンバー……その機体は、かつてが乗っていた……機体。

 あの人は……それに乗って…………

「いぃ……っ?!」

 第3番隊———その元隊長、前隊長タルムは、アレに乗って……殺された……?!

 ……こんな話を聞くとは思いもしなかった。


「あ……あ、はは、すいません、なんか辛いことを思い出させるようなことしちゃって……」

「………………ツバサ君、君が何かしたの?」

「いやあ、多分アイツが来たの……なんですよね……」

 そうなんだ、ヤツは俺を見て『殺す』と口にした。

 アレのせいで作戦が失敗した———のかは知らない、だが、俺がヤツをこの場におびきよせてしまった……それはきっと事実だ。



「別に、いいよ。…………それよりも、ツバサ君を付け狙う…………そんなヤツが、いるのが、問題……だ」

 いや、そりゃそうだ。
 そっちの方が確かに問題だし、なんで俺自身はソレを問題と思わなかったんだろうか。

 
 拭えない違和感。




「なあ、ソレってもしかしたら……アレじゃねえか、最近現れた……テロリスト……ってヤツじゃねえか?」

 ディルはそう言ったがいいものの、俺には最近の事情———なんで全くもって分からない。……面倒臭いが、いちいち解説を求めるべきなのだろうか。


「テロリストに……機体を奪えるとは……思えない、でも、関与はしてると思う。…………やっぱり、私たちの……ゴルゴダ、機関の、活動を…………よく思わない人も……いるってこと」


 でも、ゴルゴダ機関がやってることって……人助けなんだろ??
 ロストを倒して、人を助けて———その行動に、意を唱える人なんて———いてたまるか、人を救うことのどこが悪いんだ。

「状況次第、では

 共闘……?
 人を救うことを邪魔してくる異常者に、協力する……って……?

「隊長、それは———なんで、人助けを否定するヤツらと協力なんて……!」

「…………でも、ソレが火の粉として…………こちらに、降りかかってくる……なら、私たちは容赦なく…………それを、払う。

 ……たとえ、人を殺すことに……なっても」

「あ……ん……」

 言葉が出なかった。
 おそらく、隊長はずっと冷静だったんだろう。

 と言うことは、おそらく———そうやって、もあるって、そう言うことなんだ。俺が今まで気付いてこなかっただけなんだ。

 

 本当に、不思議だ。




*◆*◆*◆*◆

「……それにしても、隊長」

「どうした……の」


「今日の依頼……確か、第1番隊もだよな?……アイツらはどこに行ったんだ」


「…………バレてるんじゃない、私たち。

 1番隊隊長、。……ヤツと組んでる何者かが存在する。

 ……そしてそいつは、あのに乗ってやってきた。…………由々しき、事態」

「まあ、そうなりますよね……ツバサのヤツは……このまま———」

「うん、あの子はこのままここにいていい。……多分だけど、だろうから」
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