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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
Side-レイラ: ———そういえば。
しおりを挟むラース。そうだ、この女はラースだ。
見たことがあった、聞いたことがあった、話したことがあったはずなんだ。
いつだっけ。
———そう言えば……そんなこともあったか。
……と、過去の悪夢に触れる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ある日の、話だった。
まるで自身の身を炒めるように照りつける日差しと、どこまでも蒸し暑い湿気が鬱陶しかった、あの日。
「———え」
小学校、3年。
この学年から、学校ではゴルゴダ機関に加入させるための優秀な人材を作るべく、定期的に知能テストが行われる———それは知っていた。
だから私は、1年前からずっと猛勉強し続けた———いいや、させられたのだ。
『よりいい成績を取る』、具体的には『1番を取ること』、それが彼らにとっての武器というか、道具だったのだから。
今思えば、そこに愛はなかったんだろうなと思う。『愛着』ぐらいはあったかもしれないけど、きっともっとドス黒く汚れきったモノが彼らの心の奥底に眠っていたのだろう。
そして臨んだ初めての日。
その時の結果を目の当たりにした時の私の腑抜けた声が「———え」なのである。
———そうだ、アレだけやってもらったんだ。
参考書も買ってもらって。
勉強しやすい体制も整えてもらって。
それで、出た順位が『2位』。
一瞬信じられなかった、ここまでやってもダメなのか、と。
———でも、次の瞬間には何も感じなくなった。
その後『まあいい、とりあえず家に帰ろう』という甘い思考が浮かび上がったが、私はこの後家に帰る決断をした事を大きく後悔することとなる。
「2位だった……?」
「まさかサボって……でも監視カメラは付けてたはず……」
「そこが問題じゃないだろ、コイツが2位なんか取ったってのが問題なんだよっ!!」
しれっと言及された『監視カメラ』発言にも、もはや私は動揺1つ覚えなかった。
「お前なあ、あそこまでやって2位だった、じゃ済まされないんだぞ、分かっているのか!」
「ほんっと使えない子よね……ここまでやってもたかが2位とか、馬鹿にも程があるんじゃないのっ?!」
いつも冷静で、周りには明るく、私には真顔で接する、私の両親。
そんな両親がここまで憤慨している姿は、私にとってもさぞ珍しいモノであったのだろう。
「…………きょう、の、ごはんはなに……?」
お腹が空いていた。
この時、時刻は既に9時を回っていたのだ。
しかし私はまだご飯を食べていなかった。……ずっとこの説教じみた何かに拘束され続けていたのだから。
「ご飯……? あなた、今ご飯とか言ったの……?」
「…………お前、ふざけてるのか?……こんなクソみたいな結果を出したお前にやる飯なんてあるわけがないだろ?」
———初めてお父さんの口から『クソ』だなんて汚い単語が出てきた瞬間だった。
内心、今自分がどのような状況に置かれているのかなんて分かりきっていた。
お父さんが向ける失望の目にも。
お母さんが放った見限りの言葉にも。
それらに込められた意味なんて、ずっと他人の———彼らの顔ばかりをうかがってきた私には、赤子の手をひねるように簡単に分かってしまったんだ。
だから、気付いてもいたんだ。
彼らが何のために私をここまで熱心に教育させたがるか。
———そう言えば、そうだったな。
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