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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
Side-黒(ヒノカグツチ): ヒノカグツチ
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*◇*◇*◇*◇
「…………マスター……そちらのみで終われば良いのですが……」
懸念。
そして、事前の防止と保険の為にコックが向かうは、人界軍王都。
……といっても、もはや1年前の面影など、ほとんどと言ってもいいほど無くなった街が今の王都であり、その中央には———縁が鉄で覆われた大穴が開いて———いいや、今は閉じていた。
「ヒノカグツチ……人類の切り札、そして最悪の為の保険……使う事がなければ、それに越したことはないのですが」
「本日16時54分、仮称『機神B』、オリュンポスより離脱しました。その後は現時刻に至るまで、大穴の最底部にて沈黙を保ったままの状態です。魔力支援砲にて攻撃を行いましたが、神力障壁によって全て阻まれ……」
「最重要目標『標的Z』、以前移動は無し、オリュンポス周辺の神力障壁は未だ開いたまま、標的内の神力反応点は未だに増大中、数値は跳ね上がってます!
第三次真珠海作戦は未だ第二段階を維持、第1、第2、第3、第4機動兵器小隊は、未だに真珠海———大穴沿岸付近にて神話的概念生命体と接敵中ですが……」
砂嵐のようなざわつきが治らぬ鉄の部屋———決戦兵器、ヒノカグツチ内部。
所狭しと走り回るクルーたちを照らしていた光は、壁に映し出されたモニターの光だった。
「構わん!……離陸を強行する、トランスフォールドの奴らが何と言おうと構わん!
……それに、神話的概念生命体のみが機動小隊が相手にしているとは限らんしな…………しかし、向かわせたアイツはまだ帰って来ないの———」
———と、司令の男が口にしようとした瞬間、男の背面にある鉄の扉が、プシュンという音を鳴らしながら開く。
「黒総司令……こちらコック、ただ今帰還……しました……」
「ご苦労だった、すぐに所定の位置につけ。……もうすぐ発艦だ」
———『司令』とは、紛れもなく白たちの師匠だった、黒のことであった。
王都中央、鉄の扉が開き、下よりその巨大な戦艦要塞が姿を現す。
「コック、所定の位置につきました!」
「その他人界軍第7、8、9、10機動兵器小隊、発進用意完了」
「魔力機関3機、臨界点に到達!……電力変換開始、反動推進型エンジン起動っ! 神経伝達接続調整完了、黒司令、いけます!」
「よし、神経伝達接続……完了、視界……良好」
黒———司令の眼には、魔力神経視覚投影によって貼り付けられた外の視界が映り込んでいた。
「………… 火之迦具土神、発艦!……目的地、真珠海東大陸沿岸E-6地点海底! 作戦は未だ第二段階を維持するものとする!」
暴風と轟音、大地を震わせ王都全体に響き渡る。
煙に包まれた中から出た、人類の希望———対機神攻撃用魔力砲台搭載式航空戦略機動戦艦兼要塞、決戦兵器火之迦具土神。
サイドツーとは明らかに一線を画す紅き巨体を誇り、従来の機動兵器とは違い、対機神用の戦略機動戦艦要塞———及び、サイドツー母艦のコンセプトの下作られた機体。
その巨大なる人造のカミが、黄昏の空を舞う。
黒の見ている外側の景色が、部屋全体に、そのモニター全体に広々と再現される。
「128……大穴、捕捉しました!」
その浮かび上がった機体より眺める景色は、それまで人類が経験したことのない壮観さを放っていた。
その景色はさらに上昇し行く。
「あれだけ大きかった王都がちっちゃく見えるぜ……」
「こっからでもあんだけ離れた大穴の島が見えるのかよ……!」
その上がりきった景色に、クルーの皆はざわざわとコメントを残し始める。
「……機神Bは……まだ目覚めの兆しは無し……か、エンジン最大船速!……目標地点へと進むぞ、左舷砲門は常に大穴方面を狙っておけ! 警戒態勢を怠るな、神力反応に動きがあればすぐに報告しろ、いいな?」
「了解!」
「作戦待機行動をもう一度説明しておく。
目標地点はE-6地点、東大陸沿岸付近の海底だ。……その10キロ手前にて、急速降下、潜航を図る。
直下には第7、8、9、10機動小隊が徘徊している、こちらの動きは独立している為省略だ。
E-6地点海底に着いたら、すぐに全方位自由展開式偽装錯乱用太陽光屈折式魔力障壁にて本艦の偽装を施す。その後は待機だ。
だが、『標的Z』———いいや、『機神ゼウス』が大穴に向けて動き出した時、この火之迦具土神で海底より奇襲を仕掛ける、これが第三次真珠海作戦第三段階の概要だ。
……しかし、これは今現在、オリュンポスに突入している部隊が、『標的Z』の破壊に失敗し、第二段階が瓦解した際の予備案、保険だ。
そのため『標的Z』の反応が途絶え次第、1時間現状待機の後、帰還行動に移る。しかし、帰還行動とは言え、大穴付近は常に警戒だ。
ここからが問題だ……航行中、及び降下、潜航中に『標的Z』が動き出した場合、すぐさま現行動を中断し、全兵装を用いて『標的Z』の撃墜行動に持ち込む。
……作戦待機行動説明は以上だ、質問は———ないな、このまま航行を続ける。サイドツー部隊及び本艦は第一種警戒態勢を維持。
———最後に、本艦は人類最後の砦。
人類最後の希望だ。
負けることは決して許されない。
死力を尽くして使命を全うせよ。
最後の最後まで、決して———諦めるな。
家族を想え。
恋人を想え。
戦友を想え。
死した友を弔え。
我らの生命は、英霊の魂と共に有る。それを常々忘れるな」
「「了解!!」」
黒の熱弁に呼応し、力強くも勇ましい声が、司令室全体に響き渡った。
「…………マスター……そちらのみで終われば良いのですが……」
懸念。
そして、事前の防止と保険の為にコックが向かうは、人界軍王都。
……といっても、もはや1年前の面影など、ほとんどと言ってもいいほど無くなった街が今の王都であり、その中央には———縁が鉄で覆われた大穴が開いて———いいや、今は閉じていた。
「ヒノカグツチ……人類の切り札、そして最悪の為の保険……使う事がなければ、それに越したことはないのですが」
「本日16時54分、仮称『機神B』、オリュンポスより離脱しました。その後は現時刻に至るまで、大穴の最底部にて沈黙を保ったままの状態です。魔力支援砲にて攻撃を行いましたが、神力障壁によって全て阻まれ……」
「最重要目標『標的Z』、以前移動は無し、オリュンポス周辺の神力障壁は未だ開いたまま、標的内の神力反応点は未だに増大中、数値は跳ね上がってます!
第三次真珠海作戦は未だ第二段階を維持、第1、第2、第3、第4機動兵器小隊は、未だに真珠海———大穴沿岸付近にて神話的概念生命体と接敵中ですが……」
砂嵐のようなざわつきが治らぬ鉄の部屋———決戦兵器、ヒノカグツチ内部。
所狭しと走り回るクルーたちを照らしていた光は、壁に映し出されたモニターの光だった。
「構わん!……離陸を強行する、トランスフォールドの奴らが何と言おうと構わん!
……それに、神話的概念生命体のみが機動小隊が相手にしているとは限らんしな…………しかし、向かわせたアイツはまだ帰って来ないの———」
———と、司令の男が口にしようとした瞬間、男の背面にある鉄の扉が、プシュンという音を鳴らしながら開く。
「黒総司令……こちらコック、ただ今帰還……しました……」
「ご苦労だった、すぐに所定の位置につけ。……もうすぐ発艦だ」
———『司令』とは、紛れもなく白たちの師匠だった、黒のことであった。
王都中央、鉄の扉が開き、下よりその巨大な戦艦要塞が姿を現す。
「コック、所定の位置につきました!」
「その他人界軍第7、8、9、10機動兵器小隊、発進用意完了」
「魔力機関3機、臨界点に到達!……電力変換開始、反動推進型エンジン起動っ! 神経伝達接続調整完了、黒司令、いけます!」
「よし、神経伝達接続……完了、視界……良好」
黒———司令の眼には、魔力神経視覚投影によって貼り付けられた外の視界が映り込んでいた。
「………… 火之迦具土神、発艦!……目的地、真珠海東大陸沿岸E-6地点海底! 作戦は未だ第二段階を維持するものとする!」
暴風と轟音、大地を震わせ王都全体に響き渡る。
煙に包まれた中から出た、人類の希望———対機神攻撃用魔力砲台搭載式航空戦略機動戦艦兼要塞、決戦兵器火之迦具土神。
サイドツーとは明らかに一線を画す紅き巨体を誇り、従来の機動兵器とは違い、対機神用の戦略機動戦艦要塞———及び、サイドツー母艦のコンセプトの下作られた機体。
その巨大なる人造のカミが、黄昏の空を舞う。
黒の見ている外側の景色が、部屋全体に、そのモニター全体に広々と再現される。
「128……大穴、捕捉しました!」
その浮かび上がった機体より眺める景色は、それまで人類が経験したことのない壮観さを放っていた。
その景色はさらに上昇し行く。
「あれだけ大きかった王都がちっちゃく見えるぜ……」
「こっからでもあんだけ離れた大穴の島が見えるのかよ……!」
その上がりきった景色に、クルーの皆はざわざわとコメントを残し始める。
「……機神Bは……まだ目覚めの兆しは無し……か、エンジン最大船速!……目標地点へと進むぞ、左舷砲門は常に大穴方面を狙っておけ! 警戒態勢を怠るな、神力反応に動きがあればすぐに報告しろ、いいな?」
「了解!」
「作戦待機行動をもう一度説明しておく。
目標地点はE-6地点、東大陸沿岸付近の海底だ。……その10キロ手前にて、急速降下、潜航を図る。
直下には第7、8、9、10機動小隊が徘徊している、こちらの動きは独立している為省略だ。
E-6地点海底に着いたら、すぐに全方位自由展開式偽装錯乱用太陽光屈折式魔力障壁にて本艦の偽装を施す。その後は待機だ。
だが、『標的Z』———いいや、『機神ゼウス』が大穴に向けて動き出した時、この火之迦具土神で海底より奇襲を仕掛ける、これが第三次真珠海作戦第三段階の概要だ。
……しかし、これは今現在、オリュンポスに突入している部隊が、『標的Z』の破壊に失敗し、第二段階が瓦解した際の予備案、保険だ。
そのため『標的Z』の反応が途絶え次第、1時間現状待機の後、帰還行動に移る。しかし、帰還行動とは言え、大穴付近は常に警戒だ。
ここからが問題だ……航行中、及び降下、潜航中に『標的Z』が動き出した場合、すぐさま現行動を中断し、全兵装を用いて『標的Z』の撃墜行動に持ち込む。
……作戦待機行動説明は以上だ、質問は———ないな、このまま航行を続ける。サイドツー部隊及び本艦は第一種警戒態勢を維持。
———最後に、本艦は人類最後の砦。
人類最後の希望だ。
負けることは決して許されない。
死力を尽くして使命を全うせよ。
最後の最後まで、決して———諦めるな。
家族を想え。
恋人を想え。
戦友を想え。
死した友を弔え。
我らの生命は、英霊の魂と共に有る。それを常々忘れるな」
「「了解!!」」
黒の熱弁に呼応し、力強くも勇ましい声が、司令室全体に響き渡った。
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