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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
Side-セン: 迷いと焦燥
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「———ふっ」
気が付いたら、気が動転していた。
文字通りだ、そのまま腹から崩れ落ちる。
「我が身体は———神技が何一つ使えぬ。……ゴルゴダ機関の隊長だと言うのに、だ。……それでもなおと、強さを追求した結果の道だとも」
……何を言っているのかが聞こえない、分からない。
興奮状態も切れてきた、思考は冷静に巻き戻り、薄れゆく景色を見つめなお意識を強く保つ。
「最後は我が手にて逝かせてやる、その方が幸いであろう」
ようやくはっきりと聞こえた。
「……っ、誰がお前の手なんぞに……ぎっ……ああああああああっ!!!!」
既に空気に晒された腹部の肌に、1本の爆剣が突き刺される。
そうだ、確実に入っている、確実に僕の腹の中にて、腸と共に爆剣が脈動しているのだ。
冷たい———わけないだろう、だがしかし痛みよりも呆然とした感情の方が前に押し出されてしまった。
ここまで身近に迫ったことはなかったのだ、ただそれはあまりにも唐突すぎた。
今から自分は確実に『死ぬんだ』という最悪の恐怖が、まるで夢から覚めた時のように突き出された時、人は心の底から『呆然』とするのだと、たった今僕は理解した。
いいや、再確認だ。
「…………ん」
「声も出ない、か。まあよい。……首を差し出すことは諦めるが———貴様はよくぞここまで健闘した。……そればかりは称賛に値するゆえ、苦しませず楽に殺してやろう」
苦しませず楽に、か。
よくもまあ、お前ら全員揃ってそんな嘘が言えたもんだ。
「……ふ……ざ、けるな、よ……ここに来るまで……ここまで来るまでに、一体何人が……死んだと思っているんだ……!」
「知らん。無辜にして愚かなる者どもが勝手に死に行っただけだ———」
「……言わせない、それだけは……ぶっ、言わせない、あの地獄のような戦いを、無意味だと断定することは、決して……決して……!」
「ならば早く終わらせておけばよかったものを、貴様はそこを見誤った。だからこそ全てが無意味に落ちてゆく」
「ふざけるな、僕は認めない、こんなところで死ぬだなんて……認めるわけがないだろ……!」
「そうか。…………それが遺言なら、手早く終わらせて———?」
同時———ほぼ同時に2連続で響いた銃声は———。
的確に、そして確実にレインの両手首を貫いた。
すぐさまに爆剣を引き抜き、そのレインの身体に突き刺し後退する。
救われた、誰だか分からない———おそらくイデアさんだろうが、またも救われてしまった。
まただよ、また、また助けてもらったんだ。
もう、僕は1人でやらなきゃいけないってのに、何でここまできて助けをもらってるんだよ……!
「くだらん」
後ろから声がする。
もうそんな声に、頼るわけにはいかないってのに。
「……そうだ…………僕は、僕は……誓ったのに、護るべきものが、あるはずなのに……っ!」
嫌な情景が蘇る。
「あ……ああ……僕、僕、は……」
眼前にて転がり落ちた、██████の首。……いや、朧げだったから———そのイメージが伝わってしまった、とでも言えばいいのだろうか。
ソレはすなわち、その機体が撃墜されたことを指していた。
……だからこそ分かった、死。
アイツは死んだと分かった瞬間の、圧迫。
「う……あ、僕は……また……調子に、乗って……!」
真珠海作戦。
もはや思い出しただけで嗚咽の響く、最悪の戦いが思い起こされる。
「はぁ、はぁ、は……あ」
紅で埋め尽くされるディスプレイ。
初めて『死』が身近に迫った瞬間。
思い出してしまった。
「あ……うっ、ああああああああああっ!……あああっ、ああうぅ……ああああっ!!!!」
もう嫌だ。
なんで、なんで僕はこうもすぐに調子に乗るんだ。
そのせいだろ。
██が死んだのは、そのせいだろ……!
僕が、僕が天狗になったからだ、だから██は死んだ、僕のせいで死んだんだ!
調子に乗って、油断したから……そんなのはダメだって言われたはずだってのに、僕は———!
「……本当にくだらない」
また、背から声が聞こえる。
「顔を上げろ」
「……」
「上げろ」
「……」
「顔を上げろと言っているんだ、聞こえなかったのか」
頭の髪を激しく掴まれ、そのまま持ち上げられる。
脳天には刺すような痛みが未だに続いたまま。
「何を迷っている、貴様は今、何で迷っている!」
「……僕、は……僕は、また調子に乗った、だから、だからあの時みたいに……なるのが、怖くて……!」
「真珠海作戦のこと、か。……まだ、引きずっているのか」
「ぅ……!」
「こっちを向け、何をぐだぐだやっているんだ、貴様は!」
気が付いたら、気が動転していた。
文字通りだ、そのまま腹から崩れ落ちる。
「我が身体は———神技が何一つ使えぬ。……ゴルゴダ機関の隊長だと言うのに、だ。……それでもなおと、強さを追求した結果の道だとも」
……何を言っているのかが聞こえない、分からない。
興奮状態も切れてきた、思考は冷静に巻き戻り、薄れゆく景色を見つめなお意識を強く保つ。
「最後は我が手にて逝かせてやる、その方が幸いであろう」
ようやくはっきりと聞こえた。
「……っ、誰がお前の手なんぞに……ぎっ……ああああああああっ!!!!」
既に空気に晒された腹部の肌に、1本の爆剣が突き刺される。
そうだ、確実に入っている、確実に僕の腹の中にて、腸と共に爆剣が脈動しているのだ。
冷たい———わけないだろう、だがしかし痛みよりも呆然とした感情の方が前に押し出されてしまった。
ここまで身近に迫ったことはなかったのだ、ただそれはあまりにも唐突すぎた。
今から自分は確実に『死ぬんだ』という最悪の恐怖が、まるで夢から覚めた時のように突き出された時、人は心の底から『呆然』とするのだと、たった今僕は理解した。
いいや、再確認だ。
「…………ん」
「声も出ない、か。まあよい。……首を差し出すことは諦めるが———貴様はよくぞここまで健闘した。……そればかりは称賛に値するゆえ、苦しませず楽に殺してやろう」
苦しませず楽に、か。
よくもまあ、お前ら全員揃ってそんな嘘が言えたもんだ。
「……ふ……ざ、けるな、よ……ここに来るまで……ここまで来るまでに、一体何人が……死んだと思っているんだ……!」
「知らん。無辜にして愚かなる者どもが勝手に死に行っただけだ———」
「……言わせない、それだけは……ぶっ、言わせない、あの地獄のような戦いを、無意味だと断定することは、決して……決して……!」
「ならば早く終わらせておけばよかったものを、貴様はそこを見誤った。だからこそ全てが無意味に落ちてゆく」
「ふざけるな、僕は認めない、こんなところで死ぬだなんて……認めるわけがないだろ……!」
「そうか。…………それが遺言なら、手早く終わらせて———?」
同時———ほぼ同時に2連続で響いた銃声は———。
的確に、そして確実にレインの両手首を貫いた。
すぐさまに爆剣を引き抜き、そのレインの身体に突き刺し後退する。
救われた、誰だか分からない———おそらくイデアさんだろうが、またも救われてしまった。
まただよ、また、また助けてもらったんだ。
もう、僕は1人でやらなきゃいけないってのに、何でここまできて助けをもらってるんだよ……!
「くだらん」
後ろから声がする。
もうそんな声に、頼るわけにはいかないってのに。
「……そうだ…………僕は、僕は……誓ったのに、護るべきものが、あるはずなのに……っ!」
嫌な情景が蘇る。
「あ……ああ……僕、僕、は……」
眼前にて転がり落ちた、██████の首。……いや、朧げだったから———そのイメージが伝わってしまった、とでも言えばいいのだろうか。
ソレはすなわち、その機体が撃墜されたことを指していた。
……だからこそ分かった、死。
アイツは死んだと分かった瞬間の、圧迫。
「う……あ、僕は……また……調子に、乗って……!」
真珠海作戦。
もはや思い出しただけで嗚咽の響く、最悪の戦いが思い起こされる。
「はぁ、はぁ、は……あ」
紅で埋め尽くされるディスプレイ。
初めて『死』が身近に迫った瞬間。
思い出してしまった。
「あ……うっ、ああああああああああっ!……あああっ、ああうぅ……ああああっ!!!!」
もう嫌だ。
なんで、なんで僕はこうもすぐに調子に乗るんだ。
そのせいだろ。
██が死んだのは、そのせいだろ……!
僕が、僕が天狗になったからだ、だから██は死んだ、僕のせいで死んだんだ!
調子に乗って、油断したから……そんなのはダメだって言われたはずだってのに、僕は———!
「……本当にくだらない」
また、背から声が聞こえる。
「顔を上げろ」
「……」
「上げろ」
「……」
「顔を上げろと言っているんだ、聞こえなかったのか」
頭の髪を激しく掴まれ、そのまま持ち上げられる。
脳天には刺すような痛みが未だに続いたまま。
「何を迷っている、貴様は今、何で迷っている!」
「……僕、は……僕は、また調子に乗った、だから、だからあの時みたいに……なるのが、怖くて……!」
「真珠海作戦のこと、か。……まだ、引きずっているのか」
「ぅ……!」
「こっちを向け、何をぐだぐだやっているんだ、貴様は!」
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