Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
上 下
168 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

Side-セン: 鬼血覚醒

しおりを挟む
 被ってしまった。
 血を。
 頭から。


 その額にある、ツノに向けて。
 吸い寄せられるように、着水する。


 血の、味だ。
 血の、匂いだ。
 そうだ、僕はコレが好きで好きで好きで仕方なかった。

 奥歯を強く噛み締める、鉄の味が頭全体に霧のように広がる。

「ふへ……ふふふは……っ!」

 すぐさま前方にて巻き起こる、の魔力斬撃。
 項垂れるようにゆらゆらと歩き始める。


「…………鬼の血か、つくづく厄介な者どもだ」
「……僕、は……そう、だ……この血だ、この血の味を求めていた、この血が欲しくて欲しくて仕方なかったんだ、僕のツノは!」

 とてつもない高揚感。
 瞬く間に身体を支配した興奮。

 率直に言おう。
 

「さあ……来いよ、来いよ来いよ来いよ……!……僕を殺すんだろう、殺してみせるんだろう、その首を差し出すつもりだったんだろう?!……ならばさっさと来いよ、僕もはやくやりたくて仕方がないんだ……!」

 全身の神経が逆立つ。
 首の筋はいつもより鋭く引き締まり、額のツノは更に肥大化する。

 眼前が、血の紅で飲まれてしまう。


「『祝福儀礼の爆剣』、貴様にはこの意味が分かるか?」

「ヒトならざるモノに対する特効武装、だろ、それがどうした?」

「…………既にヒトとしての自分を見失った今の貴様には、この剣が最も効く———そんな話をしているのだ」



「だからなんだよ……お前とは後腐れなく殺し合うだけだ、エクソシストっ!!!!」



 動いた。
 自分の主観じゃ、たったの一歩、踏み出しただけだというのに。


 既に僕は、その肉塊の前まで迫っていた。

「にぃ……!」
「…………くだらん」

 瞬間、肉塊は直下に爆剣3本を投げつける。
 だが、だがだ。所詮は———当たらなければ良い話なのだから。

「ふんっ!」

 ありったけの力を込めた———いつの間にか込もっていた拳を乱雑に地に打ち付け、爆剣の刺さった地面ごと抉り取る。

「なん……だと……っ?!」

 そのまま爆剣は、飛び上がった地面と共に真上にて爆発四散。

 壮観だった。
 飛び散る破片も、あまりの速さに驚く肉塊の顔も、全てが面白くて仕方なかった。
 だって、あまりにも弱過ぎるのだから。

 弱い、弱い、弱い!
「……お前のような雑魚が、僕の前に立つ資格なんて———!」






「強制拘束制御用神術式、断片解除」

 瞬間、肉塊———レインのその黒き修道服の下より、何やら奇妙な蒸気が噴き出る。

 ———この蒸気……もしや元々はか?

 いいやそんなことは関係ない、後にやることはコイツを僕がズタズタに引き裂いて嬲り殺すだけだ、むしろそうしなきゃ———僕の、僕たちの怒りは収まらない!


 …………あれ。
 僕は、何の為に———戦っていたんだっけ。




 

 その迷いは、絶望へと切り替わるスイッチだった。
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...