Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
上 下
158 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

タルム隊長とは———。

しおりを挟む
「…………そうよ、あの人は……いい男だったわあ……情熱的で、何にでも熱心に取り組んで…………だから、その面がレイラちゃんにも移っちゃったんでしょうね。

 レイラちゃんも最初は無気力で、無関心で、目にも……光なんて映ってなかった。……だけど、その明るい光に照らされていくにつれ———あの子も少しずつ、変わっていった。

 まるで、花が咲くように———虚で埋め尽くされてたあの子の顔は、みるみるうちに輝いていった。

 誰かと接してて楽しい、恐怖もなく誰かと接せることが嬉しい、そういった感情が、あの子にも浮かんできた……そうして、今のレイラちゃんが出来上がったのよ」


「……俺、アイツのこと……知らなかったんだな、全然———そんな事があったようには見えなかった」


「あの子は本当にすごいわよ、薬もやめて、トラウマをも乗り越えて———そういう、才能……みたいなものがあったのかしらね。

 今のあの子は、薬をやっていた時の面影を感じさせないほどの笑顔を持っている。


 ……だからこそ———あの子は今のディルを軽蔑しているの」


「今のディル———ああ、そういえば俺も———会ったんだった」




 生気のない顔をして。
 この世に、全てに絶望したアイツの姿を———俺は見てきたんだった。




「会った、のね、今の……ディルちゃんに」

「……ああ、そして……俺の全てを話した。今俺がここにいる理由、今まで戦ってきた理由。……それでもアイツは、戦う方へは揺り動かなかった。

 俺には———アイツを救うことができなかった」



「…………戦うことが、ディルちゃんにとっての全てじゃないとは———」

「そうは思う。———だけど、ここで動かなきゃ……きっと、アイツはずっと後悔するだろうから。

 ……それだけは、耐えられなくって」


 頬を伝い、暖かな水が床にこぼれ落ちてゆくのを感じる。
 何もできなかった非力な自分を恨み、そっと左拳を握り締める。


「———ふふ、って、いい人なのね」


 ———は?
 い、今……カーオは俺のことを『白ちゃん』って呼んだのか?
 俺はコイツに正体を明かしていない、ならなぜ俺の名前が———、

「おっと、これも図星?……今私って、世界を救ったヒーローと話してるのねぇ、ゾクゾクしちゃうわ……!」

「いやゾクゾクしないでくれこっちが怖くなってくる!!」


 ……世界を救った救世主とて、理解できない感情の前には、ただただ怯えるしかないのだ。




「……昔の、ただの思い出話。……なのに、もう既に2人も当人がいないだなんて———虚しいわね」

「———でも、その内の2人は———戦う決断を下した。……多分、そうなんだろ?……だから、俺たちは行くべきだ」

 どこが行くべき場所なのかも分からない。
 だからと言って、がむしゃらに探す時間もない。
 それでも、行くべき理由も、目的も、戦う意味もあるというのならば。


 ならば、俺は行かなくちゃならない。
 どんなデメリットが、どんな困難が待ち受けていようと、ここで引き下がることなどできない。

 痛みが無ければ、俺は生きられないのだから。




「…………ならば、私もついていくわ。……爆剣は、16分の15くらいはあの子たちに渡しちゃったけど。……手負いだけど、私は最年長だし、行かない理由なんて、ないわよねえ……!」



「だったら……アテナ。……行くぞ、決着をつけに」

 毎度の如く石で遊んでいた———今回に限っては、例の白い花を祀るように石を積み上げていたアテナに呼びかける。


「カーオ、さんは……大丈夫、なの?」

「あらニト…………アテナちゃん、心配してくれてありがとうっ!……でも大丈夫よ、ここで動かなければ———隊長の意志が報われないから」

 そうだ、俺は———俺たちは、皆の意志を背負って立っている。






「あら?……この花は……、ねえ……?」
「……そう、なの?」






 特に俺に至っては———いつかの誰か師匠の意志も背負って。

「———ところで、カーオ。……レイラたちが戦ってる場所って……どこ?」


 聞いた瞬間。
 ……木枯らしが1つ、静かな場に吹き荒れた。
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
ファンタジー
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...