Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
上 下
148 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

強弓滅沈神作戦

しおりを挟む
「……それで、ここが……こうなって、アテナさんは…………を……して、くいなは僕と一緒に…………して、後に残った第5機動部隊は全員陽動のために動く……でいいかな」
 
 センの長々とした説明がようやく終わる。
 何やら各機にさまざまな作戦を出していたようだが———。

「……ヤンス……とか言ったか、頼んだぞ。……お前の腕に、世界の運命がかかってるんだからな」

 ポン、と、その可愛らしいまんまるの身体にそっと手を置き、薄く微笑みかける。

「俺にプレッシャーをかけにくるのはやめてくれでヤンス……相手は仮にもカミ、こっちだってそんなことは分かってるでヤンスから……」





「…………よし!……行きましょう、地上へ!」

 何やらひと段落終えたらしいセンは、疲れ切った顔をしてそう言った。
 すると、センはある1機のサイドツーにしがみつき、さらなる命令を出す。


「……最後にもう一度確認します、まず、比較的高位置に鎮座する機神Aの討伐は、僕とくいな、そしてアテナさんでおこないます。

 ……白さんとヤンスは、2人で比較的低位置にいる機神Bの陽動係です、その他12機のサイドツー搭乗者は、ジェットパックを利用した撹乱、及び周囲の警戒に向かってください」


「おう、俺たち2人で……陽動だな……なんか地味だな……」

 そう言いつつも、ヤンスの乗るサイドツーのコンテナ……らしきものへとしがみつく。

 直後、けたたましい声が、通路一帯を震わせるように鳴り響く。




『サイドツー全機、発進!……作戦名、強弓滅沈神……発動!!!!』

『カッコいいでヤンス……!』
「ごうきゅう……めっちんしん……?」


『…………いつも、通りの……ネーミング、センス』

「……くいな、だっけか、いつもセンってこんな感じなのか?……なんかこういう作戦名とかに興味を持ってる感じじゃあ……」

 何気なく事情を知ってそうな獣人の少女、くいなに無線越しで問いかける。


『もってる。……直近、だと、オリュンポスの外壁を壊すための……作戦、を、『ブレイク&ダウン・堕神作戦』とか……言ってた、し』

「…………ネーミングセンスは壊滅的だな、『ワンダー・ショウタイム』の俺たちが言えた話じゃないんだが!!」


 脚部のローラーでキュルルと音を立て、細い通路を疾走するサイドツー15機。
 機神を打ち倒すのに、これじゃあ心許ない気持ちもあるのだが……ここはセンの作戦を信じるしかないだろう。


 そもそも機神なんて、俺にとっちゃ未知の敵。勝てるかどうかなんて、そんなの———。

『……あと30秒で地上へ出ます。……すぐに状況判断を。……司令塔たる僕ですが、『神爆』起動準備に手間取るかもしれません……だからこそ、陽動部隊は臨機応変な対応を試みてください』
 

『3……2……1……出ます!』


 地上は———赤と朱色に染まりきっていた。
 既に落ち始めた陽の光、それを覆うように存在する、低空飛行の機神B。
 そして、肝心の機神Aはというと———。





『……あれ、は……どういう……事だ、まさかヤツは、大空から砲撃を行なっているとでも……?!』

 センたちが見上げたソラを覆うは、その鉄の翼を広げ、薄く消えかかった機神の影。

「おい、セン!……どうした、何か問題でもあったのか?!」

 眼前に置かれた状況に、混乱するセンをよそに、各部隊は行動を始める。
 もちろん、俺の乗ったヤンスだってそうだった。……が。





『……待てよ、ならば……ここから神爆を撃ち込むことは……嘘だ、そんな一方的な話……あっていいはずが……』

「…………ン、セ…………セン!」

 その呼びかけに、絶望を肌に感じていたセンは、ハッとその意識を戻す。

『……セン、もう状況は……動いてる。……このままだったら……あっちで、戦ってる人界軍にも…………甚大な被害が……でる、だから、アイたちが……ここで決めなきゃ、いけない……の……だから……!』

『そう、だった、ありがとう、くいな。できない、守れやしないとぼやいていても仕方がない。…………もう、あんなことにならない為にも。

 ……アテナさん、くいな、僕たちはA-4ビルの屋上に向かいます。……僕たちは、サイドツーのワイヤーを用いて、アテナさんは浮遊法で上へと向かってください』








「……アイツ、やっぱり逞しくなってるな。……流石は、世界を守った勇者だ」

 その会話を無線全回線越しに聞いていた俺は、微量ながら思わず笑みをこぼしてしまった。……自分でも分かったんだ。本当に思わず、こぼれてしまった。

『……センは……強いヤツでヤンスよ、あんな強大な敵を前にしたって、ほとんど弱音をこぼさないんでヤンスから』

「そう、だな……アイツは強いヤツだった。……でも、アイツだって弱音ぐらい吐くさ。……それは俺が———一番知ってる」

 そう言いつつも、俺が乗るヤンス専用サイドツーが舞い上がった場所にて有ったのは、同じく翼を広げんと展開状態に入っている、機神Bであった。



「……さあて、来やがれよ、機神っ!……その力、数倍にして返してやるぜ!」

 刀を構え、機神の周辺にはまるで渦潮のように渦巻く神力が収束する。


 そうか、人間であるはずの俺たちを、早くもヤツ機神だと認識したか……!!

『白さん、攻撃は、ある程度は魔力斬撃で相殺してくれでヤンス。……この機体は常に動かすので、振り落とされないようにも気を付けてくれでヤンス』

「分かってるさ、さあ……いくぞ……っ!」
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
ファンタジー
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...