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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
自責
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今一度、その身体を確認する…………
否。
俺が貫いた相手は———違っていた。
「……は……ちゃん……と、仲良く………なれた、みたいね……」
俺が、俺が貫いたのは、間違いなくあの赤髪の女だったはずだ、そうじゃなければおかしいはずなんだ。
だって、この場には俺と、あの女とアテナしかいなくて。
この場に、行方不明となったカレンさんが、いるはずがないのだから。
俺は、俺はあの女を貫いた、そのはずだった、そのはずだった……のに。
血を流し、その場に倒れ伏しているのは、間違いなく……この前いなくなったばかりの、シスター・カレンで。
俺が貫いたのは……シスター・カレンだったとでも、言うつもりか……?
……事実、俺が貫いたはずの女は、さも当然の如く、まるで誰とも戦っていなかったかのように立ち尽くしており。
「……ふ……ニトイちゃん……じゃ、もうない……のね……」
「おい、これは一体……どういう……事だよ……!」
あの女は、苦痛に歪んだカレンを見つめ、静かににやける。……まるで、最期の時間を楽しめとも言わんばかりに。
「……大丈夫、ツバサ……くん……貴方は、悪くない……わ……」
その光景は、まさに凄惨なものであった。
俺が貫き、風穴の空いた胸。いつの間にかに無くなっていた右腕。破け、はだけた服の腹から覗かせる、深々と刻まれた2つの切り傷。
———明らかに、俺がやる前から……誰かに既に傷付けられていたかのように———。
「……っもう、もう喋るな……! シスター・カレン……っ!!」
自然と、足は動いていた。
……俺が、他の誰でもない俺が殺した、無実の人に。
「大……丈夫、だから……そんなに……悪く、思うことじゃ……ないわ、ツバサくん……」
「いや……だって……そもそも、あの日俺とニトイを……アテナを家まで送り届けてくれたのは、カレン……お前なんだろ……?」
「ええ……そう、よ……おかげでこんな……ことになっちゃったけど……ね」
「まって、待ってくれよ、まだ目を閉じないでくれ……俺は、俺はお前にもっと聞きたいことがいっぱいあるんだ、それに……それに、謝らなくちゃならない、こんな結末になったことに……だからまだ、まだ行かないでくれよ、あまりにも……早すぎる……!!」
「………………大、丈夫、だから…………貴方は、ツバサ……くんは、何も……気負う必要は………ないわ…………
ただ………あの子を……ニトイちゃんを、幸せにすることだけを、考え、なさ……い。
…………でも。でも、もし……わがままが言えるなら………………どうか、あの子を……ラースを、殺して、あげて…………!」
「…………ぁ……あっ……ああぁ……っ……!!」
確実に、事切れた。
何が起きたのか、俺すらも分からなかった。
俺がカレンさんを殺したんだという自責と。
まだまだ聞きたかった事もあったのに、という後悔と。
そして、最後の言葉の意味……
それらの全てが、一気に俺にのしかかる。
俺は、自分自身がどうすればいいのか、一瞬分からなくなってしまっていた。
ただただ立ち尽くし、何をすれば良いのか、何を考えれば良いのか、全くもって分からなくなった。
あまりにも突然の死。
目の前に突如として迫ってきた、俺を形作る「大切な人」の死という、あまりにもなリアル。
それでも、最期の……カレンさんの最期の一言が、俺のすべき事を、全て物語っていた。
———最期の言葉……『ニトイを幸せにしてあげなさい』。
……その一言で、俺の思考は冷静へと引き戻る。
瞬間、込み上げてきた怒り。
後悔も自責も、いまは考えるべきではない。
まずは……まずは、眼前のクズを始末することを、真っ先に考える。
「……どうだった、あたしの置換神技……!
本来、カレンはあたしに殺され、もう今は生きていることはなかった……けれど、私がその存在ごとを置換し、今の今まで生かしてあげた、そして、他ならぬお前に殺させた……!!
……どう、最っっっっっ高の殺害ショーだと思わない……?」
「………………最悪の、後始末だったよ。どこまでも……な……!!」
ただただひたすら、眼前の敵を見つめ、どのように調理すればじっくりゆっくり、そして苦痛を与えて殺せるかと、今にも興奮で蒸発してしまいそうな頭で考える。
「あとは……オマエだけ。……死んじゃえばいいのよ、オマエも、アテナも!」
……あとは、それを実行に移すだけだ。
なぜ、自分は戦っている?
何の為に、俺は戦っている?
その理由の全てを考えることを放棄し、眼前のクズを今にも屠らんと、黄金の刃は狂い咲く。
1歩。
1歩と踏み出す度に、あの情景を忘れてゆく。
……そうだ、あの時も、こんな血濡れの結末だったっけ。
振り下ろされる大鎌。
あまりの重さに、普通ならば耐えきれず、その自身の身体ごと両断されるような場面であったが。
その時は、違った。
そう、普通ならば耐えきれないのだ、普通ならば。
「………………」
「粋がるのも今のうち……!!」
あまりにも早過ぎて、3方向から大鎌が向かってくる……ように見えるだけの、そのつまらない攻撃を軽く刀でいなし、1歩、また1歩と女に近づく。
「…………もう、終わりか……くだらない……!」
「調子に乗るのもいい加減に……!!」
「この世から、一片たりとも残さず……消え失せろ」
一瞬にして解体したのは、女の頭部。
髪と共に、落ちゆく血と肉。
それらを……地に落ちたそれらをも踏み慣らし、その生きた証さえも無下に扱ってやろうかと、その脳片を踏み躙る。
3分くらい、そうしていただろうか。
女の肉体は、まるで糸の切れた操り人形の如く膝から力なく崩れ落ちた。
……なんてことをしやがったんだ。
「…………アテナ、行くぞ」
その無機質な声は、暗闇の中に響き渡る。
「カレンさんの埋葬は……全てが終わってからだ」
「…………しろ、だいじょう、ぶ……?」
「心配したいのはこっちの方だ……まあ、大丈夫では、ある」
「なら、よかった……!」
その明るい笑顔が照らす、が。
やはり俺には、どうしても……突如として突きつけられた「死」が拭えなくて。
だからこそ、たった今、俺は決意した。
「…………アテナ。……俺には、この計画を潰す、その事自体は、別にどうでもよかったんだ。……成り行きでそうなっただけで……責任なんて、全部……とる気はなかった」
「カレン、さんが……死んだ、から……?」
「その、通りだ。……プロジェクト:エターナル。その計画は、人類を幸福な状態へと昇華させるものだった、とでもしよう。………たとえそうでも、俺は許さない。
今あるこの世界で、カレンさんのような無実の人が死ぬような現状を、変えようとしない…ヤツらのことを。
この現状を変えず、現実を変えるだけで……そんな簡単なことに逃げた……ゴルゴダ機関を、その元締めを……俺は絶対に……許さない……!!」
心の奥に、未だ残響するその血の匂いは、白の決意をこれ以上ないほどに固くさせるものであった。
否。
俺が貫いた相手は———違っていた。
「……は……ちゃん……と、仲良く………なれた、みたいね……」
俺が、俺が貫いたのは、間違いなくあの赤髪の女だったはずだ、そうじゃなければおかしいはずなんだ。
だって、この場には俺と、あの女とアテナしかいなくて。
この場に、行方不明となったカレンさんが、いるはずがないのだから。
俺は、俺はあの女を貫いた、そのはずだった、そのはずだった……のに。
血を流し、その場に倒れ伏しているのは、間違いなく……この前いなくなったばかりの、シスター・カレンで。
俺が貫いたのは……シスター・カレンだったとでも、言うつもりか……?
……事実、俺が貫いたはずの女は、さも当然の如く、まるで誰とも戦っていなかったかのように立ち尽くしており。
「……ふ……ニトイちゃん……じゃ、もうない……のね……」
「おい、これは一体……どういう……事だよ……!」
あの女は、苦痛に歪んだカレンを見つめ、静かににやける。……まるで、最期の時間を楽しめとも言わんばかりに。
「……大丈夫、ツバサ……くん……貴方は、悪くない……わ……」
その光景は、まさに凄惨なものであった。
俺が貫き、風穴の空いた胸。いつの間にかに無くなっていた右腕。破け、はだけた服の腹から覗かせる、深々と刻まれた2つの切り傷。
———明らかに、俺がやる前から……誰かに既に傷付けられていたかのように———。
「……っもう、もう喋るな……! シスター・カレン……っ!!」
自然と、足は動いていた。
……俺が、他の誰でもない俺が殺した、無実の人に。
「大……丈夫、だから……そんなに……悪く、思うことじゃ……ないわ、ツバサくん……」
「いや……だって……そもそも、あの日俺とニトイを……アテナを家まで送り届けてくれたのは、カレン……お前なんだろ……?」
「ええ……そう、よ……おかげでこんな……ことになっちゃったけど……ね」
「まって、待ってくれよ、まだ目を閉じないでくれ……俺は、俺はお前にもっと聞きたいことがいっぱいあるんだ、それに……それに、謝らなくちゃならない、こんな結末になったことに……だからまだ、まだ行かないでくれよ、あまりにも……早すぎる……!!」
「………………大、丈夫、だから…………貴方は、ツバサ……くんは、何も……気負う必要は………ないわ…………
ただ………あの子を……ニトイちゃんを、幸せにすることだけを、考え、なさ……い。
…………でも。でも、もし……わがままが言えるなら………………どうか、あの子を……ラースを、殺して、あげて…………!」
「…………ぁ……あっ……ああぁ……っ……!!」
確実に、事切れた。
何が起きたのか、俺すらも分からなかった。
俺がカレンさんを殺したんだという自責と。
まだまだ聞きたかった事もあったのに、という後悔と。
そして、最後の言葉の意味……
それらの全てが、一気に俺にのしかかる。
俺は、自分自身がどうすればいいのか、一瞬分からなくなってしまっていた。
ただただ立ち尽くし、何をすれば良いのか、何を考えれば良いのか、全くもって分からなくなった。
あまりにも突然の死。
目の前に突如として迫ってきた、俺を形作る「大切な人」の死という、あまりにもなリアル。
それでも、最期の……カレンさんの最期の一言が、俺のすべき事を、全て物語っていた。
———最期の言葉……『ニトイを幸せにしてあげなさい』。
……その一言で、俺の思考は冷静へと引き戻る。
瞬間、込み上げてきた怒り。
後悔も自責も、いまは考えるべきではない。
まずは……まずは、眼前のクズを始末することを、真っ先に考える。
「……どうだった、あたしの置換神技……!
本来、カレンはあたしに殺され、もう今は生きていることはなかった……けれど、私がその存在ごとを置換し、今の今まで生かしてあげた、そして、他ならぬお前に殺させた……!!
……どう、最っっっっっ高の殺害ショーだと思わない……?」
「………………最悪の、後始末だったよ。どこまでも……な……!!」
ただただひたすら、眼前の敵を見つめ、どのように調理すればじっくりゆっくり、そして苦痛を与えて殺せるかと、今にも興奮で蒸発してしまいそうな頭で考える。
「あとは……オマエだけ。……死んじゃえばいいのよ、オマエも、アテナも!」
……あとは、それを実行に移すだけだ。
なぜ、自分は戦っている?
何の為に、俺は戦っている?
その理由の全てを考えることを放棄し、眼前のクズを今にも屠らんと、黄金の刃は狂い咲く。
1歩。
1歩と踏み出す度に、あの情景を忘れてゆく。
……そうだ、あの時も、こんな血濡れの結末だったっけ。
振り下ろされる大鎌。
あまりの重さに、普通ならば耐えきれず、その自身の身体ごと両断されるような場面であったが。
その時は、違った。
そう、普通ならば耐えきれないのだ、普通ならば。
「………………」
「粋がるのも今のうち……!!」
あまりにも早過ぎて、3方向から大鎌が向かってくる……ように見えるだけの、そのつまらない攻撃を軽く刀でいなし、1歩、また1歩と女に近づく。
「…………もう、終わりか……くだらない……!」
「調子に乗るのもいい加減に……!!」
「この世から、一片たりとも残さず……消え失せろ」
一瞬にして解体したのは、女の頭部。
髪と共に、落ちゆく血と肉。
それらを……地に落ちたそれらをも踏み慣らし、その生きた証さえも無下に扱ってやろうかと、その脳片を踏み躙る。
3分くらい、そうしていただろうか。
女の肉体は、まるで糸の切れた操り人形の如く膝から力なく崩れ落ちた。
……なんてことをしやがったんだ。
「…………アテナ、行くぞ」
その無機質な声は、暗闇の中に響き渡る。
「カレンさんの埋葬は……全てが終わってからだ」
「…………しろ、だいじょう、ぶ……?」
「心配したいのはこっちの方だ……まあ、大丈夫では、ある」
「なら、よかった……!」
その明るい笑顔が照らす、が。
やはり俺には、どうしても……突如として突きつけられた「死」が拭えなくて。
だからこそ、たった今、俺は決意した。
「…………アテナ。……俺には、この計画を潰す、その事自体は、別にどうでもよかったんだ。……成り行きでそうなっただけで……責任なんて、全部……とる気はなかった」
「カレン、さんが……死んだ、から……?」
「その、通りだ。……プロジェクト:エターナル。その計画は、人類を幸福な状態へと昇華させるものだった、とでもしよう。………たとえそうでも、俺は許さない。
今あるこの世界で、カレンさんのような無実の人が死ぬような現状を、変えようとしない…ヤツらのことを。
この現状を変えず、現実を変えるだけで……そんな簡単なことに逃げた……ゴルゴダ機関を、その元締めを……俺は絶対に……許さない……!!」
心の奥に、未だ残響するその血の匂いは、白の決意をこれ以上ないほどに固くさせるものであった。
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