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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
プロジェクト:エターナル
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「……でェ? お友達ごっこは、ようやく終わりか?」
まるで最初からその様子を見ていたように、物陰から出てきたのは。
「…………ちょうど聞きたいところだった、クラッシャー。何でお前は生きている……?」
———そうだ、俺の思い出した記憶には、コイツのことも入っていた。
クラッシャー。一度サナを殺してみせた、俺の憎悪の対象。
……ただ、生きてるってことは———人界軍はコイツの扱いを間違ったか……?
「………………白、クラッシャーは仲間よ。……一応ね」
サナの発言に少しばかり安堵しながらも、だがしかしやはりこの状況はおかしいと、困惑した頭をフル回転させる。
「何で、か?……お前、この俺様にトドメを刺すことを忘れただろ……?」
……盲点、だった。
そう言えば、センがクラッシャーを蹴り上げた後、クラッシャーの消息は掴めていなかったが。
「そうだった、俺が殺し損ねたんだった。……じゃなくて、何でお前が俺たちの仲間、みたいな感じになってるんだよ?!」
「……プロジェクト:エターナル。その不可逆的阻止のためよ」
サナは完全に立ち直っている様子だった。……俺がいなかった間にも、やっぱり成長してるんだ。それだけ。
プロジェクト:エターナル。
一体何の話だ……?
「……チッ、仕方ねえな、ならば教えてやるよ。俺たちカーネイジが入手した、極秘計画……エターナルの全貌を」
「プロジェクト:エターナル。それは、永遠を掴む儀式。
人類を、悠久の時を生きる生命体に進化させる計画だった。だからこそアースリアクター、この世界の中心に存在するソレを用いて、人類を進化させ、永遠に争いの起こらない世界を作るの。
その為には、アースリアクターを開くための鍵……つまり、神技『ザ・オールマイティ』を持つ人物が必要な訳。…………つまり、今は貴方よ、白」
「…………鍵の話に関しては、俺もなんとなくは分かるんだ。でも、それって悪い……ことなのか? 永遠に争いの起こらない世界を作ることの……何がいけないんだ……?」
「聞こえはいいが、実際のところ実にクソッタレな計画さぁ……何せ人類を、意志を持たず永遠に彷徨い続ける生命体『ロスト』に、強制的に進化させる。
つまりは停滞した明日を……作る計画な訳だ。それのどこが素晴らしいってんだ、人斬り……?」
ロストが……意志を持たず永遠に彷徨い続ける生命体だって……?
ならば、俺が今まで倒し続けてきたロストは、皆元は人間だってのか……?
「じゃあ……じゃあ俺たちゴルゴダ機関は、今まで何をしてたんだ……?
ロストの元が人間だってなら、俺たちは何のためにロストを殺して……そもそも、ロストは何なんだよ、どこから出てきて、何が起源なんだよ……!」
「…………ロストは、この国、オリュンポスの実験の失敗作……よ」
「は……?」
実験……? 失敗作……?
「…………オリュンポスは、数十年前から、永久に活動できて……更には人の意志も併せ持つ、『ソウルレス』を生み出す実験を続けてきた。
その実験にて、ソウルレスになれなかった人々は、『ロスト』と名付けられた怪物に変貌した。だからこそ、今のゴルゴダ機関は、その実験の後始末をしてるに過ぎない、ってこと」
「……つまり今度は、その失敗作……ロストに、全人類を進化させようと……?」
果たしてそれは、皆が幸せになるための計画なのだろうか。
「永遠」を掴むことは、本当に俺たちが幸せになることに繋がるのだろうか?
……そんなことはない、ないはず……
「……うい?」
ふと、左を振り向くと、そこにはアテナの姿が。
そうだった、コイツは……機神は、悠久の時を生きる生命体だった。
植え付けられた「ツバサ」の記憶がそうだと釘を刺す。
「…………俺、は、永遠を、生きたい…………だけど、皆にその……俺だけにとっての幸せを、押し付けるわけにはいかない……からな」
ずっと、一緒にいたかったけれど。
だけど、それが許されないことだと言うのなら。
「……腹は決まった、って訳ね。ならば白、私たちについてきて。この施設の本当の用途を教えてあげる」
そう言われ、階段の下へと連れられた先、薄暗闇の陰る部屋の隅には。
「光、がある……?」
「貴方と会う前、私が灯しておいただけよ」
着いたのは、苔むした研究室……のような部屋。
無意識に、そこのテーブルの上に置いてあった、古ぼけた紙に視線がいく。
--------------------------------
エターナル:S計画
実験#1
被験体名称
ヴァイン・レンス=○ 後日脱走
黒(仮名)=○ 後日脱走
レイン・ヴァープナー=○
ヴォレイ・カイル=○
--------------------------------
カイラ・アダプト=× 自我はあり。
サレン・ケイラ=× 自我はあり。
エイン・サード=× 自我はあり。
その他186254名、失敗。
経過観察:実験#2
ヴァイン・レンス及び黒(仮名)の脱走を確認。国際重要最高刑執行人物に指定。
他自我の残った4名の解剖を始める。
解剖を行った結果、被験体は痛みを感じていたが、切開部位はすぐに再生。
カイラ・アダプトの体内に出現したコアを破壊。その後、数分かけて被験体カイラは、悶え苦しんだ後他の自我のないロスト同様消滅。
収容区内のロスト(エイン含む)が全脱走。
…………
-------------------------------
「何だ、これ……バツ、って、もしかして……」
「お察しの通り、ロストになった被験体のことだ。……惨めなもんだぜ、コイツらは全員、ここの奴らの実験の犠牲となった。
これのどこが……神の守る国だと言うのやら」
「……これは?」
テーブルの上に置かれていた、緑色の液体の入った注射器を手に取る。
「白、それは刺さないでよ」
「だから、これは何なんだよ」
「……RX-3654。それを打ち込んだ生命体は、魂———スピリットの外壁が喪失し、固体生命を保てなくなる。
そこから自力で固体生命を再生するか、再生できず、溶け出したままロストと化すか、それはその本人の適正次第って訳」
「……なあ、なあアテナ、これもお前がやったのか、これも、こんな酷いこともお前がやった……」
「それ、は、きっと……お父様が……命令、した」
その言葉に、サナもクラッシャーも共に反応する。
「……で、その『お父様』……つまりは、主神ゼウスを殺すために、私たちはここまで来たのよ」
「いや、え……? 主神ゼウスを……殺す……?」
主神ゼウス。
「ツバサ」としての、帝都民だった俺の記憶が、その名を覚えていた。
主神ゼウス。
最大最強にして、全知全能の神。姿を見せず、オリュンポスの中枢にて眠る、神の中の神。
そんな化け物を殺す……だって……?
……いや、アテナは確か……ゼウスの娘だったはずで……
「……アテナ、お前は大丈夫……なのか、俺たちはお前の父を……殺すかもしれないんだぞ」
「アテナ、は……白……と一緒、に、いられる、なら……何だって、いい。
お父様、が、間違ってる、なら……アテナが……直さなきゃ、いけない…………から」
「おっとお、主神の娘も意外と賛成か……殺し合いは覚悟してたんだがな……」
クラッシャーはその剛腕を地に降ろし、心底つまらなさそうに肩を落とす。
「…………それじゃあ、白。懐かしい人たちに会いに行くわよ」
俺たちより一足先に階段を上がりながら、サナはそう告げるが。
「懐かしい人たち……って、まさか……っ!」
「…………まあ、察しはつくでしょ。
会いに行くのよ。貴方の思い出に」
まるで最初からその様子を見ていたように、物陰から出てきたのは。
「…………ちょうど聞きたいところだった、クラッシャー。何でお前は生きている……?」
———そうだ、俺の思い出した記憶には、コイツのことも入っていた。
クラッシャー。一度サナを殺してみせた、俺の憎悪の対象。
……ただ、生きてるってことは———人界軍はコイツの扱いを間違ったか……?
「………………白、クラッシャーは仲間よ。……一応ね」
サナの発言に少しばかり安堵しながらも、だがしかしやはりこの状況はおかしいと、困惑した頭をフル回転させる。
「何で、か?……お前、この俺様にトドメを刺すことを忘れただろ……?」
……盲点、だった。
そう言えば、センがクラッシャーを蹴り上げた後、クラッシャーの消息は掴めていなかったが。
「そうだった、俺が殺し損ねたんだった。……じゃなくて、何でお前が俺たちの仲間、みたいな感じになってるんだよ?!」
「……プロジェクト:エターナル。その不可逆的阻止のためよ」
サナは完全に立ち直っている様子だった。……俺がいなかった間にも、やっぱり成長してるんだ。それだけ。
プロジェクト:エターナル。
一体何の話だ……?
「……チッ、仕方ねえな、ならば教えてやるよ。俺たちカーネイジが入手した、極秘計画……エターナルの全貌を」
「プロジェクト:エターナル。それは、永遠を掴む儀式。
人類を、悠久の時を生きる生命体に進化させる計画だった。だからこそアースリアクター、この世界の中心に存在するソレを用いて、人類を進化させ、永遠に争いの起こらない世界を作るの。
その為には、アースリアクターを開くための鍵……つまり、神技『ザ・オールマイティ』を持つ人物が必要な訳。…………つまり、今は貴方よ、白」
「…………鍵の話に関しては、俺もなんとなくは分かるんだ。でも、それって悪い……ことなのか? 永遠に争いの起こらない世界を作ることの……何がいけないんだ……?」
「聞こえはいいが、実際のところ実にクソッタレな計画さぁ……何せ人類を、意志を持たず永遠に彷徨い続ける生命体『ロスト』に、強制的に進化させる。
つまりは停滞した明日を……作る計画な訳だ。それのどこが素晴らしいってんだ、人斬り……?」
ロストが……意志を持たず永遠に彷徨い続ける生命体だって……?
ならば、俺が今まで倒し続けてきたロストは、皆元は人間だってのか……?
「じゃあ……じゃあ俺たちゴルゴダ機関は、今まで何をしてたんだ……?
ロストの元が人間だってなら、俺たちは何のためにロストを殺して……そもそも、ロストは何なんだよ、どこから出てきて、何が起源なんだよ……!」
「…………ロストは、この国、オリュンポスの実験の失敗作……よ」
「は……?」
実験……? 失敗作……?
「…………オリュンポスは、数十年前から、永久に活動できて……更には人の意志も併せ持つ、『ソウルレス』を生み出す実験を続けてきた。
その実験にて、ソウルレスになれなかった人々は、『ロスト』と名付けられた怪物に変貌した。だからこそ、今のゴルゴダ機関は、その実験の後始末をしてるに過ぎない、ってこと」
「……つまり今度は、その失敗作……ロストに、全人類を進化させようと……?」
果たしてそれは、皆が幸せになるための計画なのだろうか。
「永遠」を掴むことは、本当に俺たちが幸せになることに繋がるのだろうか?
……そんなことはない、ないはず……
「……うい?」
ふと、左を振り向くと、そこにはアテナの姿が。
そうだった、コイツは……機神は、悠久の時を生きる生命体だった。
植え付けられた「ツバサ」の記憶がそうだと釘を刺す。
「…………俺、は、永遠を、生きたい…………だけど、皆にその……俺だけにとっての幸せを、押し付けるわけにはいかない……からな」
ずっと、一緒にいたかったけれど。
だけど、それが許されないことだと言うのなら。
「……腹は決まった、って訳ね。ならば白、私たちについてきて。この施設の本当の用途を教えてあげる」
そう言われ、階段の下へと連れられた先、薄暗闇の陰る部屋の隅には。
「光、がある……?」
「貴方と会う前、私が灯しておいただけよ」
着いたのは、苔むした研究室……のような部屋。
無意識に、そこのテーブルの上に置いてあった、古ぼけた紙に視線がいく。
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エターナル:S計画
実験#1
被験体名称
ヴァイン・レンス=○ 後日脱走
黒(仮名)=○ 後日脱走
レイン・ヴァープナー=○
ヴォレイ・カイル=○
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カイラ・アダプト=× 自我はあり。
サレン・ケイラ=× 自我はあり。
エイン・サード=× 自我はあり。
その他186254名、失敗。
経過観察:実験#2
ヴァイン・レンス及び黒(仮名)の脱走を確認。国際重要最高刑執行人物に指定。
他自我の残った4名の解剖を始める。
解剖を行った結果、被験体は痛みを感じていたが、切開部位はすぐに再生。
カイラ・アダプトの体内に出現したコアを破壊。その後、数分かけて被験体カイラは、悶え苦しんだ後他の自我のないロスト同様消滅。
収容区内のロスト(エイン含む)が全脱走。
…………
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「何だ、これ……バツ、って、もしかして……」
「お察しの通り、ロストになった被験体のことだ。……惨めなもんだぜ、コイツらは全員、ここの奴らの実験の犠牲となった。
これのどこが……神の守る国だと言うのやら」
「……これは?」
テーブルの上に置かれていた、緑色の液体の入った注射器を手に取る。
「白、それは刺さないでよ」
「だから、これは何なんだよ」
「……RX-3654。それを打ち込んだ生命体は、魂———スピリットの外壁が喪失し、固体生命を保てなくなる。
そこから自力で固体生命を再生するか、再生できず、溶け出したままロストと化すか、それはその本人の適正次第って訳」
「……なあ、なあアテナ、これもお前がやったのか、これも、こんな酷いこともお前がやった……」
「それ、は、きっと……お父様が……命令、した」
その言葉に、サナもクラッシャーも共に反応する。
「……で、その『お父様』……つまりは、主神ゼウスを殺すために、私たちはここまで来たのよ」
「いや、え……? 主神ゼウスを……殺す……?」
主神ゼウス。
「ツバサ」としての、帝都民だった俺の記憶が、その名を覚えていた。
主神ゼウス。
最大最強にして、全知全能の神。姿を見せず、オリュンポスの中枢にて眠る、神の中の神。
そんな化け物を殺す……だって……?
……いや、アテナは確か……ゼウスの娘だったはずで……
「……アテナ、お前は大丈夫……なのか、俺たちはお前の父を……殺すかもしれないんだぞ」
「アテナ、は……白……と一緒、に、いられる、なら……何だって、いい。
お父様、が、間違ってる、なら……アテナが……直さなきゃ、いけない…………から」
「おっとお、主神の娘も意外と賛成か……殺し合いは覚悟してたんだがな……」
クラッシャーはその剛腕を地に降ろし、心底つまらなさそうに肩を落とす。
「…………それじゃあ、白。懐かしい人たちに会いに行くわよ」
俺たちより一足先に階段を上がりながら、サナはそう告げるが。
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