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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
イチゴ( Ⅰ )
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そうして始まったロスト捜索。
……が、異変は既に起き始めていた。
専用のゲートより、施設から出てすぐのことだった。
それはあまりにも一瞬で、
それはあまりにも呆気がなさすぎた———。
*◇*◇*◇*◇
「狙撃」とは、一瞬で、一撃で、一発で成功させるものだ。
男は昔より、そのように教えられた、そのように叩き込まれた。
対象を見定めて、一瞬で、一撃で。
風速を、風向を見極める。
「敵」に対しての、イマジナリー……空想のレールを形作る。
「神力内包式……神魔力障壁貫通弾………コイツか」
その黒き砲身に、黒フードの男は1つ、1つと弾を込める。
……実際、目標の達成の為には、たった1撃で決めればよいからにして、弾をいくつも装填する必要など無いに等しいのだが。
「敵」は、一応3人いる。
……1人は……あの橙色の髪をした少年、2人目はハゲのおっさん、3人目は華奢な少女。
がしかし、最重要目標が存在する。
……それは、あの白髪の少年。
俺の任務は、あの少年を撃ち殺し、できるのならあの少年の心臓を保存し献上すること。
何の為に、その心臓を献上するのか……は分からないが、「依頼主」……いや、『第6番隊』によるとそうすべきらしいからな。
……が、いくらこの俺でも4人を撃ち殺すのは流石に手間がかかるもんだからこそ、白髪の少年に向かって狙いを定めている。
———発砲。
*◇*◇*◇*◇
「……襲撃。……私たち、悪い事、した…………かなぁ……?」
……そんな事を呟きながらも、俺たちの前に突如として現れたイチゴ隊長は……なんか、ヘンなポーズをとっていた。
右腕を上げて……まるで何かをはたいたような……感じのポーズを。
「……イチゴ……隊長、そのポーズは一体……?……いや、そもそもなんでここにいて……」
「………………ツバサ……君、任務、は……中止。多分、テロリストの敵襲」
敵……敵襲……?!
「敵襲、ねえ……一応ここ、神が管理してんだろ、あまりにも部外者に対する警備体制がずさんすぎやしないか?」
などとぼやくディルを目にして、ようやく俺はこの状況を理解した。
「つまり……そのポーズは……何処かより放たれた弾……らしきものを弾いた後の仕草、だと、そーいう訳ですか……?」
「その通り……だけど、無駄口を叩いている場合、じゃ、ない」
……と。
暑いから、だろうか、隊長がそのフードを……脱ぎ捨てた。
「……ツバサ君、そのフードは……持っておいて」
「ああ……はい」
何気なく渡された古ぼけた茶色のフード。
……持っているだけでどこか、身体の底から力が抜け落ちてゆくような代物だった。
「……んっ」
と、隊長はものすごい音と振動を響かせ、突如空へと舞い上がる。
……その隊長の跳躍力に驚いていると、横からディルの声が。
「ツバサ、そのフードは俺が持っておくから、お前は隊長の援護に回ってやれ。どうも隊長の軽武装じゃ手に余るような相手だからな」
「……分かった、ありがとう……行ってくるよ」
*◇*◇*◇*◇
時は少し遡り。黒フードの男は何を想っていたかというと———。
……終わった、この狙撃銃、獲物を外した事はない。故に今の一瞬で、決着はついたのだ、と。
砲身より放たれた煙は、その弾がきちんと放たれたことを意味しているからにして、あとは他のヤツらも殺すのみ。
油断しながらも、男が除いたスコープの奥は、既に真っ暗であり。
同時にそれは、眼前に男が殺すべき敵がいる事を意味していた———。
*◇*◇*◇*◇
視点は変わり。
ディルへとフードを渡したツバサは、何とかして戦いに参加できないかと目を凝らす。……すると。
それはビル群の屋上にて行われていた。
瞬間、ツバサの脚は既に飛び上がっていた。
「████」などと唱える間もなく、一瞬にして、俺は空中から、そのビル群を見下ろしていた。
「あそこ……か……!」
行われていたのは、極限なるせめぎ合い。
隊長の持つ短剣と、俺たちに向かって凶弾を放ったであろう男のバタフライナイフが拮抗している状況。
「神威、概念封印解放、神核露出、残刀用意……完了」
ツバサは落下しながら、自分ですらもワケの分からないことを呟きながらも、その刃をビルの地に突き立てる準備を……完了させていた。
その間、イチゴ隊長はと言うと。
「……無駄、だから、諦めて……」
「ちくしょう、この俺も……ヤキが回ったかな、標的を仕留め損なうばかりか、接近戦に持ち込まれる、だなんてなっ!」
1秒間に幾度となく擦れ合う互いの刃。
それぞれが肉を裂き、骨を断つ一刃であったが、やはりそのスピードで勝っていたのはイチゴであり。
「……まあ、諦めないことも、お前が……この後貫かれることも、全て……予測済みなんだけど」
などと、意味深なことを口にしながら。
攻撃の手を休めたイチゴに対して、その男が畳み掛けようとした瞬間。
「……ふう」
その男は、落下してきたツバサの刃によって、上から斬り落とされた。
ツバサにおいては、ヒトを殺すのはこんなに呆気ない事なのか、と、初めて殺人を犯した違和感を一蹴する。
「…………予知、も、外れることは……あるのか」
「隊長、大丈夫でした……っ?!」
「……っ、離れてっ!!」
あまりにも唐突だった。
勝利の余韻に浸ろうとした瞬間、辺りに何の脅威もないにも関わらず、隊長はいきなりこちらを突き飛ばす。
「離れて……って、急にどうしたんですか、隊長……?」
「あ…………いや、な、なん……でも……」
明らかに知ってない素振りをされそうだったもんだから。
「何でもない、ワケはないですよね…?」
「…………でも、でも……私といたら……崩壊、する……から…………とりあえず、私は……戻る」
……だの、素っ気ない返事をし、隊長はそのまま……ビルの側面を落ちていったが。
……え、何でビルから落ちる事を、何の躊躇いも無しにできるのかと、そんなことを問い詰めたくなった瞬間、俺の脚は既に前へと進み出していた。
……うん、やはりどう考えてもあまりにも呆気なかった。
この場合、3つのことについてだ。
まずはあの……暗殺者。
おそらく最初の1発目、その狙撃銃から放たれた凶弾は、おそらくイチゴ隊長によって弾かれたのだろうが……
それと、あまりにも呆気なく落ちていった俺自身の身体について。
……最後に、さも当然の如く、落下の衝撃が伝わる瞬間、自分の身体が無意識下にて少し浮き上がったこと。
「俺、生きてる?」
確実に俺は、ビルの側面を落ちたはずだ、ならば俺は、今頃死んでいるはずだ、と、若干混乱気味の頭で困惑した瞬間、横から声がした。
「…………ツバサ、君」
イチゴ隊長の、声だった。
すかさず横に振り向くと、そこには先程俺がディルに渡したフードを被った、イチゴ隊長が佇んでいた。
「………………覚え、てて。フードを脱いだ私の近くに、あまりいないで」
「……何を隠してるんですか、ここは路地裏……おそらく誰も聞いちゃいないでしょうから、言ってみてくださいよ」
……?!
その言葉を言い終えた直後、俺は自らの発言に戦慄する。
……なんだ、俺はこのイチゴ隊長を……口説くつもりなのか……と、自らの口と相反する頭は混乱する。
「誰……にも、言わない……?」
「……言いませんから、とりあえず言ってみてくださいよ」
意外といけそうだったもんだから、もうそのまま畳み掛ける。
「……崩壊」
「はい…?」
「私の人生は、常に崩壊に、……満ちて、いた」
意味が分からない、と言おうとした瞬間。
あまりにも唐突に、隊長のその身体は———その場に倒れ伏した。
「……え?」
……が、異変は既に起き始めていた。
専用のゲートより、施設から出てすぐのことだった。
それはあまりにも一瞬で、
それはあまりにも呆気がなさすぎた———。
*◇*◇*◇*◇
「狙撃」とは、一瞬で、一撃で、一発で成功させるものだ。
男は昔より、そのように教えられた、そのように叩き込まれた。
対象を見定めて、一瞬で、一撃で。
風速を、風向を見極める。
「敵」に対しての、イマジナリー……空想のレールを形作る。
「神力内包式……神魔力障壁貫通弾………コイツか」
その黒き砲身に、黒フードの男は1つ、1つと弾を込める。
……実際、目標の達成の為には、たった1撃で決めればよいからにして、弾をいくつも装填する必要など無いに等しいのだが。
「敵」は、一応3人いる。
……1人は……あの橙色の髪をした少年、2人目はハゲのおっさん、3人目は華奢な少女。
がしかし、最重要目標が存在する。
……それは、あの白髪の少年。
俺の任務は、あの少年を撃ち殺し、できるのならあの少年の心臓を保存し献上すること。
何の為に、その心臓を献上するのか……は分からないが、「依頼主」……いや、『第6番隊』によるとそうすべきらしいからな。
……が、いくらこの俺でも4人を撃ち殺すのは流石に手間がかかるもんだからこそ、白髪の少年に向かって狙いを定めている。
———発砲。
*◇*◇*◇*◇
「……襲撃。……私たち、悪い事、した…………かなぁ……?」
……そんな事を呟きながらも、俺たちの前に突如として現れたイチゴ隊長は……なんか、ヘンなポーズをとっていた。
右腕を上げて……まるで何かをはたいたような……感じのポーズを。
「……イチゴ……隊長、そのポーズは一体……?……いや、そもそもなんでここにいて……」
「………………ツバサ……君、任務、は……中止。多分、テロリストの敵襲」
敵……敵襲……?!
「敵襲、ねえ……一応ここ、神が管理してんだろ、あまりにも部外者に対する警備体制がずさんすぎやしないか?」
などとぼやくディルを目にして、ようやく俺はこの状況を理解した。
「つまり……そのポーズは……何処かより放たれた弾……らしきものを弾いた後の仕草、だと、そーいう訳ですか……?」
「その通り……だけど、無駄口を叩いている場合、じゃ、ない」
……と。
暑いから、だろうか、隊長がそのフードを……脱ぎ捨てた。
「……ツバサ君、そのフードは……持っておいて」
「ああ……はい」
何気なく渡された古ぼけた茶色のフード。
……持っているだけでどこか、身体の底から力が抜け落ちてゆくような代物だった。
「……んっ」
と、隊長はものすごい音と振動を響かせ、突如空へと舞い上がる。
……その隊長の跳躍力に驚いていると、横からディルの声が。
「ツバサ、そのフードは俺が持っておくから、お前は隊長の援護に回ってやれ。どうも隊長の軽武装じゃ手に余るような相手だからな」
「……分かった、ありがとう……行ってくるよ」
*◇*◇*◇*◇
時は少し遡り。黒フードの男は何を想っていたかというと———。
……終わった、この狙撃銃、獲物を外した事はない。故に今の一瞬で、決着はついたのだ、と。
砲身より放たれた煙は、その弾がきちんと放たれたことを意味しているからにして、あとは他のヤツらも殺すのみ。
油断しながらも、男が除いたスコープの奥は、既に真っ暗であり。
同時にそれは、眼前に男が殺すべき敵がいる事を意味していた———。
*◇*◇*◇*◇
視点は変わり。
ディルへとフードを渡したツバサは、何とかして戦いに参加できないかと目を凝らす。……すると。
それはビル群の屋上にて行われていた。
瞬間、ツバサの脚は既に飛び上がっていた。
「████」などと唱える間もなく、一瞬にして、俺は空中から、そのビル群を見下ろしていた。
「あそこ……か……!」
行われていたのは、極限なるせめぎ合い。
隊長の持つ短剣と、俺たちに向かって凶弾を放ったであろう男のバタフライナイフが拮抗している状況。
「神威、概念封印解放、神核露出、残刀用意……完了」
ツバサは落下しながら、自分ですらもワケの分からないことを呟きながらも、その刃をビルの地に突き立てる準備を……完了させていた。
その間、イチゴ隊長はと言うと。
「……無駄、だから、諦めて……」
「ちくしょう、この俺も……ヤキが回ったかな、標的を仕留め損なうばかりか、接近戦に持ち込まれる、だなんてなっ!」
1秒間に幾度となく擦れ合う互いの刃。
それぞれが肉を裂き、骨を断つ一刃であったが、やはりそのスピードで勝っていたのはイチゴであり。
「……まあ、諦めないことも、お前が……この後貫かれることも、全て……予測済みなんだけど」
などと、意味深なことを口にしながら。
攻撃の手を休めたイチゴに対して、その男が畳み掛けようとした瞬間。
「……ふう」
その男は、落下してきたツバサの刃によって、上から斬り落とされた。
ツバサにおいては、ヒトを殺すのはこんなに呆気ない事なのか、と、初めて殺人を犯した違和感を一蹴する。
「…………予知、も、外れることは……あるのか」
「隊長、大丈夫でした……っ?!」
「……っ、離れてっ!!」
あまりにも唐突だった。
勝利の余韻に浸ろうとした瞬間、辺りに何の脅威もないにも関わらず、隊長はいきなりこちらを突き飛ばす。
「離れて……って、急にどうしたんですか、隊長……?」
「あ…………いや、な、なん……でも……」
明らかに知ってない素振りをされそうだったもんだから。
「何でもない、ワケはないですよね…?」
「…………でも、でも……私といたら……崩壊、する……から…………とりあえず、私は……戻る」
……だの、素っ気ない返事をし、隊長はそのまま……ビルの側面を落ちていったが。
……え、何でビルから落ちる事を、何の躊躇いも無しにできるのかと、そんなことを問い詰めたくなった瞬間、俺の脚は既に前へと進み出していた。
……うん、やはりどう考えてもあまりにも呆気なかった。
この場合、3つのことについてだ。
まずはあの……暗殺者。
おそらく最初の1発目、その狙撃銃から放たれた凶弾は、おそらくイチゴ隊長によって弾かれたのだろうが……
それと、あまりにも呆気なく落ちていった俺自身の身体について。
……最後に、さも当然の如く、落下の衝撃が伝わる瞬間、自分の身体が無意識下にて少し浮き上がったこと。
「俺、生きてる?」
確実に俺は、ビルの側面を落ちたはずだ、ならば俺は、今頃死んでいるはずだ、と、若干混乱気味の頭で困惑した瞬間、横から声がした。
「…………ツバサ、君」
イチゴ隊長の、声だった。
すかさず横に振り向くと、そこには先程俺がディルに渡したフードを被った、イチゴ隊長が佇んでいた。
「………………覚え、てて。フードを脱いだ私の近くに、あまりいないで」
「……何を隠してるんですか、ここは路地裏……おそらく誰も聞いちゃいないでしょうから、言ってみてくださいよ」
……?!
その言葉を言い終えた直後、俺は自らの発言に戦慄する。
……なんだ、俺はこのイチゴ隊長を……口説くつもりなのか……と、自らの口と相反する頭は混乱する。
「誰……にも、言わない……?」
「……言いませんから、とりあえず言ってみてくださいよ」
意外といけそうだったもんだから、もうそのまま畳み掛ける。
「……崩壊」
「はい…?」
「私の人生は、常に崩壊に、……満ちて、いた」
意味が分からない、と言おうとした瞬間。
あまりにも唐突に、隊長のその身体は———その場に倒れ伏した。
「……え?」
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