112 / 256
断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
ほし/月
しおりを挟む
◇◆◇◆◇◆◇◆
********
「ツバサ、かえって、きたーー!」
「おわっと……おい、人前で抱き付くんじゃないぞニトイ……あ、カレンさん、ニトイの面倒見てくれてありがとうございます……」
「いえ、大丈夫です、それよりも……」
カレンさんの、その柔らかい唇が、自身の耳元まで迫る。
……俺は、俺は今から、一体何をされるんで———。
「その子、大切にしてあげてくださいね」
「……その子って……ニトイ……?」
ニトイを、大切に……?
カレンさんは何でそんなことを……
…………まさか。
「カレンさん、もしかしてニトイについて何か知って……!」
「私は何も知りません。……ただ、その子の幸せを願っている、それだけです」
カレンさんの軽く、どこか郷愁感漂うその微笑をもって、会話は終わりを告げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……で、ニトイ……お前一体何をした……?」
帰り道。
夕陽に赤く染まった道を歩き、家へと一直線で帰る最中。
「ニトイ……じゅんれー、した!」
「カレンさんと……か?」
「あい」
……やっぱり、その時か、おそらく何かがあったとすれば……
「……! ニトイ、アイスクリーム、食べたい…!」
……ニトイが指差したのは、公園の一角にて、車で屋台を開いているアイスクリーム屋。
え、俺の給料を用いてアイスクリームを買えと?
……まあ、でもいっか。今日もなんだかんだで給料は貰えて———たった2日ながら、生活は徐々に安定し始めている。……断らなくっても、いいか。
「あーはいはい、買ってやるよ」
金は……かなり余ってるしな。
「つめたくて、おいしい……!」
「ああ、……ここで排泄すんなよ?」
「…………ほし、きれい」
「はい?」
「ほし」
ニトイが眺め、その指を指したのは———暗くなりかけの、青と赤の混じった幻想的な空に浮かぶ、無数の星々。
「……そうか、まあ、綺麗、だよな」
———俺は、星……ではなく、月に。
暗黒の空に1つ輝く、まるで██のような月に、手を伸ばす。
「……ちがう。ニトイ、アルテミスじゃ、ない」
「は? アル……誰……?」
「かんけい、ない……!」
「な、なんだよ、ムスっとしないでくれよ……ああもう、とりあえず帰るぞ」
ニトイの手を握る。
まるで幼女の、それでいて自分の娘……みたいな、ヘンな感覚にさせられる、その白い手を。
「んで、ニトイは……弁当食えるか?」
「弁当……たぶん、たべれる」
「なんでもいいのか?」
「何味でも、おっけ……!」
「じゃあ行ってくるから、留守番頼んだぞ」
「あい」
********
きれいだった。
そのまちなみは、とてもきれいで。
そのほしぼしも、とてもきれいで。
でも、それでも。
そのけしきも、やはりツバサ、のかがやきには……かてない。
どうしても、どうみても、やっぱりツバサが、いちばんかがやいてみえる。
……でも、もう、終わりにするべき……?
まだ、この現実を……偽りだらけの現実を見ていても、いいの……?
それで███は、お父様は許してくれるの?
私は、まだ、ツバサといても、いい、の?
私はまだ、『ニトイ』であって、いいの?
********
あまりにも唐突に響くは、耳を突く衝突音。
甲高い風の音と、外の木枯らし音の鳴り止まぬ窓に、既にソレは迫ってきていた。
砕けた窓ガラスの破片が、雨の如く部屋に散乱する。
よろけながらもニトイに近づくのは、赤髪の少女。
身に纏ったその修道服から察せられるは、かのゴルゴダ機関の一員であり。
「…………あぶない、ひと……!」
ニトイにとっては、ただの不審者というか、3日前ツバサと話す時間を邪魔した邪魔者でしかなかった。
********
「ツバサ、かえって、きたーー!」
「おわっと……おい、人前で抱き付くんじゃないぞニトイ……あ、カレンさん、ニトイの面倒見てくれてありがとうございます……」
「いえ、大丈夫です、それよりも……」
カレンさんの、その柔らかい唇が、自身の耳元まで迫る。
……俺は、俺は今から、一体何をされるんで———。
「その子、大切にしてあげてくださいね」
「……その子って……ニトイ……?」
ニトイを、大切に……?
カレンさんは何でそんなことを……
…………まさか。
「カレンさん、もしかしてニトイについて何か知って……!」
「私は何も知りません。……ただ、その子の幸せを願っている、それだけです」
カレンさんの軽く、どこか郷愁感漂うその微笑をもって、会話は終わりを告げた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「……で、ニトイ……お前一体何をした……?」
帰り道。
夕陽に赤く染まった道を歩き、家へと一直線で帰る最中。
「ニトイ……じゅんれー、した!」
「カレンさんと……か?」
「あい」
……やっぱり、その時か、おそらく何かがあったとすれば……
「……! ニトイ、アイスクリーム、食べたい…!」
……ニトイが指差したのは、公園の一角にて、車で屋台を開いているアイスクリーム屋。
え、俺の給料を用いてアイスクリームを買えと?
……まあ、でもいっか。今日もなんだかんだで給料は貰えて———たった2日ながら、生活は徐々に安定し始めている。……断らなくっても、いいか。
「あーはいはい、買ってやるよ」
金は……かなり余ってるしな。
「つめたくて、おいしい……!」
「ああ、……ここで排泄すんなよ?」
「…………ほし、きれい」
「はい?」
「ほし」
ニトイが眺め、その指を指したのは———暗くなりかけの、青と赤の混じった幻想的な空に浮かぶ、無数の星々。
「……そうか、まあ、綺麗、だよな」
———俺は、星……ではなく、月に。
暗黒の空に1つ輝く、まるで██のような月に、手を伸ばす。
「……ちがう。ニトイ、アルテミスじゃ、ない」
「は? アル……誰……?」
「かんけい、ない……!」
「な、なんだよ、ムスっとしないでくれよ……ああもう、とりあえず帰るぞ」
ニトイの手を握る。
まるで幼女の、それでいて自分の娘……みたいな、ヘンな感覚にさせられる、その白い手を。
「んで、ニトイは……弁当食えるか?」
「弁当……たぶん、たべれる」
「なんでもいいのか?」
「何味でも、おっけ……!」
「じゃあ行ってくるから、留守番頼んだぞ」
「あい」
********
きれいだった。
そのまちなみは、とてもきれいで。
そのほしぼしも、とてもきれいで。
でも、それでも。
そのけしきも、やはりツバサ、のかがやきには……かてない。
どうしても、どうみても、やっぱりツバサが、いちばんかがやいてみえる。
……でも、もう、終わりにするべき……?
まだ、この現実を……偽りだらけの現実を見ていても、いいの……?
それで███は、お父様は許してくれるの?
私は、まだ、ツバサといても、いい、の?
私はまだ、『ニトイ』であって、いいの?
********
あまりにも唐突に響くは、耳を突く衝突音。
甲高い風の音と、外の木枯らし音の鳴り止まぬ窓に、既にソレは迫ってきていた。
砕けた窓ガラスの破片が、雨の如く部屋に散乱する。
よろけながらもニトイに近づくのは、赤髪の少女。
身に纏ったその修道服から察せられるは、かのゴルゴダ機関の一員であり。
「…………あぶない、ひと……!」
ニトイにとっては、ただの不審者というか、3日前ツバサと話す時間を邪魔した邪魔者でしかなかった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~
こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇
戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。
そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。
◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです
◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。
誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください
◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います
しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる