Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

「崩壊」する戦略

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「なあ、言っただろ、負けはしないって?」
「凄い……凄い新人じゃない! これなら大型や変異型が来たって……」


「…………私と……戦え」


 そうして立ち上がったのは、先程からずっと静観していた、大隊長……イチゴだった。

「え……いや、隊長には流石に……」
「命令だ。今すぐに、私と戦え」
「……め、命令ぃ……?」



「———そうだ、命令だ。…………お前は、既に……この隊に入った…………新入り。

 ……だから私の、隊長の命令には…………従う義務がある」


「は、はあ……なら……」

「……それと、目上に対しては敬語を使うこと。

 …………新入りとは言え、その態度は……直すべき」

「………………分かりました、隊長」






「ねえねえ、流石に隊長とやり合うのは……!」
「ああ、まずいかもな、イチゴ隊長は一体何を考えている……?」





 相対するは、ゴルゴダ機関3番隊隊長、イチゴ。

 そのかわいらしい名前とは裏腹に突き刺すような視線は、これまで感じたことのない脅威を感じさせるものであった。

「…………来ていいよ、全力で。

 私も今、私が持てる全てを…………出し切る」

「上等……です……!」




 瞬間、意識は消え失せ……


 そうになった。



「……っはあ、はあ、なんだ、今のは……!」


 味わったのは、背中の髄に、等間隔で1本1本と、氷の針を突き刺されるような、そんな重々しくも鋭き威圧。

 あまりの威圧に、この身体も、血の気も奮い立つ。

「……解く、か。これは、久々に……面白くなりそう……」



 思考が正常に戻った瞬間、意識は戦いへと傾いていた。

 どう接近するか。
 もう接近されている。


 どう斬るか。
 相手は何をしてくるか。
 そんなものは分からない。だからこそ、がむしゃらに突き進む———!

「……失態。……これで、終わり」



 読まれていた……!
 完全にその攻撃は読まれており、振られた刀は軽々と、素手にて受け流される。

 ならば……

「もう1度……!」

 刀を左斜め下に構える。
 ここから繰り出すものといえば、やはりそのまま切り上げるしかないだろう、しかし……!

「……小賢、しいっ……!」



 俺が狙うは、そこから繰り出す「面の突き」!

 絶対に出ない角度、明らかに来ない角度からの一撃は、どんな敵であろうと絶対に油断する。
 例え油断しなかろうと、怯むくらいの隙はできるは———、



「……もう……終わり?」

 受け流……された……?
 まるで最初から分かっていたかのように…?


 ……そうか、まさか、神技ジルか……!







 ———神技ジル
 ヒトの生命の根源。ヒトが活動する為に必要なエネルギーの総称———神力を消費して扱える、その人物固有の———超能力だ。


「なるほど、先読み、ってこと……ですか」

「………明かすと、思う…………?」

 そう、この場合、考えられるのは2つ。
 ヤツが「迫り来る攻撃に対して、勝手に身体を動かせる」ような境地に達しているか、俺の攻撃全てを先読みできる神技を持っているか。

 だがヤツは「明かすと思うか」と答えた。
 ……つまり、神技を使っているのはほぼ確定……ならば。

 この勝負、俺の勝ちだ。

 この勝負を勝ちと断定した理由は、相手の神技が先読みの神技ジルということを断定したところにある。

 ……先読み。それはあくまで、俺の攻撃を先に読んで、自分で攻撃をかわす(受け流す)だけなのだ。

 ……そう、自分で、受け流すのだ。
 先読みの神技の力で、相手がどう出るかは分かっている。だから騙し騙しの手も通用しなかった。

 だけど、先読みしようと、自身の力では絶対に避けられない攻撃、とあれば……?
 事実、俺にはそれがもしかすると可能であり、それこそ、この勝負の命運を分けた1点であった。

「███、█」

 足に█力を込め、今起こりうる最悪の状況を思い浮かべる。

 相手の意思など関係なく、相手を「強大な力」として見た時の、最悪の状況。
 ヤツは、何か隠している。
 ……その修道服にて隠れた左手は、一体何を準備しているのか。

 飛び道具? それとも近接武器?
 考えたのは、2つのパターン。
 今の俺ならば、高速で接近する飛び道具など、余裕で受け流せるだろう。

 ……ならば。

 イメージだ。

 奥底にあるのはイメージ。

 結局のところ、█術はイメージでしかなかったのだから、今起こりうる「最悪」に対抗できる「最善」を想像する。

 それはとても容易で、実行することも、今の俺にとっては、空っぽのダンボールを軽々と持ち上げることぐらい簡単なことであった。

「速い……しかし、この神技ならば……」
「その判断こそが間違い……です……!」


 速く、速く。
 どこまでも、まるで草原を駆け巡る風の如く速く、ひたすらに突き進む。
 今の自分の持てる、最高の最強を尽くす。


 そう、相手が動きを読む、というのなら、
「動きを読まれていても絶対に避けられない速さの攻撃」ならば、確実に勝てるはずだ。

 今の自分にできるかなど分かるわけもないが、それでもがむしゃらに突き進んでみせる……!

「これならば……!」


「……いい作戦だ、だけど……」
「……っ……!」

 その木刀は、まるで最初からそこにあったかのように、完璧に受け止められていた。


「私が何かを持っている、……もしくは投げようとしていることを…………恐れた……それも……だから私は受け止めきれた。

 …………しかしやはり…………君には何かが足りない」


 
「は……い?」

「今の君には…………決定的な…………何かが……欠如している」

「決定的な何かが欠如……って、一体どういう……」

「…………今は……知らなくていい。……それ、は……生きていく中で、自分が見つける……ものだかは。


 それよりも……新人にしては……申し分ない強さだった……私は……私たちは、お前を歓迎する」

「っあ……ありがとう、ございます……?」


「凄い……凄いなツバサ! お前そんなに強かったのか?!」

 側から見ていたディルに抱きつかれる。

「お前ならやってくれると思ってたぜ!」だなんて言われそうなくらいのオーラが伝わってきた。
 ……負けたんだけどな。


「……ちょっとムカつく……ムカつくーーーっ!!」

「カーオ、とりあえず落ち着こっか。……それにしても、ツバサさん凄いなぁ、本気の隊長にアレまで渡り合えるなんて」




「え……アレって、本気だった……んですか?」




 その俺の一言によって、場は静まり返る。
 敵は、カーオとイチゴは互いに本気でやっていたのかもしれない。

 カーオは腹いせに、イチゴはツバサの力を見極めるために。







 もちろん命を賭した本当の本気、と言うわけではないが、各々が今出せる本気というものを存分に発揮したが故の困惑だったのかもしれない。

 ……がしかし、俺本人は、「まだこの力は100%出しきれてはいない」と考えており、まだまだ自分には成長の余地がある、と見ての発言だった。

 それが『足りないモノ』だと言うのなら、とツバサは内面で理解していたのだ。


 決して、決して本人は、イキリ散らかした訳ではないのだが。

「……ヤバい新人が……入ってきたわね……楽しみでもあるけど、癪でもあるわ……」
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