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断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜
それが必然だと言うのなら
しおりを挟むそして、白たちは。
◇◆◇◆◇◆◇◆
———2日目。
俺たち一行は、未だ黒の家にて食糧を食い漁っていた。
ただ。
『このエリアは、明日には禁止ゾーンとなっています。速やかに立ち去ってください』
……と、皆の鎧から聞こえてきたがために、俺たちは移動を余儀なくされた。
黒は未だ帰らず。
それゆえに、黒の家に置いてあった食糧はできる限り持っていくこととなった。黒に次会った時は謝っておくべきだろう。
「んあ……」
大会中———だと言うのに、呑気に俺たち5人は寝てしまっていた。
ツリーハウスの木の上から、俺たちを照らす陽の光が差し込む。同時に、その光に当たった者から順に目を覚ましていく。
「ぁ……ふぁぁあ……」
凝り固まった身体を伸ばしきる。
そしてゆっくりと瞼を開く。睡眠中の幸せな時間は終わりを告げ、俺の目の前には———人?
「おはよう、人斬りさん」
———人斬り……?
「あ、おお、おはよ…………うっ?!」
まさかの接敵。
……というよりも、必然の接敵と言わざるを得なかったが。
「っ、神威!」
すぐさま右腕を伸ばし、その手に神威を戻す。
「まーったく、どんだけ腑抜けてんだ……かっ!」
眼前で振られた刀を、こちらの神威で弾きながら後退する。
未だに揺れ動き、まともに開いてくれない瞼。
うっすらながらも見えたその姿———もはやコイツが誰かなんて、今の俺にとっては容易に想像がついた。
「なーんで、お前みたいなやつとここで会っちゃうかなあ……」
……そう、先程までに俺が寝ていた所の上に立ち尽くしていたのは、かつて俺と殺し合った因縁の相手にして———今となっては人界王直属の騎士でもある女、レイ・ゲッタルグルトだった。
だからこそ、コイツは俺が倒さなければならなくて。
だからこそ、俺はヤツが斬るべき敵なのだろう。
「リベンジマッチか……隻腕で大丈夫か?」
後退し、家の外に出る。
「たとえ腕が1本無かろうと、貴方と戦うのは造作もないことよっ!」
「そうか、ならいくぜっ!」
「———封印概念、解除っ!」
木で出来たカバーが地面に落ちるとともに、それが開始の合図となった。
響き渡る重く鋭い金属音。
互いの武器は「刀」。
だからこそ、魔術などの飛び道具による戦闘力の誤魔化しも効かず、真っ向から、白兵戦で倒さなければならない。
……だが、それは俺が一番得意としてきたことであり、ならば俺が勝つのは当然であろう。
……じゃあレイは、勝つ為にここに来たのではない?
……そんなことはない。レイであれ俺であれ、確実に勝つ気で来ている。
ならばこそ、やはり「秘策」が存在する訳で。
ただただ刀の打ち合いで終わらせるほど、レイは甘い相手ではなかった……!
「憑依召喚術式解放、黒騎士……!」
……何?
今、コイツは、レイは何を口にした……?
「……ぐぐっ……」
この俺が、打ち合いで、押し負ける……?
いや違う、変わったのか、あっちの剣筋が。
重く、それでいて繊細で鋭い、あの黒騎士のものへと……!
「……はっ、また魔族の力を使おうってか」
「そう……だけど今度は、絶対に呑まれない……!」
「ならばこっちも、本気でやるべきか……背水の陣っ!!」
足を1歩、勢いよく踏み出し地を踏みつける。
溢れ出す覇気。
その威圧は、場の者全てを平伏させる王のようで。
「全開……解放!!!!」
蒼色の可視化された魔気に全身が包まれる。
「白の世界」へと飛び込み、感覚を研ぎ澄ます。
もはや見慣れた光景。既に慣れて使いこなせるようにはなっているが、コイツ相手にどれだけ通用するかだな……!
「当たら……ない……? そんな、一体どうやって……!」
極ノ項、その極地。
ヤツの刀は当たらない。その全ての動きを見切り、何パターンも予測し、一瞬の動きと照らし合わせ予測し続け避け続ける。
レイは困惑し、自身の刀の持ち方などが本当に合っているかを一瞬、目を下にやり確かめる。
……だが、隙を生めば、この俺の前には敗北という結果しかなくなるのだ。
「その隙が、お前の敗因だ」
一瞬、ほんの一瞬だけだったその隙を、俺は見逃さない。
足で踏ん張りをつけ、一瞬にして姿勢を屈め———、
刀の峰を上にし、そうして斬りつける。
『魔力障壁、破損。レイ選手、脱落です』
「……案外……呆気なかったなぁ、アレ、一応切り札のはずだったんだけどなあ……」
「でも、俺ははっきり言って……楽しかった。……こんな事、お前の前で言っていいかは分からないけどな」
かつて文字通りしのぎを削って戦い、殺り合った化け物、それがコイツだ。
あの時は———復讐だの、人斬り白郎だの、さまざまな因縁や執念との戦いだった。
だがしかし今回は違う。
互いの信念も何もかもを投げ捨てた、ただの実力の戦い。
それゆえに出てきた感想が『楽しかった』なのだ。
「……それじゃあ1つ。
お仲間さんの事は、しっかり見ておいた方がいいんじゃない?」
「え、は?!」
そうだった、そういえばツリーハウスにアイツらを置いてきたままだった……!
「あ、ありがとう! それじゃあもう俺行くから……じゃあな!!」
********
「ありがとう」、ね……
かつて殺そうとまでした人に、そんなこと言われるなんて。
負けちゃった、か。
あの時と同じ、全力を振り絞って、負けた。
……でも、怨みや怒りがぶつかり合う戦場よりよっぽど楽しいな、と。そんなものよりよっぽど清々しい戦いだったなと思ってしまった。
……あの男は、私の、私たちの大切なものを奪っていった人斬りなのに。
…………まあ、私も甘かった、って事かな。
*◇*◇*◇*◇
「アイ、に勝てる、と……思う……?」
「くいなさん、こっちも手伝ってくれで……ヤンスよっ!」
「……あれは……サナたちか?!やっべえな、いつの間にあんな敵が……」
ツリーハウスの中には既にサナたちはいなかった。
なぜだ、と思い辺りを捜索し数十分。
ようやく見つけた仲間は、戦いの最中にいた。
「し……白、遅いわよ! 何でそんなに時間かかっちゃうの!……ああもう、鬱陶しい!!」
サナは近づいてくる敵を、魔術師には相応しくないやり方で薙ぎ倒す。
「サナさんは話してて大丈夫ですって、近づいてきたら僕が剣でやりますから……」
「すまん、遅れた!……で、テレポートって使用可能か?」
「転移魔法?! 私をコックか誰かと勘違いしてるんじゃないの?! 使える訳……ないでしょ!」
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