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断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜
戦闘狂の来たる道
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その頃。
白の言う「戦闘狂」、イデア・セイバーはというと。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「そんなものか、どいつもこいつもつまらん野郎ばかりだぜ」
それまでに攻撃が当たった回数はたったの1回。
白たちと同じパーティ、という事で注目され、しかもフツーに王都周辺をふらついていたがために、他の選手が殺到。
その選手たちの魔力障壁を1つ1つ、丁寧に斬り分けるその姿は、まさに人斬りと言われても差し支えのないものだった。
……が、そんなイデアの前に、強敵が1人。
********
「よお、救世主のパーティメンバーさん」
「……誰だ貴様、馴れ馴れしく話すなよ、あまり調子に乗ると貴様から先に斬ることになるが、それでいいのか?」
「誰だ、ねえ……俺……はブレイル、とでも名乗っておこうか」
その金髪の勇者は、ブレイルとか言うそうだが。
「……でしゃばってくれたところ悪いが、俺はお前が誰か分からない。自分の名前をさぞ自慢げに話されたとて、俺にとっては何のことかさっぱりだぜ」
周りがざわつき始める。
俺にとってこの男は、道端で誰にも気付かれずに死んでいる虫ケラ程度の認識でしかなかったが———、
「俺が誰か分からない……そうか、お前ほどの人物が俺のことを知らないときたか!」
「知らん。それよりもさっさとかかって……」
「俺の名はブレイル!」
「さっき言ったろ」
「魔王軍幹部、ドワーフ大隊のヴェルグスを倒した勇者さ!」
魔王軍幹部———黒騎士とダークナイト以外など、取るに足らぬ相手だったと言うのに、そいつらの一味をたった1匹殺したぐらいで、何を偉そうに。
「だからどうした」
「お前は、いやお前たちは、俺の活躍する機会を奪った!」
……その時、俺は理解した。
コイツ、しょうもないヤツだな、と。
「俺たちが魔王を倒したからか。だったらさっさとかかってこい。貴様には300年かかっても、魔王はおろか俺にすら勝てないという格の違いを見せてやろう」
「格の違い、か……だったら、
俺の方が、上だな」
瞬間、地が割れる。
……が、それが現実的なものではなく、魔術による概念的なものだとすぐに気付く。
———そして、ヤツが手を打つ前に、こちらから手を打った。
「多重幻覚境界面」
展開される魔力領域。
それは紛れもなく、この俺のものだった。
広がりゆく魔力に触れた大気は、まるでヒビ割れるようにして別の風景へと塗り変わってゆく。
映し出された魔術領域———俺の心象世界は、その外壁が赤い霧で覆われた荒野だった。
「どうやら貴様は、話している時にすでに仕組んでいたようだが、残念ながらこっちのイメージの方が数刻早かったようだ」
「何でお前が……こんなに……幻想模倣魔術でも……ない……?」
ホロウ・ミラーディメンジョン。
この魔術領域内において、俺と言う人間は無限に複製されゆく。
意識をそのままに、それらを全て共有した、身体機能も全く同じ個体が、無限に幻術として顕現する魔術領域。
司令塔はもちろんこの俺本体だが———、
「……さて、どちらが上かと、最早言わなくとも分かるだろう」
金髪の勇者———ブレイルに襲いかかるは、それら1つ1つが刀を持った俺の複製体。
そんな刀の弾幕とも言える攻撃など、避けられるはずもなく。
「ふげぴーーーーーーっ!!!」
『<魔力障壁、破損。ブレイル選手、脱落>』
煙の吹き出すブレイルの鎧より音声が垂れ流される。
「……結局、貴様も同じか、俺と出会わなければもっと長く試合をできていたものを」
◆◆◆◆◆◆◆◆
魔武道大会、2日目。
もはや敵は誰1人として寄らなくなり、俺は退屈の一途を辿っていた。
昨日は野宿、虫の湧いた落ち葉の床で寝ることとなった。
それに昨日から誰1人として挑んでこない状況は、嘆かずにはいられないものだ。
……そんな中、とある情報が入る。
『沼地……大陸南部の沼地に……化け物がいる……!』
それは、全体チャットの情報だった。
くだらない内輪ノリばかりの雑談と、下劣な煽りしか聞こえてこなかった全体チャットにて、初めて流れてきた興味深い情報だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
沼地に残った「怪物」とは、とある巨漢だった。
あまりに膨れ上がった筋肉に、力強く威圧感のある神気。
そして纏うは修道服。
「敗者は死ぬ、ただそれだけだ」
……それは、神父と呼ぶにはあまりに力強く、勇者と呼ぶにはあまりに清々しかった。
ヴォレイはその巨腕で、地に倒れ伏した人間を掴み、そして骨ごと頭を握り潰す。
……そう、負けた者は殺害禁止、というルールを、コイツは堂々と、そして嬉々として破っているのだ。
握り潰した肉塊より、血と骨が滲み出る。
「次の相手は、誰だ。……私は飢えている」
その紅の戦場に立つ者の名はヴォレイ。
ゴルゴダ機関、3番隊隊長である。
白の言う「戦闘狂」、イデア・セイバーはというと。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「そんなものか、どいつもこいつもつまらん野郎ばかりだぜ」
それまでに攻撃が当たった回数はたったの1回。
白たちと同じパーティ、という事で注目され、しかもフツーに王都周辺をふらついていたがために、他の選手が殺到。
その選手たちの魔力障壁を1つ1つ、丁寧に斬り分けるその姿は、まさに人斬りと言われても差し支えのないものだった。
……が、そんなイデアの前に、強敵が1人。
********
「よお、救世主のパーティメンバーさん」
「……誰だ貴様、馴れ馴れしく話すなよ、あまり調子に乗ると貴様から先に斬ることになるが、それでいいのか?」
「誰だ、ねえ……俺……はブレイル、とでも名乗っておこうか」
その金髪の勇者は、ブレイルとか言うそうだが。
「……でしゃばってくれたところ悪いが、俺はお前が誰か分からない。自分の名前をさぞ自慢げに話されたとて、俺にとっては何のことかさっぱりだぜ」
周りがざわつき始める。
俺にとってこの男は、道端で誰にも気付かれずに死んでいる虫ケラ程度の認識でしかなかったが———、
「俺が誰か分からない……そうか、お前ほどの人物が俺のことを知らないときたか!」
「知らん。それよりもさっさとかかって……」
「俺の名はブレイル!」
「さっき言ったろ」
「魔王軍幹部、ドワーフ大隊のヴェルグスを倒した勇者さ!」
魔王軍幹部———黒騎士とダークナイト以外など、取るに足らぬ相手だったと言うのに、そいつらの一味をたった1匹殺したぐらいで、何を偉そうに。
「だからどうした」
「お前は、いやお前たちは、俺の活躍する機会を奪った!」
……その時、俺は理解した。
コイツ、しょうもないヤツだな、と。
「俺たちが魔王を倒したからか。だったらさっさとかかってこい。貴様には300年かかっても、魔王はおろか俺にすら勝てないという格の違いを見せてやろう」
「格の違い、か……だったら、
俺の方が、上だな」
瞬間、地が割れる。
……が、それが現実的なものではなく、魔術による概念的なものだとすぐに気付く。
———そして、ヤツが手を打つ前に、こちらから手を打った。
「多重幻覚境界面」
展開される魔力領域。
それは紛れもなく、この俺のものだった。
広がりゆく魔力に触れた大気は、まるでヒビ割れるようにして別の風景へと塗り変わってゆく。
映し出された魔術領域———俺の心象世界は、その外壁が赤い霧で覆われた荒野だった。
「どうやら貴様は、話している時にすでに仕組んでいたようだが、残念ながらこっちのイメージの方が数刻早かったようだ」
「何でお前が……こんなに……幻想模倣魔術でも……ない……?」
ホロウ・ミラーディメンジョン。
この魔術領域内において、俺と言う人間は無限に複製されゆく。
意識をそのままに、それらを全て共有した、身体機能も全く同じ個体が、無限に幻術として顕現する魔術領域。
司令塔はもちろんこの俺本体だが———、
「……さて、どちらが上かと、最早言わなくとも分かるだろう」
金髪の勇者———ブレイルに襲いかかるは、それら1つ1つが刀を持った俺の複製体。
そんな刀の弾幕とも言える攻撃など、避けられるはずもなく。
「ふげぴーーーーーーっ!!!」
『<魔力障壁、破損。ブレイル選手、脱落>』
煙の吹き出すブレイルの鎧より音声が垂れ流される。
「……結局、貴様も同じか、俺と出会わなければもっと長く試合をできていたものを」
◆◆◆◆◆◆◆◆
魔武道大会、2日目。
もはや敵は誰1人として寄らなくなり、俺は退屈の一途を辿っていた。
昨日は野宿、虫の湧いた落ち葉の床で寝ることとなった。
それに昨日から誰1人として挑んでこない状況は、嘆かずにはいられないものだ。
……そんな中、とある情報が入る。
『沼地……大陸南部の沼地に……化け物がいる……!』
それは、全体チャットの情報だった。
くだらない内輪ノリばかりの雑談と、下劣な煽りしか聞こえてこなかった全体チャットにて、初めて流れてきた興味深い情報だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
沼地に残った「怪物」とは、とある巨漢だった。
あまりに膨れ上がった筋肉に、力強く威圧感のある神気。
そして纏うは修道服。
「敗者は死ぬ、ただそれだけだ」
……それは、神父と呼ぶにはあまりに力強く、勇者と呼ぶにはあまりに清々しかった。
ヴォレイはその巨腕で、地に倒れ伏した人間を掴み、そして骨ごと頭を握り潰す。
……そう、負けた者は殺害禁止、というルールを、コイツは堂々と、そして嬉々として破っているのだ。
握り潰した肉塊より、血と骨が滲み出る。
「次の相手は、誰だ。……私は飢えている」
その紅の戦場に立つ者の名はヴォレイ。
ゴルゴダ機関、3番隊隊長である。
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