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断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜
開幕!魔武道大会!
しおりを挟む「……んで、結局エントリーするの? 魔武道大会には」
「もちろん、俺は昔から、戦う事しか生きる理由がなかったからな~…………」
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして。
各々が胸に秘めた(大抵ろくでもない)覚悟がぶつかり合う決戦の日がとうとう訪れた。
その日の王都には人が殺到しており、とても街を歩けるような状態ではなかったが、無事に俺たちはエントリーを済ませる。
まるで壁のように、ギチギチに人が密集していた王都から這い出る。
センに関しては……ヘンな魔族と獣人……? を連れていたが、どうやら3人揃ってエントリーしたらしい。
そして配られたのは伸縮性のある素材で作られた鎧。
鎧を装着した途端、身体を伸縮自在の変質魔力障壁が覆う。
……特に動きに不自由さは感じないし、いつも通り戦えるだろう。
しかも栄養自動摂取機能付き。2週間は何も食べず活動可能であり、他にもチャット機能とか色んな便利な機能があって……
例を挙げるのなら、この鎧には、大会選手の管理もできるような仕組みになっているらしく、大会開始1日毎に増えていく「禁止ゾーン」に入った瞬間、その選手は脱落する仕様になっている、ってサナが言ってた(魔術式を組んだのはサナであるから知ってる)。
…………まあそんなこんなあって、大会は正午より始まることに。
とりあえずその正午までは自由時間という事で、あらためてルールを確認する。
「はい、まず、チームを組む事はOK、何人でもOK。ただし、勝者は最後に残った1人。
つまり、私たち相手に敵が殺到する事は明らかだわ。チャットで位置情報の共有もされるかもしれない。だからこそ……」
「幻術……ですね、しかも幻想顕現魔術だから、いざ攻撃するまで偽物とは気付かれない……」
そう、ここは完全にサナに任せる。
幻想顕現魔術で俺たちのダミー、デコイを作ってもらうんだ。
「さすがサナだな、世界一の魔術師は伊達じゃない」
サナは得意げに口角を上げる。
「当たり前よ!……で、できるだけ、最後の最後、禁止ゾーンが縮まるまで交戦は避けたいんだけど……」
「そりゃあ、戦うメリットもないしな、それでも戦いたい戦闘狂はいるんだろうけど」
「はあ……イデアは、無視よ。あんなヤツ、勝っても負けてもただただ体力を浪費するだけなんだから」
「場所は……どうします? 村は禁止ゾーンですから、どこかで野宿する事になりますが……」
センの問いに、一瞬思考を巡らせる。が、その時、サナがあらかじめ考えていたかのように急に提案する。
「黒の家なら、禁止ゾーンにはなってないわよ。いくら栄養は獲得できるとはいえ、腹が減っては戦はできぬ、でしょ、白?」
「……そりゃあそうだが、黒の家に泊まり込むのか……俺たち3……いや5人で」
サナも、あろう事かそれまで無言だった丸っこい魔族のヤツと獣人の少女も、めちゃくちゃ笑顔で、それも今にも「うん」と言いそうな顔でこちらを見つめてくる。
……なるほど、すまん黒、めちゃくちゃ迷惑かけるわ~。
◆◆◆◆◆◆◆◆
そうして、高らかに開戦の笛は鳴り響いた。
西大陸内全358ヶ所から鳴り響いたその笛は、どこにいようと聞こえるものであり、その大会の大きさを指し示すには申し分ない物であった。
あちこちにて再建され始めた村は、この大会内においては禁止ゾーンで、1つ1つ巨大な魔力障壁で覆われている。
……しかし、その1歩でも外に出れば、魔術師の闊歩する戦場が待ち構えている。
1日目。
とりあえず、出来る限り交戦しないよう黒の家に向かう。
……と言っても王都よりはかなり離れており、今日1日のみで着くとは思いがたい。
だからこそ、人混みを避けてひっそりと、隠密行動を取る必要があった。
はっきり言って癪だが、これもセンの賞金の、そして強いヤツと本気で戦うためだ、今は我慢我慢……
「おい、アイツら倒せそう、倒さなくていい、の……?」
細い木の林の影に隠れながら、ひっそりと歩いていた時、俺の服をグイグイと引っ張りそう聞いてきたのは、獣人の少女、くいな。
センによれば、コイツはセンについてきた訳じゃなく、コックについてきただけらしいが、正直めちゃくちゃ強い戦力にはなれるだろうから連れてきた、との事。
「……もういい、アイ、倒しにいく……」
……あれ?
コイツ本当に戦力……?
「待て待て待て待てえっ、おい! さっき交戦は控えようって言ったばかりだろ! なんでそんなに戦いたがるんだよっ!」
小声ながら精一杯の声で叫ぶ。
「たたかわない……? たたかうの、ダメ……?」
……宝石に寸分違わぬようなつぶらな瞳でこうも見つめられると、やっぱりどーしても許してしまいそうな……ってダメに決まってんだろ!!
その時であった。
「……くいなちゃん、考えて頑張ろうとしてくれた事は嬉しいけど、もうちょっと我慢しようね?」
……この中で、パーティメンバーで唯一女性(機械は除く)であるサナの母性が炸裂したのであった。
思わずこっちもうっとりしてしまいそうなその声には、流石のくいなも食い下がらざるを得なかった。
「うん……アイ、我慢する……」
……ふと思ったのだが、コイツの一人称、「アイ」とかいう変な一人称なんだよな……最初聞いた時は何言ってんだコイツ、ってなったが。
……そんなこんなありながらも、何とか接敵なしで黒の家に到着。……が。
「ここ……数時間前から人がいないでヤンスね……」
と異変を口にしたのは、ドワーフのヤンスだった。
「ヤンス、わかるの?」
「匂いで分かるでヤンス。結構自慢の得意技なんでヤンスよ」
「下等、なドワーフ、にも……有用な点が……存在、した」
「誰が下等でヤンスか?!」
食い気味に憤慨するヤンスを横目に、サナに質問する。
……それは、ある疑問点について。
「人がいない……つまり、黒は数時間前にどこかに行った、って事かよ?」
「……白、最悪の敵が増え……いや、大丈夫か、黒さんはこんな大会に参加しそうにはないし、多分どこかに行ってるんでしょ、知らないけど」
「だよな、よりにもよって黒は参加なんてしないよな……!……って事で、食糧はいただいていきますね……」
「白、は……クズ、不在の人の、家……から、盗むのは、下等の証……」
……さりげなく、実に自然に罵倒が飛んできた事に関しては無視を決め込もうと思う。
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