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激震!勇魔最終戦争…!
準備期間
しおりを挟む「……へへ、ただいま、サナ」
霞んだ視界に、その白い肌を捉える。
「おかえり。……家族みたいじゃないの、恥ずかしい」
……いいや、少しばかり……その頬は赤に染まっていた。
「な……サナ……と、アレンがいい感じ、だと……?」
夜明けが訪れる。
暗黒は消え失せ、世界に、空に虹がかかる。
……それでも、失った者は戻らない。
「…………あ……っ、黒……」
「……黒さんが、どうし———」
「黒、だと?」
泣いた。
自然と、自覚はなかったのに、唐突に。
自分の真下の地面に落ちたその涙は、どこからともなく突然現れた。
それは、やっとこそ掴み取った勝利による、嬉し涙だろうか。
それとも、最後の最後にて、最高の師匠を失った、悲しみの涙であろうか。
「やったよ、黒……俺たちは……勝ってみせた……あの災厄の相手に……そして手に入れた、この空を……未来を……!」
「……そうよね、あの幻想的すぎた最後の魔法、そして白の最後の一撃。最後の共闘。
黒さんにも見せたかった……よね。ここにもいない、王都にもいないって事は……」
「———ということは……貴様らも……分かってるんだろ、アイツは……死ん……」
「あの程度で死ぬくらいなら、師匠失格……かもな」
振り向けば。
俺たちをここまで送り届けてくれた、師匠の人影が、見えた気がした。
目を擦る。
蜃気楼かと、分かりきっていた事を認識する。
もしかしたら人界王によるなりすましかも、と訳の分からないことも考える。
もう一度、振り向く。
振り向けば。
俺たちをここまで…………?
「黒…………お前、生きてて…………?」
「……いやあ、1回死んださ。……でもな、意識がちぎれる最後に、声が聞こえたんだ。お前ら2人のうるさい声がな」
「黒……貴様……アレンと会っていたのか?!」
あまりの出来事に驚愕した兄さんが、黒に対し質問していた。
———え、兄さんと黒って…………知り合い?
そりゃあ黒は神殿国の関係者だから知ってたかもしれないが……そんなに驚くことだったか……?
「おう。俺はコイツらの師匠として、……まあ色んなことを教えてきた訳だ。……それでも、この物語を、神話を作ったのは、お前らだがな」
嗚呼、神様。
『もしも願いが叶うなら、一緒に居たいと思える人と、一緒に居られる世界を、作ってください』
いつか願った、あの日の願いの続きは。
たった今、叶ったような……そんな気がした。
そうさ、この物語は、悲劇的なバッドエンドで終わる物語じゃない。
清々しいほどに、都合が良すぎるほどにグッドエンドで終わる、そんな物語だったはずだ。
この物語はここでおしまい。
最も重大な神話は、ここで幕を下ろす。
しかし、まだこれは序章にすぎなくて、
新たな幕は、もうすぐ開ける……訳にはいかないでほしいくらいの。
……そのくらい、最高のハッピー、グッドエンドだった。
みんながみんな笑顔になる。
ほんの数十時間前までは、皆の笑顔が曇っていたはずなのに。
◆◇◆◇◆◇◆◇
英雄は、王都へと帰還する。
戦って、戦って、戦い抜いた英雄たちは、最後には戦う必要のない世界へと飛び込んだ。
人々は、人界王は、彼ら3人のことを英雄と呼ぶ。
……が、この勝利は誰か1人が欠けていれば、誰か1人がもっと早く死んでいたのなら、絶対に掴めていなかった勝利だ。
だからこそ、英雄と認められた3人は、自身たちの偉業を否定する。
そこには混乱もあったし、戸惑いもあった。
けれど、彼らは笑顔だった。
どれだけその偉業を否定しようと、彼らはいつも、笑顔だった。
コックの言った、「大戦の再現」は、最後の最後に失敗した。
なぜなら、あの大戦の後には、本当に何も残らなかったのだから。
けれど、今回は違う。
今回は、みんなが生き残り、みんなが笑顔になれたグッドエンド。
だからこそ、私たちはこの結末を祝う。
なぜなら、もう人類に敵はいないのだから。
********
「白……さん、おかえりなさい……」
既に外壁すらも完全に崩落し。
見渡す一帯、瓦礫で埋め尽くされた王都。
その門を潜り、真っ先に出迎えてくれたのがそう、センだった。
「———ただいま……だ。……よく頑張ったな、セン。お前がいなかったら……全部終わってたんだからな。…………やっぱりお前は、勇者だよ」
「は……はい!」
青空に変わりつつある空を見上げながら。
ここは自分たちが守り、そして自分たちが平和に暮らせる世界、という事実に安堵し、自然と肩から力が抜けてゆく。
———あと、この王都の復興作業をしないといけない———という点でも、肩の力が勝手に抜けてゆく。
「———あれは?」
王都の瓦礫の端。
あまりにも目立たなそうな、影となっている暗い角にその身体をぐったりと垂らしていたのは、どこかで見覚えのある人影。
「……アレは、コックさんですよ。……あの人も色々頑張ってくれたんです、労いの言葉をかけに行っては———」
センのその発言が終わるその前に、俺の身体は走り出していた。
「———コック!」
約束を思い出す。
俺はコイツが……暗い顔をしないようにできたのかな、と。
「……?」
ピク、とその身体が微かに揺れ動く。
……動けないんだよな。
「コック! お前———大丈夫か、身体はどうも———あ」
よく、その身体を凝視する。
露出していた肌からは、更に機械感を増すばかりの灰色の部品が更に露出していた。
よく見れば、左腕が使い物にならないほどにも欠損している。
「マス……ター、私……すこ、し、動けそうには……ないで、す……ね……」
「っああもう、お前は喋るな!……よく頑張ったな、コック———おい、誰かコイツを直してやれねえかっ?!」
その姿はもはや、見るに堪えなかった。
「———無駄よ白、今のこの王都に、コックを直せる人はほとんどいない。……時間をかければ、概念法術で直していけはするだろうけど、当分コックは……このまま」
「サナ、じゃあお前が直———」
「コックさんの修理係———それは僕に任されました!」
「……え、セン?……お前にコイツが直せ———あ」
そう言えば、センは確かに概念法術を使っていた。
そりゃあそうだ、俺の愛刀を直してみせたのもコイツなんだ、心配はいらないはずだ……!
「確かにそうだな、……セン、コイツは頼んだぞ」
「はい! 前より強く仕上げてみせます!」
「———どうすればいいんだろ、私」
それを眺めながら。
1人、サナは呟く。
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