Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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C・C・C(カーネイジ・クライシス・クラッシャー)

「もしも、願いが叶うなら」と、少年は叫ぶ。

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「最後の言葉は、言い残すことでもあるか、クラッシャー!」
「…………のむ」

「た……のむ、助けて、くれぇ……!」

「命乞いか、見苦しい……! 貴様はそうやって、生きようとした者の命を何人も奪ってきたはずだろう…………自分の意思で、悪意で!」

「助けて…………助けてくれ……お願い……だあ……っ……!」




「……ふざけたこと言ってんじゃねえ! お前はサナを殺した……殺したんだよ、俺の目の前で!」


「……すけて…………助けて、くれぇぇえ……っ!」




「……………もう、お前の面なんざ、2度と拝みたくねえ。……だからこそ、牢の中で罪を……償え」
「見……逃……す……のか……?」


「……そうだ、見逃す……っ……!」





 ……一瞬、ヤツを木っ端微塵にしてしまおうか、とも考えてしまった。

 それもそのはず、コイツはサナを殺した。殺したんだ、もう2度と、戻ってくることはない。

 …………でも、クソッタレな気まぐれが、まだ心の中に残っちまってた。
 どんな悪人でも、心を入れ替えれると、そう思っちまった。



 かつての、自分のように。
 悪人かは微妙だが、あの時のレイのように。

 また、気まぐれだ。その時の感情とは何ら関係のない気まぐれだったんだ。






********

 その勇者は、あろうことか、この俺に情けをかけた後、背中を向いて歩き出す。
 この俺に、この俺に、下等生物の貴様が、下等生物の分際で情けをかけ、あろうことか俺を前にして背を向けるだと……?



 魔族でも何でもない、ただのガキに、この俺が、この俺様が……?
 ……この俺は、カーネイジのリーダー、クラッシャーなんだ……!

 カーネイジの、リーダーなんだ、貴様のような、貴様のような腐った勇者とは違うんだ……!

 だからこそ、
 ふざけるな、ふざけるな、そんなもの、そんなもの……願い下げだ……!

「…………ならばぁ…………死ねえっ!!!!」



********

 背後。
 突如放たれた殺気は、猛スピードでこちらへ接近する、が。

「…………期待した俺が馬鹿だった……!」

 その放たれた魔弾を、片手で受け止める。


「こうなったら……逃げるしか……!」
「……どうしようもない馬鹿め!……もう、許さない……絶対に、絶対に……ここで———!!」

 しかし、行手を塞ぐは突如地面より浮き出た無数の鉄の針。

「イチかバチか……投擲で……!」

 落ちていた刀を構え、鉄の針の間から神威を構え、ブン投げる。

「……な……なんだと……刀が……!」

 刀は無事にクラッシャーのその鉄の身体を穿ち、地面に固定する。しかし。

「分離すれば……まだ逃げ道は……『メタル・クライシス』! 俺様の通る道を作れえっ!」

「逃げられる……何としてでもここで……!」

 頭に杭が打たれる。文字通り頭蓋骨が割れる痛み。



 また、あの衝動のような、痺れる声。


『深追いはするな、1度キミの身体は『フェイトシフター』で改変している。もう1度の現実改変は無理だ。今行けば確実に、死ぬ!』

 アダムの……声か……、俺をサポートしてくれているのか……!
 ……だけど、今逃せば……!



「……クソ野郎……っ!!……待ちやがれーーっ!!」




 
「……俺様の勝ちだ……生きてりゃ俺様の勝ちさ……立ち上がろうとしている死に損ないが4人……がしかし、俺の勝利に揺るぎはなし……揺るぎはしないさ……いずれヤツは、は必ずこの手で……殺す……殺して……」








「いいえ、勝つのは……僕です!」

 砂埃すら微動だにしないほど繊細で、なおかつその電撃のような猛スピードで、クラッシャーを蹴り上げていたのは。




「セン、ただ今戻りました……!」

 背に緑の魔力翼を生やし、謎の鎧を着た、センだった。
 まさに、天使のようで。
 それでいて、龍の翼のような壮大な魔力翼。

 決着はついた。
 勝ったのは、俺たちだ。







◆◇◆◇◆◇◆◇


 結果として、王都内部へと入り込めた敵は2人のみであり(ただの兵士とクラッシャー本人)、民間人の犠牲無しでの勝利となった。

 ……民間人の犠牲は、無しだ。
「民間人」は。

 センは……まだ無事だが、兄さん、レイ共に重傷。

 本人もかなりの重症なコックによると、回復の見込みはあり、身体に重大な欠損も見られず、魔力器官も生きているとのこと。


 ……サナは。

 あの時、巨大な鉄の針に貫かれたサナはどうなったかと言うと。


「死んだ……のか。死んだのか、サナは」

「息は……ないです。脈もない。完全に、止まってます。惨いことですが、サナさんは……亡くなって……!」

「マスター……これは私の失態でございます……責任は私が負うべきで…‥」






********
 ……センから見た、白は。




「……なあサナ、責任って、あの時言った責任って、何なのか話してないだろ。

 なあ、お前さ、俺に生きろって、そう願ったよな、だったら何で、先に死ぬんだよ……!」

 その時の白さんは、珍しく悲しい顔で、顔を赤らめ涙を溢れさせていた。




「もっと……もっといい終わり方は……なかったのかよ……な……お前はウィザードだろ……後方支援が役割だろ……! 

 なあ、何でお前は、自分より他人の命を優先するんだよ……口だけじゃ自分の命大事みたいに言うくせに……何でいつも……他人優先なんだよ……!!」



 ……見るにたえなかった。
 いつもの白さんなら、絶対に有り得ない事で。

「いいじゃんか……ちょっとくらい……わがまま言ったって……今だけは生きさせて、お願い、今だけは生きさせてって……!……お前は、色んな人の命を救ってきたんだ、そんなわがままを言う資格だってあるはずだ……!

 なのに、なのに何で、最後の最後までその……くだらない理想に満ちた生き方を……貫いたんだよ……!」




 想いが溢れ出す。
 大粒の涙と共に。

「コックや……センや……そいつらがどうなったっていい訳じゃない……でも、でもお前は、俺を何度も何度も立ち直らせてくれて……だからお前は特別なんだよ……他の仲間の、誰よりも……!」


 白さんなりの告白。
 白さんなりの、想いの伝え方。
 そうか、白さんはサナさんの事が———。


「…………生き返ってくれって無理には言わない。言えない。だけどもし、もしも、もしも願いが…………叶うなら———!」








 それは、あの時、████の終結の際。あの時告げた願いとであり。

『そうか、そこにいたんだね、君の好きな人。……でも、その人は———』


 もしも願いが叶うなら。
 今もしも、1つだけ、何かを代償にしても叶えると言うのなら。


『アースリアクター、同期。代価の魂:<███・セイバー>』



『一時の命だ、所詮次の円環が始まれば元に戻っているとも。

 ———だからここで使ってみようかな、僕も見たいんだ、未だに進み、そしてその未来を生きる君たちの、明日が』




********



 ……だから。

「もう少し、もう少しだけでもいい、いやできるだけ長い時間でもいいから、サナと……一緒にいさせて……ください……!」

 遠く離れた島に位置する「████████」への道を、遠隔でこじ開ける。


 どうやってるかは……俺にも分からない、けど。

 これでアイツが救われるのなら。
 俺はそれで、いいと思ってしまったんだ。
 だから焚べるのは、センの魂でもなく、兄さんの魂でもなく。

「俺の魂でも、何でも焚べる、だから……!」



 変わった。
 何かが。
 その瞬間、何かが。
 凄まじいほどの内部変革。
 目に見て分かるほどの現実改変。



 救ったのは、その少女の命。
 白さんは、変えてみせたんだ、その運命を。

 光に全てが呑まれる。
 自己認識が、境界線が、心と身体の境目が曖昧になる。


 しかし、その中で確実に、もう一度構成された何かが、その形を成す。

「私……生きてる……?……どうして……?」







「サナさんが……生きている……? 死んだはず……」

「……もちろん、私も死んだと思ったけど……私を呼び戻す誰かの声が、白に似ていて、それでいて少し違う、どこか懐かしい声が……」


「…………その白さんは、もう」


********

 皆が皆、全くもって何が起きたか分からなかった。だが。
 白はその命を代償にした。それだけは、確かな事実として分かっていた。


 願いを叶える。それは禁忌の力であるが為に、等価交換だ。
「命」という、この世で2番目に重いものとで。
 だからこそ、白はもうこの世には、いない。



 はず、だった。
 そうでなければ、どんなに良かった事か———と思った瞬間だった。

「……俺、生きてる……?」

 白が願った願いとは全く無関係だった。
 ただ、だけ。



「マスターの生体反応が……消えて……戻った……? 魂源変容度……正常……『アダム・セイバー』が消えている……?」

 未だかつてない事態に、コックは1000年ぶりに「驚愕」した。

 それもそのはず。普通はあり得ない████████への遠隔接続、同期、起動。
 そして焚べたのは、自身の魂ではなくその中に巣食う魂。

 だからこそ白自身は今も生きているから。
 ……いや、でも、難しく考えることはやめにしよう。

 何にせよ、白は生きている。
 それだけで、皆の者にとって嬉しい事実だったのだから。


「……お喜びのところ悪いんですけど……最悪のお知らせが……」




 せっかくのお祝いムードをぶち壊してまで、センの口から語られた話の内容は、皆が皆驚愕せずにはいられないモノだった。
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