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C・C・C(カーネイジ・クライシス・クラッシャー)
幹部襲来 Ⅳ
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◇◆◇◆◇◆◇◆
王城の戦いより2時間。
「……なんだなんだ今度は! 地震……か?!」
王都の宿、その一番大きな部屋を借り、体力の回復を図っていた白たちにも天殺撃の衝撃は伝わる。
「地震……一体、何が……それよりも……王は……ユダレイ王は……」
それまではベッドにて眠っていたレイだが、その地震を感知し飛び起きる。
「ああもう、レイちゃんは眠ってて! 安静にしなきゃダメでしょ!……ハムハム……っ」
休息をとりながらも雑に食糧を頬張る白たちパーティ。
……それもそのはず、逆にアレだけ何も食べず魔力行使やら身体活動ができたのはかなりすごいことなのだから。
「……なあ、レイ。……いや、そう馴れ馴れしく呼んでいいのかは分からないけど……何でそこまでして、王に執着するんだ? お前は……俺に怨みがあってここまで……」
先に食糧を平らげた白が質問する。それもそのはず、その事こそ、白が今の今まで疑問に思っていたところなのだから。
「そう、確かに……私は……私たちは貴様に怨みがあった。だからこその復讐……だからこその戦いだった。……でも」
「俺が……殺したくないって言った……からか?」
「そりゃあ……そうよ。私は、あなたが仮名を付けてまで旅をしている理由に気がついた。……私の勘違いかもしれないけど、あなたが今、正しい事をしようとしてるって事だけは分かった」
「……だからこその、あの涙か」
「……あんまり口にしないで、一応今の私は、人界王直属の騎士。そんな事広められるのは不名誉よ」
「んで結局何でそうなったんだよ」
「それは私が———」
レイの口より語られたのは、2年前———新・二千兵戦争の際の、人界王との邂逅の記憶だった。
聞いて驚いたが、人界王はあの戦争を収めるために、わざわざ現地まで出向いたという。
……そうして、王は瀕死になったレイを助け出し、即座に近衛騎士に任命した———と。
「……俺が……アイツを…………なるほどなぁ、あの王にも、いいところだってあったんだな……」
「親父さんの処刑の件?」
……そういえばそうだった、俺たちは王様に一度処刑されかけたんだった。
「もう根に持ってないさ、それよりも俺は、お前が生きてた事が嬉しかった。……色々と複雑だけど生きててありがとう」
「大量虐殺者が言うセリフかしら、ソレ」
……本当に申し訳ないと思ってます。
「そう言えば白さん、コックさんが未だに帰ってこないんですけど、本当に大丈夫なんですか?」
なんだかんだあって、結局避難せずに帰ってきたセンが質問する。
「大丈夫だって、アイツはひょっこり帰って来るさ、例えば空を飛んで帰ってきたりs……」
ドンガラガラガラガッシャーン。
……どうやら、この推測は当たっていたっぽい。
「……何、コレ……」
壁が崩れ、すぐそこに墜落した何かを皆が凝視する。……アホかよ。
「……な、言っただろ? すぐに帰ってくるって」
「マスター、こんなところにいらして……!」
一面に広がったクレーターの底から、その顔を出したコックが、1人歓喜に打ち震えるが。
横では、憤慨に打ち震えている魔法使いの姿が。
「……だからって、帰ってくりゃいいってもんじゃないのよーーーーっ!!」
つい先日、と言うより今も資金難に追い詰められているサナの、悲痛な叫びが響き渡った。
……そう、もうこれは弁償ものなのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆
んで、コックが帰って……墜落してきて1時間。
「……それで、拉致されたから、壊滅させてきた、だってえ??」
「いえ、マスターの脅威になるかと思い……もしや何か思い至らない点がありまして……」
コックが告げたのは、カーネイジの1拠点を完全に壊滅させたこと、そしてクラッシャー本人と打ち分けたこと。
……むしろ、コックほどのやつでも引き分けにしかならないほどに強いのか、クラッシャーって。
「……いいや、もういいよ、結局その……クラッシャーってヤツは倒せてないのか?」
「私の切り札、『天殺撃』を以ってしても、倒せたかは微妙なところで……」
「どーするサナ、これきっと後数日で攻めてくるぞ、カーネイジの拠点って無数にあるんだろ?」
「早急に対策を……立てないとね。数日で攻めてくるにしろ何にしろ、警戒体制にしておく事に越した事はないわ」
「…………そー言えば、何でサナってそんな命令できる立場なんだ? どっちかと言えば処刑の件で国家反逆者な気が……」
ずっと疑問だったが、やたらと知り合いも多くなってるような……そんな気がする……
「前にカーネイジが攻めてきて、王都が壊滅状態までに追い込まれた時。
白が完全に眠ってた時、私は幹部を倒したその腕を見込まれて魔導大隊の指揮官……って事になったわ。臨時だけどね」
「やっぱお前って凄かったんだな」
最近になってよく実感する。
「やっぱじゃなくて、元から凄かったでしょ?!」
「……はいはい、2年前から凄かったよ」
「なんっでそんな薄情なのよ!」
「……楽しそうだな、白さんたち」
それを横目に見るセンの背後より、忍び寄る魔の手が一つ。
「っ………………!!」
叫び声を上げることすら虚しく、センの心は恐怖に包まれる。
********
これは……人?
人の腕…………なのだろうが、なぜか引きずられる。
魔力反応は……? ここまで邪悪な魔気なのに誰1人気づかない……?
これが……クラッシャー……? でも、アイツならもっと強引にするは……
「喚くな、泣くな、叫ぶな、怯えるな。祈りをもって捧げよ。
……聞こえますか、少年」
耳元で囁かれる、どこまでも虚にして、それでいて包み込むような優しい声。
しかして一瞬にて変わったその口調が、その不気味さを加速させる。
「私の名は……ダークナイト。元魔王軍幹部、その一角です」
ダークナイト……魔王軍の幹部、最後の1人。『撃墜王』とまで称されたその腕は、まさに誰にも負けることはなかった最強……と言っても過言じゃなかったが。
……元? 今コイツは、元って……!
「実は伝えたいことがあって……まず、私は死にました」
……はい?
「正確には、死んだことになっています。魔王軍からしては、ですが。殺したのは白、という事になっているでしょう」
「……」
「それがどうした、という顔ですね、本当は1つ、警告をしにきたのです」
「……っ!」
「魔王軍幹部が全て消え去った今、魔王軍はトランスフィールド諸国含め全世界に宣戦布告を行おうとしています」
「?!」
「……それに、今現在魔王城にいる魔王は、偽の魔王。魔王の意志を反映させたただの影に過ぎません。……本物の魔王は、ニンゲンの中に憑依しています。憑依された本人すら自覚のないまま」
「ぶぐ……」
「大丈夫です、確実に貴方ではありません。貴方ほど魔力が低い者に憑依すれば、その人格が表面に浮かぶまでに死んでしまうでしょうから」
……かなり失礼な事を言われた気がします。
「ですが、ヤツらは分かりません。白郎が魔王かもですし、あの女が魔王かもしれません。貴方には、それを見破ってほしいと協力を頼みに来たわけです、頼めますか?」
口元にて塞がれた手がどかされ、ようやくちゃんと喋れるような状態になる。
「……ぷはぁ、僕に何ができるかは……分からないですけど」
「手段は問いません、何が何としてでも魔王を見つけてください。貴方が心を鬼に染めれば……確実にできるでしょうから。では、さようなら」
途端、拘束が解かれ、重苦しかった空気が急に軽くなる。
何が起きたかなんて正直分かったもんじゃないが、それでも明らかに……何か、大きな異変が迫ってきていることは分かっていた。
……まるで、気付かれずに暗黒を伸ばす影のように。
「白さんたちの中に、いやニンゲンの中に……魔王……が……! それに、魔王軍が全世界に宣戦布告する……僕は一体どうすれば……」
「何をぐずぐずやっているんだ、セン。そろそろ準備の1つでもしておいたらどうだ?」
考え伏していた自分の意識を呼び戻したのは、あまり面識のなかった白さんの兄、イデアさんだった。
王城の戦いより2時間。
「……なんだなんだ今度は! 地震……か?!」
王都の宿、その一番大きな部屋を借り、体力の回復を図っていた白たちにも天殺撃の衝撃は伝わる。
「地震……一体、何が……それよりも……王は……ユダレイ王は……」
それまではベッドにて眠っていたレイだが、その地震を感知し飛び起きる。
「ああもう、レイちゃんは眠ってて! 安静にしなきゃダメでしょ!……ハムハム……っ」
休息をとりながらも雑に食糧を頬張る白たちパーティ。
……それもそのはず、逆にアレだけ何も食べず魔力行使やら身体活動ができたのはかなりすごいことなのだから。
「……なあ、レイ。……いや、そう馴れ馴れしく呼んでいいのかは分からないけど……何でそこまでして、王に執着するんだ? お前は……俺に怨みがあってここまで……」
先に食糧を平らげた白が質問する。それもそのはず、その事こそ、白が今の今まで疑問に思っていたところなのだから。
「そう、確かに……私は……私たちは貴様に怨みがあった。だからこその復讐……だからこその戦いだった。……でも」
「俺が……殺したくないって言った……からか?」
「そりゃあ……そうよ。私は、あなたが仮名を付けてまで旅をしている理由に気がついた。……私の勘違いかもしれないけど、あなたが今、正しい事をしようとしてるって事だけは分かった」
「……だからこその、あの涙か」
「……あんまり口にしないで、一応今の私は、人界王直属の騎士。そんな事広められるのは不名誉よ」
「んで結局何でそうなったんだよ」
「それは私が———」
レイの口より語られたのは、2年前———新・二千兵戦争の際の、人界王との邂逅の記憶だった。
聞いて驚いたが、人界王はあの戦争を収めるために、わざわざ現地まで出向いたという。
……そうして、王は瀕死になったレイを助け出し、即座に近衛騎士に任命した———と。
「……俺が……アイツを…………なるほどなぁ、あの王にも、いいところだってあったんだな……」
「親父さんの処刑の件?」
……そういえばそうだった、俺たちは王様に一度処刑されかけたんだった。
「もう根に持ってないさ、それよりも俺は、お前が生きてた事が嬉しかった。……色々と複雑だけど生きててありがとう」
「大量虐殺者が言うセリフかしら、ソレ」
……本当に申し訳ないと思ってます。
「そう言えば白さん、コックさんが未だに帰ってこないんですけど、本当に大丈夫なんですか?」
なんだかんだあって、結局避難せずに帰ってきたセンが質問する。
「大丈夫だって、アイツはひょっこり帰って来るさ、例えば空を飛んで帰ってきたりs……」
ドンガラガラガラガッシャーン。
……どうやら、この推測は当たっていたっぽい。
「……何、コレ……」
壁が崩れ、すぐそこに墜落した何かを皆が凝視する。……アホかよ。
「……な、言っただろ? すぐに帰ってくるって」
「マスター、こんなところにいらして……!」
一面に広がったクレーターの底から、その顔を出したコックが、1人歓喜に打ち震えるが。
横では、憤慨に打ち震えている魔法使いの姿が。
「……だからって、帰ってくりゃいいってもんじゃないのよーーーーっ!!」
つい先日、と言うより今も資金難に追い詰められているサナの、悲痛な叫びが響き渡った。
……そう、もうこれは弁償ものなのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆
んで、コックが帰って……墜落してきて1時間。
「……それで、拉致されたから、壊滅させてきた、だってえ??」
「いえ、マスターの脅威になるかと思い……もしや何か思い至らない点がありまして……」
コックが告げたのは、カーネイジの1拠点を完全に壊滅させたこと、そしてクラッシャー本人と打ち分けたこと。
……むしろ、コックほどのやつでも引き分けにしかならないほどに強いのか、クラッシャーって。
「……いいや、もういいよ、結局その……クラッシャーってヤツは倒せてないのか?」
「私の切り札、『天殺撃』を以ってしても、倒せたかは微妙なところで……」
「どーするサナ、これきっと後数日で攻めてくるぞ、カーネイジの拠点って無数にあるんだろ?」
「早急に対策を……立てないとね。数日で攻めてくるにしろ何にしろ、警戒体制にしておく事に越した事はないわ」
「…………そー言えば、何でサナってそんな命令できる立場なんだ? どっちかと言えば処刑の件で国家反逆者な気が……」
ずっと疑問だったが、やたらと知り合いも多くなってるような……そんな気がする……
「前にカーネイジが攻めてきて、王都が壊滅状態までに追い込まれた時。
白が完全に眠ってた時、私は幹部を倒したその腕を見込まれて魔導大隊の指揮官……って事になったわ。臨時だけどね」
「やっぱお前って凄かったんだな」
最近になってよく実感する。
「やっぱじゃなくて、元から凄かったでしょ?!」
「……はいはい、2年前から凄かったよ」
「なんっでそんな薄情なのよ!」
「……楽しそうだな、白さんたち」
それを横目に見るセンの背後より、忍び寄る魔の手が一つ。
「っ………………!!」
叫び声を上げることすら虚しく、センの心は恐怖に包まれる。
********
これは……人?
人の腕…………なのだろうが、なぜか引きずられる。
魔力反応は……? ここまで邪悪な魔気なのに誰1人気づかない……?
これが……クラッシャー……? でも、アイツならもっと強引にするは……
「喚くな、泣くな、叫ぶな、怯えるな。祈りをもって捧げよ。
……聞こえますか、少年」
耳元で囁かれる、どこまでも虚にして、それでいて包み込むような優しい声。
しかして一瞬にて変わったその口調が、その不気味さを加速させる。
「私の名は……ダークナイト。元魔王軍幹部、その一角です」
ダークナイト……魔王軍の幹部、最後の1人。『撃墜王』とまで称されたその腕は、まさに誰にも負けることはなかった最強……と言っても過言じゃなかったが。
……元? 今コイツは、元って……!
「実は伝えたいことがあって……まず、私は死にました」
……はい?
「正確には、死んだことになっています。魔王軍からしては、ですが。殺したのは白、という事になっているでしょう」
「……」
「それがどうした、という顔ですね、本当は1つ、警告をしにきたのです」
「……っ!」
「魔王軍幹部が全て消え去った今、魔王軍はトランスフィールド諸国含め全世界に宣戦布告を行おうとしています」
「?!」
「……それに、今現在魔王城にいる魔王は、偽の魔王。魔王の意志を反映させたただの影に過ぎません。……本物の魔王は、ニンゲンの中に憑依しています。憑依された本人すら自覚のないまま」
「ぶぐ……」
「大丈夫です、確実に貴方ではありません。貴方ほど魔力が低い者に憑依すれば、その人格が表面に浮かぶまでに死んでしまうでしょうから」
……かなり失礼な事を言われた気がします。
「ですが、ヤツらは分かりません。白郎が魔王かもですし、あの女が魔王かもしれません。貴方には、それを見破ってほしいと協力を頼みに来たわけです、頼めますか?」
口元にて塞がれた手がどかされ、ようやくちゃんと喋れるような状態になる。
「……ぷはぁ、僕に何ができるかは……分からないですけど」
「手段は問いません、何が何としてでも魔王を見つけてください。貴方が心を鬼に染めれば……確実にできるでしょうから。では、さようなら」
途端、拘束が解かれ、重苦しかった空気が急に軽くなる。
何が起きたかなんて正直分かったもんじゃないが、それでも明らかに……何か、大きな異変が迫ってきていることは分かっていた。
……まるで、気付かれずに暗黒を伸ばす影のように。
「白さんたちの中に、いやニンゲンの中に……魔王……が……! それに、魔王軍が全世界に宣戦布告する……僕は一体どうすれば……」
「何をぐずぐずやっているんだ、セン。そろそろ準備の1つでもしておいたらどうだ?」
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