Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

文字の大きさ
上 下
49 / 256
アーティフィシャル・マインド

私の、マスター/約束

しおりを挟む
 ……言ったはずだ。言ってやったはずだ、悲しそうな顔をやめてくれ、と。

 ———もう、見たくなかったはずだ。
 目の前で、大切な人に死なれるのは……!!

 俺が———俺が信じる剣は、俺が重んじる『雪斬流』は———人を護る剣だろうっ!



 ……そうだよな、何やってんだ、俺は。今は塞ぎ込むより、よっぽどやるべき事が、あるだろう———!

「センっ、1回離れろっ! そいつは俺がやるっ!」

「……待って白さん、後ろからも……!」
「そいつは……私……がっ……食い止める!」

 背後より迫るは、黄色に染まった触手。リーの機体より染み出したソレは、今なお広がり続け、無数の触手として形を成していた……!



 肝心の機体は、まるで操り人形かのように、手足をツタで縛られ宙に浮いており、それでもなお、その顔面はこちらを凝視している。


「ヒェ  、ヘハ  ヘ 、。ヘ  ヘヘ ハ」


 あまりにも不気味な形容しがたい、生物とは思えない奇妙な笑い声。
 不自然にとられた合間が余計にその不気味さに拍車をかける。

「さ、あ! 戦争の、大戦の、[[[[終末戦争]]]]、、、  の。、! 開始で   す!!」



「あいつ……雰囲気が……変わった?」

 先程までの威厳のある物言いは何処かへと消え去り、残されたのは狂気だけであった。


「ソウ  でス白、、  。様!! 私、私私私私。この身体……に、な  、じみマスター!」




「ダメだサナ、もうアイツと対話を試みちゃいけない」
「そのようね……身体が馴染んだ……とはいえ、知性と威厳溢れる元魔王軍幹部が聞いて呆れるわ!」


「おやおやおやおやおやおやおやおや???? 今、今私をバカにしたコケにしました! ですね?」


 支離滅裂もいいところだ、何が起きたかは知らんが、どうやら本当に狂っちまったらしい……!

「……とりあえず、俺はコックを奪還するが……2人とも、それでいいか?」

「ええ、やってやるわよ!」
「僕も……頑張ります……! できる範囲で……!」


「それじゃあ2人は左右に分散して、ヤツの触手のおとりになってくれないか……?」

「物言いだけだと私たちが一番危険そうだけど、本当に危険なのは……正面きってコックを奪取する白だって分かってる?」


「もちろん、だからこそ、俺がやらなきゃいけない……!」

「グレイシアフリーズクリスタルっ!」

 サナが杖を掲げそう叫んだ瞬間、リーの体液で満たされそうになっていた地面は、一面透明な氷で覆われる。



「そ、、、れはっ、はっ!! 私を殺した……! [バカにしたコケにしました]技    で、すすね?!?!?! この[NEW]な!  な、身体に! そんなモの効くと思イマスカ? 答えは[NO]! [NO MORE映画泥棒]!!!!」


 ———映画って何だ?




「センっ! パスよ!」

 サナから、雑にセンの方に放り投げられる魔法使い用の杖。
 ……だが。

「ありがとうございますっ!」

 その効果は絶大であり、ただの爆発魔術クラッシュでも数段上の魔術に引き上がる……!



 2人が両端からじわじわとリーに詰め寄る中、リーの視線を掻い潜り懐へと移動する。

 案外、詰め寄るのは簡単であり、何の困難もなくコックを抱き抱える事ができた。
 ……リーの体液のせいで、かなりヌメヌメしているが。

「サナさんっ、白さんが!」
「ええ、分かってる!」


「モチノロン! 私モ分か  、っておりマスター!.,」




 氷の上を滑り、リーから距離をとり、コックを揺り起こす。

「コック、起きろコック!」
「……私……は……」





 機巧天使は、その光り輝く瞳を開く。

「マスター認証……創造主:ジェネラル・グレイフォーバス……眼前のオブジェクト……登録概念照合……アレン・セイバーと断定…………なぜ? なぜ私はこの人間を知って……」


「さ、、、あ!! さあ、、、、! コックピット、よ!! 現時点統一体当機より伝える。速やかに、眼前の敵を排除せよ。繰り返す、速やかに、眼前の敵を排除せよ。以上…………です!!」



「眼前の敵を……排除。……ならば、死んでくださ———」

 コックの左手が筒状へと変形し、その口端をこちらへ向ける。
 が、コックが何かを撃ち出すより前に、こちらが言ってやった。





「お前の、マスターは!……俺だ!」


 ……と。コックは一瞬戸惑い、発射を躊躇う。

「何を……我がマスターは創造主ジェネラル・グレ———」


「違う、俺が! お前のマスターだ! 俺がお前のマスターになってやる!」

「理解不能。速やかに排除の対象と……」

「うるさい、俺がマスターだ、だから俺の意見を聞け!」

「……発射許可を求め……」



「いいや許さない、俺の話が終わるまで絶対に……!



 ……お前は、今のままでいいのか? 自分が自分じゃなくなる事に、何の恐れも感じないのか?!」



「自分が自分じゃなくなる……推測……現時刻と完成日を照合……誤差、許容範囲外。推測……仮定……もし、私の全てがリセットされているとなれば……?」


「もう1度よく、冷静にアイツを見てみろ、アイツは本当に———お前のマスターなのか?」




********



 導き出した仮定。
 ……がしかし、それがもしも合っているとなれば……?
 記憶にある「虚」「無」の記録ファイルに、私は手を伸ばす。


「マス……ター」

 そこには、思い出の数々。
 もう既に消え去った、過去の自分。その記憶の断片。
 正確には、その消え去った自分ですら、自分とは証明できはしない。


 ……だけど。そこで見てしまった。あまりにもか細い、記憶の断片———の、最後の姿を。……そして。

「マスター、これは……この記憶は、一体……?」


 マスターが、マスターでなくなる瞬間。
 自分が、自分でなくなる瞬間を。
 ……だからこそ、もう1度冷静に、誰の指示も受けず、状況を鑑みる。


「アレは……マスター……では、ない……?」

 その眼に捉えたマスターであったモノの魂。
 魔気は、酷似こそするものの、マスターのソレとは明らかに違い、


「……ならば……マスターは…………誰……?」

 当然の疑問。自分は一体今まで、誰の命令を聞いていた———?

「マスターは……マスターは、どこ? 私の、マスターは……ど……」







「……だからこそ、俺がここにいるんだろ」



 横から聞こえたその声は、自分こそ主だと傲岸にも主張する。

 記憶の断片で見た、その男をマスターと断定する証拠など1つもない。
 だが。

「俺は……約束したんだ、お前と」

 必死に記憶をかき集める。しかし、そのようなモノは発見できず。
「約束」がどのような内容か、など、そんなものは分かるはずもなく。


 それでも、目の前の男は———私に対し訴え続けた。






********

「お前に、悲しい顔はさせない。なぜかは分からないけど、お前が悲しい顔をすると、こっちが無性に腹が立ってくる」


「だから……だから……?」

「お前のマスターは、もういない。とっくの昔にいなくなった。……だからこそ、俺がお前のマスターになってやる」

「貴方が、私の、マスターに……?」
「そうだ」


「……私をいやらしい目でこれでもかと見つめ続けるのは?」

「俺だ」

「嬉々として、私の胸を揉みしだくのは?」

「……俺かも?」

「私に、いやらしい行為を持ちかけるのは?」

「それは俺じゃない」






「………………私の、記憶を、消去、するのは……?」


 それまで、あくまで機械的に、淡々と話していたコックは、突然目に涙を浮かべそう問うた。


 ……だが、答えは1つ。もう決まっているだろう。

「俺は……そんな事、しない。お前の、お前が悲しい顔になるような事は、決して。それだけは約束する、だから力を、力を貸してくれ……!」


「———契約、成立……です。後悔させないでくださいね、マイマスター……!」
しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

グレイス・サガ ~ルーフェイア/戦場で育った少女の、夢と学園と運命の物語~

こっこ
ファンタジー
◇街角で、その少女は泣いていた……。出会った少年は、夢への入り口か。◇ 戦いの中で育った少女、ルーフェイア。彼女は用があって立ち寄った町で、少年イマドと出会う。 そしてルーフェイアはイマドに連れられ、シエラ学園へ。ついに念願の学園生活が始まる。 ◇◇第16回ファンタジー大賞、応募中です。応援していただけたら嬉しいです ◇◇一人称(たまに三人称)ですが、語り手が変わります。  誰の視点かは「◇(名前)」という形で書かれていますので、参考にしてください ◇◇コンテスト期間中(9月末まで)は、このペースで更新していると思います  しおり機能で、読んだ場所までジャンプするのを推奨です…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

噂(うわさ)―誰よりも近くにいるのは私だと思ってたのに―

日室千種・ちぐ
ファンタジー
身に覚えのない噂で、知らぬ間に婚約者を失いそうになった男が挽回するお話。男主人公です。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...