Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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機神降臨/ガイア・コンソール

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 猛スピードで木々の間を駆け抜ける。
 やはり、ヤツに勝つには 神剣神威が無ければ無理に決まっている……!
 まだ鍛冶屋があるといいのだが……!



 木々の隙間を抜け、ようやく村に到着する。

「……よかった……!」

 ……いや、上空の謎の鉄の球体。

 そこから降り注ぐ謎の人影と、奥の方で戦っている魔王軍、そして村から逃げ出してゆく人々を見れば、とても良い状況とは言えないのだが。


 開いてるとは思えないが、鍛冶屋に赴き、引き戸を開け、すぐにでも刀を取……

「……セン? 何でお前が……いるんだ?」

 俺の刀を木の板の上に置き、何か呪文のような、空に浮かぶ文字を刀に与えている……?

 まさか、これが概念付与だって言うのか……?

「……あ、白さん、今概念付与をしてますのでちょっと待っ……」

「いや、だから何でお前は村に残っているんだよ、外の状況を見てみろ! どうなっても……」

「外の状況は見ました。だから僕はここにいるんです。白さん、あなたに、全てをひっくり返してもらう為に。

 ……他の住民は全員避難しました、残ってる民間人は———僕だけです」



「……まさか、神威を完成させようってのか……?」
「———それが、頼みの綱ですから」

 何を言ってるんだ……! 頼みの綱って……この状況で言えるのか?!

「つまりさ、俺はその概念付与が終わるまで……」

「———まあ、戦えませんよね」

 ……ちょっと待ったセン、それはそれでかなり足を引っ張っているような気がするんだが……?!

「……はい、概念付与は終わりました」

「もう終わったのか?! 結構早———」

「じゃあ次は概念を白さんに馴染ませないといけないので……白……さんはこの刀に触れて、そのまま動かないでください」

「動かない……って、センはもう自由だけど俺はここで……足止め?」

「……まあ、そうなりますよね」

「……おいおい、それって敵が来た時どーするんだよ」

「無抵抗で……死ぬしかない?」

「マジかよおおおおおおおおおおおおお!!」

「っと、とりあえず早く刀に触れて下さい、善は急げです! 刀に触れたら、後はそのまま刀に集中して、刀の中に入るイメージでお願いします!」

「お……お願いします……って、……まあとりあえずするしかないか」

 鍛冶屋の畳に下駄を脱いで上がり込み、正座をして刀に触れる。

「これでいいの……か?」
「はい、そのままで。概念が馴染んだらなんかそれっぽい感覚がする……と思うので、それまでそこで待機です白さん」

 ……外が一体どうなっているのだろうか。
 はっきり言うとそれだけが気になりすぎて集中できない……
 ……とりあえず集中、集中……








********

 一方その頃。
 村の外、木彫りの外壁付近にて。

「誰だ、貴様ら。くだらない鉄の塊なぞ持ち込んで、何が目的だ」

 威圧的な声でそう問い詰めるのは、魔王軍幹部の黒騎士。
 その黒騎士と相対するのは。

「……少し~、ちょっと気になる神気反応があって、来ちゃった!」

 黒い修道服に身を包んだ赤髪の少女。

「神気……つまり貴様らは極東、おそらく帝都山脈オリュンポスの者か。ここは我々の土地だ、お引き取り願おう」

「ん~、そうは言っても~、あたしたちも目的を達成するまで帰れないし~」

「ならば、その魂を土に還すのみだ」

「それってばあたしたちのセリフよ! 魔の道に堕ちた人でなし……さんっ!」

 誰がどう見ようと一触即発の空気。
 先に動いたのは……黒騎士の方だった。

 黒騎士の持つ大剣は、空気ごと眼前の敵、つまり修道服の男やシスターなどを諸共薙ぎ払い、赤髪の少女の腹をも切り裂いてしまった。

 ……切り裂いた。はずだったが。
「……やっぱ痛い、何よレインの奴! 痛みはほとんどないって言ったじゃないの!」

 他の兵士どもは、腹から下を切り裂かれ動かなくなる中で。
 1人ピンピンしており、レインなどという何者かに文句を垂れていた赤髪の少女。

「……どういう……事だ? ヤツは不死身か?」

 途端、少女の断面から肉が少しずつ形成され始める。

「残念……でしたあ! そ~んな簡単に殺されるわけないでしょ!」

 次の瞬間、断面は完全に消えてなくなり、赤く光り形成され始めた少女の下半身が完全に再生しきる。

 ……服までは再生しなかったため、恥ずかしくないのか、と黒騎士は問いたいところであったが。

「……上半身から再生した……のか。どうやら魔術の類でも、神術の類でもないらしい。上半身から再生したという事は、上半身に何か秘密が……?」

 冷静に状況を分析する黒騎士。
 だがそんな黒騎士の頭上には、既に赤髪の少女が舞い上がっており。

「……上か」

「これでおしまいっ!」

 少女は懐から何かを取り出し、それを黒騎士に向かって思い切り投擲する。

 その正体は剣。十字形にデザインされた剣だった。

 黒騎士に向かって飛んでくる3本の十字形剣。だがそれらを的確に見切り、

「無駄だ」

 大剣を片手で振り回し、3本の十字形剣全てを弾き返す。

 瞬間。
 十字形剣は内部から爆発、場は一瞬、閃光に包まれた。

「……嘘でしょ?! いくら偵察用武装とは言え、レベルの低い魔王軍に効かないなんて!」

「くだらん。それが本気か? だとしたら興醒めだ。折角下劣なの、下等な手下を葬れる機会だと言うのに、これでは趣がない」

「言ってくれるじゃない! 魔の道に堕ちたクズに1番言われたくない言葉よ! いいわ、出してあげる、全軍、制圧用武装用意!」

「ならばこっちもだ。魔王軍黒騎士大隊全軍、突撃準備! 腐りきった神の手下を存分に蹂躙してくれようぞ!!」

「———フ、フフ、アハハハハハ! 蹂躙、虐殺されるのはそちら側よ! さあ、地獄のナイトショーを始めましょう!」






 そんなこんなで、外では大乱闘が巻き起こっているわけだが。

 白達の方からすれば、ソレは好都合でしかなかった。



********

「……なあ、セン、これってどれくらいかかるんだ?」

 一旦集中を途切らせ、質問する。

「……えっと、普通の人なら……2時間? くらいですかね」

 マジかよ。と落胆しながらも再度集中する。
 兄さん、仇は絶対にとるからな……!
 ……とれる気がしないけど……!






********


「魔法一斉掃射用意! ヤツらに目にもの見せてやれ!」

 いつもより少しばかり興奮しながらも、的確な指示を出す黒騎士と。


「死ね死ね死ねっ! オマエら雑魚どもは邪魔なんだよっ!」

 いつもより少し……いやかなり熱狂的になって、跳び上がりながら二丁銃を乱射しまくる赤髪の少女。

 互いの軍が互いに殺し合い、戦場は地獄の沙汰となっていた。

「制圧用武装」と題した二丁銃やパイルバンカー、大鎌等の重武装。

「魔力軍」と題した魔力行使専用の人員。

 互いが互いの切り札を出し合い、遂に両軍共に元々の10分の1を切ってしまった。
 それでも尚、リーダー格の2人、黒騎士と赤髪の少女は存命である。


 と。
 少女のポケットから、移動していても気付きそうなくらいの振動が鳴り響く。

 少女はポケットから鉄の機械を取り出し、耳に当てて話す。

「んもう、一体何の用よ! こんな大変な時にっ!」

 ……ソレ鉄の機械に怒鳴りながら。

「何! なんなのレインッ!……え? もう帰っていい? ぃやったーっ!……じゃあねっ!」

 少女は機械のボタンらしきものを押し、機械をポケットにしまいながらも、一言。

「……という訳で、さよなら魔王軍さん! 思ったよりも粘ったから正直ウザかったけど、そんなあなた達ともお別れ! それじゃあバイバ———」


「無事にお別れ、できると思うか? 貴様が出した甚大な我が黒騎士大隊の損害、貴様の身体を以て払ってもらおう」



「何よ身体を以てって、エッチな事でもする気?!」

「……黙ってその首を置いていけ。他の者はどうなろうと知らんが、貴様は別だ、確実にここで殺す。……さっさと……」

「あれれ、まさか上にある機体が見えない感じ?」




 言われた通り、黒騎士が頭上を見上げると、そこには鋼の球体、否、オリュンポス十二神『アテナ』の機神体が浮遊していた。

 下から見下ろした黒く染まった影だったが、そのスケールの大きさは言わなくとも分かるほどだった。

 元より人に作られし神々故、真体が機械仕掛けなのは仕方ない事なのだろう。


 少女は機体より吊るされたアセンダーに乗り込み機体へと舞い上がる。

「『命令』了解。機神アテナ、帰還行動に移る」

 辺り一帯に響き渡った機械音声。








 ……だが。その無駄にデカい図体故に、貴様は今から堕ちる事となる……!

「魔王様。『ガイア・コンソール』の準備はお済みですか」

 遥か遠く、魔王城に居座る上位存在に、テレパシーのようなもので語りかける。

「……できているとも。いつでも、貴様の指示次第で発射するが」



 魔王城。その城の裏側に設置された、24もの超高圧、高密度の魔槍。それら1つ1つが魔王様が手塩にかけて編み出された対神、対世界対星用兵器。

 設置されている場所が場所故に、そしての場所故に人界軍の元へは打ち込めないが、人界軍の王都より遠く離れたこの地なら、精密な射撃も可能となる。

「……発槍」

 その一声で、1つの光の魔槍が、光速でで魔王城より接近し、





 星を穿つ魔槍。その威力は、神の機体をも優に貫く。
 激しく鋭く光る閃光は機体を貫き、そのまま爆散する。


 ……爆砕。
 星を穿つ魔槍をまともに食らった『アテナ』は、悲鳴を、断末魔を挙げる間も無く爆散する。

 清々しい光景であった。まさに極上の花火であった。
 先程まで神だった「ソレ」は、羽根をもがれた鳥のように失墜する。

 直上で舞い上がる無数の火花。まさに朝のように、あたりは明るく照らされた。


「……終わりだ機神の一柱よ。神はいつか堕ちる。今回はその番が貴様だっただけだ」

『アテナ』の神核は……とりあえず回収しておくべきか。



「しかし魔王様、このような場面で『ガイア・コンソール』を使ってよろしかったのですか?」

「……構わない。いずれオリュンポスとも衝突するだろうからな。駒は早めに減らしておいた方がいいであろう」


「……それでは、念動通話を終了させていただきます」

「承知した」



 ……あとに残るは、あの少年。『鍵』を持つ救世主、その抹殺だ。
 とはいえ、残った黒騎士大隊も疲弊しきっており、人員ももはや底をついている。
 ここは……私1人で行くしかないだろう。
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