Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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宿命の対決

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◆◆◆◆◆◆◆◆

 翌日。
「あばばばばばばばばばばぁ!!!」

 ……起床直後から奇声を挙げたのは……俺だ。
 ……というよりも、なぜ奇声を挙げたのかと言われると……



 完全に白に染まりきった意識。
 極楽のような睡眠。
 ……が、そんな時間は、身体に走る電撃と共に終わりを告げた。

 急いで身体を起こし、周りの状況を分析しようとすると、宿の窓に見えたのは勢いよく走り何者かを追いかけるサナの姿。

 サナの姿を視界に捉えた瞬間、先程の電流はサナの魔術だった事に気がつく。

 だがわざわざ電気魔術で俺を起こしたって事は、やはりそれだけのことをせざるを得ない様な状況にサナが置かれていた、という事だろう。

 サナが走って行ったのは……西の森方向の門。
 方角を確認した後、昨日訪れた鍛冶屋に飛び込む。

「爺さん! 昨日の刀は治せたか?!」

 襖の奥を覗くと、未だ集中しながら鉄を叩く爺さんの姿が。

 まだ修理は終わっていない事を理解し、展示物として置いてあった剣を手に取り、西の森へと駆け出した。


 西の森に入ってすぐ、サナの被っていた帽子が落ちていたので、とりあえず帽子を拾い、森の更に奥へと進む。



 ……すると。
「ようやく会えたな、

 聞き慣れた、もう2度と聞きたくなかった声がした。




 ……それよりも俺は、ソイツの接近に気付けなかった。
 4ヶ月前とは何もかも変わっているって事か、イデア!!



「見ろよアレン、この力! 素晴らしい力だと思わないか?」


 溢れ出る紫色の瘴気。
「……なるほど、魔王に媚び売って身に付けた力なんて、兄さんらしくないじゃないか」

「これも全てキサマを倒す為だ、アレン」

「俺の知っている兄さんは、目的の為ならプライドも何もかも捨てるようなヤツじゃなかった筈だ」

「…………今回は別だ……! キサマを倒す為にここまでしてきたんだ……! もうこの勝負を『どうでもいい』とは言わせない……! そして、今日こそ決着をつける……!」

「その前に……1つ聞かせろ」

「くだらん話は後にし……」

「サナは、どこ行った?」


「勝負を邪魔されちゃ困るからな、眠ってもらっているだけだ」

「殺しては?」

「いない。ヤツはこの勝負には関係ない……! さあ、くだらん話は終わりだ……! 殺り合おう、とことんな!!」

 瞬間。
 イデアは急接近し、ついに兄弟の刃が交わる。

 重い。重さも、覇気も、何もかも前の兄さんとは変わってしまっている……!
「どうした! キサマの力はこんなものか!」

「これは……どうでもいいなんて、言ってる場合じゃなさそうだ……!」

 意識を一点に集中させる。
「背水の陣、脚ノ項!」

 すかさず下蹴りを繰り出し、イデアの姿勢を崩すが……!

「効くと思ったか?」

 イデアは足1本で自立し、先程俺が蹴り倒したその左足で、俺の顔を下から蹴り上げる。

「が……っ!」
「フフ、フハハハ! 素晴らしい力だ! 今俺様は、とても清々しい気分だぜ……!」

 その後は剣戟戦。だが、やはりイデアの方が優勢であった。

 ……ならば。
「ふんっ!」
「何っ……!」

 剣に力を入れ、イデアを後退させる。
「背水の陣———」

「妙な事を!」



「———極ノ項!」


 意識は『白の世界』に包まれ。
 感覚を研ぎ澄ます。

 見るのは、聞くのは、感じるのは、目の前にいる、イデアだけだと言い聞かせ、自分自身に錯覚させる……!
「だあああああっ!!」

 突進してくるイデア。だがしかし、やはり動きが一辺倒すぎた。
 おそらくあっちも俺に出会えた興奮で頭に血が上って、冷静な戦い方が出来なくなっているんだろう。

「……止まれ」
「…………なっ?!」

 浮遊法と同じ仕組み。
 相手を魔力で包み込み、その空間、その座標に固定させる技、クロスバインド。
 この極ノ項という、極限の集中状態だからこそ繰り出せる、俺の精一杯の繊細な魔力の使い方。


 ……我ながらまあまあカッコいいネーミングである。


「……落ち着け、兄さん。殺し合いなど、意味はないはずだ、ただただどちらかが死ぬだけだ。こんな無益な戦い、終わりにして……」

「ふざけるな! 無益な……無益な戦いだと……っ! キサマには分からんだろうな、この俺の戦う理由が!」

「分かるわけないだろう、それでも、それでも命の奪い合いだけはやめてくれ、やっぱりどう考えても無駄な……」

「無駄だと? 無駄か無駄か無駄か! やはりキサマはこの戦いを無駄だと言うのか! ならば見せてやろう! この俺の戦う理由を!」


 途端、イデアの奥深くからここら一帯に向けて不可視の魔力が充満する。

 ……まずい、何かまずい、まさか兄さん、そんな技まで習得していたと言うのか……?

 魔力拘束を解き、すぐさま後退する。
「……フフ、そうか、俺様の過去が見たくないと」

を作るつもりだったのか、兄さん」
「キサマには見せてやらないと分からんだろうなと思ってな。なんだ、見ないのか、俺様の過去を!」

 ……そうだ、あの魔力の充満の仕方、アレは魔術領域を展開するつもりとしか思えなかった。

 魔術、魔力領域———展開者にとっての何らかを反映した『世界』を、一時的に魔力で顕現させる強大な魔術。
 そんなものまで使えるようになっていたとは……!

「…………お断りだ、人様の苦悩なんて見なくていい、苦悩なんて自分の分だけで十分だ……っ!」

「そうか、ならば……

 闘いを続けよう……っ!」


 瞬間。頭上に魔力反応……!
 すぐさま頭上に向けて剣を振る。が。


 直後、俺の腹は刀によって貫かれていた。
「…………あ……っ……!」

 悲鳴を挙げる間もない苦痛。

 しかしなぜ、攻撃が当たらなかった?
 頭上を見上げながら剣を振った時点で俺の腹は貫かれていた。と言う事は、
 
 頭上にいたイデアAと、腹を刀で貫いたイデアBは同時に存在していた?


 ……まさか。
 そうか、幻術……! 幻影はすぐに掻き消えた事から、イデアが用いるのは幻想模倣魔術か……!



 刀が腹から抜かれる。
 吐血し、土の一部が赤く染まる。
 見てしまった。

 ……また、「自分███の血」を見てしまった。
 頭に、見知った激痛が走る。

「…………れろ」

「終わりにするぞ、アレン。お前の負け……」
「離……れろっ!」

「なんだと?」
「…………もう、勝負はいい、離れろ、兄さん……!」

「死に際の命乞いか、終わりだアレ……」
「離れてくれって言ってるだろ!」


********


 ……なぜだ?
 なぜアレンはイデアに、離れろと『懇願』するのか、と。

 普通はありえない。

 いくらあのアレンであろうとも命乞いなどせず、最後の最後まで抵抗してみせるはずだと、2年前の戦いの時だってそうだったはずだと。

 なのになぜ、
 なぜ懇願する、アレンが? 離れろと?
 分からない、理屈は分からないが、1度ここで離れた方がいいのではないかと、イデアが決断したその時。




 

******** 

 瞬間。俺の身体は言う事を聞かず、イデアの身体を解体しようと飛びかかっていた。
「なるほど、本気で来るか、アレン!」

「ぐ…………っ!」

「……アレン?」



 必死に衝動を抑える。衝動に呑まれちゃダメだ、コイツは……気軽に目覚めさせていいものじゃ……ない!

 一度後退し、感覚を再度研ぎ澄ます。
 目の前に敵がいようが、目を閉じ完璧に集中しきる。

「目を閉じてでも俺様の攻撃が受けれると、そう言いたいのかアレン! ならば遠慮なくいかせてもらうぞ!」


 振り下ろされる斬撃。
 それを察知し、

「……」

 感覚で避ける。
 思考は冷静になり、完璧に研ぎ澄まされる。
 身体と感覚を切り離し、意識は攻撃を察知する事のみに集中する。

 視覚以外の、空気の流れによる触覚、斬撃による音の聴覚のみを頼りに攻撃を察知し、次の攻撃を繰り出そうとした瞬間にその攻撃をも察知する。

 察知すれば簡単だ。無駄な命令を一切せず、攻撃を避ける事だけを命令すればいい。

 ……俺なりの、「衝動」への対策法。
 しかし、やはり守りにも使える……!

「な……なぜだあっ?! なぜ俺様の斬撃が、一発も……!」

 隙をつき、急接近し、
「…………があっ?!」

 イデアの腹に、とびきりの打撃を食らわせる。

 やはりこの戦闘スタイルには、剣よりも、肉弾戦の方が合っている。いちいち重い鉄の塊を振り回す必要がないからだ……!

「…………ぁ……ああ……あ……!!」

 目を開ければ、そこには腹を抱えうずくまったイデアが。

 ……だが。
「あれ」

 目を開けた瞬間、強烈な立ち眩みと目眩。
『極ノ項』に頼りすぎた反動か……!

 ……まずい、このままじゃ、防御に徹する事はできるが、最終的は押し切られてしまう……!



 やっぱり極ノ項は短期決戦の為の代物だったか……!

「……っ……ぐう、アレ……ぐっ」
 よろけながらもイデアは立ち上がる。

「…………兄さん、話さない方がいいと思……」

「うるさい、うるさいうるさいうるさい! キサマは、何も言わずに徹底的に俺様とやり合っていればそれでいいんだ! 人の事を心配する余裕があるのならかかってこい!」


「……どこまでも、戦闘狂なんだな」

「キサマに言われたくはないぞ……人斬りっ!!」

「兄さんからその名前で呼ばれたのは……初めてだな」

「さあこい、かかってこい! キサマの全力を見せて……」









「何を遊んでいる? 魔王軍黒騎士大隊副隊長、、イデア・セイバーよ」


 突如響き渡る女の声。
 それだけでも心臓を貫かれて殺されてしまいそうな威圧を秘めたその声の主は、黒の甲冑に身を包んだ女騎士。

 ……おそらく、魔王軍幹部、黒騎士だ。
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