Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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新・二千兵戦争

反転/黒幕

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 血を舐めた瞬間。頭がどうしようもない高揚感に包まれる。
 あの時の感覚。
 あの時の快楽。
 ———全て、思い出した。

「背……水の……陣……手ノ項……!」

 目の前にある「エサ」に今すぐにでも飛びつこうとする。
 魔力が流し込まれる。
 刀を握りしめ、腕がはち切れそうなくらいに力を強める。

 そして、1周。
 円を描くように、刀を振る。
 周りを取り囲むエサは、皆腰から崩れ落ちていく。

 ……まあ、腰の下を斬り裂いたのだから、当然のように皆、腰より上半身から落ちていく。


 斬った。
 久しぶりに。
 人を。

「ソウダ、コロせ。モット。オマエのココロのママにコロせ」


 頭の中にもう1人の自分が語りかけてくる。

 うるさい、ウルサイ、ウルさイ。
 頭が頭蓋骨からひび割れ、骨ごと肌がバックリ割れるかの様な激痛が走る。

 でも、頭の中はどうしようもないほど快楽に満ちていた。

 スッと刀を入れた後、骨と骨の間を縫い、丁度関節部分を切り裂いた際の快感。飛び散る血と紅の空模様。

 まさに芸術とも呼べるものであった。
 赤く染まった地面。全てが、俺との好物だった。


 それでも、エサの数にキリはない。
 何度でも、何回でも、斬って、斬って、斬り殺して、斬り刻んで、斬り裂ける。
 絶好の、人斬り日和だった。

 1振り毎にズシャッと鳴る斬撃音と共に、血を吹き出しながら落ちていく上半身。

 たまに飛びかかってくるエサだって空中で解体するし、エサだかりの間を縫って近づいてくるエサも問題なく斬り伏せる。

 全て、全て、全て斬り殺し、蹂躙していく。



 殺戮。虐殺。それが、今の俺にとっては楽しくて仕方なかった。

 目の前のエサを1個1個両断する。あちらにとっては俺に対する復讐のつもりでやってるんだろうが、全くもって雑魚ばかりであった。

 痛みも快感だった。歯を食いしばってなお、耐え難い快感が身を襲う。




 目に移る動くもの、全てがエサに見える。


 ———ふと、目が吸い付いた———サナ以外は。




 ———反転。



 何を、しているんだろう。
 斬り殺してきた手が止まる。足が勝手に後退する。

 俺は、俺は、何してるんだ?
 サナを見た時、ただの一瞬だけ正気に戻った。

 だが、目の前の惨状を目にして、一気に恐怖が自身を襲う。
 なぜ?
 どうして?

 なんで人を斬るのが楽しいと思ってしまうんだ?
 どうして、約束したはずなのに、また殺してしまうんだ?


 その時、またあの声がする。
「キにスルな。コロせ。コロせ。キりコロせ。ジブンのやリたいヨウにシろ」



 ……ダメだ。
 ダメに決まってるだろ、そんなの……!


 改めて、自分の取った行動を振り返る。
 そうだ、俺は———誰も殺さないって、約束したはずなんだ……!

 絶対に、誰も殺さないって……!
 ヤメロ、ヤメロ、やめロ……!



 必死に衝動を抑える。
 自然と涙が溢れ出す。
 今なお、敵を殺さんと震える刀を握りしめた拳を、もう1つの拳で握りしめ押さえつける。


 もう1度、サナの顔を見る。
「やめて、白っ!!」

 必死に叫ぶサナの声。
 そうだ、そうじゃないか。
 聞いてなかっただけで、サナはずっと俺に呼びかけてくれていたんだ……!

 ようやく、周りのコエも聞こえるようになってきた。




「嫌だ嫌だ嫌だ……やっぱり俺死にたくない!」
「こっ……殺すんだろ?!……早く……早く誰か行けよ……!」
「嫌……嫌ぁっ! 私……あんなになっちゃうの……?」




 一時戦況は停滞し、冷静になった敵は積み重ねられてきた死体を見て、ただただ恐怖し戦慄する。
 やっぱり……やめよう。

 こんな事、やめるべきだ。
 俺が言える話なんかじゃないけど。自分から始めておいて、それは虫が良すぎるってもんだけど。

 ……それでも、ここで血に染まらない、話し合いへの道を提示すべきだ……!

「……………………もう、やめないか?」

 敵は皆首を傾げる。
「もう、こんな事、やめに———、」


 言いかけた瞬間。
 耳をつんざく悲鳴が響き渡った。


 目線を上げると。
 縛り付けられた二の腕を刀で貫かれているサナと。

 その横に立って、どうだ、と言わんばかりの姿勢とにやけ顔で立っている赤い服の男。
 1度冷静になった思考が再び沸騰し始める。



「何、…………何やってんだあっ!」

 すかさず身体強化魔術で跳び上がり、サナが縛り付けられている台に向かって着地姿勢をとる。

 その時見えたのが。サナの縛り付けられた台を取り囲むようにして居座っている、赤い服の連中。

 刀を構え、着地と同時に男に斬りかかる。
 男は刀で俺の攻撃をガードする。

「そいつは……そいつは関係ないだろ……! なぜそいつを、サナを……傷つけた!!」

 最初の目的を思い出す。


「へへっ……コイツはお前の大切な女なんだろう? だから傷つける。何か……悪いか? お前だって、さんざん奪ってきたくせして何を……言ってんだよ?」

「だからって……奪わせてなるもんかあっ!」

 一層力を込め、男の刀を押し返す。
 一瞬だけ背後に目線をやる。

「護って———みせるんだあぁぁあっ!」

 刹那。既に俺は、台の下から刀で突き刺そうとしてくる敵の目を潰していた。

 刀を振り抜き、前を向いた瞬間、目線の先から刀が飛び込んでくる。
 すかさず頭を横に振り直撃を回避した後、男の胸を思いっきり突き刺した。


「し……ろ……」

「……大丈夫か、他にケガは?」

「……他はないわよ……大丈夫……」

「そうか、なら……」




 男は息絶えた。それを確認した後、男から刀を抜き、大声で今の感情を吐き出した。


「なあ、もうやめにしないか、こんな事。お前たちだって死にたくはないはずだ。俺だって殺したくはない、虫がいいってのは分かってる! でも、こんな事続ける理由なんてないと思うんだ!」

 ありったけの気持ちを言葉にして叫ぶ。



 少し間が空いた後、1人の青年が叫ぶ。

「そうだよな、それがいい! いくら親や兄弟が殺されたからって、何も殺し合いをする必要はなかったんだ、俺は乗るぞ! 例えコイツがどれだけ信用できなかろうと———」


 言いかけたところで。
 青年の首がすっ飛んだ。

 首には、おそらく何者かに斬られた断面。
 俺は人だかりより上の台にいるってのに、男を斬った何者かの姿も、太刀筋も、何1つ見えなかった……!




「何を、ふざけた事を言っている?」

 先程まで男がいた位置から響き渡る女の声。



「やめる? 殺し合いをする必要はない? そんな訳ないだろう? 私たちは何のためにここに集まった?

 誰の為にこんな事をしている、皆の者よ、もう1度よく考えろ。私たちが今すべき事は、父の仇、母の仇、兄弟の仇を討つ、ただそれだけの事だろう??」

 ……どうやら、黒幕のおでましらしい。
 ———しかし、このドス黒い殺気。
 もはや瘴気と化している周りの魔力。

 コイツらは、魔王軍の息のかかった者たちだ……!
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