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番外編
我が家のバレンタイン
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「柊さん、バレンタインというイベントをご存知ですか?」
「藪から棒になんだ。知っとるわそれくらい」
土曜日の昼前。
遅く起きて二人でソファーに凭れ、ダラダラしながらテレビを観ていたら未散がそんなことを言い出した。
「女性が男性にチョコをあげるという、なんとも羨ましいイベントなんですよ」
「……チョコ、欲しいのか」
「欲しいけど、今回はよく考えたら私達にとって初めてのバレンタインじゃないですか。なので私頑張ってチョコレートケーキ作ろうと思うんです」
「…………!!!」
未散がチョコレートケーキを!!
「お、お前……大丈夫なのか?お菓子作りは適当じゃダメなんだぞ、ちゃんと計量して、レシピ通りに作らないと出来上がらないんだぞ?」
恐る恐る未散に告げるも、
「わかってますって!ちゃーんと本買ってきましたし、昨日こっそり材料も多めに買ってきたんですよ。この通りに作れば出来るなら任せてくださいよ!」
「…………う、うん……」
何だかヤル気満々の彼女にこれ以上何か言うのも悪いな、と思いそれ以上は言うのやめた。
「でね、作ってる間柊さん出掛けててもらってもいいですか?」
「え、あー……成る程。見るなってことね」
「はい。出来上がりをお楽しみに、です!」
いまいち不安だが、まぁ……なんか楽しそうだし、いいか。
出かける支度をしてからキッチンに行くと、未散がケーキの材料やら調理グッズを目の前にしながら、真剣にお菓子作りの本を読んでいた。その様子を見て思う。
……多分、作ったこと……無い……な、これ。
「じゃ、まぁ……頑張れよ」
「はーい。いってらっしゃ~い」
明るく手を振る未散に一抹の不安を抱きつつも、自宅を後にした。
折角の休日だ。それなりに楽しむか。
まず書店に行き新刊のチェック。未散に感化されたわけではないが今まであまり読まなかった漫画も読むようになった。
「柊さん、この漫画を読まずにいるのは人生損してるのと同じことですよ。柊さんの好きなフカヒレを食べずにいるのと同じことなんですよ」
と、未散に言われて試しに読んでみたらハマった。
俺がその漫画にハマったことを知った未散は
「ほーら!!」
と勝ち誇ってたけど。
次は家電量販店。元々家電好きなのもあって、新製品はマメにチェック。特に欲しいものはないけど、調理家電コーナーでふと立ち止まる。
……未散、あいつハンドミキサーって持ってたっけ?チョコレートケーキって……いわゆるガトーショコラか?あれってメレンゲ使うんじゃないのか?(何で知ってる)メレンゲをお菓子作り初心者がノーマルな泡立て器を使って作ろうとすると時間がかかる上に手首への負担半端無いぞ?(だから何で知ってる)
「…………」
一分くらい考えた末、ハンドミキサーを買って帰ることにした。持っていたら実家に持っていけばいいや。
それからカー用品を見たり、服を物色しにいつも行ってるショップを覗いてみたりして、かれこれ四時間くらいは経過しただろうか。
そろそろ帰ってもいいかな。さすがにやること無くなった。
もし未散に「まだダメー」とか言われたら最悪キッチンには入らず、自分の部屋(書斎)に籠ってりゃいいか。
そんな事を考えながら自宅の玄関のドアを開けると、物凄いチョコレート臭が。そしてその匂いの中に明らかに香ばしい匂い……
いやコレ香ばしいってレベルじゃないから!完全に焦げてるから!!
「ちょっ!!未散っ!!大丈夫か(キッチンは)!?」
匂いに動揺して家の中に駆け込むと、俺の顔を見てハッとして「やばい」と小さく呟いた未散がボウルと泡立て器を持ってメレンゲと格闘していた。
「し、柊さん、帰ってくるの早くない?今何時……おわっ、結構経ってる!!」
「四時間は経ってるだろ!ていうか……お前、四時間経ってるのにまだメレンゲってどういう……」
喋りながら視線をキッチンの奥の方に向けたら、何やら黒い物体が目に入った。
……まさか……
「もしかして未散さん。これ……やらかした?」
「うっ」
気まずそうに未散が視線を逸らした。
その物体をよーーく見てみなくてもわかる。無残に黒焦げになりぺしゃっと潰れたチョコレートケーキが……
二つ!!
「未散――!! お前二つも失敗したの!! 何で?」
「わ―――ん!! なんでかわかんないんだけど膨らまないし生焼けなんですよう!! なんで!? ケーキむずい!!」
頭を抱える未散はさておき、なぜケーキが膨らまないのか、そこだ。
「お前、メレンゲしっかり角が立つまで泡立てたか」
「やりましたよー? まさに今泡立ててますけど、ほらこんな感じに」
未散が差し出したボウルのメレンゲをよく見ると確かに角は立っている。だが……
「未散、これじゃだめだ」
「えー、なんで? 角立ってるじゃないですか」
「もっと固くなるんだよ、ボウル逆さまにしても動かない位。丁度いい、ハンドミキサー買ってきたからこれでやってやる」
我ながらいいタイミングでこれを購入したものだ。
半ば意地になって未散の代わりにメレンゲを泡立てる。やはりハンドミキサーは便利だ。あっという間にメレンゲが固さを増す。
「おーーー、早ーい!!しかも私が泡立てたメレンゲより全然固い!」
「これぐらいやらないとダメだろ、ほら、これぐらいになるとボウルを逆さまにしても……」
くるり、とボウルを逆さまにしてみると言った通りメレンゲはびくともしない。
「おお、ほんとだ。落ちない」
「ほら、これでやってみろ。混ぜるときは気泡を潰さないようにゴムベラで切る様に混ぜろよ」
「はーい。なんだか柊さん先生みたいですね」
「……なんでだろな」
お前が頼りないからだよ……
何とか生地はできた。あとはこれを焼くだけなのだが。
「しかし、なんでこんなに焦げてんだ?」
「だって膨らまないから焼きが足りないのかと思って。焼き時間十分位追加しちゃいました」
「……そら、焦げるわ」
レシピ通りに時間と温度設定をしてオーブンに入れて、あとは待つだけ。
「あーーー、疲れた。手首の疲れ半端無いです」
流石に疲れたのだろう、ふらふらと未散がソファーに倒れこんだ。
「そりゃ二つも作れば疲れるだろう。一つ目失敗したときに連絡くれれば良かったのに」
「だって……柊さん追い出してまで作り始めたのに、出来上がらないんじゃ格好つかないじゃないですか。だからなんかムキになっちゃって」
未散はそう言ってむう、と口を尖らせた。
「まぁでも、ここまでして作ってくれたことは素直に嬉しいよ。ありがとな」
「……柊さん……」
少し離れた場所に座っていた未散が、間を詰めて俺にぴたっと寄り添った。
「柊さん好き」
「ん?なんだいきなり」
「でも柊さん、何でケーキの作り方知ってるの?」
「……」
そこに気付いてしまったか……
「実はだな、昔。そうあれは俺が中学生の時だった」
…………
『おい、柊。ケーキ作るぞ』
学校から帰ってきた兄がいきなりそんなことを言い出した。
『はぁ? なんでさ? 今日誰の誕生日でもないだろ?』
『誕生日は関係ない。実はこの前クラスの女子に手作りケーキをもらったんだけど、それが残念な事にあまり旨くなかったんだ。だから、ケーキを手作りで作るのは難しいことなのか検証してみたいんだ』
『…………………………』
『お前が今何を考えているのか大体察しはつく。バカじゃねーの、とか何考えてんだ、だろ』
『わかってるのに何故作る』
『理由は簡単だ。作ってみたい、以上』
『俺宿題が……』
『待て柊、明日は土曜だ。急ぐことはない。宿題なら最悪俺が手伝ってやる。だから今はこっちに集中してくれ。なんせ俺も初めての作業だ、一人じゃ心細い』
『!?』
そんなわけで男二人でケーキを作ることになったのだが、お菓子作りは初めての二人。本を読みながらああでもない、こうでもないと数時間格闘して出来上がったスポンジは、フワフワとは程遠いもの。男二人、その物体を睨み付けながら首を傾げる。
『……おい柊。これで出来上がりなのか』
『そうみたいだけど』
『なんだこれ、固いぞ』
『……やっぱりどこかの工程で間違いがあったんじゃ……』
『もう一回だ、やるぞ柊』
『えええーーー!!』
……
「とまあ、こんなわけで兄貴が納得いくまでケーキ作り付き合わされて。結果的には上手くできたんだけど、その時もやっぱり原因はメレンゲだったんだよな」
「……輝さん、凄いですね……」
流石に未散も引いている。
「凝るからな、あの人……」
さて、話をしているうちに時間が経過しオーブンの焼き上がりを告げるアラームが鳴り響いた。
「さー、今度はどうだ?」
オーブンから鉄板を取り出すと、程よく膨らんだチョコレートケーキが顔を出した。
「うわー、凄い!おいしそう~!」
「大丈夫そうだな。あとは冷えるのを待ってからカットするか」
ふー良かった。なんとか無事に仕上がった。これはこれでいいけど、あとは……
「こっちの失敗したやつ、焦げてるところを取れば食べれるんじゃないか?」
焦げを避けてちょっと端っこの辺りをつまんでみると、味は問題ない。むしろ旨い。
「旨いよこれも」
「あ、それ私が食べます。柊さんはこっちの成功した方を食べて……」
「待て待て。お前一人でこんなに食べれないだろう。俺も食べるから」
「うう……柊さん。今日いやに優しくないですか?なんか怖いです」
怖いってなんだ。
「お前……よくそんなことが言えて……」
未散に若干冷ややかな視線を送ると、「今の嘘今の嘘!」と慌てた未散が抱き付いてきた。
「柊さんたら~。お菓子も作れちゃうなんてどんだけ素敵なんですか。かっこよすぎです!」
「……そう?惚れ直した?」
「はい、凄く!」
どうやら今日一日で俺はかなり株を上げたらしい。
そして夕食の後に上手くできたケーキと失敗したケーキを二人で食べて、そのあとはいつものお決まりのコース。ケーキを食べ過ぎてお腹いっぱいの未散も美味しくいただきましたとさ。
たまにお菓子を作ってまた株を上げるのも悪くないな。
そんな風に思えたバレンタインでした。
「藪から棒になんだ。知っとるわそれくらい」
土曜日の昼前。
遅く起きて二人でソファーに凭れ、ダラダラしながらテレビを観ていたら未散がそんなことを言い出した。
「女性が男性にチョコをあげるという、なんとも羨ましいイベントなんですよ」
「……チョコ、欲しいのか」
「欲しいけど、今回はよく考えたら私達にとって初めてのバレンタインじゃないですか。なので私頑張ってチョコレートケーキ作ろうと思うんです」
「…………!!!」
未散がチョコレートケーキを!!
「お、お前……大丈夫なのか?お菓子作りは適当じゃダメなんだぞ、ちゃんと計量して、レシピ通りに作らないと出来上がらないんだぞ?」
恐る恐る未散に告げるも、
「わかってますって!ちゃーんと本買ってきましたし、昨日こっそり材料も多めに買ってきたんですよ。この通りに作れば出来るなら任せてくださいよ!」
「…………う、うん……」
何だかヤル気満々の彼女にこれ以上何か言うのも悪いな、と思いそれ以上は言うのやめた。
「でね、作ってる間柊さん出掛けててもらってもいいですか?」
「え、あー……成る程。見るなってことね」
「はい。出来上がりをお楽しみに、です!」
いまいち不安だが、まぁ……なんか楽しそうだし、いいか。
出かける支度をしてからキッチンに行くと、未散がケーキの材料やら調理グッズを目の前にしながら、真剣にお菓子作りの本を読んでいた。その様子を見て思う。
……多分、作ったこと……無い……な、これ。
「じゃ、まぁ……頑張れよ」
「はーい。いってらっしゃ~い」
明るく手を振る未散に一抹の不安を抱きつつも、自宅を後にした。
折角の休日だ。それなりに楽しむか。
まず書店に行き新刊のチェック。未散に感化されたわけではないが今まであまり読まなかった漫画も読むようになった。
「柊さん、この漫画を読まずにいるのは人生損してるのと同じことですよ。柊さんの好きなフカヒレを食べずにいるのと同じことなんですよ」
と、未散に言われて試しに読んでみたらハマった。
俺がその漫画にハマったことを知った未散は
「ほーら!!」
と勝ち誇ってたけど。
次は家電量販店。元々家電好きなのもあって、新製品はマメにチェック。特に欲しいものはないけど、調理家電コーナーでふと立ち止まる。
……未散、あいつハンドミキサーって持ってたっけ?チョコレートケーキって……いわゆるガトーショコラか?あれってメレンゲ使うんじゃないのか?(何で知ってる)メレンゲをお菓子作り初心者がノーマルな泡立て器を使って作ろうとすると時間がかかる上に手首への負担半端無いぞ?(だから何で知ってる)
「…………」
一分くらい考えた末、ハンドミキサーを買って帰ることにした。持っていたら実家に持っていけばいいや。
それからカー用品を見たり、服を物色しにいつも行ってるショップを覗いてみたりして、かれこれ四時間くらいは経過しただろうか。
そろそろ帰ってもいいかな。さすがにやること無くなった。
もし未散に「まだダメー」とか言われたら最悪キッチンには入らず、自分の部屋(書斎)に籠ってりゃいいか。
そんな事を考えながら自宅の玄関のドアを開けると、物凄いチョコレート臭が。そしてその匂いの中に明らかに香ばしい匂い……
いやコレ香ばしいってレベルじゃないから!完全に焦げてるから!!
「ちょっ!!未散っ!!大丈夫か(キッチンは)!?」
匂いに動揺して家の中に駆け込むと、俺の顔を見てハッとして「やばい」と小さく呟いた未散がボウルと泡立て器を持ってメレンゲと格闘していた。
「し、柊さん、帰ってくるの早くない?今何時……おわっ、結構経ってる!!」
「四時間は経ってるだろ!ていうか……お前、四時間経ってるのにまだメレンゲってどういう……」
喋りながら視線をキッチンの奥の方に向けたら、何やら黒い物体が目に入った。
……まさか……
「もしかして未散さん。これ……やらかした?」
「うっ」
気まずそうに未散が視線を逸らした。
その物体をよーーく見てみなくてもわかる。無残に黒焦げになりぺしゃっと潰れたチョコレートケーキが……
二つ!!
「未散――!! お前二つも失敗したの!! 何で?」
「わ―――ん!! なんでかわかんないんだけど膨らまないし生焼けなんですよう!! なんで!? ケーキむずい!!」
頭を抱える未散はさておき、なぜケーキが膨らまないのか、そこだ。
「お前、メレンゲしっかり角が立つまで泡立てたか」
「やりましたよー? まさに今泡立ててますけど、ほらこんな感じに」
未散が差し出したボウルのメレンゲをよく見ると確かに角は立っている。だが……
「未散、これじゃだめだ」
「えー、なんで? 角立ってるじゃないですか」
「もっと固くなるんだよ、ボウル逆さまにしても動かない位。丁度いい、ハンドミキサー買ってきたからこれでやってやる」
我ながらいいタイミングでこれを購入したものだ。
半ば意地になって未散の代わりにメレンゲを泡立てる。やはりハンドミキサーは便利だ。あっという間にメレンゲが固さを増す。
「おーーー、早ーい!!しかも私が泡立てたメレンゲより全然固い!」
「これぐらいやらないとダメだろ、ほら、これぐらいになるとボウルを逆さまにしても……」
くるり、とボウルを逆さまにしてみると言った通りメレンゲはびくともしない。
「おお、ほんとだ。落ちない」
「ほら、これでやってみろ。混ぜるときは気泡を潰さないようにゴムベラで切る様に混ぜろよ」
「はーい。なんだか柊さん先生みたいですね」
「……なんでだろな」
お前が頼りないからだよ……
何とか生地はできた。あとはこれを焼くだけなのだが。
「しかし、なんでこんなに焦げてんだ?」
「だって膨らまないから焼きが足りないのかと思って。焼き時間十分位追加しちゃいました」
「……そら、焦げるわ」
レシピ通りに時間と温度設定をしてオーブンに入れて、あとは待つだけ。
「あーーー、疲れた。手首の疲れ半端無いです」
流石に疲れたのだろう、ふらふらと未散がソファーに倒れこんだ。
「そりゃ二つも作れば疲れるだろう。一つ目失敗したときに連絡くれれば良かったのに」
「だって……柊さん追い出してまで作り始めたのに、出来上がらないんじゃ格好つかないじゃないですか。だからなんかムキになっちゃって」
未散はそう言ってむう、と口を尖らせた。
「まぁでも、ここまでして作ってくれたことは素直に嬉しいよ。ありがとな」
「……柊さん……」
少し離れた場所に座っていた未散が、間を詰めて俺にぴたっと寄り添った。
「柊さん好き」
「ん?なんだいきなり」
「でも柊さん、何でケーキの作り方知ってるの?」
「……」
そこに気付いてしまったか……
「実はだな、昔。そうあれは俺が中学生の時だった」
…………
『おい、柊。ケーキ作るぞ』
学校から帰ってきた兄がいきなりそんなことを言い出した。
『はぁ? なんでさ? 今日誰の誕生日でもないだろ?』
『誕生日は関係ない。実はこの前クラスの女子に手作りケーキをもらったんだけど、それが残念な事にあまり旨くなかったんだ。だから、ケーキを手作りで作るのは難しいことなのか検証してみたいんだ』
『…………………………』
『お前が今何を考えているのか大体察しはつく。バカじゃねーの、とか何考えてんだ、だろ』
『わかってるのに何故作る』
『理由は簡単だ。作ってみたい、以上』
『俺宿題が……』
『待て柊、明日は土曜だ。急ぐことはない。宿題なら最悪俺が手伝ってやる。だから今はこっちに集中してくれ。なんせ俺も初めての作業だ、一人じゃ心細い』
『!?』
そんなわけで男二人でケーキを作ることになったのだが、お菓子作りは初めての二人。本を読みながらああでもない、こうでもないと数時間格闘して出来上がったスポンジは、フワフワとは程遠いもの。男二人、その物体を睨み付けながら首を傾げる。
『……おい柊。これで出来上がりなのか』
『そうみたいだけど』
『なんだこれ、固いぞ』
『……やっぱりどこかの工程で間違いがあったんじゃ……』
『もう一回だ、やるぞ柊』
『えええーーー!!』
……
「とまあ、こんなわけで兄貴が納得いくまでケーキ作り付き合わされて。結果的には上手くできたんだけど、その時もやっぱり原因はメレンゲだったんだよな」
「……輝さん、凄いですね……」
流石に未散も引いている。
「凝るからな、あの人……」
さて、話をしているうちに時間が経過しオーブンの焼き上がりを告げるアラームが鳴り響いた。
「さー、今度はどうだ?」
オーブンから鉄板を取り出すと、程よく膨らんだチョコレートケーキが顔を出した。
「うわー、凄い!おいしそう~!」
「大丈夫そうだな。あとは冷えるのを待ってからカットするか」
ふー良かった。なんとか無事に仕上がった。これはこれでいいけど、あとは……
「こっちの失敗したやつ、焦げてるところを取れば食べれるんじゃないか?」
焦げを避けてちょっと端っこの辺りをつまんでみると、味は問題ない。むしろ旨い。
「旨いよこれも」
「あ、それ私が食べます。柊さんはこっちの成功した方を食べて……」
「待て待て。お前一人でこんなに食べれないだろう。俺も食べるから」
「うう……柊さん。今日いやに優しくないですか?なんか怖いです」
怖いってなんだ。
「お前……よくそんなことが言えて……」
未散に若干冷ややかな視線を送ると、「今の嘘今の嘘!」と慌てた未散が抱き付いてきた。
「柊さんたら~。お菓子も作れちゃうなんてどんだけ素敵なんですか。かっこよすぎです!」
「……そう?惚れ直した?」
「はい、凄く!」
どうやら今日一日で俺はかなり株を上げたらしい。
そして夕食の後に上手くできたケーキと失敗したケーキを二人で食べて、そのあとはいつものお決まりのコース。ケーキを食べ過ぎてお腹いっぱいの未散も美味しくいただきましたとさ。
たまにお菓子を作ってまた株を上げるのも悪くないな。
そんな風に思えたバレンタインでした。
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