100 / 100
第三章
第100話『若林音羽という人間は』
しおりを挟む
それから、ルシファーと共に魔王城へ無事帰還した俺は先に帰還していた幹部メンバーと顔を合わせていた。
「へぇー!そんなことがあったんだー!」
「何はともあれ、二人とも無事で何よりだ」
「なかなかスリリングな戦いしてたのねぇ····?」
「だから、あんなに大切そうにウリエルを抱き締めていたんだね」
結果報告という事で、俺はルシファー達に事の顛末を事細かに説明した。事後現場に居合わせたルシファーは納得したように何度もうんうんと頷く。
ベルゼに関しては明らかにホッとしており、すぐ近くのソファに眠るウリエルを柔らかい表情で見つめていた。
「我々はこれから報告会議を開いて、今後の方針を立てようと思うが····オトハくんはどうする?会議に参加するかい?」
執務室のデスクに腰掛けるルシファーは机の上に肘を着いた状態でこちらを見つめる。レッドアンバーの瞳は優しげに細められており、『参加しなくてもいいよ』と言っていた。
報告会議、か····。特に俺が参加する意味ないよな?それ。
俺はもう既に報告を終えているし、会議であれこれ意見出来るほど偉くもなければ賢くもない。一応この世界を救った英雄として会議への参加権は認められているが、俺みたいな餓鬼が今後の方針を決める会議で役に立つとは思えなかった。
俺は会議への参加の有無を尋ねる質問にフルフルと首を振る。
「俺はウリエルを連れて部屋に戻る。ウリエルが目覚めたとき、色々説明しないといけねぇーし。何より、俺がウリエルの側に居たいんだ····」
大切なものを失う恐怖を体験したからこそ、今はウリエルの側を離れたくなかった。自分の守れる範囲内に愛しい少女を置いておきたかったのだ。
ここは魔王城で、ウリエルの命を脅かす存在など居ないというのに····どうしても離れたくない。少しでも目を離したら消えてしまいそうで怖い。
一度俺の目の前で死んだ少女はとても脆く儚い存在に思えた。
可笑しいよな····ウリエルはドラゴンの娘で、俺よりずっと強い筈なのに····。
そう頭では理解していても脳にチラつく赤、朱、紅·····。
吹き出した赤、水溜まりと化した朱、服を染める紅····あのウリエルが殺された光景が脳裏にこびり付いて離れないんだ。
そんな俺の弱々しい本音と不安に駆られる気持ちを察したのか、ルシファー達は余計なことは言わずにただ頷く。
「そうだね。オトハくんにはウリエルと一緒に居てもらった方が良いかもしれない。ベルゼは報告会議や戦争の事後処理で暫くウリエルと一緒に居られないだろうし」
「ウリエルちゃんの精神ケアはオトハに任せた方が良いわね」
「状況説明も直接関係のあるオトハがやった方が何かと便利だしねー」
「私が仕事で一緒に居られない分、ウリエルと一緒に居てやってくれ」
俺はそれぞれの言葉に大きく頷くと、ソファで眠るウリエルをそっと抱き上げた。ルシファー達に軽く会釈して、執務室を後にする。
──────────腕の中でスヤスヤと眠る少女はまだ目を覚まさない。
◆◇◆◇
ウリエルを連れて自室に戻った俺はウリエルをベッドに寝かせ、自分はベッド近くの椅子に腰掛けていた。
スヤスヤと気持ち良さそうに眠るウリエルの寝顔は何度見ても飽きない。
でも····もうそろそろ目を覚ましてくれ。眠っているウリエルも可愛いと思うが、いい加減目を覚まして欲しい。眠っているウリエルを見ていると、本当に生きているのか不安になるんだ····。もしかしたら、このまま一生目を覚まさないんじゃないかって····。
「ウリエル·····」
俺はキングサイズのベッドに体を沈める少女の手を取り、ギュッと両手で握り締める。陽だまりのような暖かさが持つウリエルの小さな手はほんの少しだけ俺を安心させてくれた。
俺は白くて小さい少女の手を親指の腹で優しく撫でながら、眠り続ける紫檀色の長髪幼女に今まで言えなかった胸の内を語る。
「なあ、ウリエル·····俺、お前に伝えたいことがあるんだ。本当は伝えるつもりなんて無かったんだけど····ウリエルが死んだとき、守れなかった怒りと共に“伝えなかった”後悔が押し寄せて来た」
自分が先に死ぬ分には良い。でも、ウリエルが自分より先に死ぬ事だけは許容出来なかった。そして、ウリエルが一度死んだとき─────────伝えなかった後悔が俺を襲った。
先に逝ってしまう者と取り残される者····たったそれだけの違いなのにこんなにも違うなんて·····。
そして、俺は気付かされた。
生きる時間が違うから伝えないのでは無く、生きる時間が違うからこそ気持ちを伝えるべきのだ───────────後悔しないように。
ウリエルが死んだとき感じた後悔は言葉では言い表せないほどの絶望を俺に与えた。
もう二度とあんな思いはしたくない·····!!だから····!!ちゃんと伝えたいんだ!!
──────────俺がウリエルを愛してることを。
「だから、早く目を覚ましてくれ·····!!」
俺はウリエルの手をギュッと握り締め、零れそうになる涙を目を瞑ることで必死に我慢した。喉に熱い何かがせり上がってくる。
くそっ····!!この数時間の間にすっかり涙脆くなっちまった!!
ウリエルが一度死んでしまった影響のせいか、涙腺が緩みやすくなっていた。目尻に浮かぶ涙を必死に堪えながら、少女の小さな手を握り締める。
すると───────────ピクッと小さな手が反応を示した。
「──────────オ、トハ····」
酷く掠れた声だった。
でも、俺はその声が誰のものなのか直ぐに判断出来る。だって、その声は───────────愛する少女のものだから。愛する者の声を聞き間違えるなど、絶対に有り得ない。
俺は顔に皺が出来るほど強く瞑っていた目を開け、その黒目に最愛の少女を映し出した。ベッドに身を沈める紫檀色の長髪幼女がこちらを見つめている。紫結晶の瞳とバッチリ目が合った。
ウリ、エル·····目が覚めたのか····?
まだ本調子ではないのか少し怠そうにしているが、そこに居るのは確かにウリエルだ。俺の事を気遣うように柔らかく微笑み、微力ながら俺の手を握り返している。
たったそれだけの事なのに嬉しくてしょうがない。
「ウリ、エル····ウリエル!!目が覚めたのか!!どこか痛いところとかあるか!?」
「大丈夫だよ。まだちょっと体が怠いけど、平気。それより、戦争はどうなっ·····わわっ!?」
俺は衝動に駆られるまま、グイッとウリエルの手を引き寄せ、幼い少女を腕の中に閉じ込める。傍から見れば俺は幼女にセクハラする変態犯罪者だが、今はそんな事どうでも良かった。
──────────ただ今はウリエルを抱き締めていたかった。
小さな悲鳴を上げつつも、抵抗はしないウリエル。それどころか、俺の背中に腕を回す始末。癖毛に埋もれた耳が若干赤く染まっていた。
これって····もう確信っつーか、言うしかないやつだよな。今を逃したら、多分····もう言えない気がする。勇気と勢いがある今のうちに言っておかないと···。
ヘタレでチキンな俺が素直な気持ちを伝えられる時なんて、そうそうない。このチャンスを逃したら、もう一生言えない気がした。
俺はウリエルの小さな体を抱き込みながら、気持ちを落ち着かせるため『ふぅー····』と息を吐き出す。少し頬が熱いが、今はそれどころじゃなかった。
本当はもっとムードのあるところでした方が良かったんだろうけど····あいにく恋愛経験皆無の俺にそれはハードルが高い。だから、どうか····ムード云々に関しては見逃して欲しい。
俺は逸る鼓動を必死に宥めながら、少しウリエルと体を離し、愛する少女と顔を見合せた。
紫檀色の長髪幼女は照れくさそうに頬を赤らめながら、こちらを見上げている。恐らく、俺もウリエルと同じくらい真っ赤になっていることだろう。
俺はしばらくウリエルと見つめ合うと───────────勇気を振り絞ってこの気持ちを言葉にした。
「ウリエル────────────心の底から愛してる。どうか、俺と結婚を前提に付き合って欲しい」
余計な言葉は挟まず、要点だけを述べたシンプルな告白セリフ。言いたい事や伝えたい事はもっと沢山あるが、根暗陰キャの俺にはこれが限界だった。
やべぇ·····本当に告白しちまった!!これで振られたら、どうしよう!?振られたら、俺ショックでしばらく寝込むぞ!?むしろ、自殺するぞ!?
なんて大パニックを引き起こす俺だったが、俺の不安を取り除くように紫檀色の長髪幼女がニッコリ微笑んだ。照れくさそうに····でも、嬉しそうに『えへへっ』と笑うウリエル。その笑みは俺の心臓をギュッと鷲掴みにした。
っ·····!!可愛い·····!!めっちゃ可愛いんだが·····!?
「へへっ!オトハに告白されちゃった····えへへっ!」
屈託のない笑顔で俺の告白を受け止めるウリエル。言葉にしなくても、ウリエルの返事はもう分かっていた。
それでも言葉が欲しいと思うのは····俺の勝手だろうか?
そんな俺の心情を察したのか、紫檀色の長髪幼女はパシッと俺の手を取り、その手を自身の頬に当てる。熱を持った柔らかい頬はマシュマロのようだった。
「あのね、オトハ──────────私もオトハの事が大好きだよ。だから、その·····こちらこそ、宜しくお願いします!」
俺の手に頬っぺたを擦りつけながら、幸せそうに微笑むウリエルは本当に天使のようだった。
俺の欲しい言葉をくれたウリエルを前に、俺はだらしなく頬を緩める。顔を引き締めようにも、あまりにも嬉し過ぎてそれが出来なかった。
あー·····駄目だ。めっちゃ幸せ。俺、明日死ぬかもしれない。
俺はウリエルの小さな肩に顔を埋め、緩みきった表情を隠す。ふわりと香る優しい花の香りに酔いしれた。
これから先、価値観の違いや生きる時間の違いで色々悩むと思う。苦しむと思う。
それでも俺はウリエルと一緒に居たいと思った。この気持ちは一生変わらない。ウリエルに気持ちを伝えたことも後悔しない。
だって─────────────今の俺はこんなにも幸せなんだから。
俺はこの幸せを噛み締めるようにウリエルの体をただギュッと抱き締めた。
好きな子と両想い。そんなありふれた日常の1ページ。どこにでもあって、ここにしかない物語。
俺───────────若林音羽はここら辺で普通の青年に戻ろうと思う。
英雄でも救世主でもない、ただの若林音羽に。
───────────じゃーな、英雄だった俺!
英雄だった自分との決別を果たした俺はただの若林音羽として、この少女を生涯愛すると誓った。
───────────ウリエル、愛してる。これから先もずっと。
※『無職が最強の万能職でした!?~俺のスローライフはどこ行った!?~』はこれにて、完結です。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
「へぇー!そんなことがあったんだー!」
「何はともあれ、二人とも無事で何よりだ」
「なかなかスリリングな戦いしてたのねぇ····?」
「だから、あんなに大切そうにウリエルを抱き締めていたんだね」
結果報告という事で、俺はルシファー達に事の顛末を事細かに説明した。事後現場に居合わせたルシファーは納得したように何度もうんうんと頷く。
ベルゼに関しては明らかにホッとしており、すぐ近くのソファに眠るウリエルを柔らかい表情で見つめていた。
「我々はこれから報告会議を開いて、今後の方針を立てようと思うが····オトハくんはどうする?会議に参加するかい?」
執務室のデスクに腰掛けるルシファーは机の上に肘を着いた状態でこちらを見つめる。レッドアンバーの瞳は優しげに細められており、『参加しなくてもいいよ』と言っていた。
報告会議、か····。特に俺が参加する意味ないよな?それ。
俺はもう既に報告を終えているし、会議であれこれ意見出来るほど偉くもなければ賢くもない。一応この世界を救った英雄として会議への参加権は認められているが、俺みたいな餓鬼が今後の方針を決める会議で役に立つとは思えなかった。
俺は会議への参加の有無を尋ねる質問にフルフルと首を振る。
「俺はウリエルを連れて部屋に戻る。ウリエルが目覚めたとき、色々説明しないといけねぇーし。何より、俺がウリエルの側に居たいんだ····」
大切なものを失う恐怖を体験したからこそ、今はウリエルの側を離れたくなかった。自分の守れる範囲内に愛しい少女を置いておきたかったのだ。
ここは魔王城で、ウリエルの命を脅かす存在など居ないというのに····どうしても離れたくない。少しでも目を離したら消えてしまいそうで怖い。
一度俺の目の前で死んだ少女はとても脆く儚い存在に思えた。
可笑しいよな····ウリエルはドラゴンの娘で、俺よりずっと強い筈なのに····。
そう頭では理解していても脳にチラつく赤、朱、紅·····。
吹き出した赤、水溜まりと化した朱、服を染める紅····あのウリエルが殺された光景が脳裏にこびり付いて離れないんだ。
そんな俺の弱々しい本音と不安に駆られる気持ちを察したのか、ルシファー達は余計なことは言わずにただ頷く。
「そうだね。オトハくんにはウリエルと一緒に居てもらった方が良いかもしれない。ベルゼは報告会議や戦争の事後処理で暫くウリエルと一緒に居られないだろうし」
「ウリエルちゃんの精神ケアはオトハに任せた方が良いわね」
「状況説明も直接関係のあるオトハがやった方が何かと便利だしねー」
「私が仕事で一緒に居られない分、ウリエルと一緒に居てやってくれ」
俺はそれぞれの言葉に大きく頷くと、ソファで眠るウリエルをそっと抱き上げた。ルシファー達に軽く会釈して、執務室を後にする。
──────────腕の中でスヤスヤと眠る少女はまだ目を覚まさない。
◆◇◆◇
ウリエルを連れて自室に戻った俺はウリエルをベッドに寝かせ、自分はベッド近くの椅子に腰掛けていた。
スヤスヤと気持ち良さそうに眠るウリエルの寝顔は何度見ても飽きない。
でも····もうそろそろ目を覚ましてくれ。眠っているウリエルも可愛いと思うが、いい加減目を覚まして欲しい。眠っているウリエルを見ていると、本当に生きているのか不安になるんだ····。もしかしたら、このまま一生目を覚まさないんじゃないかって····。
「ウリエル·····」
俺はキングサイズのベッドに体を沈める少女の手を取り、ギュッと両手で握り締める。陽だまりのような暖かさが持つウリエルの小さな手はほんの少しだけ俺を安心させてくれた。
俺は白くて小さい少女の手を親指の腹で優しく撫でながら、眠り続ける紫檀色の長髪幼女に今まで言えなかった胸の内を語る。
「なあ、ウリエル·····俺、お前に伝えたいことがあるんだ。本当は伝えるつもりなんて無かったんだけど····ウリエルが死んだとき、守れなかった怒りと共に“伝えなかった”後悔が押し寄せて来た」
自分が先に死ぬ分には良い。でも、ウリエルが自分より先に死ぬ事だけは許容出来なかった。そして、ウリエルが一度死んだとき─────────伝えなかった後悔が俺を襲った。
先に逝ってしまう者と取り残される者····たったそれだけの違いなのにこんなにも違うなんて·····。
そして、俺は気付かされた。
生きる時間が違うから伝えないのでは無く、生きる時間が違うからこそ気持ちを伝えるべきのだ───────────後悔しないように。
ウリエルが死んだとき感じた後悔は言葉では言い表せないほどの絶望を俺に与えた。
もう二度とあんな思いはしたくない·····!!だから····!!ちゃんと伝えたいんだ!!
──────────俺がウリエルを愛してることを。
「だから、早く目を覚ましてくれ·····!!」
俺はウリエルの手をギュッと握り締め、零れそうになる涙を目を瞑ることで必死に我慢した。喉に熱い何かがせり上がってくる。
くそっ····!!この数時間の間にすっかり涙脆くなっちまった!!
ウリエルが一度死んでしまった影響のせいか、涙腺が緩みやすくなっていた。目尻に浮かぶ涙を必死に堪えながら、少女の小さな手を握り締める。
すると───────────ピクッと小さな手が反応を示した。
「──────────オ、トハ····」
酷く掠れた声だった。
でも、俺はその声が誰のものなのか直ぐに判断出来る。だって、その声は───────────愛する少女のものだから。愛する者の声を聞き間違えるなど、絶対に有り得ない。
俺は顔に皺が出来るほど強く瞑っていた目を開け、その黒目に最愛の少女を映し出した。ベッドに身を沈める紫檀色の長髪幼女がこちらを見つめている。紫結晶の瞳とバッチリ目が合った。
ウリ、エル·····目が覚めたのか····?
まだ本調子ではないのか少し怠そうにしているが、そこに居るのは確かにウリエルだ。俺の事を気遣うように柔らかく微笑み、微力ながら俺の手を握り返している。
たったそれだけの事なのに嬉しくてしょうがない。
「ウリ、エル····ウリエル!!目が覚めたのか!!どこか痛いところとかあるか!?」
「大丈夫だよ。まだちょっと体が怠いけど、平気。それより、戦争はどうなっ·····わわっ!?」
俺は衝動に駆られるまま、グイッとウリエルの手を引き寄せ、幼い少女を腕の中に閉じ込める。傍から見れば俺は幼女にセクハラする変態犯罪者だが、今はそんな事どうでも良かった。
──────────ただ今はウリエルを抱き締めていたかった。
小さな悲鳴を上げつつも、抵抗はしないウリエル。それどころか、俺の背中に腕を回す始末。癖毛に埋もれた耳が若干赤く染まっていた。
これって····もう確信っつーか、言うしかないやつだよな。今を逃したら、多分····もう言えない気がする。勇気と勢いがある今のうちに言っておかないと···。
ヘタレでチキンな俺が素直な気持ちを伝えられる時なんて、そうそうない。このチャンスを逃したら、もう一生言えない気がした。
俺はウリエルの小さな体を抱き込みながら、気持ちを落ち着かせるため『ふぅー····』と息を吐き出す。少し頬が熱いが、今はそれどころじゃなかった。
本当はもっとムードのあるところでした方が良かったんだろうけど····あいにく恋愛経験皆無の俺にそれはハードルが高い。だから、どうか····ムード云々に関しては見逃して欲しい。
俺は逸る鼓動を必死に宥めながら、少しウリエルと体を離し、愛する少女と顔を見合せた。
紫檀色の長髪幼女は照れくさそうに頬を赤らめながら、こちらを見上げている。恐らく、俺もウリエルと同じくらい真っ赤になっていることだろう。
俺はしばらくウリエルと見つめ合うと───────────勇気を振り絞ってこの気持ちを言葉にした。
「ウリエル────────────心の底から愛してる。どうか、俺と結婚を前提に付き合って欲しい」
余計な言葉は挟まず、要点だけを述べたシンプルな告白セリフ。言いたい事や伝えたい事はもっと沢山あるが、根暗陰キャの俺にはこれが限界だった。
やべぇ·····本当に告白しちまった!!これで振られたら、どうしよう!?振られたら、俺ショックでしばらく寝込むぞ!?むしろ、自殺するぞ!?
なんて大パニックを引き起こす俺だったが、俺の不安を取り除くように紫檀色の長髪幼女がニッコリ微笑んだ。照れくさそうに····でも、嬉しそうに『えへへっ』と笑うウリエル。その笑みは俺の心臓をギュッと鷲掴みにした。
っ·····!!可愛い·····!!めっちゃ可愛いんだが·····!?
「へへっ!オトハに告白されちゃった····えへへっ!」
屈託のない笑顔で俺の告白を受け止めるウリエル。言葉にしなくても、ウリエルの返事はもう分かっていた。
それでも言葉が欲しいと思うのは····俺の勝手だろうか?
そんな俺の心情を察したのか、紫檀色の長髪幼女はパシッと俺の手を取り、その手を自身の頬に当てる。熱を持った柔らかい頬はマシュマロのようだった。
「あのね、オトハ──────────私もオトハの事が大好きだよ。だから、その·····こちらこそ、宜しくお願いします!」
俺の手に頬っぺたを擦りつけながら、幸せそうに微笑むウリエルは本当に天使のようだった。
俺の欲しい言葉をくれたウリエルを前に、俺はだらしなく頬を緩める。顔を引き締めようにも、あまりにも嬉し過ぎてそれが出来なかった。
あー·····駄目だ。めっちゃ幸せ。俺、明日死ぬかもしれない。
俺はウリエルの小さな肩に顔を埋め、緩みきった表情を隠す。ふわりと香る優しい花の香りに酔いしれた。
これから先、価値観の違いや生きる時間の違いで色々悩むと思う。苦しむと思う。
それでも俺はウリエルと一緒に居たいと思った。この気持ちは一生変わらない。ウリエルに気持ちを伝えたことも後悔しない。
だって─────────────今の俺はこんなにも幸せなんだから。
俺はこの幸せを噛み締めるようにウリエルの体をただギュッと抱き締めた。
好きな子と両想い。そんなありふれた日常の1ページ。どこにでもあって、ここにしかない物語。
俺───────────若林音羽はここら辺で普通の青年に戻ろうと思う。
英雄でも救世主でもない、ただの若林音羽に。
───────────じゃーな、英雄だった俺!
英雄だった自分との決別を果たした俺はただの若林音羽として、この少女を生涯愛すると誓った。
───────────ウリエル、愛してる。これから先もずっと。
※『無職が最強の万能職でした!?~俺のスローライフはどこ行った!?~』はこれにて、完結です。最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
0
お気に入りに追加
2,340
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(33件)
あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
書籍化を考えた場合、もう少し構成、キャラがブレないこと、などなどを考慮した方がいいように思えました。
考えていない場合は申し訳ありません。
よけいなお世話になってしまいました。
自虐ネタが少しくどいです
こちらこそ、最後までお付き合い頂き、ありがとうございます(*´`)
そういうオチもアリですね( ・ㅂ・)و ̑̑面白そう( ˊᵕˋ*)
確かによくよく考えてみると、この物語で一番不幸なの朝日ですよね(笑)