無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

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第三章

第98話『生と死の狭間で幸せを掴む』

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 白い光の粒子となって、消えていく聖剣。俺は目の前の光景に目を疑った。
 何で聖剣が崩壊して·····!?だって、まだ転職ジョブチェンジは解けてない筈じゃ·····!?

『──────────解けてますよ』

「えっ·····?」

転職ジョブチェンジはもう解けています。音羽が依代を破壊した時点で解けてるんです。聖剣が崩壊したのは転職ジョブチェンジが·····いえ、職業そのものが消滅したからです』

 なるほど·····じゃあ、本当に職業の呪いは解けたんだな····。良かった。
 ウリエル、ちゃんとお前の願い叶えたからな。

「なあ、ビアンカ····。今回の消費HPはどうなってんだ?はぁはぁ·····きっと俺もう死ぬんだろ····?」

『っ·····!!それは·····!!』

 良いんだ。分かってるから·····。
お前が消費HPに関して何も言わない時点で自分の死が近いことは理解出来た。だって、お前の性格上、重要事項は先に伝えるだろ?なのにそれをしなかった·····その理由は一つ。俺が死ぬから。
他人の死を伝えるのには勇気がいるもんな。
 それになぁ····自分でも何となく分かるんだ。嗚呼、俺の体もう限界だなって····。
 ミシミシと骨が軋む音、ギュウギュウと萎んでいく臓器、どんどん激しくなっていく動悸·····。俺の体はポーションの副作用と転職ジョブチェンジの影響で壊れていく。その感覚が確かにあるんだ。
 だから、隠さずに教えてくれ─────────。

「はぁはぁ·····俺はあと何分生きられる····?」

『っ·····!!だ、大体あと三分が限界かと·····』

「はぁはぁ····そうか。ありが、とう···はぁはぁ····」

 三分もあれば十分だ。
 俺は痛む体を無理やり押して進む───────向かうは愛しい少女のところ。
どうせ、死ぬなら愛しい少女の一番近くで死にたかった。
 なあ、ウリエル····ごめんな?守ってやれなくて····。あれだけ守るって誓ったのに····結局守られたのは俺だった。本当に情けねぇーよなぁ····。
ごめん····ごめんな?本当にごめんっ·····!!

「でも──────────ありがとう、ウリエル」

 俺を守ってくれて····俺を大事に思ってくれて····俺と出会ってくれて····本当にありがとう。
ウリエルには本当に感謝しかない。
 俺は痛む体を引き摺って、紫檀色の長髪幼女の元に辿り着く。カクンッと力が抜けてその場に膝をついた。その際、床に出来ていた血溜まりがバシャッと飛び散る。
 俺はもはや感覚すらない左手を少女に伸ばした。震える手は少女の頬に当たる。
 もう手に感覚はないと言うのに·····ウリエルの頬が暖かく感じられた。
可笑しいよな?もう俺の手には感覚がないのに····それにもうウリエルは····死んでいるのにっ·····!!なのに何故か暖かく感じたんだ。陽だまりに居るみたいな···そんな優しい暖かさを感じた。

「ウリ、エル····俺な·····」

 俺はゴロンッと少女の隣に転がると、大好きなウリエルの顔に自分の顔を近づける。

「ウリエ、ルと一緒に居られて───────────すげぇ“幸せ”だった」

 そう言って、俺はウリエルの額に自身の額を擦り付けた。某アニメの主人公のように好きな女の唇を勝手に奪うなんてことはしない。例え、それが好きな女の亡骸・・であっても·····。大好きだから、大切にしたいんだ──────────最期まで。
 嗚呼、本当に幸せだった・・・・・。ウリエルのおかげで充実した人生が送れたよ。本当にありが····。

『──────────“幸運児”の能力発動』

 って、おい!!なんだよ!?いきなり!!
今、良いとこなんだよ!!入ってくんな!!
つーか、幸運児の能力って何だよ!?幸運児って、ただの称号だろ!?称号に能力なんかあるのかよ!?というか、自分が“幸運児”の称号を持っていること自体すっかり忘れてたわ!
 一人語り中に突然割り込んできたビアンカ。せっかくのムードがぶち壊しである。

『そんなこと言っていいんですか?その称号の力で音羽もウリエルも助かるかもしれないのに·····』

 はっ!?なんだよ、それ!?詳しく聞かせろ!!
 俺だけなら、まだしもウリエルが助かるとなれば詳しく話を聞かなくてはならない。愛する少女を救える可能性があるのなら、俺はその可能性に食らいつきたかった。

『もう音羽が死ぬまでそんなに時間が無いので簡単に説明しますね。幸運児の能力は再運リベンジラックです。発動条件は心の底から『幸せだった』と思えた時。この能力はその『幸せだった』時を取り戻すために必要なものを与えてくれるものです。その代償に“幸運児”という称号は失われてしまいますが····』

 代償とかはどうでもいいんだよ!!ウリエルが生き返るなら、それで·····!!
おい、ビアンカ!!その幸運児の能力とやらでウリエルを生き返らせてくれ!!俺の事はどうでもいい・・・・・・・・・・から!!

『······です』

 なんて言った?全然聞こえなかったんだが····?

『っ~····!!で、す、か、ら!嫌ですと言ったんです!』

 はっ!?何でだよ!?つーか、お前に俺の願いを否定される覚えなんてねぇーよ!!さっさと言うこと聞きやがれ!!
 良くも悪くもウリエルのことしか見えていない俺はビアンカを毒づく。この時の俺はウリエルを生き返らせる事しか頭になかった。

『─────────じゃあ、音羽を失ったウリエルはどうなるんですか!?好きになった人が死んで···そんな世界でウリエルに生きていけと言うんですか!?両親を失ったウリエルに好きな人も取り上げるつもりなんですか!?』

「っ·····!!」

 それは····でも····だって·····!!
─────────否定の言葉が見つからない。
 好きな女を失った世界で数十分生きただけでもこんなに辛いんだ。俺を失ってこれから先、生きて行くウリエルはもっと辛い筈····。
俺が体験したこの辛くて苦しい数十分をウリエルは一生味合わなければならない。
そう気づいた時、何が正解なのか分からなくなった。
 じゃあ、俺は一体何を願えばいいんだよ·····!?

『そんなの決まってるじゃないですか!!──────────ウリエルも自分も救え!!と願えば良いんです!!この能力に人数制限は無いんですから!!』

 ビアンカの盲点をついた発言にハッとする。
 そうだ····この能力に人数制限はない。救えるのは一人だけとか、そんな制限付いちゃなかった。
 ははっ!そんな事にも気づけねぇーとか····あったま悪いな、俺····!!
 俺は張り裂けそうなほど痛む喉に力を入れ、体の限界を感じながら───────────ただ叫ぶ。

「──────────俺とウリエルを救ってくれ!!」

 ──────────そう叫んだ途端、俺の周囲が眩い光で包まれた。
 この光····異世界に来るとき感じたものと同じだ。
 反射的に目を瞑った俺はこの猛烈な光に懐かしさを覚えていた。と同時に気づく──────────体の痛みが消えていることに。
 これは一体どういう事だ····?俺は死んだのか···?俺の願いは届かなかったのか···?もしかして、俺は····ウリエルを救う可能性を自ら手放してしまったのか?
 考えれば考えるほど、俺の思考は悪い方へと傾く。そのとき、何か暖かいものが俺の頬に触れた。それは俺の頬を撫でるように動いている。
 これは一体·····?

「─────────若林音羽、この世界を救って下さってありがとうございます。この世界の神として、お礼を言わせてください。本当にありがとう。その代わりと言ってはなんですが、貴方の願いは私 月の神セレーネが責任を持って叶えます。なので、安心してください」

 月の神·····?セレーネ····?
って、まさか!?この世界の創造神であるセレーネ様!?えっ!?嘘だろ!?
 動揺する俺の前でクスリと小さい笑い声が響く。

「では、私はもう行きます。貴方に幸運が訪れんことを」

 聞き覚えのあるフレーズが耳を掠める。かと思えば、周囲を取り囲んでいた猛烈な光が一瞬で消え去った。まるで幻だったみたいに····。
 俺は恐る恐る目を開けると、目に飛び込んできた光景に大きく目を見開いた。

「ウリエルの血色が戻ってる····?それに息が····」

 血塗られた衣服や床はそのままだが、血の気の引いたウリエルの顔色に血色が戻っていた。それにウリエルの呼吸音が確かに聞こえる。
 俺は慌てて起き上がると、隣でぐっすり眠る少女を抱き上げた。
失礼を承知で、ウリエルの胸に耳を押し当てる。

「良かった····本当に生きてる····」

 トクトクと聞こえる心臓の音。それは泣きたくなるほど優しかった。
 嗚呼···嗚呼!!本当に生きている!!ここに今、立っている!!ウリエルと一緒に!!
これほど嬉しいことはない!
 俺はウリエルを素早く抱き直し、自分の腕の中に閉じ込めた。その華奢な体をギュッと抱き締める。
 泣きたくなるほど、嬉しい幸運に俺はただただ感謝した。

「ありがとう、セレーネ様····それから、ビアンカも」

 今こうしてウリエルの体を抱き締められるのも、彼女の体温を感じることが出来るのも全て二人のおかげだ。本当にありがとう。
 俺は目尻に浮かぶ涙に知らんふりをし、ただひたすらウリエルを抱き締めた。もう二度と失わぬように、と····。
 嗚呼、俺───────────今、すっげぇ幸せだ。
ウリエルが自分の腕の中に居て、生きている。ただそれだけの事がこんなにも嬉しい。
 俺はそんなちっぽけな幸せをただただ噛み締めていた。
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