無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

文字の大きさ
上 下
96 / 100
第三章

第96話『一人勝ちしようとした罰』

しおりを挟む
 鉛みたいに体が重くなって、意識が暗い闇の奥底に落ちていく中──────────確かに俺は聞こえた。

『────────幕引きはお前がしろ、音羽』

 憎たらしいほど愚かな朝日の声が·····俺には確かに聞こえたんだ。

◆◇◆◇

 俺は倒れる朝日を左腕で支え、クロスボウの本体で朝日の頭を強打した最低最悪の悪女を見つめる。金髪碧眼の美女は物凄い形相で朝日を睨んでいた。
 状況から見て、俺を回復させたのは朝日だな。多分、ユノの黒い本性を見て自分の考えを改めたんだろう。
と言う事は恐らく····俺を回復させた手段はポーション····。
治癒魔法なんて使えない朝日がアイテム以外で俺を回復させたとは考えにくい。
朝日がギュッと力強く握り締めている空の小瓶が何よりの証拠だ。
 大体状況は把握出来た。理解もした。
だから、ここからは────────────楽しい楽しい復讐劇と行こうじゃねぇーか!!

『音羽、復讐心に心を奪われないで下さい!私達の目的はあくまで依代の破壊です!』

 んな事は分かってるさ。
俺だって、馬鹿じゃない。某アニメの主人公みたいに復讐心に捕らわれて、道を踏み外すようなことはしないさ。でも────────────こいつを倒さないことには依代の破壊も出来ねぇーんだよ!
さっきも言ったが、ユノは油断ならない相手だ。実力こそ朝日に劣るものの、人の隙を確実に突いてくる嫌らしい一面がある。朝日と違って、頭も良く機転も利くことから朝日より厄介な相手であることは間違いなかった。
 そんな奴の隙を突いて、依代を破壊なんて·····とてもじゃないが、出来る気がしない。ルシファー達なら、その圧倒的力でごり押す事が出来るかもしれないが、俺には不可能だった。
 それにこの女は謎が多すぎる。
分かっているのはスターリ国の王女って事と名前だけだ。年齢や職業、レベルなどなど····分からないことはたくさんある。
見た目的に職業はシスターや修道女のように思えるが、そうだと言う確証はない。

『そうですね。シスターや修道女などの教会関係の職業を持っていなくても神を信仰する人間は多いですから。服装や彼女の言動だけで職業をシスターや修道女だと決めつけるのは危険かもしれません』

 だよな。
よくよく考えてみれば、俺達はユノのことを何も知らない。相手の職業すらも見極められずに突っ走るのはかなり危険だ。
戦闘中にちゃっかり依代を破壊、なんて甘い考えが通じるとは思えなかった。
 依代の破壊はやっぱり、この女を倒してからだ。きちんと警戒しながら戦えば、ユノに負けることは無い。さっきのような失態はもう二度と絶対に起こさない!!絶対にだ!!
 俺は自分を庇って死んで行った最愛の少女を思い、疼く殺意を必死に宥める。
 本音を言えば、俺はこの女を殺したくて仕方なかった。だって、そうだろう?俺の最愛の女を殺した復讐相手なんだから····。本当は我を忘れ、復讐心に殺意を乗せながら戦いたかった。
 でも、それは許されない。
だって────────────ウリエルが最期に願ったのは己の仇討ちではなく、この世界を救う事だったから。

『オ、トハ····この世界を····救っ、て····』

 俺の最愛の女が最期に残した言葉は·····最期に願ったのはこの世界の救済。復讐なんて、ウリエルは願っちゃいない。心優しいウリエルなら、自分の仇討ちよりも世界の救済を優先する筈だ。
 だから───────────俺は復讐のためではなく、この世界を救うために····いや、ウリエルの願いを叶えるためにユノと戦う!!
それがウリエルが願ったことだから!!

「うふふっ。これは予想外ですわ····勇者様がオトハさんを回復させるなんて····。あの自己中でワガママな方が自分より他人を優先することなんて、あるんですね?」

「その口振りだと、朝日のことは本気で愛していなかったみたいだな」

「ふふっ。さあ?それはどうでしょう?」

 さっきまで物凄い形相で朝日を睨んでいたユノだったが、直ぐに表情を取り繕った。動揺を悟られぬよう、必死に笑顔を作っているが····頬の引き攣りが隠せていない。恐らく、俺が回復することはユノにとって予想外の出来事だったんだ。こいつにとって、俺の回復は最低最悪の誤算。単純な実力だけなら、俺がユノより圧倒的に上だからな。だからこそ、朝日という最大の囮役を使った訳だが····今はそれもない。
俺と一対一の怠慢勝負はユノが圧倒的に不利だった。
 ユノの十八番である、相手の不意を突いて仕留めると言う攻撃は囮や引き付け役が居て初めて成立するもの。ユノ一人で相手の隙を作ることなど、不可能に近かった。
まだ俺とユノが初対面なら、その方法でも通じるかもしれないが、残念ながら俺達は顔見知りの仲。それに俺はユノのことを大分警戒している。
 ユノにとって、この状況はかなり戦いづらい筈だ。勝率も大分落ちている。
 残念だったな、ユノ····。お前が朝日を裏切らなければ、こんな事にはならなかったのに·····。神のお告げとやらに踊らされて、一人勝ちしようとした罰だ。
 俺は床に落ちている魔力銃と短剣を拾い、それらを構えた。

「まあ、お前が朝日を愛していようとなかろうと俺には関係ない。俺が今すべきことはお前を倒して、依代を破壊することだけだ!!」

 俺はクスクスと笑うユノを真っ直ぐに見据え、魔力弾を一つ撃ち込んだ───────────が、何故か弾が弾かれる。
 なんだ!?何で魔力弾が弾かれて·····!?
突然の事で動揺を示す俺にユノは『してやったり』とばかりにほくそ笑む。そして、俺の動揺という名の隙をこいつは確実に突いてきた。

「うふふっ。死に損ないの叛逆者様、今度こそきちんと殺してあげますわ」

「っ····!?」

 動揺で脳内が混乱する俺に向かって、ユノはクロスボウの矢を射抜いてきた。それも、俺の心臓目掛けて····。こいつ、本気で俺を一人で殺すつもりだ。この攻撃から、ユノの意志と決意の固さがよく分かる。
 俺は飛んできた矢を短剣で叩き折ると、数歩後ろに下がった。

「あっぶねぇ·····!!」

「うふふっ。さすがにあの程度の攻撃では倒せませんか。まあ、大体予想通りです」

 ユノは必死に笑みを取り繕って、余裕そうに見せているが、明らかに手が震えている。『予想通り』だと言う言葉に嘘はないが、『そのまま倒されてくれれば良かったのに』という本音が透けて見えた。
多分、こいつも余裕が無いんだ。
 ふぅ····とりあえず、落ち着いて状況を整理しよう。ここで冷静さを失えば、ユノの思うツボだ。
恐らく、ユノは俺に出来るだけ長く·····そして、強く動揺して欲しいと思っている筈。そうじゃなきゃ、俺に勝てないから。だから、ここで切り札を投じてきた。俺の動揺を誘うために·····。
 俺の魔力弾を弾いたものは恐らく結界····。ユノに魔道具を使う素振りが無かったことから、その結界はユノ自身の力で張ったことになる。
と、なると───────────ユノの職業は魔法使いか結界師のどちらかだ。
 魔法使いだった場合、少し厄介な戦いになるが恐らくそれはない。何故なら───────────結界の強度が高過ぎるからだ。
最大火力で撃っていないとは言え、さっきの魔力弾にはかなりの魔力を込めていた。それを並の魔法使いが防げる筈がない。スターリ国随一の魔法使いマージョリーカなら話は別だが、ユノにそんな力があるとは思えなかった。
 なら、考えられる可能性は一つ。
─────────結界師の職業能力による結界の強度向上。
 以前にも言った通り、職業にはそれぞれ職業能力と呼ばれる特典が付いてくる。身体能力の向上や攻撃力アップなどがそれだ。
 だから、結界師に結界強度アップという特典が付いていても全然可笑しくない。
 大して実力のないユノが俺の魔力弾を防げた理由はそれしか思い当たらなかった。
 俺の魔力弾を弾き返す結界師か·····場合によってはちょっと厄介かもな。
 俺は見えない透明な壁に眉を顰めながら、魔力銃の火力調整を行った。
──────────手っ取り早く、魔力銃の最大火力で結界を吹っ飛ばす!
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...