無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

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第三章

第87話『会議終了』

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「─────────これにて、作戦会議を終了する。解散」

 ルシファーの解散宣言と共に俺は腰を上げた。長時間椅子に座っていたせいか、腰が痛い。
 猫背だから直ぐに腰が痛くなるんだよなぁ····肩も凝るし。
 立ち上がった状態で大きく伸びをし、『ふわぁ』と一つ欠伸を零した。最近不規則な生活を続けているせいか、常に眠気が襲ってくる。別に全く寝ていない訳では無いのだが、この眠気はどうにも出来なかった。
 ふぅ·····一旦、部屋に戻って寝るか───────と、いつもの俺なら部屋に直行するところだが、今日はそうもいかない。
 作戦の決行日は明日の朝。
パンドラの箱奪還戦と同様急な話だが、作戦内容を聞かされたのが今日ってだけで、戦の予兆はあったからな。俺からすれば急な話だが、ここ最近ずっと戦の準備に励んできたルシファー達にとっては急でもなんでもない。
 ルシファーの話によると、このあと民達に戦の説明を行うらしい。だから、俺はゆっくり休めと言われた。
 まあ、言われた通りゆっくり休む気はないけどな。明日が作戦の決行日だって言うのに呑気に寝ていられるか。眠るのは最後の追い込みをしてからでも遅くはない。
 とりあえず、練習場へ行くか。
自主練で出来ることなど限られているが、やらないよりはマシだろう。
 そう思い立ち、俺は打ち合わせを始めたルシファー達に背を向けて歩き出した。固く閉ざされた観音開きの扉まで一人トボトボと歩く。
───────────筈だったのだが、背後からもう一人の足音が聞こえた。

「──────────オトハ!部屋に戻るの?」

 そう言って、俺の元へ駆け寄ってきた少女は隣に並んだ。
ふわりと紫檀色の長髪が揺れる。それと同時に優しい花の香りがフワッと香った。
香水などの人工物では絶対作れない香り。自然と心が安らぐ花の香りは優しく、ウリエルらしい。
 歩幅の小さいウリエルに合わせるように歩くスピードを落とした。

「いや、このまま真っ直ぐ練習場に行く」

「えっ?休まないの!?明日、戦なんだよ!?ちゃんと休んでおいた方がいいよ!」

「そんなの分かってるさ。だから、ちょっと自主練したら直ぐに休むつもりだ」

「本当?」

「本当」

 俺の言葉が信用出来ないのか、ウリエルはじーっと俺を食い入るように見つめている。紫結晶アメジストの瞳には俺の顔がくっきり映っていた。
 俺だって、本当は直ぐに休んだ方がいいのは分かってる。戦に備えてきちんと休むのは当然のことだ。戦当日に眠気で判断力や思考力が鈍ったら、危険が更に増す。死ぬ可能性が上がるのは明白だった。
 でも─────────────どうしても、じっとしていられないんだ。
明日が戦だと聞いて気分が高潮しているせいもあるが、ウリエルを守らなきゃと言う責任感が俺を練習場へと突き動かす。少しでいいから、体を動かさないと気が済まなかった。
 俺はこちらを真っ直ぐに見つめてくる紫結晶アメジストの瞳に苦笑し、ウリエルの頭にポンッと手を置く。

「本当にちょっと自主練をするだけだ。直ぐに休む」

 ポンポンッとウリエルの頭を撫で、俺は柔らかい笑みを浮かべた。
 本当に長時間練習場に居るつもりはないんだ。俺だって、最高のコンディションで戦に臨みたいからな。今日は直ぐに休んで、明日に備えるつもりだ。
 そんな俺の気持ちが伝わったのか、ウリエルは固かった表情を和らげる。

「分かった。でも───────────私もついて行く」

「はっ····?」

 このまま引き下がってくれるかと思いきや、予想の斜め上を行く回答を返されてしまった。
 紫檀色の長髪幼女はその透明感のある瞳に俺を映し、キュッと口元を引き締める。『譲る気は無いぞ』とでも言いたげに俺の手首を掴んだ。
 なるほど、そう来たか。これは予想外だ。ウリエルのことだから、直ぐに引き下がってくれると思ってたんだが····まさか、こう来るとはな。
出来ればウリエルには早く休んで欲しいから、断りたいところなんだが····。
 俺の手首を掴むウリエルの小さな手。ギュッと俺の手首を強く握っていた。
 これは断っても意味が無いやつだな。ウリエルは変なところで頑固だから、説得するのは難しい。
 説得に時間をかけるくらいだったら、このまま練習場に連れていった方がいいだろう。無駄な言い争いは時間の無駄だ。

「分かった。でも、俺の自主練を見たところで面白くないと思うぞ」

「そのときは私も自主練するから大丈夫」

 『面白くない』ってところは否定しないんだな····。ちょっとショックかも····。
 自分も自主練すると言ったウリエルは掴んでいた俺の手首を離す。代わりに俺に手を差し出してきた。言葉が無くとも、俺にはウリエルの言いたいことが分かる。
 手を繋ぎたいんだな。
 俺は差し出された小さな手を見下ろし、緩む頬を押さえる。
こうやって、甘えてくれるのは素直に嬉しい。信頼されている証のような気がして、嬉しかった。
 俺は緩む頬を押さえながら、その小さな手を優しく包み込んだ。男の俺なんかより、ずっと小さくて柔らかい手。
 これが────────────守りたいと俺が心から願った命。
 体温の高い子供の手は暖かく、本当に生きているのだと再確認することが出来る。
この暖かい手を····俺は全力で守りたい。
 だから───────────明日は何があっても作戦を成功させてみせる!!
 改めて決意を固める俺の隣で密かに笑うウリエル。俺と手を繋げたことがよほど嬉しかったらしい。

「オトハの手は大きいね」

「そうか?男にしては小さい方だと思うんだが····」

「そうなの?凄く大きいと思うけど····」

「それは多分、ウリエルの手が小さいだけだ」

「えっ!?」

「フッ····大丈夫だ。ウリエルの手も足も直ぐに大きくなる」

 素で驚くウリエルに頬を緩めながら、そう言ってやれば彼女は嬉しそうに微笑んだ。『絶対オトハより大きくなる!』と意気込むウリエルは良い意味で凄く子供らしい。とてもじゃないが、明日戦に行く奴とは思えない。
でも、この緊張感の無さは嫌いじゃなかった。
 ウリエルがすぐ側に居て、俺に微笑んでくれるならそれで良い。それだけで十分だ。
 俺はキャキャッと楽しそうにはしゃぐウリエルを見下ろしながら、会議室を後にした。
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