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第三章
第85話『背負う覚悟』
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自分で言うのもなんだが、俺は結構無理をしていると思う。出来もしないことを無理矢理やっているんだ。辛くないわけが無い。
俺は今まで己の弱さや甘さを何度も何度も殺してきた。
自分の精神に負担をかけながら、俺は人や魔物を殺めてきたんだ。だって、それしか方法が無かったから····。ウリエルを守り、救うにはそれしかなかった。
ウリエルのためなら、心を殺しても良いと思えたんだ。それで己の心が傷ついても····ウリエルが無事ならそれで良かった。
でも、心を殺す行為には限界がある。己を騙し続けられる時間も残り僅か····。
だから───────────俺は“死”を望む。
俺にとって、最高のハッピーエンドはウリエルを守り切って華々しく散っていくこと。これ以上のハッピーエンドは恐らくない。
俺に生き続けるという選択肢はなかった。
「な、なっ····!?オトハくん、君は死ぬつもりだったのかい!?」
「ああ。俺は自分の役割が終わったら、死ぬつもりだ。平和の国で育った俺に殺しは少し刺激が強すぎた····心を殺し続けるのにも限界がある」
「心を殺す·····。オトハはいつも自分の心を殺して、殺しをして来たって訳?」
「ああ。そうじゃなきゃ····弱い俺には殺しなんて出来なかった。自分の中の甘さを殺さなきゃ、ウリエルを守れないと思ったんだ」
「何で言ってくれなかったの!?言ってくれれば····相談してくれればオトハに無理なんかさせなかっ···」
「“俺に無理なんかさせなかった”?ハッ!何馬鹿なこと言ってやがる!アスモもよく分かってるだろ?無理しなきゃ、戦には勝てねぇーんだよ!人を殺さなきゃウリエルは守れないんだ!甘い戯れ言を吐いていられるほど、この戦いは甘くない!!」
俺だって、本当は人なんか殺したくない。なんなら、蟻んこ一匹だって殺したくなかった。
傷つけられる辛さや痛みを知っているからこそ、誰も傷付けたくなかったし、誰も傷ついて欲しくなかった。でも····この世界はそんな甘い戯れ言を吐いていられるほど、優しくはない。
弱肉強食が強く働くこの世界で、殺しを拒絶することは出来なかった。だって、戦わなければ殺されるから····自分も、仲間も。
例え、自分の心が『痛い』と悲鳴を上げようとも、俺はそれでも剣を持つ。奪う側の人間に回る。そうしなければ守れない命があるから。
ウリエルを守るためなら、心も体もどうでも良かった。
「俺はウリエルを守るために心を殺し、敵を斬り伏せる。そして、ウリエルを世界の危機から救えたなら····そこが俺の死に時だ」
もう死ぬ覚悟は出来ている。
俺はこの戦争に勝っても負けても、ここに戻ってくる気はなかった。人族の城で死に絶え、もう二度とここに戻ってくることは無い。
俺がそう決めたんだ。
揺るぎない覚悟を示す俺にこの場にいる誰もが固く口を閉ざす。が──────────ただ一人だけ、声を上げる者が居た。
「オトハ───────────だったら、私が敵を殺すよ。だから、もう心を殺さないで····『死ぬ』なんて言わないでっ·····!!」
「ウリ、エル····」
何でここにウリエルが·····!?
奥に座るルシファーの椅子の影から、ひょこっと姿を現したのは紫檀色の長髪幼女だった。額に小さな角を生やした少女はトタトタとこちらに駆け寄ってくる。紫結晶の瞳は不安げに揺らいでいた。
いつから、そこに····もしかして、最初から!?じゃあ、俺がウリエルの参加に反対してたのも全部見られていたのか····?
『嫌われたら、どうしよう』という感情が芽生える前に駆け寄ってきたウリエルが俺の手を掴んだ。
「私はね····正直人族を幾ら殺しても何とも思わない。人族は憎悪の対象で、殺すのが当たり前だったから····だから、オトハの気持ちは理解出来ない。でも、考えることは出来る。人殺しのない平和な世界で育ったオトハが殺しに対して、どう思ってるのか····抵抗は無いのか····本当は嫌なんじゃないかとか····。色々考えてみたけど、私の想像以上にオトハは辛い思いをしてたんだね····。ごめんね、気づいてあげられなくて····。ごめんねっ····!!嫌なことさせて····!!」
紫結晶の瞳に涙を浮かべたウリエルは今にも泣き出しそうな表情で俺を見つめた。懺悔にも似た、その謝罪は····泣きたくなるほど苦しい。
まだこんなにも小さい子に無理していることを悟られ、謝られる····なんて、情けない···。これは俺の問題で、ウリエルが謝るようなことじゃないのにっ····!元はと言えば、この世界に順応出来ない俺が悪いのに····!!
ウリエルを謝らせてしまった自分に嫌気がさした。
本当····自分が嫌になる。
俺の腕を掴んで目尻に涙を溜めるウリエルに····俺は何も出来ずに硬直する。己の不甲斐なさが嫌で嫌で仕方なかった。
「ねぇ、オトハ─────────私はオトハの剣になるよ!オトハがもう心を殺さなくて済むように····私が人を殺す。そして、オトハを連れて帰る!絶対に!」
「っ·····!!」
「だから、お願い!私を戦争に連れて行って!私はオトハの役に立ちたい!!」
俺を説得するため、必死に言葉を紡ぐウリエルはギュッと俺の腕を握った。
ウリエルが俺の剣、ね·····。
なるほどな。こりゃ、勝てないわ····ベルゼがウリエルの参加を許す訳だ。ここまで真っ直ぐに言葉をぶつけられたら、駄目なんて言えねぇーよ。
俺は『はぁ━━━━━━━』と息を吐き出すと、藤の瞳を潤ませるウリエルに笑いかけた。
「分かった──────────ウリエルの参加を許可する」
「本当!?」
「ああ。だが、ウリエルを俺の剣にするつもりはない」
「えっ!?どうして!?」
どうしてって····男の俺が女の子に守られるなんて、普通に考えて可笑しいだろ。俺は女に守られるほど、やわじゃねぇーよ。それに────────。
「背負う覚悟が出来たからな」
結局のところ、俺は殺しに対する罪悪感や後悔から逃げようとしていただけだ。背負い切れる自信がなくて····逃げたかったんだ。死んで楽になりたかった。
でも───────────それはもうやめた。
俺は生きる。罪悪感も後悔も全部背負っていくって、今決めたんだ。
こんな小さい子にあそこまで言わせたんだ。生き続けなきゃいけねぇーだろ?
俺はウリエルに掴まれている方とは逆の手で彼女の頭を撫でた。
「ウリエル、俺はもう逃げない。ちゃんと背負って生きていく。だから──────────俺の剣としてでは無く、俺の“相棒”として一緒に戦ってくれ」
そう言って、微笑み掛ければウリエルはポロポロと涙を流し始めた。ずっと我慢していた涙が滝のように一気に流れ出す。
「──────────はいっ!!」
嗚咽に混じって聞こえてきた返事は力強く、芯があった。涙で濡れた紫結晶の瞳には強くて純粋な光が宿っている。
涙でぐちゃぐちゃの顔でウリエルは笑っていた。ただ嬉しそうに····。
ウリエル、何度も泣かせてごめんな····。もう泣かせないから。そして──────────必ず守り抜くから。だから、俺の側にずっと居てくれ。
そう願う俺に──────────ウリエルはずっと笑い掛けてくれていた。
俺は今まで己の弱さや甘さを何度も何度も殺してきた。
自分の精神に負担をかけながら、俺は人や魔物を殺めてきたんだ。だって、それしか方法が無かったから····。ウリエルを守り、救うにはそれしかなかった。
ウリエルのためなら、心を殺しても良いと思えたんだ。それで己の心が傷ついても····ウリエルが無事ならそれで良かった。
でも、心を殺す行為には限界がある。己を騙し続けられる時間も残り僅か····。
だから───────────俺は“死”を望む。
俺にとって、最高のハッピーエンドはウリエルを守り切って華々しく散っていくこと。これ以上のハッピーエンドは恐らくない。
俺に生き続けるという選択肢はなかった。
「な、なっ····!?オトハくん、君は死ぬつもりだったのかい!?」
「ああ。俺は自分の役割が終わったら、死ぬつもりだ。平和の国で育った俺に殺しは少し刺激が強すぎた····心を殺し続けるのにも限界がある」
「心を殺す·····。オトハはいつも自分の心を殺して、殺しをして来たって訳?」
「ああ。そうじゃなきゃ····弱い俺には殺しなんて出来なかった。自分の中の甘さを殺さなきゃ、ウリエルを守れないと思ったんだ」
「何で言ってくれなかったの!?言ってくれれば····相談してくれればオトハに無理なんかさせなかっ···」
「“俺に無理なんかさせなかった”?ハッ!何馬鹿なこと言ってやがる!アスモもよく分かってるだろ?無理しなきゃ、戦には勝てねぇーんだよ!人を殺さなきゃウリエルは守れないんだ!甘い戯れ言を吐いていられるほど、この戦いは甘くない!!」
俺だって、本当は人なんか殺したくない。なんなら、蟻んこ一匹だって殺したくなかった。
傷つけられる辛さや痛みを知っているからこそ、誰も傷付けたくなかったし、誰も傷ついて欲しくなかった。でも····この世界はそんな甘い戯れ言を吐いていられるほど、優しくはない。
弱肉強食が強く働くこの世界で、殺しを拒絶することは出来なかった。だって、戦わなければ殺されるから····自分も、仲間も。
例え、自分の心が『痛い』と悲鳴を上げようとも、俺はそれでも剣を持つ。奪う側の人間に回る。そうしなければ守れない命があるから。
ウリエルを守るためなら、心も体もどうでも良かった。
「俺はウリエルを守るために心を殺し、敵を斬り伏せる。そして、ウリエルを世界の危機から救えたなら····そこが俺の死に時だ」
もう死ぬ覚悟は出来ている。
俺はこの戦争に勝っても負けても、ここに戻ってくる気はなかった。人族の城で死に絶え、もう二度とここに戻ってくることは無い。
俺がそう決めたんだ。
揺るぎない覚悟を示す俺にこの場にいる誰もが固く口を閉ざす。が──────────ただ一人だけ、声を上げる者が居た。
「オトハ───────────だったら、私が敵を殺すよ。だから、もう心を殺さないで····『死ぬ』なんて言わないでっ·····!!」
「ウリ、エル····」
何でここにウリエルが·····!?
奥に座るルシファーの椅子の影から、ひょこっと姿を現したのは紫檀色の長髪幼女だった。額に小さな角を生やした少女はトタトタとこちらに駆け寄ってくる。紫結晶の瞳は不安げに揺らいでいた。
いつから、そこに····もしかして、最初から!?じゃあ、俺がウリエルの参加に反対してたのも全部見られていたのか····?
『嫌われたら、どうしよう』という感情が芽生える前に駆け寄ってきたウリエルが俺の手を掴んだ。
「私はね····正直人族を幾ら殺しても何とも思わない。人族は憎悪の対象で、殺すのが当たり前だったから····だから、オトハの気持ちは理解出来ない。でも、考えることは出来る。人殺しのない平和な世界で育ったオトハが殺しに対して、どう思ってるのか····抵抗は無いのか····本当は嫌なんじゃないかとか····。色々考えてみたけど、私の想像以上にオトハは辛い思いをしてたんだね····。ごめんね、気づいてあげられなくて····。ごめんねっ····!!嫌なことさせて····!!」
紫結晶の瞳に涙を浮かべたウリエルは今にも泣き出しそうな表情で俺を見つめた。懺悔にも似た、その謝罪は····泣きたくなるほど苦しい。
まだこんなにも小さい子に無理していることを悟られ、謝られる····なんて、情けない···。これは俺の問題で、ウリエルが謝るようなことじゃないのにっ····!元はと言えば、この世界に順応出来ない俺が悪いのに····!!
ウリエルを謝らせてしまった自分に嫌気がさした。
本当····自分が嫌になる。
俺の腕を掴んで目尻に涙を溜めるウリエルに····俺は何も出来ずに硬直する。己の不甲斐なさが嫌で嫌で仕方なかった。
「ねぇ、オトハ─────────私はオトハの剣になるよ!オトハがもう心を殺さなくて済むように····私が人を殺す。そして、オトハを連れて帰る!絶対に!」
「っ·····!!」
「だから、お願い!私を戦争に連れて行って!私はオトハの役に立ちたい!!」
俺を説得するため、必死に言葉を紡ぐウリエルはギュッと俺の腕を握った。
ウリエルが俺の剣、ね·····。
なるほどな。こりゃ、勝てないわ····ベルゼがウリエルの参加を許す訳だ。ここまで真っ直ぐに言葉をぶつけられたら、駄目なんて言えねぇーよ。
俺は『はぁ━━━━━━━』と息を吐き出すと、藤の瞳を潤ませるウリエルに笑いかけた。
「分かった──────────ウリエルの参加を許可する」
「本当!?」
「ああ。だが、ウリエルを俺の剣にするつもりはない」
「えっ!?どうして!?」
どうしてって····男の俺が女の子に守られるなんて、普通に考えて可笑しいだろ。俺は女に守られるほど、やわじゃねぇーよ。それに────────。
「背負う覚悟が出来たからな」
結局のところ、俺は殺しに対する罪悪感や後悔から逃げようとしていただけだ。背負い切れる自信がなくて····逃げたかったんだ。死んで楽になりたかった。
でも───────────それはもうやめた。
俺は生きる。罪悪感も後悔も全部背負っていくって、今決めたんだ。
こんな小さい子にあそこまで言わせたんだ。生き続けなきゃいけねぇーだろ?
俺はウリエルに掴まれている方とは逆の手で彼女の頭を撫でた。
「ウリエル、俺はもう逃げない。ちゃんと背負って生きていく。だから──────────俺の剣としてでは無く、俺の“相棒”として一緒に戦ってくれ」
そう言って、微笑み掛ければウリエルはポロポロと涙を流し始めた。ずっと我慢していた涙が滝のように一気に流れ出す。
「──────────はいっ!!」
嗚咽に混じって聞こえてきた返事は力強く、芯があった。涙で濡れた紫結晶の瞳には強くて純粋な光が宿っている。
涙でぐちゃぐちゃの顔でウリエルは笑っていた。ただ嬉しそうに····。
ウリエル、何度も泣かせてごめんな····。もう泣かせないから。そして──────────必ず守り抜くから。だから、俺の側にずっと居てくれ。
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