無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

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第三章

第83話『作戦会議』

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 スノウベア戦から二日が過ぎた頃、やっと俺のところまで戦争の段取りや作戦内容の呼び出しが来た。
今回は突発的に始まったパンドラの箱奪還戦とは違い、急ぐ必要は無いため、ルシファー達は準備に奔走していたのだ。ここ最近ルシファー達が忙しそうにしていた理由はこれである。
 今回は前回以上に大きな戦になるだろう。魔族側も人族側も自分達の持てる全てをかけて、戦う筈だ。
 その戦いの要が俺と朝日である。
この戦争の鍵を握る重要人物なんだ、俺達異世界人は。だから、俺はヘラの恩恵が宿された依代を壊すまで絶対に死ぬ訳にはいかない。朝日もまた依代を守り抜く義務がある。
 俺は興奮で震える手を握り締めながら、ルシファー達が待つ会議室を訪れた。
観音開きの扉をノックもなしに開け放つ。長テーブルと椅子が置かれただけの空間にはルシファー達が既に顔を揃えていた。
 どうやら、最後は俺みたいだな。

「悪い、遅れた」

「いや、時間通りだよ。私達が早く来すぎただけだ。それにほら、ヒーローは遅れて登場するものだろう?」

「ハッ!俺にヒーローなんざ、似合わねぇーよ」

「それは私も同感だ」

 いや、自分から言い出したくせに否定すんなよ····。地味に傷つくだろーが。
 詫びを入れる俺に茶々を入れて応えるルシファーは相変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。柘榴の瞳を優しげに細めるルシファーは無言で俺に席を勧める。
 空いている席は·····ルシファーの正面か。
 誕生日席に腰掛けるルシファーの向かい側に腰掛けた俺は毎度お馴染みのメンツにホッと息を吐き出した。
 作戦会議とか言うから、もっと多くの人間が居る場でやるもんかと思ってたけど····どうやら、それは俺の勘違いだったらしい。作戦会議はルシファーを含める幹部メンバーのみで行うらしい。恐らく、ここに俺が呼ばれたのは俺が作戦の····いや、戦争の要だから。
ルシファー達が考え抜いた作戦を俺が実行に移せるのか、又は実行出来るのか俺自身に確認するため。この作戦会議は謂わば確認の場だ。
 俺が『それは無茶だ』『出来ない』と答えれば、作戦を練り直す予定なのだろう。
 正直戦争のことなんて、これっぽっちも知らない俺が作戦内容に口を挟んで良いものなのか分からないが、とりあけず聞くだけ聞いてみよう。

「で、作戦は決まったのか?」

「決まった訳ではないが、案は絞れた。と言うか、我々は『もうこれしかない』と思っている」

「これしかない····?」

「ああ。とりあえず、話を聞いてくれ」

「分かった」

 ルシファーの言い回しが少し気になるが、まずは話を聞いてみよう。話はそれからだ。
 ルシファーは『ふぅー····』と息を吐き出すと、その顔から笑みを消し去った。『無』に近い真剣な表情は氷のような冷たさを感じる。なまじ顔が整っているせいか、その迫力が凄まじかった。
 何度見てもルシファーの無表情にはなれないな。
 ビリビリと静電気にも似た興奮を覚える中、ルシファーはその薄い唇を開く。

「結論から述べよう───────────今回は少数精鋭で戦いに挑む」

 少数、精鋭·····?それって、具体的にどういう····?具体的な人数は?作戦の詳細は?
いや、その前に····その作戦で本当に大丈夫なのか?今回は前回の比にならない激しい戦いになるんだぞ?戦いの規模が大きくなるのは避けられない。ヘラの恩恵を閉じ込めた依代を破壊するとなれば、人族側も総戦力を持って俺達を潰しに来る筈だ。
なのに少数精鋭なんて····少し無茶があるんじゃないか?メンツにもよるが、やはりこちらも全ての戦力を注ぐべきじゃないのか?
この戦いで負ければ、恐らくもうあとは無い。この戦いでの負けは俺の死とイコールだからだ。
 なあ、ルシファー····お前はこの世界を···民を救いたいんだろ?なのに何でそんな無茶苦茶な作戦を立てたんだ?
 言いたいことは沢山あるが、俺はそれらを一旦胸の内に留めておく。
まだルシファーの話は終わっていない。反論は話を聞いたあとでも出来る。会議を円滑に進めるためにも、ここで反論に出てはいけない。
 俺はこちらをじっと見つめるルシファーに一つ頷き、話の先を促した。

「今回の戦いに参加するメンバーはベルゼビュート、アスモデウス、マモン、オトハくん、そして─────────私とウリエルだ」

「はっ·····?はぁ!?」

 ベルゼ達や俺が戦いに参加するのは分かっていた。それは目に見えていた。だが····ルシファーとウリエルも、なんて聞いてねぇーよ!!
ルシファーは魔素消費の要なんだろ!?そんで万が一のことを考えて、前線を退いて来たんだよな!?なのに何でルシファーが·····!?
そして、何より·····!!何でウリエルがそのメンバーに加わってるんだよ!?明らかに場違いっつーか····可笑しいだろ!!
 ウリエルの実力は確かに本物だが、ウリエル以上に強い奴なんて魔王軍の中には多く居る。それにウリエルはまだ子供だ。未来ある子供なんだ····伸び代だって大いにある。魔族の未来を背負う大切な子供であることは間違いなかった。なのに何で····。
 アホ面を晒す俺にルシファーは一つ咳払いすると、自分とウリエルがこの戦いに参加する理由を語り始めた。

「まず、私の参加理由から話そう。オトハくん、私は─────────この戦いが最後だと思っている」

「!?」

「まあ、要するに勝っても負けてもこれが最後って訳だ。そう思い至った理由は一つ。魔素による被害が拡大し、もう一刻の猶予もないことだ。残された時間は少ない····。それにオトハくんが死ねば今度こそ世界の希望が完全に無くなる。私はあくまで世界消滅までの時間稼ぎをしているに過ぎない。時間稼ぎにも限界はある。その限界が今なんだ。ならば、私も前線に立ち、オトハくんを守り抜くのが最善だろう。君が依代を破壊しなければ、どうせこの世界は滅ぶのだから····」

 時間稼ぎの限界、か····。
もう世界破滅までの時間が残されていないのなら、世界を救う希望たる俺を援護した方が良いと·····かなり思い切った考えだが、反論は出来なかった。
 何故なら───────────ルシファーがいつになく、真剣な顔付きで俺を見つめていたから。
血にも似た深紅の瞳はこちらを睨むように見つめていた。そこから、ルシファーの心情が読み取れる。
 今までずっと世界破滅までの時間稼ぎをするために前線を退いて来たルシファー·····。仲間を盾に使うしか無かった、あの頃をルシファーはどう思っているだろうか?少なくとも、良くは思っていないだろう。だって、自分のために大切な仲間が死ぬのだから····。
 分かったよ、ルシファー····反論はしない。お前の言う通り、もう時間は無いんだ。ルシファーが前線に出ても問題は無いだろう。だって、この戦いに負ければルシファーが生きていようと意味は無いのだから。
残酷なようだが、ルシファーや他の魔族の連中に世界を救う力はない。それを持っているのは俺と朝日だけ。この世界の住人に出来ることなど、たかが知れている。その“時間稼ぎ出来ること”ももう限界が来たようだしな。
ここらでいっちょ、派手に暴れても誰も文句は言うまい。
 まあ、幹部連中は凄く複雑な表情をしているが····。三人とも何か思うところがあるらしい。それでも反論を口にしないのはこいつらもルシファーの熱意に押されたからだ。
 フッ····上手く丸め込まれたな、こいつら。まあ、俺も人のこと言えないけどな。
 俺はフッと口元を緩めると、テーブルに片肘をつく。その手の甲に顎を乗せた。

「とりあえず、ルシファーが参加する理由は分かった。納得もした。反論するつもりは無い。だから─────────次はウリエルの話をしてもらう。そこでもしも俺の納得する理由を提示出来なければ俺は戦いに参加しない」

「なっ!?戦いに参加しないですって····!!オトハ、何言ってるのよ!?冗談も程々に····」

「なあ、アスモ──────────冗談に聞こえるか?」

「っ·····!!」

 戦争不参加の可能性をチラつかせた俺にアスモはキャンキャン吠えるが、すぐに静かになった。
 俺は別に冗談のつもりで言っている訳じゃない。俺は本気だ。
納得する理由が得られなかった場合、俺は戦いに参加しない。あぁ、もちろんウリエルを戦線から外すって言うなら話は別だがな。
 なあ、ルシファー。お前はよく知ってるだろ?俺の事·····。俺の中心はいつもウリエルで、それ以外は何も求めていないって。
 幹部メンバーに動揺が走る中、ただ一人だけ冷静さを保っているルシファー。最初から俺の反応を分かっていたような冷静さだ。
 俺はレッドアンバーの瞳を強く見つめ返し、軽い殺気を飛ばす。この場に緊張の糸がピンッと張られた。

「最初に俺は言っておいた筈だ。俺はこの世界を救うためではなく、一人の少女を守るために戦うと···。余程の理由がない限り、ウリエルの参加は認められない。というか、認める気は元より無い。だが、まあ····話くらいは聞いてやる。話してみろ」

 俺は自分より格上の相手に安い挑発をする。本来であれば自殺行為に等しいが、どうしても気持ちを制御出来なかった。こうやって、イライラを発散しなければ狂ってしまいそうだ。
 荒れまくる俺の心情を悟ったようにルシファーが表情を崩す。困ったように····でも、どこか穏やかに笑うルシファーは魔族の王としてでは無く、ただ一人の男としてそこに鎮座していた。

「オトハくんが納得するかどうかは分からないが、とりあえず聞いてくれ。そして、出来れば·····否定しないで欲しい」

 そう前置きしたルシファーはウリエルの参加理由を静かに語り出した。
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