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第三章
第82話『スノウベア』
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「オトハー!レベル上げに行くわよー!」
ルシファーの呼び出しがあった書斎から帰る途中、廊下の向こうから巨乳を揺らして、こちらに駆け寄ってくる美女の姿が····。
相変わらず、きわどいドレスを身に纏っている。長いスリットが入ったドレスは体型が出るピッタリとしたもので、チャイナ服に非常に近い。胸元にはハート型の穴が空いていた。そこから胸の谷間が見える。
いつ見てもアスモはエロい格好してんなぁ·····。
最初の頃はアスモのきわどい格好に頬を赤らめたりもしたが、見慣れた今となっちゃ特に邪念が湧くこともない。『今日もか』と思う程度。
見えるようで見えないギリギリを攻めたアスモの服装はもう気にならなかった。
『わざとか?』と疑うくらい、豊満な胸を大きく揺らして、こちらに駆け寄ってきたアスモは俺の返事を聞く前に転移陣を開く。
「一応聞くが、俺に拒否権は····?」
「ないわよ?当たり前でしょう?」
『なに当たり前のこと聞いてるの?』と言わんばかりのキョトン顔だ。コテンと可愛らしく首を傾げるアスモに俺は『はぁ·····』と溜め息を漏らす。
そうだな。この女はそういう奴だった。
ま、レベル上げは大歓迎だ。レベルが上がり、生命力が増えれば増えるほど転職の使用時間が伸びる。より優位に立ちたいなら、レベル上げはやれる時にやるべきだった。
レベルが高くて困ることはないからな。
「それじゃあ、行くわよー!」
「ああ」
転移陣を描き終えたアスモは手を前に突き出し、魔法陣を発動させる。白にも似た淡い光に包まれた俺達は──────────瞬きの間に魔の森へ転移していた。
うへぇ·····相変わらず、ここは不気味な森だな。何度来ても悪寒がするぜ。
木々が鬱蒼と生い茂る魔の森は木の枝や葉っぱに光を遮られ、昼間でも真っ暗な森である。全く光がない訳では無いが、森を進むには少々足りない。
「《ライト》」
アスモがそう呟くと、ホワホワと白い火の玉が現れた。複数あるそれは俺達の周りを照らし出す。
今日は川辺じゃなくて、洞窟か。てことは獲物はスノウベアか。
スノウベアとは冬眠をしない珍しい熊の魔物で、氷結系の魔法が使える。知能が高く、魔法も使えるため魔族でもこいつを狩るのに手こずるらしい。まあ、アスモ達は例外だがな。あいつらなら、スノウベアなど秒殺だろう。
「確か、この洞窟にスノウベアが居るって聞いたんだけど····あっ!出て来たわね!さあ、オトハ行きなさい!」
「へいへい」
『行きなさい』って、俺はお前の猟犬じゃないんだけどなぁ····。
アスモが出した光につられて、洞窟から出て来たスノウベア。ルシファーと同じ深紅の瞳を持つ熊は雪のように真っ白な毛皮を身に纏っている。大きさは三メートルほど。結構大きい。
これがスノウベアか。想像していたより、ずっと大きいな。こいつとなら、楽しい戦いになりそうだ。
俺はペロリと舌を舐め、腰に差した短剣の鞘から剣を引き抜く。
魔力銃の最大出力で撃ち抜いても良いが、それでは面白くない。せっかくの大物だ、存分に楽しませてもらおう。
「アスモ、下がってろ」
「そうさせてもらうわ。その子、臭いんだもの」
珍しく、俺の指示に大人しく従うアスモ。豊満な胸を揺らして、数歩後ろに下がった美女。その手には扇が握られている。どうやら、スノウベアの体臭がお気に召さなかったらしい。そのジャラジャラした扇で鼻を覆い隠している。
こいつ、色々と失礼だろ。ま、良いけどさ。
とりあえず────────────こいつを倒す!
『ガァァァァァウゥゥゥウウウ!!』
スノウベアは腹に響くような雄叫びを上げると、ドシドシッと地響きを鳴らしながら俺に突進してきた。
おーおー····ここまで振動が伝わってくるぜ。震度3くらいはあるんじゃないか?
スノウベアが一歩、また一歩と俺に近付いてくる度、振動が大きくなる。体の軸をズラさないよう、意識しながら俺は剣を構えた。
さて、楽しませて貰おうか。
『ガウァ····?』
「レベルは70前後か?なかなか強いじゃないか。まあ、三桁台の俺の敵ではないな」
猪のように勢いよく突進してきたスノウベアを俺は片手で受け止めた。それもその場から一歩も動かずに。
なんだ、この程度か。拍子抜けだな。もっと強いと思ったんだが····十分な助走を使った突進でもこの程度か。
勢いよく突っ込んできたスノウベアだったが、岩のごとく一歩も動かない俺のせいでその身にダメージを受ける。俺にぶつかった反動で少し体を宙に浮かせたスノウベアはドシンッと勢いよく地面に落下した。
自分の攻撃でダメージ受けるとか····大丈夫か?こいつ····。自滅も良いところだぞ?
「なあ、もう物理攻撃は良いから魔法を見せてくれよ。お前、氷結魔法使えるんだろ?」
『ガゥゥゥウウ』
知能が高いと言っても所詮は魔物。言葉が通じるとは思っていないが、気分転換に話しかけてみた。
唸ってはいるが、これは威嚇の一種で返事とかではないか。ま、もう少し戦って様子を見るか。
倒すのは簡単だが、今はとにかく戦闘経験が欲しい。レベルアップ経験値ももちろん欲しいが、次の戦いに備え、戦闘経験も豊富にしておきたかった。
人間と魔物では知能レベルも戦い方も違うが、だからと言って全く違うわけじゃない。参考になるところもあるため、練習相手には丁度良かった。
最近アスモたち魔王幹部とルシファーは忙しそうにしてるからな。なかなか練習時間が取れないんだ。その分、自主練が増えている訳だが、それでは判断力や状況把握能力が鈍る。鍛えられるときに鍛えておかないとな。
レベルが三桁台に乗った俺にとって魔物など恐るるに足りない存在だが、多種多様な種類の魔物を相手にするのは悪くない。様々な敵が居れば、色々な戦法や戦い方が増える。自分の課題も見つかる。
だから、俺は魔物を瞬殺せず、じっくり味わうように戦っている。
俺はスノウベアの額から手を離すと、ニヤリと口角を上げ、短剣で斬り掛かる。
『グガゥ·····』
「ふーん?これが噂の氷結魔法か。悪くない」
俺の斬撃を氷でガードしたスノウベアは急いで後ろに下がった。近接武器相手に接近戦は不利と考えたのだろう。
俺は魔物や魔族と違って、魔法が使えない。中距離での戦闘には向かなかった。
俺の身体能力なら、無理やり接近戦に持ち込むことも可能だが·····そこまでして接近戦をやりたい訳では無い。それに目的は果たされた。お目当ての氷結魔法も見れたことだし、ここらで決着をつけるのも悪くないだろう。
俺は氷の間に挟まった短剣を引き抜き、それを鞘に収める。次に─────────────魔力銃を取り出した。
見たところ、あのスノウベアの動きはあまり早くない。素早さに欠けるスピードだった。
どちらかと言うと、スピードよりもパワー型のように思える。
その自慢のパワーでも俺に敵わなかったがな。あの突進がスノウベアの実力を物語っていた。
とりあえず、もう終わりにしよう。これ以上の戦いは不要だ。
俺は足元に出現した先の尖った氷を軽い跳躍で交わし、銃口をスノウベアに向けた。
あいつは魔法と魔法の間に少しラグがある。続けざまに魔法をぶっぱなすことは不可能らしい。
つまり─────────そこを狙えば、氷の障壁に邪魔されることなく、銃が撃てるって訳だ。
「─────────じゃあな、白熊野郎」
スノウベアの脳天目掛けて魔力弾を放った俺はストンッと地面に着地する。それと同時に高濃度の魔力が圧縮された弾がスノウベアの脳天をぶち抜いた。ブシャッと赤い血が散ったかと思えば、直ぐにそれは光の粒子となって消えていく。
随分と呆気ないな。
普段マモンを相手に銃撃戦を繰り広げている俺からすれば、スノウベアは止まっている的に等しかった。狙いを外す訳が無い。
多少物足りなさが残るが、なかなか楽しい戦いだった。
「あら?もう終わったの?もう少しゆっくりしてて良かったのに」
「お前は何呑気に口紅塗ってんだよ」
「化粧直しよ、化粧直し!」
「いや、化粧直しはとトイレでやれよ」
お前は電車の中、アイラインを引くOLか?
真っ赤な口紅を唇に塗りたくるアスモはこちらを振り返り、転移陣を開く。尚、その手にはまだ口紅が握られていた。
化粧直しなんか、後でやれば良いのに····。女って生き物はよく分からん。
男の前で堂々と化粧を直す美女から目を逸らし、俺はアスモの転移魔法で魔王城へ帰るのだった。
ルシファーの呼び出しがあった書斎から帰る途中、廊下の向こうから巨乳を揺らして、こちらに駆け寄ってくる美女の姿が····。
相変わらず、きわどいドレスを身に纏っている。長いスリットが入ったドレスは体型が出るピッタリとしたもので、チャイナ服に非常に近い。胸元にはハート型の穴が空いていた。そこから胸の谷間が見える。
いつ見てもアスモはエロい格好してんなぁ·····。
最初の頃はアスモのきわどい格好に頬を赤らめたりもしたが、見慣れた今となっちゃ特に邪念が湧くこともない。『今日もか』と思う程度。
見えるようで見えないギリギリを攻めたアスモの服装はもう気にならなかった。
『わざとか?』と疑うくらい、豊満な胸を大きく揺らして、こちらに駆け寄ってきたアスモは俺の返事を聞く前に転移陣を開く。
「一応聞くが、俺に拒否権は····?」
「ないわよ?当たり前でしょう?」
『なに当たり前のこと聞いてるの?』と言わんばかりのキョトン顔だ。コテンと可愛らしく首を傾げるアスモに俺は『はぁ·····』と溜め息を漏らす。
そうだな。この女はそういう奴だった。
ま、レベル上げは大歓迎だ。レベルが上がり、生命力が増えれば増えるほど転職の使用時間が伸びる。より優位に立ちたいなら、レベル上げはやれる時にやるべきだった。
レベルが高くて困ることはないからな。
「それじゃあ、行くわよー!」
「ああ」
転移陣を描き終えたアスモは手を前に突き出し、魔法陣を発動させる。白にも似た淡い光に包まれた俺達は──────────瞬きの間に魔の森へ転移していた。
うへぇ·····相変わらず、ここは不気味な森だな。何度来ても悪寒がするぜ。
木々が鬱蒼と生い茂る魔の森は木の枝や葉っぱに光を遮られ、昼間でも真っ暗な森である。全く光がない訳では無いが、森を進むには少々足りない。
「《ライト》」
アスモがそう呟くと、ホワホワと白い火の玉が現れた。複数あるそれは俺達の周りを照らし出す。
今日は川辺じゃなくて、洞窟か。てことは獲物はスノウベアか。
スノウベアとは冬眠をしない珍しい熊の魔物で、氷結系の魔法が使える。知能が高く、魔法も使えるため魔族でもこいつを狩るのに手こずるらしい。まあ、アスモ達は例外だがな。あいつらなら、スノウベアなど秒殺だろう。
「確か、この洞窟にスノウベアが居るって聞いたんだけど····あっ!出て来たわね!さあ、オトハ行きなさい!」
「へいへい」
『行きなさい』って、俺はお前の猟犬じゃないんだけどなぁ····。
アスモが出した光につられて、洞窟から出て来たスノウベア。ルシファーと同じ深紅の瞳を持つ熊は雪のように真っ白な毛皮を身に纏っている。大きさは三メートルほど。結構大きい。
これがスノウベアか。想像していたより、ずっと大きいな。こいつとなら、楽しい戦いになりそうだ。
俺はペロリと舌を舐め、腰に差した短剣の鞘から剣を引き抜く。
魔力銃の最大出力で撃ち抜いても良いが、それでは面白くない。せっかくの大物だ、存分に楽しませてもらおう。
「アスモ、下がってろ」
「そうさせてもらうわ。その子、臭いんだもの」
珍しく、俺の指示に大人しく従うアスモ。豊満な胸を揺らして、数歩後ろに下がった美女。その手には扇が握られている。どうやら、スノウベアの体臭がお気に召さなかったらしい。そのジャラジャラした扇で鼻を覆い隠している。
こいつ、色々と失礼だろ。ま、良いけどさ。
とりあえず────────────こいつを倒す!
『ガァァァァァウゥゥゥウウウ!!』
スノウベアは腹に響くような雄叫びを上げると、ドシドシッと地響きを鳴らしながら俺に突進してきた。
おーおー····ここまで振動が伝わってくるぜ。震度3くらいはあるんじゃないか?
スノウベアが一歩、また一歩と俺に近付いてくる度、振動が大きくなる。体の軸をズラさないよう、意識しながら俺は剣を構えた。
さて、楽しませて貰おうか。
『ガウァ····?』
「レベルは70前後か?なかなか強いじゃないか。まあ、三桁台の俺の敵ではないな」
猪のように勢いよく突進してきたスノウベアを俺は片手で受け止めた。それもその場から一歩も動かずに。
なんだ、この程度か。拍子抜けだな。もっと強いと思ったんだが····十分な助走を使った突進でもこの程度か。
勢いよく突っ込んできたスノウベアだったが、岩のごとく一歩も動かない俺のせいでその身にダメージを受ける。俺にぶつかった反動で少し体を宙に浮かせたスノウベアはドシンッと勢いよく地面に落下した。
自分の攻撃でダメージ受けるとか····大丈夫か?こいつ····。自滅も良いところだぞ?
「なあ、もう物理攻撃は良いから魔法を見せてくれよ。お前、氷結魔法使えるんだろ?」
『ガゥゥゥウウ』
知能が高いと言っても所詮は魔物。言葉が通じるとは思っていないが、気分転換に話しかけてみた。
唸ってはいるが、これは威嚇の一種で返事とかではないか。ま、もう少し戦って様子を見るか。
倒すのは簡単だが、今はとにかく戦闘経験が欲しい。レベルアップ経験値ももちろん欲しいが、次の戦いに備え、戦闘経験も豊富にしておきたかった。
人間と魔物では知能レベルも戦い方も違うが、だからと言って全く違うわけじゃない。参考になるところもあるため、練習相手には丁度良かった。
最近アスモたち魔王幹部とルシファーは忙しそうにしてるからな。なかなか練習時間が取れないんだ。その分、自主練が増えている訳だが、それでは判断力や状況把握能力が鈍る。鍛えられるときに鍛えておかないとな。
レベルが三桁台に乗った俺にとって魔物など恐るるに足りない存在だが、多種多様な種類の魔物を相手にするのは悪くない。様々な敵が居れば、色々な戦法や戦い方が増える。自分の課題も見つかる。
だから、俺は魔物を瞬殺せず、じっくり味わうように戦っている。
俺はスノウベアの額から手を離すと、ニヤリと口角を上げ、短剣で斬り掛かる。
『グガゥ·····』
「ふーん?これが噂の氷結魔法か。悪くない」
俺の斬撃を氷でガードしたスノウベアは急いで後ろに下がった。近接武器相手に接近戦は不利と考えたのだろう。
俺は魔物や魔族と違って、魔法が使えない。中距離での戦闘には向かなかった。
俺の身体能力なら、無理やり接近戦に持ち込むことも可能だが·····そこまでして接近戦をやりたい訳では無い。それに目的は果たされた。お目当ての氷結魔法も見れたことだし、ここらで決着をつけるのも悪くないだろう。
俺は氷の間に挟まった短剣を引き抜き、それを鞘に収める。次に─────────────魔力銃を取り出した。
見たところ、あのスノウベアの動きはあまり早くない。素早さに欠けるスピードだった。
どちらかと言うと、スピードよりもパワー型のように思える。
その自慢のパワーでも俺に敵わなかったがな。あの突進がスノウベアの実力を物語っていた。
とりあえず、もう終わりにしよう。これ以上の戦いは不要だ。
俺は足元に出現した先の尖った氷を軽い跳躍で交わし、銃口をスノウベアに向けた。
あいつは魔法と魔法の間に少しラグがある。続けざまに魔法をぶっぱなすことは不可能らしい。
つまり─────────そこを狙えば、氷の障壁に邪魔されることなく、銃が撃てるって訳だ。
「─────────じゃあな、白熊野郎」
スノウベアの脳天目掛けて魔力弾を放った俺はストンッと地面に着地する。それと同時に高濃度の魔力が圧縮された弾がスノウベアの脳天をぶち抜いた。ブシャッと赤い血が散ったかと思えば、直ぐにそれは光の粒子となって消えていく。
随分と呆気ないな。
普段マモンを相手に銃撃戦を繰り広げている俺からすれば、スノウベアは止まっている的に等しかった。狙いを外す訳が無い。
多少物足りなさが残るが、なかなか楽しい戦いだった。
「あら?もう終わったの?もう少しゆっくりしてて良かったのに」
「お前は何呑気に口紅塗ってんだよ」
「化粧直しよ、化粧直し!」
「いや、化粧直しはとトイレでやれよ」
お前は電車の中、アイラインを引くOLか?
真っ赤な口紅を唇に塗りたくるアスモはこちらを振り返り、転移陣を開く。尚、その手にはまだ口紅が握られていた。
化粧直しなんか、後でやれば良いのに····。女って生き物はよく分からん。
男の前で堂々と化粧を直す美女から目を逸らし、俺はアスモの転移魔法で魔王城へ帰るのだった。
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