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第三章

第80話『実験結果』

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 マモンが面白半分に己の四肢を切り離したところで、実験結果について俺達は話し合い始めた。尚、既に転職ジョブチェンジは解いている。そのままにしておいたら、マモンが己の心臓を刺しかねないので早々に能力を解除したのだ。
 にしても····たった三分程度の使用で6000もHPを消費するとは思わなかったな。一分あたりのHP消費量は2000ちょいと言ったところだろうか?

「じゃあ、まずは事実確認から行こうか。現時点で判明した事実は三つ。聖剣が一本であること。どういう訳か本物の勇者よりオトハの方が聖剣使用の優先順位が高いこと。使用後は本物の勇者の元へ聖剣が戻ったこと」

「一個目と三個目は理解出来るが、二個目の朝日より俺の方が聖剣使用の優先順位が高いってどういう事だ?聖剣は人物とか関係なく、新しい呼び出しに応じただけじゃないか?だから、勇者である朝日がまた聖剣を呼び出せば、剣の主人は塗り替えられ、俺の元から聖剣が消え····」

「──────────それはないね」

 マモンの主張に否を唱える俺に対し、青髪の少年は『それはない』とキッパリ言い切った。凛としたマゼンダの瞳には有無を言わせぬ迫力がある。

「何故そう言い切れるんだ?」

「それは勇者が何度も何度も聖剣召喚の呪文を唱えていたからだよ」

「えっ····?でも、音声は····」

「うん、オトハが聞きたくないって言うから僕の脳内に音声を直接接続してた。まあ、簡単に言うと僕だけ勇者達の声や物音が聞こえてたって訳。だから、勇者が聖剣召喚の呪文を唱えているのが分かった」

 なるほど····。魔法って、そんなことも出来るのか。本当便利だな。
ヘラの恩恵が消えた暁には是非とも魔法を教えて欲しいもんだ。
 感心する俺を他所にマモンはどんどん話を進めていく。

「だから、オトハの考えは間違ってる。勇者は少なくとも三回は呪文を唱えていた。なのに聖剣はオトハが能力解除するまで勇者の手に渡らなかったんだ。明らかにオトハの方が優先順位が高い。何を基準に優先順位を決めているのかは分からないけど、こっちが優位に立ってるのは確実だね」

「確かに····」

 本物の勇者より、俺の方が聖剣使用の優先順位が高いなんて哀れを通り越して滑稽だな。この事実を朝日が知れば、どんな顔をすることやら····。きっと、般若のように顔を歪めて怒鳴り散らすことだろう。
あの狂信者に関しては朝日以上に激怒しそうだな。
 怒り狂うバカップルの様子を想像し、呆れ返る俺だったが、マモンの言葉で現実に引き戻された。

「で、その聖剣使用の優先順位の基準だけど····考えられる可能性は三つ。一つ、オトハに『無職』という職業を与える際、セレーネが何か細工をした。二つ、ただ単純にレベルの高さ。三つ、ヘラの恩恵を打ち払いたいと言う明確な強い意志。一番有り得そうなのは二つ目だけど、セレーネなら一つ目をやっていても可笑しくないし、三つ目を聖剣の設定に組み込んでいる可能性も高い。うちの女神様は賢いからね。多分、あのポンコツ勇者よりオトハの方が聖剣使用の優先順位が高くなるよう、何か手を打っていたんだと思う」

「まあ、何であれ俺の方が優先順位高いなら、それでいい」

「えー!それだけー?一生懸命考えたんだから、もっと反応してよー!」

「へいへい」

「ちょ、オトハ冷たーい!」

 プクッと頬を膨らませたマモンは腕を組んで仁王立ちしている。が、容姿が幼いからか全く恐ろしくない。むしろ、可愛いとさえ思う。

『ロリコンの次はショタコンですか?勘弁してくださいよ····オトハは変態ですか?』

 ちげぇーよ!!俺はロリコンでもショタコンでもねぇ!!つーか、『可愛い』って言っただけじゃねぇーか!?この世界は相手を『可愛い』って言っただけで変態扱いされるのかよ!?理不尽過ぎんだろ!今すぐ、この世界の変態の基準改めろよ!!
 相も変わらず、うるさいデーモンエンジェルに文句を言い、俺は『ふぅ····』と息をついた。
 とりあえず、ビアンカのことは良い。あいつに構うと、うるさいからな。

「とりあえず、優先順位の基準については置いておこう。どれも仮説の域を出ないし。他に何か聖剣について分かったことはあるか?」

「んー····特にないかなー。これだけじゃ、何とも言えないしー。ま、僕的にはクズ勇者が慌てふためく姿が見れて満足だしー」

「あっそ」

 マモンにとことん嫌われてんな、朝日。まあ、この世界を救う希望を一つ消し去ったんだから、毛嫌いされるのも無理ないか。それにマモンは朝日のこと、最初から凄く嫌ってたし····。
まあ、マモンが誰を嫌っていようと俺には関係ないけどな。

「じゃあ、俺は部屋に戻って休む」

「あっ、もしかして転職ジョブチェンジの反動?HPの回復なら、全然やるけど」

「いや、良い。部屋で寝てれば治る。今回は半分以上HPが残ってるからな」

「そー?なら、良いけどー。でも、調子悪くなったら呼んでねー?すぐに回復するからさー!」

「ん。さんきゅー」

 俺はマモンの言葉に頷き、踵を返した。薬品の匂いが充満するこの部屋を後にする。
薬品臭くない外の空気はやけに美味しかった。
 正直なところ、体調は全然大丈夫なんだけど····眠気がな。最近ベルゼ達幹部メンバーが忙しくて、早朝や夜中しか訓練の時間が取れないんだ。ベルゼ達のスケジュールに合わせて動くせいか、見事生活リズムが崩れ去った。今の俺の生活は完璧な昼夜逆転をしている。
 あー····ねみぃ。さっさと部屋に戻って、寝よう····。
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