無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

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第二章

第74話『少女の命』

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 冷静さを取り戻した俺と入れ替わるように今度は朝日が冷静さを失い始めた。
見るからにソワソワし始め、助けを求めるように隣に立つユノを見つめる。その様は親を頼る子供のようだった。
 マモン達に頼りっきりな俺が言うのもなんだが、あいつ大丈夫か?あんなんで勇者が務まるんだろうか?
さっきまであんなにイキがっていたのに自分達が不利な立場にあると知るなり、これだ。変わったのは外面だけかよ。中身は1ヶ月前とそんなに変わんねぇーじゃねぇーか。
 ベルゼは朝日の動揺ぶりに目を光らせ、一歩前へ踏み出した。

「もう一度だけ言う。その娘を解放しろ。そうすれば、今回は見逃してやっても良い」

「っ····!!魔族の分際で偉そうに·····!!チッ!」

 悔しそうに奥歯を噛み締める朝日は仕方なさそうに剣を下ろした。ついでにウリエルの腕も離している。
 解放されたウリエルは弾かれたように俺の元へ駆け寄ってきた。その口元にはまだ鉄製のマスクが装着されている。

「ウリエル!!」

 突進せんばかりの勢いでこちらに駆け寄ってきたウリエルを抱きとめ、俺はホッと息を吐き出した。
 良かった····。なんとかウリエルを取り返すことが出来た。
傷だらけの少女を抱き上げ、首筋から流れる血に眉を顰める。
朝日の奴····!!こんな小さな女の子を斬りつけやがって····!!鎧もボロボロだし·····くそっ!
 ウリエル、もう大丈夫だからな。すぐ、マモンに傷を見てもらおう。

「マモン、ウリエルに治癒魔法をお願·····」

「──────────オトハ!危ない!!」

 ウリエルが戻って来た事ですっかり安心してしまっていた俺は気づけなかった──────────朝日の反撃に。
 魔法使いの力で俺の目の前まで転移してきた朝日は俺が持つパンドラの箱目掛けて剣を振り下ろす。
 っ·····!!こいつ!!まだパンドラの箱の破壊を諦めていなかったのか·····!!
 どんだけ、執念深いんだよ!しつけぇーなぁ!!
 安心感から来る隙をついて、反撃して来た判断は悪くないが、今回は相手が悪かったな!その程度の攻撃、俺の手に掛かればどうとでも·····。
 朝日の単純過ぎる太刀筋とナマケモノ並のスピードに勝ち誇った笑みを浮かべる俺だったが、目端に見えたユノの不気味な笑みに背中が凍りついた。
 こいつ·····!!まさか·····!?
 クロスボウを手にする金髪碧眼の美少女はウリエルに狙いを定めて──────────矢を射る。
あえて、俺ではなくウリエルに狙いを定めたのはウリエルが俺の大切な人だと、こいつは気づいているから····。分かった上でウリエルに狙いを定めたんだ。
 今のウリエルはブレスを封じられている····!!矢を自力で回避するのは不可能だ!
チッ!この性悪女め····!!
 俺はパンドラの箱を手離し、軽く体を捻るとウリエル目掛けて放たれた矢を素手で掴んだ。ウリエルのおでこに当たるギリギリのところで矢が止まる。
 と同時に────────────俺のすぐ横で風を切る音が聞こえた。

「ははははっ!やった!やったぞ!!パンドラの箱を壊してやった!!」

 そう言って、聖剣を高々と掲げるのは朝日。彼の足元には見事真っ二つに切られたパンドラの箱が転がっていた。
 世界を救う希望を自ら消し去ったと知らない朝日は自慢げに胸を張った。無知とは恐ろしいものだ。知らず知らずの内にこの世界を滅亡へと導いているのだから。
 馬鹿な奴····。
 俺はどこか冷めた目で真っ二つに切り裂かれたパンドラの箱を見下ろし、次に『やった、やった!』と喜ぶクラスメイトを見つめた。
これが····勇者なのか。
 ここまで来ると、怒りよりも呆れが勝る。こんな奴がこの世界の勇者なのかと思うと、残念でしょうがなかった。

「────────堕ちたな、朝日」

 この呟きが朝日の耳に入ることはなかった。
己を世界を救う救世主だと信じて疑わない馬鹿勇者は悪女の手の上で踊る。ベルゼ達が何か仕掛ける前に朝日率いる勇者パーティーは転移魔法で撤退して行った。
 朝日、酒と女は麻薬だぞ。いい加減、目を覚ませ。
 そんな願いを嘲笑うかのように脳内でリピートされる朝日の笑い声。それから─────────ユノの不気味な笑み。神に仕えるシスター信者とは思えないほど、いびつな笑みだった。
 あの女·····何者だ?

『彼女はスターリ国の王女です。詳しいことは分かりませんが、神を妄信的に崇める狂信者のようですね。だから、神の使いである朝日に尽くしているんです』

 一国の王女が神を妄信的に崇める狂信者って····まあ、そう考えれば色々と辻褄が合うが····。今代の勇者に優秀な人材が派遣されたのは王女の根回しがあったから····。前回の城内戦闘で姿を見せなかったのは国外だったからだろう。王族は嫁ぎ先が他国でもない限り、なかなか国外に行けないと聞くしな。
 まあ、それはさておき·····やっちまったな、完全に。
 俺は真っ二つに割れたパンドラの箱を今一度見つめ直し、手にした弓矢を投げ捨てる。

「あー·····弁解はしない。とりあえず、すまん」

 俺は真っ二つに割れたパンドラの箱を凝視する魔族の面々に静かに頭を下げた。
 理由はなんであれ、パンドラの箱を見捨てる判断したのは俺だ。パンドラの箱よりもウリエルの命を優先し、俺はパンドラの箱を捨てた。その事実に変わりはない。弁解の余地などないだろう。
 せっかく皆、一生懸命頑張ってくれたのに·····俺のせいで台無しにしてしまった。本当に申し訳ない。
 静かに頭を下げる俺につられるようにウリエルも頭を下げる。俺に抱っこされたウリエルは今にも泣き出しそうな表情で頭を下げた。
 きっと、『自分が捕まらなければ』とか『自分のせいで』とか思っているんだろう。幼い容姿とは対照的に責任感の強いウリエルはギュッと俺の服を握り締めた。

「いや、オトハやウリエルが謝ることではない。お前達に全く非がないと言えば嘘になるが、100%お前達が悪い訳でもない。お前達を守れなかった私達にも責任はある。だから、私達には謝らないでくれ」

「ベルゼの言う通りよ····。勇者にもう戦意はないだろうと勝手に判断し、気を抜いた私達のせいでもあるわ。ちゃんと最後まで警戒していたなら、ウリエルちゃんもパンドラの箱も全部守りきれた。今回の件はここに居る全員の責任よ」

「そうだね。僕達全員の落ち度だ。僕も正直油断してたし····。オトハ達の一番近くに居たのに守り切れなかった····本当にごめん」

 謝罪に対して返ってきた言葉はどれも予想外で···俺とウリエルは自然と下げた頭を上げる。
俺達の目に映った戦士達は誰一人として、俺達を責めなかった。誰もが己の甘さと落ち度を自覚し、反省している。何か失敗する度、他人の失敗点を探そうとする人族とは大違いだ。

「わりぃ····俺達の落ち度だ」

「もっと警戒するべきだったよ」

「敵地なのに気抜いてたとか····本当申し訳ねぇ」

「パンドラの箱は残念だったけど、ウリエルちゃんが無事で良かった」

 誰も俺達を責めない。むしろ、自分達を責める始末。これが人族と魔族の違いだ。
 なんか····負けたのに凄く清々しい気分だ。
 俺は悔しがる戦士達を見つめ、目元を和らげる。
 正直、アスモあたりに怒られると思ってた。『お前はその少女のために世界を滅ぼす気か!』と····。
実際俺の取った行動は世界を救う手段を一つ奪う行為と同じだったし、怒られて当然の行いだった。いや、怒られるだけじゃ済まないかもしれない。
 なのに───────────こいつらは俺を責めなかった。
 それを嬉しく思う反面、ウリエルを救う決断に後悔を抱かない自分に嫌気がさす。
この世界よりも、たった一人の少女の命を取った俺は多分····朝日と同じくらい悪い奴だ。
 でも、後悔はない。
ウリエルを死なせるくらいなら、こんな世界滅んでしまえば良い。俺が愛したのはこの世界ではなく、このたった一人の女の子なのだから····。
 俺は鉄製のマスクに手を伸ばすと、丁寧に金具を外して慎重にマスクを外す。マスクの下に隠れたウリエルの口元は少し赤くなっていた。恐らく、マスクのせいで蒸れてしまっていたのだろう。
 涙を耐えるようにキュッと強く結ばれた唇は僅かに震えている。

「ウリエル、怖かったな。もう大丈夫だぞ」

 彼女を安心させるように柔らかく笑いかければ、タガが外れたようにウリエルは泣き出した。大きな声をあげながら。

「うわぁぁぁあああん!!」

 朝日が去ったこの空間に少女の泣き声が木霊する。安心感から来る涙は留まることを知らず····俺の肩が涙でびしょ濡れになるまでウリエルは泣き続けた。
 頑張ったな、ウリエル。
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