無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど

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第二章

第60話『弱い』

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「─────────って、言うのが僕のフィアンセのお話。ねぇ、面白かった?」

 何の感情も窺えない空っぽの笑みで俺に『面白かった?』と問うマモンは人形のようで····見ていられない。
魔族のみに現れる破壊衝動····。人族で言う思春期みたいなもの、か····。それが原因で最愛の女性を失ったマモンは一体どういう気持ちで····俺にそれを話したんだろうか?マモンは何が目的で····俺に何を言って欲しくて、それを話したんだ?
 無表情と大差ない空っぽの笑みになんて言えば良いのか分からず、俺はただ口を閉ざすしかなかった。

「ハハッ!お兄さんって、やっぱり小心者だね~。それでいて、臆病だ。思ったことを口にすれば良いだけなのに相手の言って欲しい言葉を探すなんて····弱いね、お兄さんは」

 カラカラ笑うマモンは作り物じみた笑い声を上げる。何が面白いのか分からないが、マモンはただひたすら笑い続けた。
 小心者、臆病、弱い····。
それらの言葉は確かに今の俺に当てはまる。
今の俺は格上の相手にビビって本音を話せない小心者だし、相手の気持ちばかり考えてしまう臆病者だ。戦闘面だけでなく、俺は心も弱い。打たれ強くはなったが、それが心の強さに直結する訳ではないのだ。
 そう、俺は弱い。支えてくれる誰かが居ないとすぐに壊れる欠落品だ。
でも───────────『弱い』なんて、お前にだけは言われたくない。
 俺は目の前で狂ったように笑い続ける少年の胸ぐらを掴み寄せた。

「お前がそんなに俺の本音を聞きたいなら、教えてやる」

 俺は激情に促されるままマモンの足を払い、宙に浮いた子供の体を地面に叩きつけた。ガンッ!と鈍い音が響き、マモンが背中を強打する。が、彼は痛がる素振りを一切見せない。不老不死のヴァンパイアだから、痛覚が鈍っているのかもしれないな。
 宝石のように美しいマゼンダの瞳は俺を見据えたまま、にっこり微笑んだ。憎たらしいほど美しい笑みに俺は眉を顰める。

「なあ、マモン。お前は俺を弱いと言ったが、お前も大概だろう?」

「ふふっ。僕が弱い?お兄さんって、面白いこと言うんだね」

「そうだな。弱いって自覚のないお前からすれば、俺の発言は面白いかもしれないな」

「あははっ!言うねぇ~。じゃあ、逆に聞くけどお兄さんは僕の何を持って弱いと言っているの?理由と根拠は?」

 マモンの何を持って弱いと言っているのか、ねぇ···。そんなのお前が一番分かってるだろ?マモン。
俺はさっき『自覚がない』と言ったが、それは間違いだ。お前は確かに弱いという自覚がある。ただお前はそれを────────認めようとしないだけだ。

「じゃあ、何でフィアンセを殺したあとお前は『ねぇ、レヴィ。君が望めば僕はどこまでも君と一緒に·····逃げ続けたよっ····!!』って言ったんだ?」

「······」

「何故フィアンセに判断を委ねた!?何故自分で決めようとしない!?」

「っ·····!そ、れは····レヴィにも選ぶ権利が···」

「それはただの言い訳だ!!お前は自分で物事を決めることが出来ない弱虫だから、判断を全てフィアンセに任せたんだろうが!お前は最愛の女に全ての決断を丸投げしたんだよ!」

「っ·····!!」

 相手の意志を尊重したと言えば聞こえはいいが、実際のところそれは違う。彼女を愛していたなら···大切だと心が叫ぶなら····例え、彼女の意志に反しようともお前はフィアンセの手を取って逃げるべきだった。それで彼女と対立するなら、話し合えば良い。互いの意見をぶつけ合って、喧嘩をすればいい。自分の本音を相手に告げればいい。
 道は少ないように見えて、案外多くあるものだぞ?マモン。
でも、まあ───────────全部今更だけどな。
 結局のところ、全部今更なんだ。あのとき、ああしていれば良かったとか、こうしていれば良かったとか····そんなこと思ったところで過去は変わらない。
今更、マモンがフィアンセを連れて逃げれば良かったと思っても、もう遅いのだ。
 過去とは────────変えようのない現実であり、確固たる事実である。だから、昔のことを悔いたところであまり意味は無い。
でも──────────過去から様々な教訓を得ることは出来る。
人も魔族も失敗してから学ぶ生き物だ。その失敗が例え取り返しのつかないものであったとしても····。
 失敗したなら、学べ。改善点を見つけ出せ。反省や後悔はその後でいい。全てを糧とし、己の成長に役立てよ。
 昔、どこかで見たポスターにそう書いてあった。

「マモン、お前が過去のことを失敗だと思うなら、その失敗から学べ。そして、もう二度と同じ失敗をしないよう、強くなるんだ」

「·····僕より、年下のくせに偉そうに····」

「俺はただ思ったことを言っただけだ。そこに年齢は関係ないだろ。そもそも、俺の本音を望んだのはお前だ」

 俺に正論を返されたマモンはぐうの音も出ないのか、ツンッと唇を突き出した。拗ねた子供のような表情に苦笑が漏れる。これのどこが歳上なんだよ···歳上なら、もっと歳上らしくしろよな。

「ま、お兄さんの話は分かったよ。納得もした。貴重な意見をどうもありがとう」

 フイッと視線を逸らしたマモンは早口出捲し立てるようにそう述べると、胸ぐらを掴む俺の手を払い除けて立ち上がる。まだその表情は曇っているが、さっきよりはマシになった。
 ま、俺の話一つで解決するほど簡単なもんだいじゃないからな。俺の話を聞いたくらいで解決出来る問題なら、とっくに解決してる。
 相変わらず、ダボダボの白衣を身に纏うマモンは服についた砂を払い落とし、こちらを振り返った。
蝶のようにフワフワしていた雰囲気は消え去り、凛としたオーラを放つ青髪の少年。

オトハ・・・、僕は────────弱い?」

 確認するように問うてくるマモンは凛とした表情で俺を見つめた。この質問に一体どんな意味があるのか分からないが、何故だか答えないといけない気がする。
 俺もマモンのように砂を払いながら、立ち上がると青髪の少年を見下ろした。ルビーの瞳は嫌ってほど真っ直ぐこちらを見据えている。

「──────────ああ、弱い」

「そっか。ありがとう」

 マモンは泣き笑いにも似た切なげな表情を浮かべると、何も言わずに歩き出した。
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